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北の遺跡でⅢ その4

 ブォオオオオンという戦いの始まりの合図である軍の角笛の音が聞こえてきた。

 冒険者は皆北からの魔物の侵攻に備えて所定の場所で待機している。

 しかし、北からの魔物の侵攻速度は遺跡が邪魔しているからか遅い。

 もしかすると遺跡が出てくる頃には西での戦いが終わっているかもしれない程だ。


 進攻が遅い上に迫ってきているのが下級の魔物ばかりという事もあってか遠くからでも冒険者達が緩んでいるのが見える。

 気持ちは分かる。到達予測は一日以上かかると出ている。

 どんなに多勢であっても下級の魔物相手に緊張感を一日以上も緊張感を保てというのが酷だろう。

 とはいえ時々突出して遺跡を抜けてくる魔物がいるから警戒を解くわけにもいかない。

 まぁそんな魔物も僕達の所までは届かないのだけど。


 ……と、緩んでいた所に良くない知らせが連絡係の軍の精霊からもたらされた。

 膨大な魔素を持った巨大な岩のような塊が山から転げ落ちて来て、それがティタンになったらしい。

 どうやらアールスの予想が当たっていたようだ。

 数は今の所一体だけ。冒険者だけでどうにかなるか?

 

 しかし、何が一番まずいかと言うと遺跡が破壊される事だ。

 魔物は寄り道してまでわざわざ建物を破壊はしないが生命がいる場所へ向かう際の進路上にある物は容赦なく破壊する。

 一応資料になる物は持ち出せてはいるらしいが遺跡というのは建物自体に価値がある。

 巨大なティタンが歩くだけでどれだけの被害が出る事か。


 冒険者に下された命令は今の配置場所を維持しつつティタンがやってきたら西の軍がやってくるまで時間稼ぎをせよとの事だ。

 西の魔物の群れとはすでに戦闘状態に入っていてすぐにこちらに戦力を割くという事は出来ない。

 護衛部隊はティタンが出てきたら前に出てくるつもりみたいだけれどそれまでは撤退の準備を進めているようだ。

 今なら南東を目指せば逃げられるだろうと考えているらしい。


「ナギさん」


 不意にレナスさんが僕の右手を握って来た。


「どうしたの?」

「ナギさん固くなっています。肩の力を抜きましょう」


 ハッと握られていない自分の左手を見るとたしかに固くなっていて上手く指を曲げられない。

 どうやら僕は自分でも気づかない位緊張していたらしい。


「大丈夫です。皆がいます」

「うん……うん。そうだね」


 周りを見渡すとアールスが少し暗い顔をしているアイネに話しかけていて、表情が硬くなっているカナデさんにミサさんが明るい調子で話しかけている。

 そして、魔獣達が僕の事を見ているじゃないか。

 なんて事だ。僕は周りが全然見えていなかった。アイネとカナデさんの様子に全く気づけなかった。魔獣達の視線に気づけていなかった。僕の余裕のなさの表れか。


「ごめん。ありがとう」


 レナスさんの手を両手で握り返す。

 僕はこの子に何度助けられているんだろう。


「今は仲間の事にも目を向けないとね」

「戦いの事はひとまず私が考えます。ナギさんは皆の事を見てください」

「分かった。とりあえずアイネとカナデさんはアールスとミサさんが見てるから魔獣達の事見るよ」

「それはよろしいかと」

「……レナスさんは大丈夫?」

「はい。負けるとは思っていませんので」


 強いな。僕も負けるとは思っていないはずなのにこんなにも緊張してるのに。

 それだけ皆を信じているという事か。見習わないとな。




 皆との話を終えて気持ちも落ち着いてきた頃に遺跡の方向が騒がしくなってきた。

 どうやらついに魔物がやって来たらしい。

 精霊達に偵察に行ってもらい情報を得る事にした。

 情報はすぐに得る事が出来て、魔物は下級の魔物だけの様だ。

 しかし、数が多く個人でやって来た冒険者達は他の個人の冒険者と協力し戦っているらしい。

 抜けられたとしても交代要員である第二陣の冒険者達もいるので僕達に出番はないだろう。


 肝心なティタンの方はというと偵察の情報から遺跡の建物を壊しながらまっすぐこちらに向かっていて、あと数時間で先頭の冒険者達と接敵するだろうという予測がもたらされた。

 西の戦いは中級の魔物の数が多く防衛に徹していれば突破される事はないがその分せん滅に時間がかかってしまうそうだ。

 最初から打って出る戦いだったら多少犠牲が出てももっと早く終わらせたのだろうけど、一度守りに入ってしまった事で攻める事が出来なくなったのではないか……というのがレナスさんの分析だ。

 そう考えるとティタンの情報が入ったのが開戦してからというのが実に嫌らしい。

 この状況を魔物は狙っていたんじゃないかと疑いたくなる。

 

「ナギさん。そろそろ私達も準備をしましょう」

「分かった」


 こういう時の為に組み上げていた魔法陣を誰もない所に二つ地面に間隔をあけて展開する。


「『プロップ』」


 魔法を発動させると二つの魔法陣それぞれの中心に塔と言っても過言でない程高い土の円柱が立つ。


「……うん。穴の方も問題ないね」


 柱の周囲には柱を作る為に地面の土が材料になって穴が開いている。

 その穴の中をマナを使い調べて問題ない事も確認できた。


「倒れないかちょっと心配ですね」


 レナスさんが柱を見上げながらそう呟く。


「たしかに。ここの土って固まりにくそうなんだよね」


 アースウォールと昔アースが作った高台を参考に土を圧縮し作った柱だけどただ圧縮しただけじゃそのうち倒れてしまうだろう。


「柱の部分はいらないし折っちゃおうか」

「そうした方がいいと思います」


 大事なのは穴の方だ。

 柱を処理するためにヘレンに近づき声をかける。


「ヘレン。柱を折るから力を貸して」

「くー」


 水の力を使い丁寧に柱を折って適当な所に壁として再利用しておく。

 使った水は穴の中に入れて準備完了だ。

 後は犠牲が出ないように、準備が無駄になるように祈りながら待つだけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >使った水は穴の中に入れて準備完了だ。 >後は犠牲が出ないように、準備が無駄になるように祈りながら待つだけだ。  なんともフラグっぽいモノローグ。  これは準備したものを使いそうな気配。
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