グループを作ってください
四年生になると選択科目の種類が増え、それに伴って二つ選べるようになった。もちろん同じ物を選んでもいいのだけど、僕は前から気になっていた科目を魔法の次に選択をした。
この世界には錬金術という物がある。前世でも漫画やゲームのおかげで割と知られていた言葉だ。僕も一応概要ぐらいは知ってる。多分合ってるはず。
たしか金を作るために色々な研究をしていたんだっけ? 魔術的な物を取り入れてたりもしていて色々と胡散臭い物だったらしいけど、科学の元となった学問だと聞いた事がある気がする。
この世界の錬金術は前世の物とは違う。この世界の錬金術は魔法を使って魔力道具を作る技術の事らしい。マナポーションとかがいい例だ。
魔法だけでなく薬草などを組み合わせて薬を作るのも一応錬金術の一種だ。魔力で効果を増幅したり副作用を和らげる事が出来るらしいから驚きだ。
錬金術ならもしかしたら僕の求める物が得られるかもしれない。そう思い選んだんだ。
他にも決める事があった。それは四年生から行われる都市外授業の時のチーム分けだ。
都市外授業とはその名の通り都市の外に出て勉強を行う授業の事だ。具体的な内容は教えてもらえなかった。
そして、チームは基本的に四人以上で組むように決められている。そして、僕のクラスの人数は九人。組む相手は自由でいいらしいんだけど、僕は早速フェアチャイルドさんと同じチームになろうと誘った。
今年は同じクラスでよかった。フェアチャイルドさんは僕の誘いを受けてくれた。
残りの三人か二人、余っている子はいないかと教室内を見渡していると、二人の女の子が仲間になりたそうに僕達を見ていた。
今年の僕のクラスは女子が四人。丁度いい。女子だけで組んだ方がフェアチャイルドさんも気が楽かもしれない。僕は男だけど。
こうして都市外授業の時のチームは結成された。
都市外授業は一ヶ月に一回休みの日に行われるらしい。ナスは連れて行けるのかと聞くと、戦闘訓練の時は連れていいとの事だ。
ナスを連れていいという事は戦闘訓練の相手は人間ではないんじゃないだろうか?
最初の都市外授業は二週間後。内容はまだ発表されていない。
お昼になると僕はフェアチャイルドさんと一緒にチームになる子達に一緒にお昼を食べようと持ちかけた。すると女の子達は何故か勢いよく首を縦に振る。
二人の様子に疑問を感じたけれど何だか緊張している様子だったからあえて聞く事はしなかった。
一先ず互いに知る事から始めよう。名前は朝の連絡の時間のうちにクラス全員が自己紹介をさせられたのでわかっている。
栗色の髪をポニーテールにして纏めている女の子がマリアベル=ベルナデットさん。
黒い髪を二つのお下げに分けて肩の前に流している眼鏡をかけた女の子がフィラーナ=ローランズさん。
二人ともアールスと仲の良かった子で僕も今までに何度か挨拶を交わした事がある女の子達だ。
「ベルナデットさん、ローランズさん。チーム一緒に頑張ろうね」
「うん! これからよろしくね! ナギさん!」
ベルナデットさんは元気で大きな声だ。声が大きいよ、とローランズさんが控えめにベルナデットさんに注意すると、ベルナデットさんは顔を真っ赤にしてごめん、と小さな声で謝った。
「えと、とりあえずお互いに何が出来るか教え合おうか?」
僕の提案に最初に答えたのはローランズさんだった。
「はい。私はフェアチャイルドさんと同じように精霊魔法が使えます。属性は木と風です」
「火とか光は契約していないの?」
「はい。何とか説得して生活魔法は許してもらいました」
「なるほどね」
精霊術士って敬語が基本なのだろうか?
「後出来る事……はちょっと思いつきません」
ローランズさんに続いて小さくなっていたベルナデットさんが控えめな声量で語り始めた。
「私は剣術が出来るよ。腕前は女の子の中じゃ上の方かな? あっ、もちろんアールスちゃんやナギさん抜きでね」
「僕の腕前知ってるんだ?」
ベルナデットさんとは補講で一緒になった覚えはないんだけど。
「うん。カイル君と互角なんでしょ? 今学年で一番強いカイル君と互角なんてすごいよね」
そう、カイル君はアールスがいない今同世代でカイル君に勝ち越せる子はいない。僕は一応互角の勝負にはなっているんだけどギリギリ負け越している。
カイル君の剣は僕の所為か基本に忠実で実直にして素直。けど、その一撃は重く、迷いがない分太刀筋は鋭く速い。鍛錬量が少ない僕ではカイル君の一撃を防ぐのは難しくなった。
ちなみに、そんなカイル君に余裕で勝ってたのがアールスだ。あの子は事剣術に関してはおかしかった。変態と呼びたかった。格が違い過ぎて他の剣術を専攻していた男の子からは引かれていたほどだ。
まぁその話はいい。今は関係のない話だ。
「料理とかもお母さんの手伝いしてるからできるよ。……勉強は苦手だけど」
「じゃあ次は私で。私は精霊魔法が使えます。属性は火と水と光です。私も他に得意と呼べる物はありません」
「フェアチャイルドさん勉強得意じゃない?」
「……ナギさんと比べたら誰だって得意とは言えません」
フェアチャイルドさんの言葉にローランズさんも力強く頷いている。
「いや、それは……」
前世の記憶があるからとはこの場では言えない。代わりに僕はローランズさんに聞いた。
「もしかしてローランズさんもその所為で得意な事言えなかった?」
ローランズさんの青い瞳が横に動いた。図星のようだ。
「えと、僕に気にせずに自分で得意だと思う物を上げてくれる?フェアチャイルドさんも」
「わ、わかりました。えと、国語が得意です。本を読むのが好きで……」
「ああ、僕も読書が好きなんだ。ローランズさんってどんな本が好きなの?」
「えと女の子向けの本です……『ロレーヌの花』とか『アークファンタジア物語』とか」
「ロレーヌの花ってフェアチャイルドさん読んでなかったっけ?」
「はい。その時の本はローランズさんに借りた物です」
「そうだったんだ?じゃあ今度僕にも貸してよ。僕も何か本貸すからさ」
「い、いいんですか?」
「いいに決まってるじゃないか。おっと、それでフェアチャイルドさんの得意な事は?」
「えと……算数が得意です。あっ、後生活魔法は使えません」
「精霊さんに遠慮しているんですか? フェアチャイルドさんも説得してみてはどうですか?」
「いえ、不便はしていないので今のままでいこうと思っています」
「じゃあそろそろ最後に僕が。えと、一応剣術も出来るし魔法も使える。戦闘訓練ならナスも連れて行けるね。あとお裁縫が出来るよ」
「ナギさんって多芸だよね」
ベルナデットさんが感心した風に言うがそんなに大した物じゃないだろうと思うんだけど、仕方ないか。使えると言ってものは子供レベルなのだけど、僕達は実際に子供なんだから。
「ベルナデットさんだってお料理できるじゃないか。調理実習で作ったスープ美味しいってアールスが褒めてたよ?」
「でも私魔法使えないし」
「剣術も魔法もって欲張るよりも料理作れる方が大事だよ」
「ナギさんって料理も作れそうだよね」
「作れますよね?」
確認するようにフェアチャイルドさんが赤い瞳を僕に向けてくる。
「調理実習で作った事はあるけど、それだけだよ。フェアチャイルドさんだって調理実習で作ってたじゃないか。僕の腕で作れるって言えるのならフェアチャイルドさんだって言ってもいいと思うけど?」
フェアチャイルドさんは瞼を閉じた後何故か溜息をついた。まるで分かっていないんですね、と言わんばかりだ。
一体どういう意味だろうか? 理解できなくてその仕草に少し不快感を覚えたけど、すぐに大人げないと思い不快感を忘れる事にした。
一通りの自己紹介が終わった後は食事を食べる事に集中する為か皆の口数が少なくなった。
ただ、口数が少なくなるのはいい。しかし、ベルナデットさんが何故か僕の方をちらちらと見てくる。寮のお弁当が珍しいのか、それとも僕の食べ方が変なのかな?
どう切り出せばいいだろうか。いくら考えても僕の頭では気の利いた言い回しは思いつかなかったため諦めて普通に聞いてみる事にした。
「ベルナデットさん。さっきから僕の事気にしてるみたいだけどどうかした?」
「ふぇ!? わ、私そんなに見てました?」
「うん。何か僕に話したい事でもあるのかな?」
「あ……えと、は、話したい事っていうかその」
ベルナデットさんの視線がローランズさんの方へ向く。僕もつられてローランズさんの方を見てみると慌てた様子で口の中に入っていた物を飲み込み、咳き込んだ。
慌てて物を飲み込んだらそうなるよね。
僕は慌てず騒がず胸を叩いているローランズさんにローランズさんの水筒を渡す。
「慌てちゃ駄目だよ。ほら、水飲んで」
「んぐ……ん、はふ……あ、ありがとうございます」
「だ、大丈夫?フィア」
そう言えばアールスもよく美味しい物を口一杯に詰め込んで苦しくなってたっけ。
「大丈夫……はぁ。えと、すみません。ベルがご迷惑を掛けしてしまって」
「いや、迷惑って訳じゃないけど、僕が話しかけた時から二人とも何だか様子おかしかったよね?」
「そ、それは……」
二人とも僕から目を逸らした。
フェアチャイルドさんは我関せずと言った様子でパンを少しずつ食べながら僕達の様子を見守っている。
「僕、何かしたかな」
「ち、違うんです。その、アールスちゃんからナギさんの事よく聞いてたので少し緊張しちゃって」
「緊張? なんで?」
「えとね、アールスちゃんナギさんの事すごく褒めてたんだ。ナギさんはすごく大人でかっこいい子なんだって」
「そんな事言ってたんだ」
やはり滲み出る男らしさは消せないのか。
「それでその、一緒にいると恥ずかしい事ができないって言ってて、それって本当だなって思ったのです」
ベルナデットさんの言葉にローランズさんも頷いている。
しかし、恥ずかしい事が出来ないって、結構恥ずかしい所を見た気もするが、指摘はしないでおこう。
「そ、そうだったんだ。僕ってそんなに怖い?」
「ううん。その……憧れちゃうの……ナギさんに」
「憧れる?」
「ナギさん大人っぽいから、そういうのがいいなって。ね?」
「はい。少し、近づきにくいですけど」
ちらりともう一度フェアチャイルドさんを見てみる。いつの間にか食べ終わっていたフェアチャイルドさんは眠たげに目を手首で擦っている。
フェアチャイルドさんは僕の事をどう思っているんだろう。他愛もない疑問だ。だけど、聞いてみたい。
嫌われてはいないと思う。憧れられているかと言われたらたぶん違うと思う。僕の事を、なんて言うんだろう。
気になるなら聞けばいい。けど、まるで喉に物でも詰まったかのように言葉が出ない。きっと口から出すには僕には勇気が足りないんだ。
……勇気? 何故こんな簡単な事を聞くのに勇気が必要なんだ? 何も怖い事なんてないだろうに。僕は何を怖がっているんだ?
変だ変だと思いつつも僕は結局聞く事が出来なかった。
「ナギさん?」
「!?」
ベルナデットさんの声でハッと自分を取り戻した。
「ご、ごめん。ボーっとしてた」
何でもない風を装い僕は食事を再開させた。
そう、何でもないさ。何でもない事なんだ。
僕は大人なんだから。




