北の遺跡でⅢ その7
「片付け皆に任せちゃってごめんね」
「仕方ありませんよ。ナギさんとアールスさんは必要とされていたんですから」
撤退の報を受けた後帰り支度をする前に僕とアールスは治療士として軍に確保されそのまま徹夜で治療を行う事になってしまった。
まぁ一回の徹夜位なら平気だ。
アールスに至っては全く疲れた様子を見せない。今も魔獣達と楽しそうに戯れている。
それにレナスさん達も帰り支度をしてそんなに眠れていないはずだ。
途切れる様子を見せない魔物にまたティタンが来るかもしれない。しかも複数で。そういう疑念がある為休憩を取ったのち急いで撤退する事を軍は決めたんだ。
出発は翌日の日の出の一時間後と伝えられていた。今は太陽が出たばかりであと一時間で出発しないといけない。
「荷物は全部積み込めた?」
「はい。手の空いた他の冒険者の方も手伝ってくださいましたから」
「そっか。じゃあ後でお礼言わなくちゃね」
「お礼の品としてお菓子を分けておきました。後名前はちゃんと控えています」
「んふふっ、ありがとう」
本当に気が利く子だ。
「他の皆はどうしてる?」
馬車の近くには僕とアールス、レナスさんの他には魔獣達と精霊達しかいない。
「アイネさんは馬車の中で眠っていて、ミサさんとカナデさんは天幕を軍に返却しに行っています」
「ああ、天幕もちゃん持って帰るんだ。この状況だからてっきり置いて行くのかと思ってた」
「どうでしょう。持ち帰るのかもしれませんし次に来る時の為にまとめて置いておくつもりなのかもしれません。伝達兵は特に何も言っていませんでした」
「そっか。とりあえず忘れ物がないか最後の確認しておこうか」
「分かりました」
確認と言っても馬車の周囲や天幕のあった場所で落ちている物や置き忘れている物がないか確認するだけだ。
ざっと確認したところでレナスさんが眠そうに目をこする。
「レナスさんも馬車の中で寝たら?」
「いえ、大丈夫です。仮眠は取っているので……徹夜明けのナギさんとアールスさんこそ眠った方がいいと思います」
「僕は大丈夫だよ。アールスほどじゃないけど体力には自信があるからね。
それとさ、僕も日中に仮眠を取りたくなるだろうからその間をレナスさんに任せたいんだ。だから今は休んでその時まで待っていてほしい」
「そういう事でしたら……」
レナスさんは少し渋る様子を見せながらも頷いてくれた。
「お話終わったー?」
話が終わるのを見計らっていたのか魔獣達と戯れていたアールスがヒビキを抱っこしたまま寄って来た。
「うん。終わったよ」
「じゃあはい」
アールスがヒビキを差し出してくる。
「おやおや。大活躍したヒビキじゃないか」
「きゅー」
ヒビキはえっへんとくちばしを上に向けた。
「ヒビキちゃんナギの事気にしてたよ」
「気にしてた?」
ヒビキの顔をじっと見てみる。
「きゅーきゅー」
するとなんと褒めて褒めてとせがんでくるではないか。
「なるほどなるほど。んふふ。ヒビキがんばったね。すごかったよ」
「きゅ~」
アールスからヒビキを受け取り片腕で抱きしめて空いてる方の手でヒビキを撫でる。
「ガルデに戻ったらご馳走を用意しないとね」
「きゅー!」
ヒビキが嬉しそうに羽をパタパタと動かす。なんてかわいいんだろう。
「ヒビキ、アイネ寝てるから静かにね」
「きゅっ」
「ヒビキちゃんナギに褒められたかったんだね」
そう聞きながらアールスはヒビキを人差し指でぷにぷにとつついて来る。
「みんな頑張ったもんね。ティタンを倒した褒賞が出るんだけど、そのお金で帰ったらお祝いしよう」
「うわぁ、いいね。楽しみ」
「ティタン相手ですからきっと褒賞期待できますよ」
「ナギはどれくらい貰えるか聞いてない?」
「金貨十枚は貰えるはずだよ。後は状況に応じて付加されるみたいだけど……今回はどうだろうね?」
「今回の依頼の報酬より多いじゃん」
「それだけ多いと他の冒険者達にねたまれそうですね」
「うん。だからまずまとめ役と個人で来た人達に食事をおごろうと思う。で、その他の人達にはまとめ役にお金か食券渡して各々で分配してもらおうかと思ってる」
「えっ、そんな事しないといけないの?」
「妬みは早めに解消しておいた方がいいんだよ。その為なら報奨金の大半使ってもいいと思うけど……」
ちらりとレナスさんの顔を伺う。
「さすがにそれは多すぎです。人数の事を考えても金貨二枚までが限度です。
後やるのでしたら事前に話を通しておくのは当然として冒険者全体に噂を流す事はしておくべきでしょう。噂の内容はお酒代を奢ってくれるとか出してくれる、程度の物でいいと思いますが」
「まとめ役の着服を防ぐためだね。分かった」
完全になくなるかは分からないが噂が流れれば着服しにくくなるだろう。
「そこまでする必要あるの? ばれたら信用にかかわるしさすがに着服なんてしないと思うけど」
この世界では犯罪を行う場合は絶対にばれてはいけない。疑われ嘘を見抜く魔法ライアーを使われたらそれでお終いだからだ。
立場ある人間ならまず犯罪には手を出さないだろう。
「する人がいないとしても何も言わないと着服してるんじゃないかって疑う人が出るかもしれないでしょ? その牽制にも使えるんだよ。そんな噂が流れてるのに危険を冒せるかって。
さすがにそれで本当にしてたらその人に矛先が集中して僕までは被害はこない……と思うけど」
「なるほど。そこまで警戒しないといけないんだ」
「警戒というか……まぁ用心のためだよね。僕達はたから見たら女の子しかいないから侮られて難癖付けられるかもしれないからね」
「女の子だからって侮る人なんているのかなぁ」
「意外といますよ。夜中に部屋に侵入して夜這いをしようとしたり盗みを働こうとした人に会った事ありますし」
「盗みはともかく夜這いって何するの? 顔見られた時点で終わりだよね?」
「相手の供述では口説くだけのつもりだったようですが、勝手に部屋に入ってきている時点で犯罪ですよ」
「そこは成功させればいいって考えなんだろうね。物語だと割とある話だし」
もっともそれは顔見知り相手にやっているし、する事も話をしてお終いというのが多い。
「ああいうのはきちんと犯罪行為だと周知する必要があると思います」
「よく知らない人が入って来るなんて嫌だもんね」
「……話がずれてきたからここまでにしようか」
このまま話を続けるとどんどん話が違う方向へ行ってしまいそうだ。
それにヒビキも退屈そうに僕の腕を突いて来る。もっと構ってほしいんだろう。