武術大会剣術の部 中編
六戦やって結果は四勝二敗となった。
勝てたのは大体方針通りに守って基本は相手の隙を付けたからであり、負けた試合は隙をつくのに失敗したり普通に力押しで負けた。
ちなみに負けた二試合の相手というのが控室ですぐに僕から視線を外した三人のうちの二人だ。
ザラークという人とはまだ戦っていないが二人は強かった。
そして、七試合目はついに剣術の部唯一の女性同士の試合となった。
カレイドさんは北の遺跡で護衛としてお世話になったが特別仲良くしていたという訳ではないのでどのような戦い方をするのかは分からない。
けれどレスコンシアの人達は闘技場で名の知れた闘士ばかりという話だ。手強いに違いない。
一応カレイドさんの試合は試合の合間の隙間時間に見る事は出来て、僕よりも格上だろうという事は分かった。。
試合場に立ち、向かい合うと何となくカレイドさんから風格というものを感じる。
試合の合図が上がる。
カレイドさんは最初は動かない様だ。構えたまま僕が動くのを待っている。
身体を揺らし攻撃を誘ってみるけど反応がない。
側面を取ろうと動いてみても隙を見せてこない。
これは……僕から仕掛けてみるか?
見た所カレイドさんの構えに隙は無い。けどアールスに比べたら怖さは感じない。
攻める気がないのか?
なら僕が軽い先手をしかける。
間合いに入って袈裟切り……じゃあカレイドさん相手じゃ動作が大きすぎるか?
小さく切り込んで防がせて出方を見る。これだ。
「はぁ!」
回避させないように素早く動きは小さく。それは一応成功した。
「やぁ!」
カレイドさんはすぐに僕の剣を打ち返し返しの刃を向けてくる。
予想通りだ。
悪いがカレイドさんにはアールスほどの切れの良さもアイネ程の剣筋の速さもない。
それならさらに返せる!
「技あり!」
「よしっ」
打ち込みは浅かったけれど一点取れた。
「くっそ~。やるなぁ治療士さん」
「んふふ。負けませんよ」
仕切り直してまた試合が始まる。
今度はどう動くか……。
「!?」
カレイドさんが動いた。
間合いを一気に詰めての右わき腹を狙った一閃。マナに動きはなかった。
何とか防げた。返しを……。
「やぁ! はぁ!」
駄目だ。反撃の隙を与えくれない。
だけど……それでいい。僕は守ればいいんだ。
引くな。踏ん張れ。皆が後ろにいると思え。ここで引いたら皆に被害が及ぶと思い込むんだ。
抜かせない。押し返せ。隙を見逃すな。
これくらいアールスの連撃に比べたら!
「くぅ!?」
カレイドさんの脇がわずかに開く。
まだだ。こんな僅かな隙間僕じゃ突けない。
だけどここが攻め時だ。振り子の揺れを大きくするようにカレイドさんの防御を崩す!
左切り上げ、左薙ぎ、逆袈裟斬り。
防がれ避けられるが少しずつカレイドさんの動きが大きくなっていく。
「そこっ!」
大きく崩れた所で唐竹割を行う。
兜をかぶった頭からは外れたが右肩に当たった。
「一本!」
僕側の旗が三本上がる。
「やった!」
「やられたー! 治療士さんめっちゃ強いやん! 守るの上手すぎ!」
カレイドさんは悔しがりながら右肩を抑えている。魔法で回復できても治るまでは痛いからな。
「僕は一応盾役ですからね」
「治療士が何で盾役やってんねん!」
「僕にも守りたいものがありますからね」
思えば治療士になれたのだってレナスさんを助けたいと言う想いからだ。
助け守る。それが出来る治療士と盾役。うん、矛盾はしていないな。
五勝三敗で最後の試合までやってきた。
三敗目はまた僕とは相性の悪い相手に敗れた。
勝負自体は拮抗していて五対四まで僕有利で行けたのだけど最後の最後で二点取られてしまった。
ミサさんと沢山訓練したんだけれどそれでも足りなかったか。
三敗を維持できれば入賞できる可能性が出来るのだけど、最後の相手は剣豪と言われているザラークさんだ。果たして僕に勝てるだろうか?
アールスの話では齢八十を超えているらしいが茶色い髪は白髪は少なく、顔は皴も多いが背筋はまっすぐ伸びていて精悍な顔つきをしている。とてもだが八十を超えているようには見えない。
体つきは……鎧の上からだと細くはない程度としか分からない。
「試合開始!」
合図と共に剣を構える。
相手は正眼の構えを取っている。
さすがに分かりやすい隙なんてない。
僕が動いても誘われる気配はない。
カレイドさんの時の様に僕から仕掛ける?
……どこを狙っても厳しそうだ。何となく威圧感のような物を感じる。それの所為でどこに打ち込んでも逆に討ち取られるような錯覚さえ感じる。
少し本気を出したアールス相手に感じる物と同じだ。
アイネだったらこういう時思いっきり動き回るんだろうな。僕には出来ないけど。
ミサさんだったらとりあえず殴り掛かるだろうな。僕だと体格や筋力が足りないけど。
アールスだったらどうするだろう?
まず間合いを詰めてからの連撃かな。その際どこから狙う? 剣か? いや、アールス目線で空いてる所を狙うだろうな。
そうなるとあんまり参考にならないな。僕じゃアールスと同じ物を見ることは出来ない。
……持久戦にするか。
相手にどれぐらい体力があるかは分からないけど守りが主体の僕には持久戦しか勝機を見いだせない。
とにかく感覚を研ぎ澄ませて相手の一挙手一投足を感じ取るんだ。
魔力感知を使えば不可能じゃない。
相手のマナに気づかれないように接続してマナ越しに相手の動きを感じ取る。
マナの量が多ければ多いほどバレにくいが……残念ながらそこまで多くないか。
後は相手の感知力次第か。けど多分気づいていない。気づけば身体に動きはなくともマナに動きがある。
その動きは抗いにくい反射みたいなものだから魔力感知が鋭ければ鋭いほど逃れられないけど……反射すらも制御していたらさすがに手に負えない。
そして、にらみ合いが続く。
時折構えを変えて攻撃を誘うが相手は正眼の構えのまま動かない。
観察されているのか攻撃を待っているのか。とにかくこの根競べは長引きそうだ。