北の遺跡でⅢ その3
発表された僕達の配置場所は他の冒険者一団に比べて後方に配置された。
実戦経験が少ないのと魔獣達はどれくらい戦力になるか少し不鮮明、さらに治療士が二人いるという事で後方に回された様だ。
個人参加の冒険者は学者さんや治療士の護衛を軍の護衛部隊と共に行う事になる。
「えーと、私達冒険者は遺跡方面から来る魔物の警戒で、軍は西から来る魔物の群れに対処する」
アールスが確認の為か声を出しながら地図を指でなぞる。
今は軍の護衛部隊に学者さん達の護衛を任せ戦いの前の準備と休息時間となっている。
その休息時間で僕達は自分達の使っている天幕内で全員で現状の確認を行っている。
「東や南からは来てないんだよね?」
「魔物の姿は確認できてないみたいだね。森みたいな姿を隠せる障害物は無いから信用できると思うよ」
「じゃあやっぱり魔物の大発生からの大移動が重なっただけかなー」
「私もその可能性が高いと思います」
アールスの予測にレナスさんが同意する。
「山に中級以上の魔物の姿は確認できてないんだよね」
「うん。山が険しくてウィタエみたいに浮けない魔物は登れないんじゃないかって予測立ててたね」
「山を削るなり仲間を踏み台にするなりして階段を作れますからあまり楽観視は出来ませんね」
「大きければその分登りやすい……って事もあるかもしれないしね」
「そうそう。ティタンとか頑丈だから山から転げ落ちて来て一気に攻めてくるかもよ」
「なんにせよ今姿を確認できないのならそこまで恐れる必要はないでしょう。西の魔物の到着予想は明日で北の魔物の到着予想は明後日、これだけ到着に差があれば軍が西を片付けた後に北に戦力を送る余裕もあるでしょう」
「そもそもウィタエが大半だからね。北もてこずる事は無いと思う。
遺跡に被害を出さないようにって精霊魔法みたいな大規模魔法が使えないのは面倒だけど」
「遺跡の地下も探索で魔物を掃討してるらしいから残っていたとしても大した数じゃないだろうね」
「いえ、まだ下水道の調査が行われていません。なので地下にもう魔物が残り少ないというのは早計でしょう」
「ああ、そうなのか……そうなると北からの魔物と呼応して出てくるかもしれないか」
「地下にいる魔物が地上の事に気づくかな?」
「感知力が高い魔物が居たら……そもそも人が地下に入って来た時点で襲ってくるか」
「ですので数の多寡は分からずとも警戒はそれほどしないで頭の片隅で警戒に留めて置く程度で大丈夫だと思います」
「じゃあやっぱり私達が気にするのは西と北の魔物だね。私達は後方かぁ。出番はなさそうかなぁ」
「襲撃してきた魔物と戦えばその分追加報酬が出るんでしたよね?」
「そうだね。下級相手だともらえないけど中級が相手なら一匹当たり銀貨十枚もらえるらしいよ」
「う~ん。私達なら別に狙うほどじゃないかぁ」
「安全第一でいいですね」
「陣形はいつも訓練でやってる前方堅陣の構えでいいかな」
「そうですね。後方から襲われる事もないでしょうしそれでいいと思います」
前方堅陣の構えは精霊魔法を使えない時や使った後に盾役である僕とミサさんが前に出てさらにアースとヘレンが左右に立ち地形を変えたり水の壁を作り前方からの守りを固める陣形だ。
アースとヘレンの力で相手の進行を邪魔しつつ火力の高いナスやヒビキが魔物を倒す。カナデさんは後方から弓での支援をしてもらう。
僕とミサさんは妨害を突破してきた魔物を受け止めるのが役割。
アールスとアイネは僕とミサさんの支援役で、ゲイルは精霊達と一緒に後方の警戒をする事になっていてレナスさんが司令塔だ。
「レナスちゃん。もしもティタンが出てきた場合は?」
「ナギさんとミサさんを下げてからの普通の堅陣の構えでいいでしょう。いくらティタンでもヘレンさんの水の壁を破れるとは思えません」
ヘレンの液体固定は無敵と言っていいほどの頑強さを水に持たせる事が出来る。
弱点と言えば最高まで強固にすると動かせなくなり柔軟な対応が出来なくなる事とヘレンの集中力が途切れるかマナが尽きれば効果が切れてしまう事ぐらいか。
後者の弱点もヒビキやナスなどの火力の高い攻撃を持っている魔獣がいるから守っている間に十分魔物をせん滅できるはずだ……というのが僕達の見解だ。
「問題はティタンに僕達の攻撃がどれだけ効くかだよね」
「魔素は膨大だから魔法だと届かない可能性があるんだよね。ナギは魔獣の皆とマナを共有してるから何とかなるかもだけど」
「それだって攻撃と防御の両方に割り振らないといけないから足りるかどうか」
「う~ん。やっぱ一回ぐらいはティタンと戦ってみたいなぁ」
「やりたくない……と言いたい所だけど僕は占いの件もあるからなぁ」
冒険者達が周りにいて戦力に余裕があるうちに一度ぐらいは経験しておきたい所だ。
「確か大きな魔物と絶対に会う運命なんだよね? ここで会うのかな?」
「ここで会うかは分からないけど、ここが運命の場所っていうのは僕は違うと思ってる。
絶対に会うって事はさ、そこに絶対に僕がいるっていう事なんだよ。
そう考えると僕が冒険者にならなかったりグライオンじゃなくてイグニティに行っていた可能性だってあるんだ。
来ない可能性がある限りここは僕の運命の場所じゃないと思ってる」
僕の推測にレナスさんとアールスが顔色を変える。
ずっと話を聞いていたミサさんは瞼を閉じ、カナデさんは何かを考えるように視線を上に向け、アイネが確認するように口を開いた。
「って事は……ねーちゃんが絶対に行く場所におーきな魔物が現れる?」
「うん。もっと言うと僕がどこにいても異変があれば向かう場所だね」
「そんなのグランエルかリュート村しかないじゃん」
「うん」
「ええええ!? ぐ、グランエルに大きな魔物が現れるんですかぁ!?」
「カナデさん声が大きいです。外にいる人に聞かれていたら誤解されてしまいますよ」
「あっ、すみません……」
レナスさんにカナデさんは諫められシュンと肩を落とした。
「アーク王国全体に巨大な魔物が現れて僕がどこにいても出会うっていう考え方もあるけど、これはそれを考えるには世間の口にのぼってないからね。可能性は低いと思う」
さすがにそんな状況で僕だけが巨大な魔物に出会うと占われるわけがない。
僕と同じ時に占った……死を宣告されていたレナスさんを除いた二人には僕と同じような不吉な運命は語られていなかった。
今あの二人が防衛が厳重になっている王都にいる事を考えると根拠としては薄いかもしれないが……それでも不特定多数の人が占いを受けているのに噂にならないというのは不自然に思う。
「あたしは覚えてないけど……また壁が壊れるか大森林方面からくるってことだよね、それ」
「そうだと思う」
「ワタシはそういう固有能力者持ちに会った事ないので分からないのですガ、信憑性はどれくらいの物なのですカ?」
ずっと黙っていたミサさんの問いにアールスが答えた。
「軍が行動の指針に使うくらいにはあります」
「占いの結果を軍に流してるっていう噂あるけど」
「軍というか……正式な占い師って政府の諜報機関の一員だよ。各地を回って占いで未来の情報を集めるのがお仕事なんだよ」
「そ、そうだったんだ」
そうじゃないかとうすうすと思ってはいたが肯定されてしまった。
「そういうのって機密なんじゃないの?」
「公然の秘密ではあるけど機密ではないよ。ちょっと考えれば占い師の有用性と使い方はすぐに想像できちゃうからね。だから占いをしない人もいるんだよ?」
「そうだったのか……ととっ、話がかなりそれちゃったね。これからの話に戻そうか」
「そうですね。とりあえず判明している魔物の勢力で警戒すべきなのは西からやって来た群れだけです。ですがそちらも軍が崩れない限りは私達が気にする事は無いですね」
「崩れたら逃げるしかない?」
「軍に勝てない魔物達に私達が勝てる道理はありません。逃げるしかありませんね」
「えー? まじゅー達とかせーれーたちがいるのにそれでも駄目なの?」
「精霊がいるのは軍も同じですし、せん滅力で言えば魔獣達は精霊達には勝てませんので軍の精霊達でどうにかできない相手が魔獣達でどうにか出来るとは……群れでなく個ならできるでしょうか?」
レナスさんが首をかしげると次にアールスが口を開いた。
「団体としては軍の方が練度は高いけど個人で見たら冒険者の方が強い傾向にあるんだよね。
だから軍が統制とれなくなって敗走した後でも魔物の数が減っていれば冒険者でもどうにかなるとは思うよ?」
「だとしても護衛対象の安全の為にも逃げた方がいいでしょうね」
「そっか。学者さん達もいたんだっけ」
「でもそこら辺の判断は護衛部隊の人達が判断するよ」
「それで置いてかれたり捨て駒にされたらどーするんのさ」
「そこもまた仕事だからね。やるしかないよ……けど捨て駒で終わる気は無いよ。
魔獣達と精霊達がいれば僕達はどんな相手にも負けないと思ってる。それに……まぁいざとなれば荷物を置いてアース達に乗って逃げればいいしね」
「ふぅん。まぁそーだね」
逃げるような事にならないのが一番なんだけれどね。