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新たな出会い

 ハイマン先生が言っていたように僕とアールスは新入生の中では最初に寮にやってきた。そのため最初の日は僕とアールスは同じ部屋で寝る事になった。


 二日目。その日にやってきたのは男の子三人だった。本来は四人だったらしいけれど、一人は一ヵ月前に西方で蔓延した流行り病で亡くなってしまったらしい。三人はその亡くなった子とは面識はなかったらしいが、三人の村にも流行り病で死んだ人がいるらしく暗い表情をしていた。同世代の子の死を聞かされ、しかも親元から離れている三人の気持ちはどんなものだろうか?

 二日目は三人とも女性の先生と一緒に寝る事になったから僕とアールスはまた同じ部屋で寝る事になった。


 そして、三日目。最後の一人は夕方にやってきた。

 今日は一日中アールスに付き合ったため僕は疲れ切っていた。アールスはやっぱり元気だけど。アールスの好奇心に付き合うためにはもっと鍛えないといけないのかなぁ。

 夕方になる前に寮に帰ると最後の一人がやってくるのをロビーで待とうとアールスが言った。

ロビーには先輩達が数人いるけど二日目にやってきた男の子達は姿が見えない。たぶんまだケアの途中なんだろう。

 心配になった僕は様子を見にいくとアールスに言ってから男の子達の部屋まで行き、ドアをノックする。すると男の子達の相手をしていたジョゼット先生がドアを少しだけ開けた。


「あの、男の子達は……」

「あら、心配になって来てくれたの?」

「はい」


 僕が頷くとジョゼット先生はドアを開けて僕を中へ入れてくれた。


「みんな、ナギさんが心配して来てくれたわ」


 荷物を整理していたのか大きめの袋から入れていた手を出し僕の方に三人バラバラに向き直る。


「昨日はちゃんと紹介して無かったよね?僕はアリス=ナギ。東のリュート村から来たんだ。よろしく」

「俺はケビン=マクスウェル。西のナルチェ村から来たんだ」

「デュラン=オーグメント。西のブラケット村から来た」

「僕はリンド=ドルンガ。ケビンと同じナルチェ村から」


 三人の顔色は悪くない。もう落ち着いたのだろうか。……どっちにしろ話題には出さない方がいいか。


「後で僕の友達も紹介するよ。今ロビーで今日来る子を待ってるんだ。皆もどうかな?」

「……俺は荷物整理してるからいいよ」

「俺も」

「僕も……」

「そっか。……あっ、整理してるって事は三人はこの部屋にするって事ですか? 先生」

「ええ、そうした方がいいと思って。ほら、男の子と女の子で別れられるしょ?」

「僕は構いませんけど……」


 原則の事を聞こうとして気付いた。マクスウェル君とドルンガ君は同じ村の出身だ。下手に分けるよりも一緒にいた方が心にいいかもしれない。


「今日来る子は女の子なんですね」

「ええそうよ。同じ部屋になるから仲良くしてあげてね」

「はい」


 僕は一礼してから部屋を出てロビーへ戻った。

 アールスはテーブルの椅子に座ってどんな子かなーっとイントネーションを変えながら同じ言葉を繰り返している。

 アールスが同じ言葉を繰り返すのに飽きてきた頃に大人の男性が寮の扉を開けて入ってきた。


「来たっ」


 アールスが呟く。

 男性の後ろに小さな女の子が続いた。

 腰まで届く薄水色の髪に白い肌、そして赤い瞳。きっと美少女と言っても差し支えないだろうけど、どこか儚さを感じさせる今にも消えてしまいそうな少女だった。

 傘などの日除けの道具を持ってないからアルビノではないと思うけど。華奢な印象しかない。


「うわぁ~きれ~」

「そうだね」


 男性は近くにいた先輩に声をかけ他の先生達を呼んでもらったようだ。


「フェアチャイルドさん。椅子に座って待っていなさい」

「はい」


 少女は近くにあった椅子に座る。するとアールスが少女の隣に座りなおした。僕も慌ててアールスの隣に座りなおす。


「私アールス=ワンダーよろしくね」

「……はい」


 少女はいきなり話しかけてきたアールスに驚いたのか少し間を開けてから答える。


「僕はアリス=ナギ。よろしく」

「……はい。どうもご丁寧に……レナス=フェアチャイルドです。……あっ……南にあるルルカ村からやってきました」

「ルルカ村かぁ。あっ、僕とアールスはリュート村から来たんだ」

「……そうですか」

「えと……えと、ねぇねぇレナスちゃんは学校卒業したら何になりたいの?」


 なんだかアールスの様子がおかしい。何か戸惑っているように見えるけど一体どうしたんだろう?


「……卒業」


 その言葉をした時フェアチャイルドさんの目がどこか遠くを見た事に気が付いた。


「……卒業、できたら……私は世界を見たい……」

「世界か……それなら僕達と一緒だね」

「一緒……?」

「うん。僕とアールスは学校を卒業したら冒険者になって世界を見てみたいと思ってるんだ。もちろん魔物とか一杯いるだろうから強くならなきゃいけないだろうけど」

「そうそう! レナスちゃんも一緒に行こうよ!」

「……できたら、いいね」


 フェアチャイルドさんは伏し目がちに答える。

 もしかして卒業できないと思っているのだろうか? 身体が弱くて学校にいられなくなるとか? 最悪命が……。

 でも命にかかわるほど身体が弱かったら学校なんて来るより治療に専念した方がいいと思うけど。僕の考え過ぎだろうか。

 アールスはフェアチャイルドさんのそんな様子に気付いた様子はなかった。




 今日から部屋割りは僕、アールス、フェアチャイルドさんの三人で固定になった。ジョゼット先生の言う通り一年生の部屋割りはこうすることに決まったようだ。元々男女で三対三に分かれてたから都合がいいのかもしれないけど、僕はすごく気まずい。

 一応僕は心は男だ。男子でも男の子でもなく男。さすがにロリコンではないから今のアールス達に思う所はないけど、もしもばれた時が怖いなぁ。

 部屋は二段ベッドが二つと学習机が四つ並んでもまだ余裕がある広さだ。

 ちなみに寝る場所はアールスが速攻で上を取った。別にいいんだけどね。

 フェアチャイルドさんの寮の皆への紹介は夕食の時に済ませている。

 お風呂に入った後僕達は部屋で寮での役割分担を決めていた。

 役割分担は大きく分けて四つ、部屋の掃除、一年生が使うフロアの掃除、トイレ掃除、洗濯だ。この四つを僕達は三人でローテーションを組む事になるんだけど……。


「とりあえず洗濯は各自でいいかな?」

「いいと思う。あとは適当に順番に?」

「そうだね。フェアチャイルドさんもそれでいい?」

「はい……」

「じゃあどこをやるかはあみだで」

「あみだ……?」


 フェアチャイルドさんはさすがに知らないのか。村では僕が考えたっていう事になってるから当然と言えば当然だ。


「書ける物ないよ?」

「あっ、そうか」


 この世界では紙は特別高価ではないらしいけど僕達はお金を持っていない。そのため紙なんて買えるはずもなく、授業で使うノートは学校から配られるのだがまだ貰っていない。

 お金は学校から張り出される依頼を達成すれば貰えるらしいけど……今は置いておこう。


「じゃあじゃんけんで」

「……分かった」


 じゃんけんは分かるんだよなこの世界。不思議なものだ。過去にも僕みたいな転生者がいたのかな。

 じゃんけんの結果明日の役割が決まった。部屋の掃除が僕、フロアの掃除がフェアチャイルドさん、トイレ掃除がアールスだ。これを一週間毎にずらしていく。さすがに毎日掃除するわけじゃないからね。各自で汚さないように気を付けてれば大丈夫だろう。


「あとは、そうだな何か今のうちに僕達の間で決めておきたい事はあるかな」

「決めておきたい事って?」

「簡単なルールだよ。例えばそこの机。誰がどれ使うのかって」

「そんなの決める必要あるの?」

「決めたい人がいるかもしれないじゃないか」

「そういうもの?」

「アールスだって二段ベッドの上は自分だって決めたじゃないか」

「あっ、そっか」

「アールス。僕達だからよかったけど、勝手に自分の物にしちゃだめだよ。まずは部屋のみんなと相談」

「はーい」

「フェアチャイルドさんは何かあるかな? 注意してほしい事とか先に言っておきたい事でもいいんだ」

「……咳がよくでます」

「え? そうなの? どこか具合でも悪いのかな?」

「身体……あまり丈夫じゃないので……夜中、お二人が寝てる時に……咳をしてしまうかもしれません」

「僕は平気だけど、アールスはどう?」

「え? う、うん。ナギが平気なら大丈夫だよ。咳……だよね?」

「はい……」

「わかった。じゃあ後は何か問題が起こった時、みんなで相談という事で」

「それでいいよ」

「わかりました……」


 やる事が終わってしまうと途端に暇になってしまう。前世なら娯楽はたくさんあった。村にいた時は家の手伝いをすれば退屈はしのげた。

 では今は? アールスとフェアチャイルドさんがいる。そうだ。何か遊ぼう。何がいいかな。道具がいらず、部屋の中で遊べる事って。

 例えば親指相撲! ……は僕が一人勝ちしそうだしフェアチャイルドさんは楽しめるだろうか。じゃあ普通に話でもするか。


「ねぇフェアチャイルドさん」

「はい……?」

「ルルカ村から来たんだよね? どんな所?」

「あっ、私も気になる!」


 アールスは興味津々といった様子でフェアチャイルドさんに詰め寄ろうとするので僕が片手で制する。


「ルルカ村は……精霊魔法の使い手が集まる村なんです」

「精霊魔法?」

「はい……精霊と契約をして行使する魔法の事です」

「そもそも精霊ってどういう生き物なのかな?」

「えと……魔力(マナ)が意識を持って実体化した存在の事で……」

「えーと……?」

「……手では触れられないけど……確かに見えてその場にいる存在の事です」

「むむぅ。レナスちゃんナギみたい」

「え? どこが?」

「難しい言葉使う所とか」

「うっ」


 僕は前世の記憶があるんだから仕方ないじゃないか。でもたしかにフェアチャイルドさんって五歳にしては難しい言葉使うな。もしかして僕と同じ転生者?


「私は……精霊さんや妖精さんに教えてもらったから……」

「妖精?」


 アールスがいると本当に助かるなぁ。知らない事はどんどん聞くし、僕は知ってちゃおかしいような事を確認できる。

 さすがに前世の記憶がありますよーなんて公言したくない。だって絶対可哀想な目で見られる。証明するのは面倒だし、この世界で証明に使えそうな知識なんて僕の記憶にはない! 精々が蒸気機関の原理が薄っすらとわかるような気がするくらい?


「妖精は……ちっちゃな人みたいな生き物の事」


 これくらいとフェアチャイルドさんは手で大きさを示してくれる。大体二十センチくらいだろうか。そういえばこっちの長さの単位ってなんだろう。これも気をつけなくちゃ。


「背中にね……羽が生えてて、飛ぶ事ができるの……すごくかわいい」

「へぇ、見てみたいな」

「ルルカ村の……精霊達の森に行けば会えると思う」

「アールス、学校卒業したら行ってみようか?」

「いいと思う!」


 他愛もない話は消灯時間まで続いた。

 消灯時間になると僕は生活魔法の一つである『ライト』を消す。

 生活魔法とは日常生活で使用する魔法の事で、すべての魔法の基礎となるものだ。他にも飲料水を生み出す『クリエイトウォーター』、火種を生み出す『ライター』が僕は使える。

 生活魔法は簡単なイメージだけで使え、誰でも使える魔法だ。

 初めて使った時は興奮した。自分でも魔法が使えるんだと思いなかなか寝付くことができなかったっけ。あれからもみんなから隠れて魔法の練習はしていたけど全く上達しなかった。やっぱり独学じゃ無理なのかな。




 ケホッケホッ

 小さな音に僕は目が覚めた。僕はこの身体になってから忘れていたけど、前世の僕は寝付はよくなかったんだ。そんなどうでもいい事を思い出しながら音の発生源を探す。

 隣のベッドだ。そういえばフェアチャイルドさんは咳が良く出るって言ってたっけ。

 でも大丈夫だろう。僕は掛布団にしっかりと包まり直して再び寝ようとする。


 ゲホッ!! ゲホ


 一回大きな咳をしたかと思ったらその後も何かくぐもった音が断続的に聞こえてくる。

 僕は思わずベッドから出て光を抑えたライトを使いフェアチャイルドさんの様子を見た。

 フェアチャイルドさんは壁の方を向いて口に手を当てて必死に音を抑えようとしていた。

 僕が寝ていたベッドの上にいるアールスの方を見ると寝息が聞こえてくる。アールスは気付いていないみたいだ。きっと昼間町中ではしゃぎまくってたから疲れてるんだ。そういう僕は不思議と疲れていない。体力は僕の方が疲れていたのに不思議なものだ。気疲れだったのかな?

 ってそんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。

 フェアチャイルドさんはまだ咳をしている。


「大丈夫?」

「あ……」


 声をかけてからフェアチャイルドさん背中を擦る。大丈夫かなんて愚問だろうけど他にかける声が思い浮かばなかった。かといって勝手に背中を触るのも失礼だと思うし。


「ごめん……なさい……」

「……」


 どう返答すればいいだろう。謝罪を素直に受け入れるべきか、気にするなというべきか、対価を求めるか。

 僕は……どれも選ばなかった。どれも僕の本心じゃない気がしたからだ。

 無言で咳が収まるのを待った。

 咳が収まると僕はその場を離れ学習机の上に置かれたカップを手に取る。


「『クリエイトウォーター』」


 カップに水を満たすとそれをフェアチャイルドさんの所へ持っていく。


「水、飲む?」


 フェアチャイルドさんはためらった様子を見せたがやがてカップを受け取った。

 飲み終わったカップを受け取り学習机の上に戻す。洗うの明日だ。


「じゃあお休み」

「あ……ありがとう……ございます」

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