表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/530

武術大会弓術の部

 九月の終わり、ついに武術大会の日がやって来た。

 大会自体は二日間行われるがこれは部門で行われる日が違うだけで日を跨いで試合を行われるわけじゃない。

 僕の出る剣術は二日目でカナデさんの出る弓術は一日目に行われる。

 そんな訳で一日目はカナデさんの応援だ。

 弓使いの固有能力を授かっていた事を知ったカナデさんは少しは自信をつけた様子だったがそれでも僕達が応援に行く事にいい顔はしなかった。

 やはりまだ自信はないようだ。それに応援による重圧感もあるのかもしれない。


 ただそれに気づいたとしても応援に行く事は止めようとはならなかった。

 行くかどうか迷わなかったわけじゃないがナス達が応援に行きたいと言い出したのでカナデさんが折れる形で応援しに行く事になったのだ。

 カナデさんもナス達に応援されるのならまんざらでもない様だ。ナス達可愛いから仕方ないよね。

 問題は魔獣達を連れて見学できるかどうかだ。

 とくにナスは角があるので混んでいたら危ない。一応人を傷つけない為の防具は用意してあるけど、それでも許可が出るかどうか。

 しかし行く前から悩んでいても仕方ない。


 ナス達を連れ、総出で大会の行われる会場へ向かう。

 会場は商業区にある未開発の空き地で行われる。

 雨が降っていたら学校に併設されている体育館で行われる事になっていたが今日は雲一つない快晴だ。

 会場につくとまず先に目についたのがとても大きな土の壁だった。

 国を囲う壁くらいの高さがありそうだ。


「ききっ?」


 ゲイルがあれはなんだ? と問う。けど僕にも分からないので同じ疑問を口にする。


「あれなんだろうね」

「あれはですね~、矢を受け止める為の壁です~」

「ああ、なるほど。ゲイルも分かった?」

「きー」

「しかし、あんなに高くする必要あるんでしょうか?」

「競技の内容によっては必要なのかもしれませんね~」

「どんな事するんだろう。カナデさんは調べたんですか?」

「はい~。様々な障害がある的当てと聞いていますねぇ。きっと高い所に的があるのかもしれません~」

「なるほど」


 疑問も晴れた所で受付へ向かいカナデさんが登録を済ませる。

 ついでに魔獣達の見学についても聞いてみると運営側としては特に規制する事はない様だ。

 もしも問題が起こった場合も運営としては特に関与する気はない様だ。あくまでもお客様同士で問題を解決してほしいんだとか。

 ……ゆるいなぁ。


 どうもアーク王国といいグライオンといい自己責任論が強く事故や犯罪を抑制しようという意識が薄いような気がする。

 子供達が集められる学校の寮なんかは分かりやすい例だ。休みの人か小さい子供達だけで自由に遊びに出かけられるからな。

 都市に来たばかりで遊びに出かけてそのまま夜遅くまで見回りの兵士さんや友達の親御さんに連れてこられるまで帰ってこないなんてことはよくある事だ。

 僕が在籍していた六年間よく行方不明になる子が出ないなと思った物だ。

 ちなみにグランエルが都市になってから都市内で行方不明者を出した事が無いらしい。


 話を戻そう。とりあえず魔獣達を連れて見学する事には問題ない事が分かった。

 会場を見渡してみるとまだ人はまばらで見えやすい位置を陣取るなら今の内か。


「今の内に見えやすい所を確保しよう。ナス、人にぶつからないように気を付けながら行こうね」

「ぴー」


 人を避け見学場と試合場を分けている柵の所までやって来た。

 柵は高くアイネの首元の高さまである。


「ナス、見づらくない?」

「ぴー」


 ナスが柵の隙間に頭を突っ込もうとしたので当然止める。


「危ないからやめなさい」

「ぴぃ……」


 仕方なくと言った様子でナスは柵から顔を離す。

 そして次に後足二本だけで立ち上がり前足を柵に乗せる。


「……その恰好ずっと続けるの辛くない?」

「ぴぃぴー」

「無理しないでね。苦しくなったらすぐにやめるんだよ?」

「ぴー」


 一応ナス自身もスキルの共有のお陰でヒールを使えるんだよな。

 疲れが取れる訳じゃないけど身体に悪い影響が出るという事はない……はずだ。


「ナスってでっかいよねー」


 アイネが二本足で立っているナスの背中に抱き着く。

 立ったナスは角と耳を抜いても僕とほぼ同じ高さだ。

 四本足の時は背中も曲がっていて僕と同じ位には見えないが二本足になると背筋が伸びるので大きく見える。


「ふへへー、もふもふだー」

「くっ」


 僕もやりたい。


 ……そんな風に見学場で始まるのを待っていると突然打楽器になる音が響いた。

 音のした方を見てみるときれいな服を着た偉そうな人がお供を連れて試合場を歩いてきた。

 そして、試合場の真ん中当たりで一度立ち止まり見学場を一度見渡した後長い話が始まり、それが終わるとようやく開会の宣言が行われる。

 自己紹介では都市長と言っていたが、都市長の声は良く響いた。

 道具のようなものは何も持っていなかったので恐らく魔法で拡声していたんだろう。

 一体どんな方法で拡声させたのだろう。魔法陣は展開されていなかったが服に魔法陣が編み込まれている可能性がある。

 それとも普通に生活魔法だろうか?

 もしも魔法陣だとしたら拡声に使える神の文字って何があるだろう。

 そんな事ばかり考えてしまって都市長の話は全く頭に残っていない。


 まぁとにかくそんな訳で対に武術大会弓術の部が始まったわけなのだが、参加者は十人だけと意外と少なかった。

 まぁ新興都市のお祭りの大会と考えたらこんなものか。

 いくら都市主催だとしてもまだまだ権威が足りなくて人が集まらなさそうだしな。


 それで肝心の試合の方だが、勝負の方法は簡単で一人ずつ制限時間と制限本数内に得点を多く入手した人が優勝の障害物有りの的当てだ。

 丸い的には複数の円が大小どころか場所もばらばらに書かれており当てた場所によってもらえる得点が違う様だ。

 的の真ん中に当てればいいというものじゃないちょっとひねったやり方をしてる。


 そして肝心の障害物だが、壁やら木やら人の形をした看板があちこちに配置されており的を完全に隠しはしないがすごく狙い難そうな所に配置されている。

 一応見えている部分は高得点になっているようだ。

 さらに木からぶら下げられた的や精霊が的を持ってふらふらと飛び回っている。

 なんというか、全体的にガンシューティングゲームでありそうな配置の仕方だ。

 きっと人型の看板は当てたら減点なんだろうな。


 選手はこれらの的を決められた線よりも越えてはいけないが越えなければ自由に移動していいようだ。

 選手は時間が無いから皆忙しそうに左右に動き回り的を射ていく。

 そんな選手達の中でカナデさんだけは様子が違った。

 カナデさんはほとんど真ん中から動く事なく的を射ていた。

 そして、カナデさんが放つ不自然に左右に曲がる矢の軌道。不正をしてるんじゃないかと一瞬疑ってしまったがアールスに確認すると風を利用してるんだという回答が返って来た。

 ああいう事が魔法なしで出来るのが固有能力持ちなのだ。

 その証拠にカナデさんの妙技に歓声は出ても不正を疑う声は一つも上がらない。

 それにカナデさんの後に同じような事をする選手がいた。

 どうやら固有能力持ちは後半に出番を回されていたようでどの人もカナデさんと同じような事をしている。

 ただ、同じような動きをする中でカナデさんは動きが大きいように見受けられた。

 動きを少なくするのが技術的に難しかったのかただ単に無理のない範疇で動いて点を稼ぐことに専念していたのか。

 なんにしてもカナデさんは健闘した。

 優勝こそ逃したものの三位と入賞する事は出来た。

安全意識が低いのは身体が頑丈なのとヒールがある所為です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >アイネが二本足で立っているナスの背中に抱き着く。 >立ったナスは角と耳を抜いても僕とほぼ同じ高さだ。  世界最大の家猫、メインクーンと同じ位のサイズのウサギ……。  いや、ウサギなんだか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ