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嫌われる勇気

「馬車もう大丈夫みたいだね」

「うん! 今まで不安に思ってたのか何だったのか分かんない位平気!」

「あははっ、それは良かった。じゃあ次は村に向かう幌馬車だね」

「そっちにも乗るの?」

「念の為にね」


 都市の外の街道を走る幌馬車の方が揺れるのでそっちの方が重要なのだが緊張させない為にも何でもない風に言っておいた方がいいだろう。

 でもこの様子ならそんな心配も杞憂かも知れないな。


「とはいえそれもまた次の機会かな。今日の所は演奏会を楽しもう」

「うん!」


 受付で入場券を買い劇場内へ入った。




 そして、演奏会を楽しんで劇場を出ると時間はお昼の丁度いい時間だ。


「お昼は何を食べようか」

「ナギ達がいない間に新しく出来たお店行く? イグニティ料理屋さん」

「イグニティ料理か……」


 お母さんの故郷の料理だけど……。


「そう、イグニティ料理」

「見た目はとてもきれいに飾り付けられて食べるのがもったいなくなるという評判だよね」

「そう、そして味は微妙だという事で有名なあのイグニティ料理」

「一口目で疑問に思い二口目で首を傾げ味を確かめる為に口に運んでいるうちにいつの間にか無くなっているって評判だよね」

「そう、料理屋で食べると本当に本国でもこんな味なのかと確かめたくなる事で有名なあのイグニティ料理」

「言葉に出来ない微妙さでまだ食べた事のない人の興味を引かせて一度は食べてみたくさせると評判だよね」

「そう、それがイグニティ料理」

「ネタ切れ?」

「うん」

「じゃあ行こうか」

「えっ、本当に行くの?」

「僕食べた事ないんだよね。お母さんはイグニティ料理作れなかったし」

「小母さんの料理美味しかったもんね」

「それが判断基準なのもどうかと思うけど。僕もイグニティ料理一度食べてみたかったんだよね」

「やっぱ気になる?」

「噂が本当かどうか確かめたい」

「分かる」


 イグニティ料理……不味いという評判は聞いた事が無いが一体どんな味なのか……僕気になります。




「微妙だったね」

「微妙だった」


 美味しいようなそうでもないような、不味いという事は無いのだけど味と味が複雑に絡まり合いなんだかよく分からない味になってしまっていた。


「でもまた食べたくなる味だったね」

「不思議だよね」


 よく分からないからこそ味を確かめたくなる味だった。


「本場だとどんな味なんだろうね」

「……やめよう。イグニティに行きたくなる」

「料理の事は置いといても一度は行ってみたいね」

「そうだねぇ。今の旅が終わって機会があったらかなぁ」

「う~ん。そうだよねぇ。出来れば今の皆と一緒に行きたいんだけど」

「さすがに遠回り過ぎるからな……向こうから帰って来た時に行くか聞いてみようか。解散する前の最後の旅行って事で」

「うん! しよしよ」

「んふふ。まぁそれはそれとしてこれからどうする? 帰るにはまだ早い時間な気もするけど」

「武術大会について調べてみない? 組合……じゃなくても武具屋さんとかなら告知貼ってあるだろうし話も聞けるかも」

「武術大会についてか……悪いね。アールスは出ないのに情報収集に付き合ってもらうなんて」

「いいのいいの。ナギの為になるんだったらいくらでも手伝うから」

「あははっ、ありがとう」

「えへへ」


 どこまでやれるか、今から緊張してくるな。




 調査も終わり家に帰るとレナスさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさい。馬車どうでしたか?」

「平気だった!」

「それは良かったですね。演奏会にも行ったんですよね? そちらの方はどうでしたか?」

「楽しめたよ……って言っても僕音楽よく分からないんだけどね」

「実は私もー」


 家の中に入り居間にある椅子に座り一息をつく。


「ふふっ、お二人共仲がよろしい事で。それでその後はどうしたんですか?」

「イグニティ料理のお店に行ったんだ」

「イグニティ料理……ですか? あの?」

「そう、あのイグニティ料理」

「もう乗らないからね?」

「えー」

「何の話ですか?」

「いや、こっちの話だよ」

「そうですか? あっ、お茶飲みますか? 淹れてきますよ」

「飲むー」

「お願い出来るかな?」

「はい。じゃあ淹れてきますね」


 レナスさんは台所に行き、ポットとお茶用のカップを乗せたお盆を持って戻って来た。

 お盆を机の上に置きレナスさんも椅子に座る。


「それでイグニティ料理の噂は……本当でしたか?」

「本当だった」

「美味しいんだかそうでもないんだか本当に微妙だった」

「そ、そうでしたか。どんな味だったんですか?」

「……」

「私にはあの味を表現する事はあまりにも難しい」

「どんな味なんですか」

「食べたらわかる……と言いたいけど食べてもよく分からないんだよね」

「えぇ……」

「ただ不味い訳じゃないんだ。分からないだけなんだ……どう形容したらいいのか分からないだけなんだよ」

「よくは分かりませんが……その後はどこへ?」

「その後は武術大会の……ああ、馬車の御者さんに武術大会がある事を聞いたんだけど、僕はそれに出ようと思ってるんだ。

 それで武術大会の情報を得ようと思って武具屋に行ったんだ」

「武具屋……服屋とかもっとお洒落な所に行けばよろしいのに……」


 何故か呆れたような非難する様な難しい顔をするレナスさん。


「ナギの為だからね。ちゃんと情報集めて対策立てないと」


 アールスがそう言うと眉間にしわを寄せていたレナスさんの表情が和らいだ。


「ふふっ、そういう事ですか。それで何か情報は得られたのですか?」


 そう言いながらレナスさんは椅子から立ち上がってカップを配り、そしてポットを手に取りカップに中身を注いでくれる。


「試合の方法がナギが出る剣の試合の場合は木剣一本で戦う事だって」

「盾は無しですか? そうなると少々ナギさんに不利な気が」

「まぁ闘技場みたいに本格的にやる訳じゃないみたいだからね。急所への攻撃もないから木剣一本でも大丈夫じゃないかな。

 後お祭りだからそこまで強い人も出ないみたいだし何とかなると思うよ」

「アールスの言う強くないっていうのはあんまり当てにならないんだよな……この都市一番の剣の使い手は出るって言うし」

「ザラークさんの事でしょ? 私仕事で会って知ってるけどあの人歳で力は大分衰えてるからナギでも行けるって」

「本当かなぁ」

「行ける行ける。もっと自分を信じて。私やアイネちゃんと模擬試合してる自分を信じて」

「ミサさんは入らないんですか?」

「ミサさんは剣の技術という点では正直……ナギ未満だから」

「足や盾を使った小汚い小技はあるけどあの人基本力業だからね。まぁそれが怖いんだけど」


 当てる技術はあるからなおの事怖い。


「ちなみにナギさんはミサさんのような人と当たったら勝てるんですか?」

「武器が同じ木剣を使ってて技量がミサさんと同じ位なら多分勝てるよ」

「ナギは片手でも私の剣をさばけるくらいには鍛えてるもんね」


 さばけると言っても二刀流の内の片手だけだ。二本で攻められたり一本を両手持ちされたら僕が両手持ちをしてもすぐに押し負けてしまう。


「さすがに本気のアールスだったら盾を使わないと無理だけどね」

「アールスさんは武術大会には出るのですか?」

「出ないよ。ナギの腕試しが目的だし」

「だから出られても困るね。そういえばカナデさんもこの大会に出るつもりなんじゃないかって疑ってるんだけどレナスさんは何か知ってる?」

「いえ、私は何も……でも確かに最近よく訓練していますね」

「うん。だから確かめてみようかなって。今カナデさんいる?」

「魔獣達の所にいますよ」

「そっか。じゃあ皆を散歩に連れて行く時に聞いてみようかな」

「しかし、カナデさんが大会ですか。あまりそういうのに出るような人ではないと思いましたが」

「まぁただの憶測だからね」

「優勝したら賞品とか出るんですか?」

「賞金金貨五枚と高級肉一ヵ月分だって」

「一ヵ月……ああ、十一月の大雪対策用の……」

「九月に開催だからどうだろうね」

「アイネさんは出るのでしょうか?」

「未成年は出られないから」

「それは……悔しがるでしょうね」

「うん」

「まぁそんな訳で情報を集めてたんだけど……レナスちゃん」

「はい。なんですか?」

「レナスちゃんも最近忙しそうだよね」

「……武術大会には出ませんよ?」

「じゃあやっぱりお勉強してるの?」

「はい。考古学を中心に歴史や地理学、建築学、服飾関係……色々と勉強していますね」


 色々と手を伸ばしてるんだな。服飾とか考古学に関係あるのか? 服飾の歴史なら歴史学の範疇の様にも思えるが……歴史学者の勉強もしているという事か?


「そっかぁ……忙しそうだね。手伝える事とかない?」

「特には無いですね。勉強用の資料とか論文は図書館からは持ち出せないのでいちいち図書館まで足を延ばさないといけないのが面倒ですが」

「ああ、図書館の往復に時間がかかって余計に忙しいのか」

「はい。まとまった休暇を貰ったのでこの空き期間に勉強しようと思いまして。

 ここからだと遠い上に勉強中は待たせることになるのでむしろお手伝いさせてしまうと逆に心苦しいと言うか……」

「そういう事なら仕方ないか……息抜きが必要な時はいつでも付き合うよ。だから根を詰め過ぎないようにね」

「あまり気を張っているつもりはありませんが、その時はお願いします」


 僕の心配も無用な物だったかな。思えばこの前の花畑に誘われたのも息抜きの為だったのかもしれない。


「お勉強頑張って。私レナスちゃんの夢応援してるから」

「ありがとうございます」


 一緒にいられる時間が減るのは寂しいけれど邪魔をしないようにしなくちゃな。

 

「それよりナギさん」

「ん?」

「まとめ役として仲間が何をしているのか把握していないと言うのはいかがなものかと」

「うっ」

「ちゃんと言わなかった私にも非はありますが……カナデさんの事もよく分かってないようですし」

「うぅ……忙しそうにしてるのは分かるんだけど聞き出していい物なのか分からなくて……」

「ナギさん。遠慮する事ではないと思います。まとめ役として皆が何をしているか大体の所は把握しておかないと問題が起こった時に手遅れになるという事も考えられます」

「そうだね……そうだよね。もっとみんなの事把握しておかなくちゃ駄目だよね……」

「すみません……ナギさんの負担を増やすような事を言ってしまって」

「いや、ありがたい忠告だよ」


 個々人の時間の使い方については立ち入らないようにしていたけど。なるほど確かにレナスさんの言う通りまとめ役として皆がどこにいるのか、どこによく出かけているのかくらいは把握しておかないと用事があったりした時に探したい時に支障が出るか。

 こういう私的な事を聞き出すと言うのは勇気がいるな。

 もしかしたら下手な聞き方や逆鱗に触れるような事をしてしまって相手に嫌われてしまうかもしれない。

 けど、きっと嫌われてでも把握しておいた方がいいんだ。

 嫌われる勇気……今更だが僕は嫌われる勇気を持つ必要があるんだ。

 女の子の私生活を暴く勇気を持たないといけないんだ!

 ……変態過ぎて吐きそう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イグニティ料理の味 [一言]  強烈過ぎる料理だ……。  絶妙に微妙な味だなんて。 >女の子の私生活を暴く勇気を持たないといけないんだ!  と言っても、その日の動きとか、気になる…
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