広がる世界
「皆に好評でよかったよ」
「そうですね。皆楽しんでいました」
僕の部屋でレナスさんと精霊達で今日遊んだ幻想遊戯の反省会を開いている。
「この分なら精霊達とやった時の話もやれそうだね」
「そうですね……アールスさんが危険を顧みずになんにでも突っ込んで行こうとしているのには肝を冷やしましたけど」
「ミサさんが上手く抑えてくれてたよね」
アールスの行動は怖さ知らずが出ちゃったのかな。
魔物の情報を村人から得ようと提案したのも魔物の潜む地面に出来たほら穴に無闇に入って行こうとする皆を抑えたのがミサさんだ。
最初まとめ役はアールスかアイネかと決めかねていたけど最後には自然とミサさんがまとめ役をやる事になっていた。経験の差は大きいね。
それと無謀な行動を咎めるようにしていけばアールスの恐怖心の無さからくる無自覚な危険な行動を少しでも抑えられるかな。
アールスは考え無しじゃないけど危険を危険と認識してなきゃ思考に上る事すらない事だってある。
そうだな、これからは練習として罠を意識して入れてみようか。
「ミサさん立ち回りが上手でしたけどサイコロの出目はずっと低調でしたね。調整した方がいいでしょうか」
「どうだろうねもう一回調整なしでやってみて様子見てみようと思うんだけど」
「……一応途中からでも調整できるようにしておいた方がいいかもしれませんよ?」
「ううん……そうしてみる?」
今日一日遊んでみた所ミサさんは人生遊戯の時と同じようにサイコロの出目が悪かった。
他の皆はそうでもなかったんだけど、何故かミサさんだけが望まない出目ばかり出ていた。
立ち回りで出目の悪さを挽回していたがいつまでも挽回出来るとは限らないか。
「なぁんであんなに出目が悪いんだろうね」
「不思議ですねぇ」
出目が高い方がいい時は低めを出し、低い方がいい時は高めを出す。いっそ清々しいまでに裏目ばかり出るのだ。
おかげでミサさんは固定値を愛しサイコロをなるべく振らないように立ち回るようになってしまった。
「精霊達にまた同じ話やってもらう事になるけど大丈夫かな?」
「大丈夫よ。ね? ライチー」
サラサが代表して答え、隣にいたライチーに同意を求めた。
『うん! それよりきょうのわたしどうだった? うまくやれてた?』
「うん。上手く出来てた。ライチーに頼んでよかったよ」
ライチーには風景を投影してもらい臨場感を出してもらっていた。
投影出来た風景はライチーが一度でも見た事のある風景だけだけれど、それでも長く旅をしていたから十分と言えるほどの種類があった。
『えへへー』
「室温を変えて臨場感を出していた私も忘れないでね」
「室温調整したのはレナス。サラサはそれを維持してただけ」
ディアナがちゃちゃを入れるがサラサは涼しげに流した。
「同じ事よ。室温調整が出来たのは私がいたからなんだから」
「サラサとエクレアには登場人物も演じて貰ったからね。感謝してるよ」
「演じるのって結構難しかったわ。エクレアはよく自然に出来てたけど何かコツでもあるの?」
「特に何もないけど、なんて答えればいいか答えの分かり切った会話なんて簡単じゃない?」
「そうかしら?」
サラサはエクレアの返答に首を傾げた。
「アロエは結構つっかえてなかった?」
「私のは即興で考えなきゃいけなかったからねー」
アロエはアイネの精霊術士の契約した精霊として参加してもらっていた。
「設定を間違えないようにしながら自由に話すって結構難しかったよ」
「なんだかややこしそうね。ディアナはどうだった? 相談役しかしてなかったみたいだけれど」
「ん。特に問題なかった。事前に遊んでたから要領もある程度わかってたし」
「楽しかった?」
「分からないけど多分楽しかったと思う」
「ふふっ、そう思えるなら楽しかったって事よ」
「そう言うサラサは楽しかった? 演じるの難しかったみたいだけど」
「ええ、楽しかったわ。ああ、でも次からはディアナと役割を交代してもらいたいかしら」
「それはどうして?」
「室温を調整しながらだと演技するのに集中できないのよ」
「そういうものなの? まぁそういう事なら……ディアナはそれでいい?」
「いい。私に役割へのこだわりはない」
「それじゃあそういう事で。他の皆は役割を変えたいっていうのはあるかな?」
聞いてみるが誰も何も言わない。不満は無いという事か。
「じゃあ今日はもう遅いしこの位にして解散にしようか」
「あら、それなら私ちょっとナギと二人で話したい事があるのよ」
「いいよ。他にはないかな? ……ないなら解散」
「ナギさん。今日はお疲れ様でした」
「うん。レナスさんもありがとうね。お疲れ様」
「はい。サラサさんは残るようですが私達はお先に失礼させてもらいますね。おやすみなさい」
「おやすみ」
レナスさんが出ていくとサラサ以外の精霊達も挨拶をして出ていく。
残ったサラサは誰のマナも残っていない事を確認した後僕にと向き合った。
「それで話って?」
「今日ので確信持てたんだけど……幻想遊戯ってシンレイ化を促進させるわ」
「え」
「本当にシンレイになる前兆なのかは分からないけど私がシンレイになると感じている根拠をまず話すわ」
「う、うん」
遊びで神霊に近づくってどういうことだ。
「今の私には世界が広がる感覚があるの」
「世界が広がる?」
「そう。前はレナスだけ……まぁディアナ達もいたけど。私達だけで世界は成立していたと思うの。レナスがいて、私達がいる。
昔は気が付かなかったけど今思うとナギ達と旅をするようになって私達という世界にナギ達が入って来て少し広がっていたのね。
世界が広がってる事に気づいたきっかけはナギからシンレイの話を聞いてシンレイになろうと色々自問自答していた時ね。
私ね、好きな物が沢山増えていたのよ。
ダイソンの花畑、ティマイオスでの雪景色、グラード山の頂上から見た絶景。
旅の途中で見かけた花々、夜の焚き火の光、荒野でのどこまでも赤い夕焼け。
景色だけじゃないわ。ナギもアールスもカナデもアイネもミサも好きよ。
好きな物が増えるとね、視界が広がって世界が鮮やかに見える様になるのよ。
……それに気づいたのはここ一年くらいだけどね」
「なるほどね……それと幻想遊戯とどう関係が?」
「私ね、自分の分身である登場人物を作るのって自分の好きな物を詰め込みやすいと思うのよ。そうじゃなくても興味ある事柄とか趣味を反映させるとか。
演じる時だってこの子は何が好きでどんな事を考え行動するだろうって考える。
そう、考えるという行為が重要なの。考えて考えて……ふと思考が過るの。この子が好きな物は私はどうなんだろうって。
私がやっていた自問自答を自然とやってしまうのよ」
「……」
「まだ私だけかもしれない。けど他の皆は気づいてなくても無意識にやっているかもしれない。
ナギ、幻想遊戯は世界を広げてしまう遊びかも知れないわ」
「いや、でもまさか遊び位で……アロエみたいに長く生きてるのにまだシンレイなっていない精霊ばかりなのに遊びで……」
「ええ、私は杞憂かも知れないわ。シンレイになる途中の私だからこそ影響が強く出ているだけかもしれない。
皆に私と同じような兆候がないか目を光らせておくけれどナギも一応気に留めておいて欲しいわ」
「……サラサから見てその兆候がありそうなのは誰か分かる?」
「そうね……ライチーじゃないかしら。あの子素直だから。でも多分望まないでしょうね。レナスとのつながりが途切れるなんて耐えられないわよあの子は。
まぁ深く考えるような子じゃないから当分は大丈夫でしょう」
「そっか……アロエやエクレアはどうかな? サラサ以上に長く生きているみたいだけど」
「エクレアは平気そうね。自分の契約者とその周りの人間で世界が収まってるわ。ディアナも同じね。アロエは……多分シンレイにはならないんじゃないかしら?」
「そう思う根拠は?」
「アロエは昔の私と似てるのよ。自分をこういうものだと定義づけしてそれ以外のモノにはなろうとしてない所がね。
自己を確立させるには有効な手段ではあるけど遠ざかる理由でもあるのと思うのよ。
アロエが自分を何と定義づけしてるかは分からないけど、長く生き過ぎたのかそうである事に固執しちゃって考える事を放棄しているわ。
自己を確立させたいなら考える事を止めたら駄目だと思うのよ。何が何者か、そんな簡単だけど難しい事から自分という形を作らなきゃいけないんだから」
「サラサは……大丈夫なの? 春まで持たせられるの?」
「そこは大丈夫よ。要は深く考えなければいいだけの事なんだから。でも演じるのはちょっとお休みね」
「分かった。練習の時もサラサには補佐に回ってもらう事にしよう。本当ならやめた方がいいと思うんだけど……」
「それは駄目よ。皆楽しみにしてるんだから中止にしようとしたら理由を話さないとといけなくなる。それともシンレイの事話す?」
「……いずれは話さないといけないだろうけどそれは今じゃないね」
「そうね。私がシンレイになる時にでも話しておいた方がいいかもしれないわね」
「うん。レナスさんにはこの話は?」
「秘密にしておいて。また寂しがらせるかもしれないから」
「……うん」
レナスさんが泣いた事気づいてるのかな。




