北の遺跡でⅢ その6
十分もしないうちにヒビキの執拗な攻撃でティタンの腰部分が完全に分断された。
切断面は黒く所々に熱が残っていて赤く光っているのが遠目からでも分かる。
その光景はえぐいの一言だ。
「ナギさん。核のある方はまだ動くと思いますがどちらが動いていますか?」
「上半身の方だね」
「なら上半身に攻撃を集中させて……アースさんにはナスさん達を守ってもらいましょう」
「分かった」
レナスさんの言葉を土人形を操り集中しているアースに伝える。
土人形はティタンの足に攻撃するのを止めてナスとヒビキを逃げられる隙間を確保しつつ囲む。
そして、ヒビキの炎の槍とナスの電気の球がティタンの上半身に向かって行く。
どうやら精霊を通してこちらの意思がきちんと伝わっているだ。
ティタンを完全に倒すのも時間の問題だろう。
近寄って来る下級の魔物もも大した脅威ではなく、アールスとアイネが張り切って退治している。
「中級の魔物がいないのはよかったね」
「そうですね。中級が居たらここまでの余裕は持てなかったでしょう」
「こうなる事は予想していたの?」
「はい。魔獣達の能力を考えたらこの結果は当然の結果です」
「なるほどね。レナスさんは僕よりも魔獣達の能力を把握しているんだ」
「魔獣達、というよりは魔物も合わせて、ですね。どんなに殻が硬くても所詮は人の力で破壊できる程度の硬さですし、どんなに力があってもそれを発揮できなければ意味はありません。
ですので絶対に破壊できないヘレンさんの力を使えばたとえヒビキさんの攻撃が通らなくても時間稼ぎは絶対に出来ると分かっていました」
「なるほどねぇ」
レナスさんは皆の力を信じていただけじゃない。信じた上でこうなると分かっていたんだ。
僕は信じてはいたけれど分かってはいなかった。
それが僕とレナスさんの違いか。
安全だと分かり切っている道を恐れる理由はない、という事だろう。
知識とそれを生かす知恵を僕も身に付けないと。
「ナギさん。マナの残りはどれくらいですか?」
「皆とマナを共有してるからまだ三分の一も減ってないよ」
「それでこれだけの事が出来るのでしたら魔の平野も問題なく進めそうですね」
「そうだね。でも先の事を考えるのは終わってからにしよう。今は目先の戦いに集中するべきだ」
「あっ、そうですね。まだなにかあるか分かりません」
そう言ってレナスさんはキリッと表情を引き締め直した。
「とはいえ今の所新たな魔物の陰もありませんし……どうやら西の方も戦いは終わったようです」
「そっか」
ティタンも下半身は完全に動かなくなり上半身もヒビキの炎の槍で穴だらけになり、さらにナスの電気攻撃で殻の隙間のあちこちから煙が出てきている。
「……このままだと余計に時間がかかりそうなので腕を切り離しましょう。その後拘束を解いて地面に落とし手足を失って動けない所をじっくりと核を探すのがいいと思います」
「う、うん」
やる事がえぐいなぁ。
軍が僕達の方へ来れるようになる頃にはティタンの核は破壊されその巨体は殻を残し少しずつ消え始めていた。
魔物は核を破壊されると魔素を固め出来上がった身体は纏める力が無くなり糸を解すように分解され宙に溶けていく。
ティタンの殻も魔素で出来ているのだけど強固なだけあって魔素同士の結びつきも強く分解されるのに時間がかかる。
放っておけば岩石のような魔物に生まれ変わる事もあるようだ。
なので殻もきちんと処理しておく必要がある。
まだまだ出てくる下級の魔物達は他の冒険者達に任せ、僕達が殻の処理をする。
ヘレンは頭に水の角を作り殻を削り、アースは土人形で延々と殴り続け、ヒビキは殻を燃やす。
僕、アールス、アイネは魔法剣を使い削り、破壊に向いた能力を持たないナスとゲイルと魔法剣を使えないミサさんとカナデさんはレナスさんと一緒に作業をしている僕達を守ってくれている。
そんな作業をしている最中に鎧を着た伝達兵が僕達の元へやって来た。
とりあえず僕が応対すると冒険者全体の被害状況を後方にいる僕達から聞きたい様だ。
当然僕達に怪我を負った物はいない。そして今前に出て魔物と戦っている冒険者が重傷を負ったという話は今の所聞いていない。
その事を伝えると礼だけ言って戻ろうとした所を引き留める。
念のために僕の方からも治療士が二人いるので治療士の手が必要ならいつでも貸せると伝えておく。
もちろん軍は把握しているはずだが本当に念の為だ。
日が暮れ始めるとライチーが光始め辺りを照らす。
この時間になると交代で後方に下がった冒険者達の疲労も回復しきらないようで怪我の報告が届くようになってきた。
幸いパーフェクトヒールが必要な怪我を負う人はいないのだけど、マナが無くなって回復できなくなる人が続出した。
なので魔獣達の陰でマナに余裕のある僕がエリアヒールを使い後方で待機している冒険者の怪我を治している。
軍が本格的に動き出したのはそんな時だった。
休憩と再編成を終えた軍が完全に冒険者と交代する為に前線に出て来た。
昼前からずっと戦っていて疲労が溜まっていた冒険者達は軍の呼びかけに答え即座に軍の展開した部隊よりも後ろへ退く。
そして、休憩の為に護衛部隊のいる地点まで行くとそこで遺跡からの撤退を伝えられた。