北の遺跡でⅢ その5
「ティタンが遺跡から出て来たぞ!」
悲鳴にも似た大声が前線から聞こえてくる。
僕達のいる地点からでもティタンの巨体は確認できた。
「ヘレン。水出すよ」
「くー」
水を生み出す事に特化した魔法陣を組み上げ発動する。
すると空中に二階建ての家二軒分くらいの大きさの水球が生まれる。
その水球を前もって地面に穴を開け貯めていた水と繋げる。
この穴に貯めた水は支柱の役割だ。普通に水の壁をドンと置いただけでは押された時ヘレンが抑えなければ動いてしまう。
しかし、支柱を地面の中に作って抑えを大地の力に頼れればヘレンの負担もほぼなくなるだろう。
欠点は水がヘレンと直に繋がっていないといけないのでヘレンが移動できなくなるという事だ。なのでヘレンを守る必要だある。
ヘレンを水で空気穴だけ確保して完全に囲って空気が薄くならないように空気を生み出す魔法石を入れて籠ってもらうという手段も一応ある。
しかし、この場合情報の伝達が水の壁越しに文字で伝えるか中のヘレンのマナを僕が操り文字を作って伝えるかしかないが、水の壁越しだと文字が見え辛くマナの文字はヘレンの魔力感知がさほど高くない。
そもそもヘレンは言葉はともかく文字はまだ勉強途中だ。なので情報の伝達は言葉でやった方が確実なのと籠る必要が低いという事もあり今回は完全に囲う事はしない。
ティタン出現の知らせが出てから冒険者達がじりじりと後退し始めた。
怒声にも似た指示出しの声がまだ戦う事を諦めてない事を知らせてくれる。
「レナスさん。こっちは準備が完了したよ」
「ではディアナさんに冒険者達に後退するよう伝えさせます」
冒険者達にはヘレンの力と何をするかは事前に教えてある。
液体固定の固有能力は一般的にはあまり知られていないが冒険者の中によく知っている人が複数いたので説得はすんなりと通った。
作戦は簡単だ。液体固定の力でティタンを足止めした上で後はたこなぐりにする。
複数いたら危なかったかもしれないが一体だけなら問題ないだろう。
巨大な魔物と戦う時の為にアースの作った土人形で練習もしてきた。
もっとも土人形とティタンでは大きさは四倍五倍は違うけれど……。
「反応はどう?」
「すぐに後退するようです。ティタンに対する決定打となる攻撃方法がないようですね」
「やっぱり精霊魔法もティタン相手じゃ厳しいか……」
「土の精霊なら遅延攻撃が出来たでしょうけどね」
ティタンを魔法で倒すには膨大な魔素を突破して尚且つ強固な殻を破壊できる力が必要だ。
魔素を突破するには土や水を操ればいいが、土や水では殻を破るほどの破壊力は生み出せない。
いや、やろうと思えばできるがそれは殻を削るという方法で時間がかかってしまう。今回のような足止めを目的とする場合だとあまり役に立たないのだ。
冒険者達が後退してくる。そしてそれを追いかけてくるようにティタンも近づいて来る。
僕が操る水は支柱から縄の様にして伸ばしティタンの四肢と胴体に巻き付くように狙う。
ティタンは当然のように伸びてくる水を振り払ってくる。
ティタンの一撃を受けた水は動かせるギリギリまで硬化していたのだけどその所為で遠くへ弾かれそうになった。
とっさに動きを制御し円の動きで衝撃を吸収分散させる事に成功したおかげだ。
ティタンは歩みを止めもう一度水の縄に向かって腕を振りかぶって来る。
同じ事はさせない
「ナス、練習通り右半分の制御は頼むよ」
「ぴー」
ティタンの攻撃をかわし水の縄を十本に分けてからナスに半分制御を任せる。
僕が十本全部を操らないのは十本同時だと僕では細かい制御が出来なくなってしまうからだ。
人の腕の太さ程度にまで細くなった水の縄をティタンの四肢と胴に巻き付けると同時に水が硬化する。
「どうだ」
心臓の動悸が早くなる。もしも折れてしまったら? もしも締めつけが甘く持ち上げられてしまったら?
嫌な想像が頭をよぎる。
けれどそれは杞憂でティタンは身じろぎするのが精いっぱいで碌に身動きが取れない様だ。
「今です! ありったけの攻撃をしてください!」
「ナス、アース、ヒビキ出番だよ!」
「ぼふ!」
「きゅー!」
アースが土人形を生み出し足を狙う為に動かし始める。
ナスはヒビキを背に乗せて土人形の後を距離を取ってついて行く。
「んー、目に矢を当てて効きますかねぇ」
「あの巨体ですからあまり期待しない方がよいカト。それよりワタシ達は下級の魔物を対処しまショウ」
「アイネちゃん。ヘレンやナギ達に魔物を絶対に近づけちゃ駄目だよ」
「分かってるって!」
「ナギさん。水が巻き付いている殻が削れその内拘束が弱まるかもしれません」
「うん。水を通して感知してる。一応完全に割れても自由に動けないように拘束はしてるけど……ひびが広まったらすぐに伝えるよ」
アースの土人形達がティタンの足元にたどり着き攻撃を始める。
その土人形達の後方でナス達も攻撃を始める。
まず炎の槍が水の縄の巻き付いていない腰の辺りに当たる。
当たった部分は遠目からだと分かりにくいが黒く焦げているように見えた。
「カナデさん。ヒビキさんが当たった箇所がどうなっているか分かりますか?」
レナスさんが聞くとカナデさんは目を細めて答えた。
「ん~、多分表面が溶けてるのは見えますけどぉ、さすがにこの距離だとこれ以上はちょっとわかりませんね~」
続けてヒビキが炎の槍を繰り出しさっき攻撃した時と同じ場所を狙う。
「う~ん。ちょっとかわいそうになってきましたねぇ」
「何を言ってるんですかカナデさん。こうしなければ被害が出るのはこちらなんですよ」
カナデさんの同情の声をレナスさんの厳しい言葉が否定する。
僕もちょっと同情していたから口にしなくてよかった。