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意外と人気者?

 四年目最初の学校の日のお昼休み、昼食を食べ終わった後僕はナスの元へ御飯を用意しに飼育小屋まで行くと、そこにはアイネがいた。

 アイネの傍らにはもう一人女の子がいる。同じ部屋になって仲良くなったミリアネーデ=ヴェレッタちゃん……だったかな。アイネはミリアちゃんと呼んでいる。僕もミリアと呼んでほしいと言われた。

 二人は傍にいる僕に気が付かずナスを鉄格子越しに夢中になって撫でている。


「二人とも、遊びに来たの?」

「あっ、ねーちゃん!」

「ねえちゃんだ!」


 ミリアちゃんはアイネを真似して僕の事をねえちゃんと呼ぶようになってしまった。なんだか妹が増えた気分だ。


「ナスの御飯の時間だからちょっとどいてね」


 僕がお願いすると二人ははーいと片手を挙げて素直に下がってくれた。

 ナスに器を見えやすい所に持ってきてもらいマナポーションで満たす。毎日やっているおかげかもうタイムラグなしで直接マナポーションを出せるようになっている。


「お水がナスちゃんの御飯なの?」

「ただの水じゃないんだよ。凄い水なんだー」


 まるで自分がやったかのように話すアイネに苦笑しつつも、僕は気になっていた事を聞く事にした。 


「それで、二人とも固有能力は何だったの?」


 学校初日の一番の楽しみといえば固有能力の判明だろう。


「あっ、あたしねーあたしねーしゅんそくってやつだった」

「しゅんそく? ……ああ、俊足か」


 俊足は足が速くなる固有能力だったはずだ。割と一般的な固有能力で馬よりも速く走れ、配達人や伝令になる人が多いと聞く。

 走るのが好きなアイネにはぴったりな固有能力だ。


「よかったね」

「うん!」

「ミリアちゃんは?」

「わたしはねー、うたいてっていうの」

「歌い手かぁ。ミリアちゃんは歌を歌うのが好きだったりするの?」


 そう聞くとミリアちゃんは口をあんぐりと開けてた。どうやら驚いてるみたいだ。


「……うん。すきー。どーしてわかったのー?」

「なんとなくかな」


 好きな事が固有能力になるわけじゃない。けれど、子供は固有能力によって伸びやすい能力や授かった能力を大人から褒められ、好きになる事が多い。

 例えばミリアちゃんなんかはきっと大人から歌が上手いと褒められ歌う事が好きになったんだろう。例えそうじゃなくても上手く歌えるっていう事はそれだけで嬉しい事だし、自信につながり好きになる事が多いらしい。

 それだけに固有能力は子供の将来を決める重要な要因となりやすい。

 適性のある職業も固有能力から導き出されやすいらしいしね。


「ねえちゃんってすごいんだね」

「ふふん。ナギねーちゃんはすごいんだ」


 だから何故アイネが偉そうにするのか。

 そんなアイネが愛らしくて僕は思わずアイネの頭をくしゃくしゃと撫でた。

 アイネはわーっと声を上げたが嫌そうな顔はしなかった。

 ナスがマナポーションを飲み終わったのを確認すると、僕は飼育小屋の鍵を開けナスを外へ出した。

 子供二人……って僕も一応子供か。幼い二人はナスが出てきた事に黄色い声を上げて喜んだ。


「これからナスと一緒に遊ぶから一緒に来な」


 そういうと二人はさらに喜びナスのあちこちをさわり大はしゃぎだ。

 あまりにも見ていられないので僕は思わず二人を止めた。


「二人とも、あんまり乱暴にナスに触っちゃ駄目だよ。ナスだって痛いんだから」

「ぴぃ~」


 ナスは大丈夫というが僕は無視をした。


「二人だってあんまり揉みくちゃにされるのは嫌でしょ?」


 諭すように言うと二人は悲しそうな顔でナスに対して謝ってくれた。

 そんな二人を見たナスは慰めるように鳴いた。


「ぴぴー」

「ナスが背中に乗っていいってどうする?」


 聞いてみたけどアイネは激しく首を横に振った。前に乗った時ひどい目に会ったからな……。

 一方ミリアちゃんは目を輝かせている。大丈夫かなぁ。

 ミリアちゃんを背に乗せたナスは用心するかのようにゆっくりと歩き出した。

 もしかして、ナスもアイネを酔わせた事を気にしていたのかな?

 気を使うようなナスの様子をよそにアイネは心配そうにミリアちゃんを見ている。

 だけど肝心のミリアちゃんが楽しそうだとわかると徐々につまらなそうな表情になっていき、すごいすごいとはしゃいでいるミリアちゃんに対してナスは本当はもっと速い等と皮肉めいた事まで言いだした。

 そんなアイネの様子がおかしくてたまらない。そういえばカイル君も昔はよく皮肉みたいな事を言っていたな。




 放課後、僕は担任の先生から職員室に呼び出された。

 何か悪い事をしたかと頭を捻って考えたが、特に思い当たる事はなかった。

 職員室に入ると担任の先生にレノア先生の所に行けと言われた。

 どうやら用があるのはレノア先生のようだ。

 レノア先生の所に行くといつものように優しい微笑みを浮かべたまま僕の顔を真正面から見つめてくる。


「久しぶり、というほどではないかしら?」

「まだ一ヶ月も経っていませんし、学校の廊下ですれ違うじゃないですか」

「でも話をするのは久しぶりじゃない?」

「そうですね」


 おばあちゃん先生と呼ばれ慕われているだけあって先生の言葉には年長者独特のゆったりとしていて温かみが感じられる。


「それで僕に話があるようですけれど一体何の話でしょうか?」


 何もしてはいないんだけれど、呼び出されるとやはり緊張はするもので、先生とは違い固い言葉になってしまう。


「ああ、悪い事したから呼び出したんじゃないのよ? だから緊張しないで」

「は、はい」


 とは言われても僕の小さな心臓は言う事を聞いてくれない。


「あのね、ナギさんにお願いしたい事があるのよ」

「お願い……ですか?」

「そう。週に一度でいいから下級生用の寮に来てくれないかしら」

「寮に……ですか? 理由はなんですか?」

「本当はこういう事を生徒に頼むのはあまりよくない事なのかもしれないんだけれどね、二年生と三年生の子が貴方に会えない事を寂しがっているのよ」

「僕と? でも僕はそんな、そこまで慕われるようなことしていないと思うんですけれど」

「知らぬは本人ばかり。貴方は自分が思っているよりもずっと慕われているのよ?」

「でも僕のやった事って偶に本を読んであげたり、一緒に遊んだだけですよ?」

「それだけでよかったのよ。それだけで、貴方はあの子達の心を晴らす事が出来たの」

「心を……ですか」


 あんまりしっくりとこないけど……。


「わかりました。行くのは構わないですけど、いつでもいいんですか?」

「そうね、ナギさんの都合のいい日でいいわ。時間は夕食後でいいかしら? 衛兵さんにはちゃんと伝えておくわ」

「わかりました」

「それと、これは学校からの依頼として処理するわね。報酬は月銀貨三枚でどうかしら」

「銀貨三枚!? さ、さすがに多くないですか?」


 四年生用の依頼はまだ確認していないけど、去年までの依頼の値段を考えると大体百倍の値段だ。

 日本円に直すと多分大体三万円くらいだ。普通の大人なら安いと思うかもしれないけど、今の僕は一応社会的には責任能力の低い子供だ。

 そんな子供が子供の相手を数時間するだけで銀貨三枚も貰えるなんて。


「夜休む時間を潰してしまうからその補填のための値段よ」

「それにしたって……」

「駄目かしら?」


 報酬が高すぎると言いたいんだけど、レノア先生は笑顔のままで威圧してくる。これは僕が値下げを提案しても聞き入れてくれそうにない。僕から値下げを提案するっていうのも変な話のような気もするけど。


「値段が怖いですけど……分かりました。でも、依頼として処理するのなら最初からそう言えばよかったのでは?」

「それはしたくなかったの。なるべくなら自分の意思で下級生達と接して欲しいと思って、依頼の件は後回しにしたのよ」

「そうだったんですか」


 自分の意思、か。受けた理由はそんな大層な物じゃないんだけど……。




 夕食後、僕は早速下級生達の所へ向かう事にした。

 その途中、玄関の取っ手に手を掛けた所で僕は上級生の子に声を掛けられた。


「あれ? ナギちゃん。外出ちゃだめだよ?」

「今日から先生にお仕事を頼まれたんです」


 そう言って外出許可証をその子に見せた。

 仕事の内容は聞かれなかったけれど、何故か同情された。

 厄介な仕事と思われたのだろうか? まぁ子供の相手だ。強ち間違ってないだろうな。

 寮を出てまたすぐに別の寮に入る。

 入る時に少し緊張した。

 レノア先生は慕われているって言っていたけれど、それは勘違いで誰も反応してくれなかったら悲しすぎるからだ。

 でもそれは杞憂だとすぐにわかった。

 僕が中に入ると玄関ロビーにいた子が僕に気が付きすぐに駆け寄ってきてくれた。

 ああ、ありがとう。ありがとう。そして、ありがとう。僕はここにいていいんだ。

 先生からは説明されていないのか僕がやってきた事に皆すごく驚いていた。

 先生から頼まれた事を簡単に説明する。

 そして、話が終わった頃僕の服の裾が引っ張られた。


「あっ、エンリエッタちゃん。どうしたの?」

「絵本、読んで?」

「うん。いいよ」


 子供達の面倒を見てほしいと言われたが、僕は特別な事をするつもりはなかった。

 なんで慕われているのかはわからないけど、意識しないでそうなっているのだったら無理に自分のやり方を変えない方がいいだろう。

 絵本を読んでいると玄関ロビーの近くを通りかかった子達が僕に気付いたのか、ロビーの様子を確認してそのまま留まる子が徐々に増えてきた。

 絵本が三冊目に入ろうという所でアイネもいつの間にか大勢の中に混ざっているのに気が付いた。

 いつもはこんなに集まらないのに、なんで今日はこんなにみんな僕の朗読を聞いてるんだろう。物珍しいからかな?

 結局この日は先生が止めるまで朗読会は続いた。先生には少し怒られたけど、同時に感謝もされた。

 どうやら環境が変わったせいか一週間位少しざわついていたらしい。

 皆が黙って僕の朗読を聞いていて、仕事が残っていた先生は助かったらしい。

 絵本を読んだくらいで感謝されるのなら悪くはないのかな?

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