贈り物選び
サラサとの約束の日、僕はサラサと二人で街へ繰り出した。
いつもならレナスさんと一緒だからサラサと二人っていうのは珍しい。
ちなみにレナスさんの周囲の温度調節は今日はヒビキに頼んでいる。
「それで何を買うか決めてあるの?」
「宝石にするか本にするか……装飾品でもいいかしら」
「決めてないのね……とりあえず本は止めておいた方がいいと思うよ。レナスさんが喜びそうな本って大きくてかさ張るから負担になりやすいし、贈り物って売ったりしての処分をしにくいんだよね」
「たしかにそうね。レナスも今持ってる本とても重そうにしてるもの。
……宝石というのもどうなのかしら。こっちは持ち運びは簡単で資産にも出来るのだけど……」
「盗まれる可能性はあるけど、サラサ達がいるからそんなに心配しなくてもいいんじゃないかな?」
「そうね。さすがに力づくで奪おうとする人もいないでしょうし……いたら私達が許さない」
「一応家に置いといたら泥棒に入られて盗まれるって可能性もあるけど」
「都市内での泥棒なんてすぐに掴まるわよ」
都市内の犯罪は訴えればすぐに対応され検問所からの出入りは難しくなる。
検問所では犯罪が起こったら厳戒態勢に入り普通の持ち物検査の他に神聖魔法のライアーが導入され犯罪の有無を問われるようになる。
それで反応があった場合は事件の解決まで身柄を拘束され取り調べを受けるのだ。
そして、都市内では兵士さん達で大捜索を行われるのだけど……それもこれも事件が発覚されてからの事なので盗まれた事に気づくのが遅れれば遅れるほど泥棒が逃げやすくなる。
だからこそ普通泥棒は逃亡時間を稼ぐためにすぐにはバレないように犯行に及ぼうとする。
「う~ん。とりあえず宝石よりも装飾品を先に見に行きましょうか」
とりあえず大通りにある装飾品屋へ行こうという話になった。
雪が降りだしそうなどんより雲の下、大通りに出ても人は少ない。
人が少ないのは寒いからだろうか?
大通りで一番評判の良い装飾品屋に入るとサラサは早速自分のマナを広げた。
「いいの見つかった?」
「んー。ちょっとナギの意見聞きたいわね」
「いいよ」
まず聞かれたのは色とりどりのビーズのような穴が開いた小さい球とリング状の物とで二種類あり、これは空いている穴に髪を通して複数の色の組み合わせを楽しむ髪飾りだ。
これを付けたまま髪を編んだり、または編んだ髪を止めるのに使ったりも出来る。
他の髪飾りと組み合わせたり、気軽にいろんな髪型に組み込めるのでグライオンのお洒落さん達には人気のある髪飾りだ。
首飾りや腕飾りにも使用されている。
「これは……たしか髪を通して飾る物よね」
「そうだね。グライオンでは伝統的な装飾品だよ」
「こういうの宝石であるのかしら?」
「ないよ。宝石はこの大きさで割らずに穴を開けるのって難しいからね。数もそうないだろうし」
「そう……残念ね。ちなみにこれは何で出来ているのかしら?」
「きれいに染めてあるからそうは見えないかもしれないけど木製だよ」
表面が艶やかでぱっと見では鉱石か金属に見えないこともない。
「ふぅん……ナギはこういうの付けないの?」
「面白そうではあるんだけどね。外すのに一度髪を解かないといけないから訓練を挟む事を考えると面倒なんだよね」
「たしかにそうね。もうちょっと気軽に付け替えできないと訓練の時に不便だわ。これは諦めましょう」
判断が早い。
「サラサ自身はこれがいいなっていうのはあるの?」
「あるけど今回はレナスへの贈り物よ? 私の好みなんて関係あるの?」
「もちろんあるよ。二人の好みが合った贈り物の方が送る方も受け取る方もより嬉しくなるんだ。まぁ完全に合うって事は無いだろうから贈る側が妥協する事もあるだろうけどね」
今回はもしかしたら神霊になる前の最後の贈り物になるかもしれない。それだったらサラサの好みも反映された物の方がレナスさんも喜ぶんじゃないだろうか。
「なら赤い物がいいわ。炎のように暖かくて儚くも輝きの強い赤。レナスの瞳の色も素敵なのだけどね」
「暖かくて儚くも輝きの強い赤か……このお店にはそういう色はあるのかな?」
「んー」
サラサは少し思案顔を見せた後ふよふよと移動しだしたので僕もついて行く。
「この色が近いかしら?」
サラサが指し示した物は可愛らしい花の胸飾りだった。
「なるほど。ちなみにこれは贈り物にはどうなの?」
「派手さが足りないわね。もっと贅沢で豪華な感じがいいわ」
「その希望をかなえるとしたらやっぱり宝石かなぁ」
このお店にも宝石を使った装飾品はあるが種類や値段となると宝石屋には及ばない。
「ただ多分サラサの持ってるお金じゃ望みの物は買えないよ?」
「そんなに高いの?」
「ちゃんとした物は金貨三枚はするからね」
「……ちゃんとしない物は?」
「それはさすがに幅広いよ。銀貨一枚からあるし」
「水晶はどうなの?」
「水晶はこぶし大の物が銀貨十枚前後が相場かな」
ちなみに宝石や貴金属の相場は三ヶ国同盟内で全て同じだ。どこに行っても安定した値段を約束されている。
「それぞれどう違うの?」
「ちゃんとしない宝石っていうのはちょっと語弊があるけどゲイルが集めてる色のついた石やさっきの玉みたいな小さい宝石の事だね。
安いのが色のついた石でたくさん取れるから安い。小さい宝石は加工しにくいから単体では安いけど、大抵は貴金属の装飾品に飾りとしてついてる場合が多いね。
水晶はほとんどがフソウからの輸入品なんだけど、とにかく数と種類が多いんだ。割れやすいけど土の精霊がいれば簡単に直せるから加工が安易なのも特徴だね」
「宝石……高い奴は直せないの?」
「出来ないらしいね。透明な宝石って内部に細かい傷があってそれが複雑な輝きを作り出すらしいんだけど、精霊が直しちゃうとその輝きが失われて価値が下がっちゃうんだって」
「精霊は細かい事は苦手だものね。水晶は輝きが減っても大丈夫なの?」
「割れやすいからね。いや、割れやすい透明な石が水晶って呼ばれてるだけなんだけど。
割れやすいから諦めてるんじゃないかな?」
「ふぅん。とりあえず宝石店に行ってみましょうか。実際にどれくらいの値段か確かめてみたいわ」
「分かったよ」
宝石店は今いる装飾品店と同じく大通りにあり距離もすぐ近くだ。
早速装飾店を出て宝石店へ向かう。
宝石店のような高級なお店にはあまり入らないから緊張する。
一応高級なお店に入る事も考慮して身だしなみは整えてきたが場違いではないだろうか?
サラサはそんな僕の心配をよそに店内に入り早速マナを広げる。
「あら、あらあら。早速いいの見つけたわ」
「え? 本当」
「こっちこっち」
サラサの手招きする所に行ってみるとそこは不透明な石が置いてある場所だった。
「これよこれ」
サラサが指した先には赤くきれいな楕円形に加工された石があった。大きさは大体親指と同じ位だろうか。
赤と言っても夕焼け空のような茜色で片側へ黄色へ変わっていくグラデーションもありたしかに炎っぽいかもしれない。
お値段は銀貨十枚と色付き石としては中々の値段だ。
店員さんを呼びこの石を贈り物用として買いたいと言うと値段が上がるが装飾品に組み込む事が出来ると教えてくれた。
出来上がるのはどんな飾りでも一週間はかからないと言う。しかし、今からだと吹雪の所為で受け取れるのは十二月になるかもしれないという事も教えてくれた。
値段はどんな装飾品にするかと材料で変わるが最低でも銀貨十枚は上乗せされるらしい。
「じゃあこれにする?」
「そうね。首飾りにしましょう。台座や紐の材料は……銀がいいかしら?」
店員さんに確認すると金貨一枚、銀貨八十枚、銀貨七十枚、銀貨三十枚と複数の値段を提示された。
どうやらここまで値段に差があるのは銀の含有率が違うらしく値段が高いものほど純銀に近い様で変形しやすいそうだ。
そして銀貨三十枚はただの銀メッキだそうだ。
「それなら七十枚のにした方がいいかしら? 私達旅してるから頑丈な方がいいでしょう」
「そうだねぇ。サラサが決めていいと思うけど予算的には大丈夫なの?」
「ええ。金貨一枚のでも大丈夫よ。でもそうね。銀貨七十枚のにしましょう」
この後店員さんとサラサが相談し合ってデザインを決めた後手続きをし手数料兼前金として銀貨五枚を払って正式に契約を結んだ。




