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北の遺跡でⅢ その1

 六月の中旬。

 二回目の遠征の出発の日がやって来た。

 天気は快晴。しかし、気温は涼しく長袖でないと少し肌寒い。

 けどサラサのお陰で僕達の周囲は心地良い気温を維持されている。

 そんな風に僕達は今都市の外で快適に出発の時を待っていた。


 いつでも出発できるように準備はもう終わっている。

 馬車を引くアースの口元に左右に分かれ僕とアールスが付く。

 僕はアースの誘導役でアールスは単純に攻撃役だからこの位置にいて、今は馬車の中にいるアイネと交代で担当してもらう事になる。

 馬車の御者台には精霊から得た情報をまとめ有事の際に僕達の司令塔となるレナスさんに居てもらう。

 後ついでに交代要員であるアールスやアイネと一緒に疲れた魔獣の面倒も見てもらう事になるかもしれない。


 馬車の後ろ側にはカナデさんとミサさん、それにヘレンがいる。

 カナデさんは目での周囲の警戒を担当してもらい、ミサさんには荷物の監視とヘレンの相手をしてもらう。

 完全に言葉を話せないアースは僕、言葉が話せて意思の疎通が可能なヘレンはミサさん、といった具合に完全に相手をする担当を分けていて、ヘレンが馬車を引く時はミサさんが前に行き、僕とアースが後ろに行く事になる。


 魔獣達へ向ける視線は去年に比べると少ない。

 冒険者はほとんどがもう見知った顔で魔獣達の事は慣れたのだろう。

 兵士さん達はそもそも忙しそうに動き回っていてこちらに意識を向けている様子はない。

 話しかけてくるのも冒険者達の参加確認しに来た兵士さん達だけだ。


 アースの顔の毛を手で梳いていると出発の合図である角笛の音が響いた。


「レナスさん! 停止棒を上げて!」


 停車させている馬車を固定するための停止棒を御者台にいるレナスさんに上げてもらう。

 返事はすぐにライチーを通して帰って来る。


『上げたよー』

「よし。アース行くよ」

「ぼふっ」


 全員揃っての初めての馬車の旅が始まった。




 アースとヘレンの交代は一日毎に行われる。

 しかし、馬車を引いていない日でも腹帯を外す事はない。

 いちいちつけ外しすると手間がかかるというのもあるが、腹帯を着け続ける事への負担がどれほどの物か調べる意図がある。

 一週間付け続けてもらう事にしたのだけど、結果はアースはまったく気にしないがヘレンが六日目ちょくちょく腹帯を気にする仕草を見せた。


 腹帯は固い革製なのだけどさすがに何日も付け続けると擦れてしまって痛くなるようだ。

 何故アースは平気なのか。何故ヘレンは駄目なのか。恐らくは体毛の差だろう。

 アースの体毛は長く硬い。けれどヘレンの体毛は短く柔らかい。

 短くて柔らかいお陰で腹帯がじかに肌に触れている所為かもしれない。

 いや、アースの肌が頑丈なだけか?


 とりあえず腹帯を取ってヒールを使い一日様子を見た後また着けて貰って一日様子を見る。

 それで分かった事だが一日着け続けただけなら問題ない様だ。

 とりあえずヘレンが馬車を引く日ではない日は腹帯を着けなければいいだろう。


 ヘレンの問題はひとまず解決した。

 アースは壁の外に出ると大量にある魔素に喜び機嫌が良くなったくらいで問題は一切ない。

 他の魔獣達に関してもヒビキが退屈そうにしているくらいで旅は順調そのものと言っていい。


 しかし、壁の外に出てから度々魔物の襲撃を受けた。

 魔物と鉢会うのは先頭を行く軍ばかりなので僕達が直接戦う事は無かったが明らかに去年よりも魔物の襲撃回数が多い。

 他の冒険者達との情報交換でも少し異常だという声が出ていて表面上は平静にしているが緊張した空気が蔓延し始めた。


 そんな中アイネに月のものが来て再び体調を崩した。

 けれど僕にはインパートヴァイタリティがある。

 一昨年はシエル様の事は秘密にしていたのでこっそりとしか使えず、去年は傍に居なかったので使えなかった。

 けれど今はアイネに対して堂々と使える。

 効果は抜群で普段通りまで気力を回復させる事が出来た。

 ただ月のものが止まったわけじゃないから月のものによる身体の違和感は消えず、僕の分け与えた分の生命力が少なくなればまた気力がなくなってしまうだろう。

 念の為にアイネには遺跡の駐留地に着くまでアールスとの交代はなくし馬車の中で休んでいてもらう事にした。

 他の皆にも月のものが来ているはずなのだけどレナスさんが少し気だるげな表情をして僕を頼ってきた以外は全員元気なものだ。

 

 そして、二週間の旅を経て遺跡へたどり着いた。

 一年ぶりの遺跡だが特に変わった様子はないように見えた。

 軍の人達は先に来ていた入れ替わる人達との引継ぎやらなんやらで慌ただしく動き出したが僕達冒険者はとりあえず指定された場所に行き次の指示が出るまで待機する事になる。


 しばらく待つと冒険者の管理を担当している軍人さんがやって来て住む場所と仕事の割り振りが始まった。

 駐留地での学者さんや治療士さんの護衛や身の回りのお世話に雑用は冒険者が担当し、兵士さんは憲兵の役割と駐留地周辺の警戒を担当している。

 今回の治療士さんは男性なので僕の時とは違って護衛を行うのに特に性別の指定ない。

 さらに言うと割り振られる仕事は一団毎に割り振られるので仕事が仲間内で別々になるという事はよほど人数が多くないと起こらないようになっている。


 僕達に割り振られた仕事は学者さん達の護衛だった。

 割り振れられた後は護衛対象への挨拶と前任の冒険者達からの仕事の引継ぎだ。

 学者さん達に挨拶をして前任者達からどのように仕事をしていたか、さらに注意事項も聞いておく。

 学者さん達はミサさんの知り合いなようで向こうから親し気に声をかけてきた。

 話を聞くと予想通りアロエが古いヴェレス語を教えた人達の様だ。


 学者さん達と少し雑談してから仕事の打ち合わせをした後その場を後にしてこれから住む場所へ向かう。

 護衛の仕事は明日からだ。


 冒険者の住む場所は護衛対象の学者さんや治療士の寝泊まりしている天幕に近い所に配置されている。

 僕達の泊まる天幕はすでに設置されている。これは前々回の冒険者が使っていた物をそのまま倉庫として使っていた天幕だ。

 中に置かれていた荷物はすでにこれから帰還する馬車に積まれている。


 天幕は仮の住居と倉庫という使い方を交互にされている。

 最初に建てられた天幕の半分は住居、もう半分は倉庫として使われる。

 そして次にやって来た冒険者達は倉庫の方を住居にして、住居だった方を倉庫にするのだ。

 新規にやってきた人達と帰還する人達がどうしても一晩は同時に滞在する事になるからこういう方式を取っているんだろう。


 天幕は十人用なので僕達が使うと広さに余裕がある。

 馬車はブリザベーションをかけておけば放置していても問題ない。

 問題はアースとヘレンだ。

 身体が大きなふたりは少し離れた場所で去年と同じように過ごしてもらう必要がある。

 事前に指定された場所にアースに自分とヘレン用の小屋を土で作ってもらう。

 その上に天幕を被せ雨除けにすれば完成だ。


 こうやって初日は環境を整える事に専念した為あっという間に時間が過ぎた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >六月の中旬。 >二回目の遠征の出発の日がやって来た。  これが終わったら、別の土地に行く予定でしたっけかね。  んで、遠征から戻ったらどの位で出発するかは決まってましたっけ?
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