晴れの日
朝の雪かきの時間、屋根の上から雪を降ろす作業は魔獣達のいる倉庫を担当していた班が早く終えたようでアールスが屋根の上から手を振っている。
体力づくりの一環として魔法を使わずに雪かきをしているのだけど、いつの頃からか家の屋根班と倉庫の屋根班でどちらが先に終わるかを競うようになった。
班の構成はいつも違うがカナデさんとミサさんだけは力持ちだからという理由でいつも別々の班に配置している。
勝敗は結構バラバラというか中心となるカナデさんとミサさんで見るといい勝負をしている。
雪かきになれているミサさんのいる方が有利かと思えばカナデさんは体幹の良さと身体の柔らかさが雪かきで発揮されいい勝負にさせる。
「くっそー負けたー」
アイネが身体を動かしながら悔しそうな声を上げる。
「もう少しだから頑張りましょう~」
カナデさんが励ますようにそう言った。
「おー」
「頑張るぞー」
カナデさんの言う通りもうひと踏ん張りだ。
ちり取りに長い取っ手を付けたような形状の雪かきを振るいまだ残っている柔らかい雪を屋根から降ろす。
屋根が終わったら次は地面の雪の始末だ。
家と倉庫の出入り口の雪をどかす。
雪の処理は敷地内の隅の片隅にまとめておいておく。
一日で家を埋め尽くすほどの吹雪だがそれはあくまでも家という障害物があるから雪が溜まってしまうだけだ。
何もない場所には雪は足が膝まで埋もれる程度の深さまでしかない。
日さえ出れば雪を溶かしてくれるだろう。
さらにそれが終わったら荷物が置いてある倉庫の雪かきと出入り口の確保をしなければならない。
手早くやらないと吹雪が来てしまう事もあるから大変だ。
「ふぃー。やっと終わった」
「きょーは晴れてほしーね」
家の屋根の雪かきを終えて身体を伸ばす。
雪かきは普通の特訓では使わない筋肉を使っているのか身体を鍛えている僕でもきつく感じる。
「そうだね。三日連続で吹雪だったもんね」
十一月になって吹雪ばかりとは言え吹雪が降らない日がない訳じゃない。三日から五日に一度くらいは晴れの日がある。
まぁ晴れても新雪ばかりで脚が取られるのでおもいっきり遊ぶなんて事は出来ないのだけど。
今日は雲も少ないし晴れるかな?
「後三日で十一月も終わりですねぇ」
「ああ、もうそんなに経ったのか。じゃあようやくこの雪かきから解放されるのか」
「不思議だなー。なんでじゅーに月になったら雪降んなくなるんだろ」
「なんでだろうねぇ。朝と夕方にきっちり吹雪が止むっていうのも謎だよね」
「さぁ次は出入り口の確保ですよ~。お喋りはここまでにして次行きましょ~。まだまだ最後の倉庫が残っていますからね~」
「はーい」
「了解です」
吹雪くかどうかは分からないがさっさと終わらせるに越した事はない。
雪かきが終わった後吹雪く様子がなかったので久しぶりに魔獣達も外に出して日光浴をする事にした。
ただアースだけは外に出ようとはしなかったけれど。
「今日はいい天気だねぇ」
「ぴー」
僕の隣にいるナスも気持ちよさそうに目を細めている。
「ゲイルは元気だねぇ」
「ぴー」
ゲイルは元気に宙を駆けている。
アイネは追いかけたそうにしているが雪に足を取られて上手く動けないみたいだ。
「……そっか、皆とマナを共有してる今なら僕も空駆け出来るかもしれないのか」
「ぴー?」
ナスがやるの? と聞いてくる。
「試すなら今がいいかな。今なら雪があって地面が柔らかいし」
失敗しても怪我はしないだろう。
「よーし。試してみるか」
「ぴーぴー」
ナスも応援してくれる。
空駆けはアースのソリッド・ウォールと同じくマナを集め凝縮し足場を作るスキルだ。
足場を作るだけならマナさえ足りれば別に難しい技術じゃない。
しかし、それだけじゃあ特殊スキルである空駆けと呼ぶには不十分だ。
ゲイルは自分に出来る最小限のマナ消費かつ最短最速で足場の形成と消失を行っている。
ゲイルが空駆けをしている最中足元以外にマナがないのがいい証拠だ。
それに加えゲイルは全速で走る事も出来る。どれだけの修練と度胸が必要なのか。
とりあえず試しに一回やってみる。
やってみると足場にするマナの場所は魔力感知で把握できるので意外にも普通に地面に歩いているよりも足元を気にしないで済む。
空間把握能力なくてもいけるな。
ただ問題は足場の形成の速さとそれを認識する僕の反射能力だ。ゲイルの様に走りながらやるのは難しい……というか怖い。少しでも形成が遅れたり強度が足りなかったらそのまま落ちてしまうのだ。
僕の限界速度は今の所歩く程度の速さだ。これ以上は怖くてまだ出来ない。
高さはまだ練習なので雪の上をちょっと浮いている程度だ。
「ねーちゃんすごーい! いーないーなあたしもやりたい!」
「んふふ。アイネに出来るかな。マナ結構使うよ?」
「どれくらい?」
「一つの足場作るのに千位。マナを動かす時に消費するマナは計算に入れてないよ」
「無理」
さすがのアイネでも諦めてしまった。
アイネのマナはまだ二千も無いから足場を一つ作るのが精いっぱいだろう。
「ねーちゃんでも千ってあたしじゃ無理じゃん! あたしねーちゃんほど魔力そーさ上手くないよ!」
「ああ、いや。アイネがやっても千くらいで済むと思うよ。足場を作るのに必要なのはマナの量だから。魔力操作は作ったり消したりする時間を短縮するのに使うくらいだよ。
それよりも魔力感知の方が重要だよ。マナの濃さとか足場の位置の把握にすごい役に立つよ」
「おー。マナの量と感知鍛えないと……」
「という事は私のマナでレナスに同じ事させられるって事?」
「うわっ!」
突然サラサが僕の目の前に現れ、それに驚き足を踏み外してしまった。
「あらごめんなさい。大丈夫?」
「大丈夫。まったく……驚かせないでよ」
「ごめんなさいね。でもいつもなら驚かないじゃない?」
「足場のマナに意識を集中させてたんだよ」
「そんなに集中力が必要なのね」
「初めてなのとアイネと話してたからね……周囲のマナから完全に意識から外してたよ」
「そんな事で実戦で使えるの?」
「さすがにこれを実戦で使う気はないよ。でも何かの役に立ったらいいなって思ってね」
「ふぅん。それで私もレナスにさせられるのかしら?」
「レナスさんがサラサのマナを操ってって事ならできるだろうね。ただ足場にしたマナの位置を完全に把握できないと危険だね。
レナスさんの魔力感知ってどうなの?」
「マナの塊位なら感知できるはずよ。早速誘ってみるわ」
「無理強いは……まぁサラサならしないか」
サラサの姿が消えたので少し離れた所にいるレナスさんの方に視線を移すと、レナスさんは何やら首を横に振っている。多分断られたんだろう。
「ききっ」
宙を走り回っていたゲイルが僕の頭の上に乗っかって来た。
「休憩?」
「きー。ききーききー」
休憩ついでに僕の進展を見てくれるようだ。
乗っかられると必要なマナの量が変わっちゃうんだけど……まぁいいか。これも訓練だ。