花畑
いきなりですが謝罪いたします。
前話を一話飛ばして投稿してしまいました。
割り込み投稿にて投稿済みですのでお手数ですが前々話からお読みください。
アイネが一人宿暮らしを初めて一週間が経った。
前の依頼から一ヶ月間は自由行動という休みの期間を設けたので僕はこの一週間は魔獣達との触れ合いを中心にのんびりとさせて貰った。
もちろん自由行動なので働いてもいい。ミサさんなんかは学者さんから指名依頼が来ていたりする。
役所にも行って高階位魔法の資格について質問をしたが残念な事に僕の懸念が当たった。
どうやらライアー、アナライズの両方を使うようだ。
後高階位の魔法はその危険性から友好同盟を結んでいるフソウをはじめとした数ヶ国以外には渡航禁止となっており、さらにピュアルミナの使い手である僕の場合は国からの重要度が上がりすぎる為三ヶ国同盟以外の国への出国制限が厳しくなるらしい。
三ヶ国同盟内で活動するだけなら問題は無いそうだが僕にとっては問題大ありだ。
そんな訳で新しい魔法については断念するしかなかった。
日課の訓練を終えた後治療士の仕事が舞い込んでいないか組合まで行き確認し、何もなかったらその日一日の予定を考える。
特に今日は予定はないので適当に仕事を見繕ってやってもいいのだけど……。
「ナギさんナギさん」
組合の受付から少し離れた所でこれからどうするか悩ませていると暇だからとついてきたレナスさんが僕の名前を連呼してきた。
「どうしたの?」
「今日お暇でしたらアールスさんと一緒に都市の外へ出かけませんか?」
「アールス? そういえば今日休みだって言ってたっけ」
「はい。実はですね、先ほど小耳の挟んだ今の時期とてもきれいお花が咲いている花畑があるらしいんです」
「花畑か。アースもつれていけるかな。場所はどこにあるの?」
「それは今から調べます」
「ああ……」
レナスさんの知り合いに花畑の事を話すような人がいたか疑問だったが……これは通りすがりに聞いただけだな。
「カナデさんも来れるかな」
「どうでしょう。家を出る前は今日は弓の修練に当てると言っていましたが」
「一応誘うだけ誘ってみようか。アイネは……」
「もうお仕事に出ているのでは?」
「どうだろう。休みにしてるかもしれないし一応宿の方に尋ねてみるよ」
「……では私は場所を確かめてから訓練所でカナデさんを探し誘ってから家に戻りますね」
「うん。じゃあ僕はアイネの泊まってる宿に行って、その後家に戻るね。先に着いた方がアールスを誘うという事で」
「はい。お昼ご飯も私が出来合いの物をお店で買っておきますね」
「そう? じゃあ頼むよ」
レナスさんと一旦別れアイネの泊まっている宿に向かう。
アイネの泊まっている宿は石造りだが平屋で部屋の数は多いが食堂やお風呂は無く本当に泊まるのに必要な部屋しかない宿だ。
従業員はおらず受付も管理人である中年程の夫婦が交代で店番しているだけだ。
一応今店番をしている旦那さんに声をかけてからアイネの部屋に向かう。
扉の前に立ちコンコンと叩いてみるが反応がない。アイネは朝起きるのが早いから寝ているという事は無いだろう。
アイネはいないようなので宿を出てとりあえず家に戻る。
家にはレナスさんよりも僕の方が早く戻ったようだ。アールスは誘うと喜んで頷いてくれた。
そして、アールスと一緒に魔獣達の所へ行きお出かけの準備をする。
今日はヘレンもおめかししよう。
ヘレン用に帯と帽子を注文し購入していたのだけど着せる機会が無いかったからな。
帯は様々な種類の図形を多彩で鮮やかな色で組み合わせたグライオン西方に昔から伝わる伝統工芸品だ。
帽子の方は赤と黄色の毛糸で編んだもので角と耳以外を覆う帽子だ。
ヘレンに着せている間にレナスさんが帰って来た。残念な事にカナデさんは行かない様だ。
お出かけの準備を終えて魔獣達を連れて都市の外へ。
レナスさんが調べた情報によるとどうやら目的の花畑はガルデの南東方向にあるらしく、とても広い範囲に散発して密集している為見つけるのはさほど苦労はしないだろうという事だ。
ただ注意する事があって毒があり食べたら腹痛を起こすのでくれぐれも食べたりしないようにとの事だ。
ガルデを出て小一時間も歩けば花畑が見えてきた。
地面むき出しの荒野に近い土地でそれは目立って見える。
近づいてみると花の香りだろうか? 甘いようなそうでもないようないい匂いの様なそこまででもないような不思議な香りがしてきた。
「あっ、この匂い殺虫剤の匂いだ」
「えっ、そうなの?」
「うん。花壇の殺虫剤散布の仕事で使った事あるんだ」
「へぇ……毒があるって言ってたけどそれ使ってるのかな」
アースが速足になり花畑に近づいて行き、ヘレンもアースの後をついていく。
「本当あの二匹って仲がいいよね」
「仲がいいと言うか……ヘレンがアースに懐いてる感じだね」
「同じくらいの大きさだもんね。寄り添える相手がいて嬉しいんだろうなぁ。アース自身はどう思ってるの?」
「悪くは思ってないみたいだよ。アース自身も思う所があるのかもね。ただあんまりべたつかれるのは嫌みたいだけど」
「ふぅん。ナギはべたつかれるの大丈夫そうだよね」
「え? そう?」
「えっ、小さい子とかよく相手にしてたって聞いてるけど平気じゃないの?」
「小さい子供ならともかく僕と同じ位の大きさ以上の相手だったら嫌だけど。ほら、ミサさんとか」
「ええ? じゃあ私とか迷惑?」
「アールスはもう家族みたいなものだからな……あんまり気にならないかな」
「アイネちゃんは?」
「嫌じゃないけど成人過ぎてもああだったらちょっと叱るかな」
「……レナスちゃんは?」
「レナスさんも慣れちゃったかな。というかアールスが引っ越して……ああ、いや、病気の後か。あの後から一緒に寝る様になったからね」
思えばあの時から僕とレナスさんの関係は変わったように思える。
それまでは普通の友達だったけれどあの時からレナスさんが僕に対して心を開いたと言うべきか親愛の情を向けるようになったと言うべきか。
「確か膝枕もしてあげてたんだよね」
「アールスと合流……というか成人したからかな。時々ね」
「レナスちゃんにしてもらった事もあるとか」
「そ、それはレナスさんがどうしてもって言うから……一回だけね?」
「私もしてあげようか?」
「いや、別にしてくれなくていいけど」
「私じゃ嬉しくない?」
「嬉しいと言ったらちょっと嘘になるかな。なんというか、お母さんとか姉妹にしてもらう感じがしてね……」
「むー。じゃあ私にされて嬉しい事って何?」
「そりゃもちろんこうして話す事だよ」
「それだけ?」
「アールスが居なかったら出来ないじゃないか」
「他になんかないの?」
「他にと言われても……」
「私が役に立ちそうな事とか」
「家事に訓練の相手に魔獣達のお世話の手伝いとかいつも助けてくれてるよね? 全部嬉しいよ? あとトラファルガーの鱗装備も感謝してもしきれない位だし……」
「……その装備ちゃんと役に立ってる?」
「今の所役目を果たす機会がないからそういう意味じゃ立ってないけど備えあれば憂いなしというし」
「ならいいけどさ……私ナギ達の事守りたいから一緒について来てるのに壁の外には行けないから悔しいんだよね」
「アールス……」
「アイネちゃんもね、一緒なんだよ。……ううん私よりもっと強く役に立ちたいと思ってるよ」
アイネはアールスの様にトラファルガーの装備を手に入れているわけじゃないからな。アールスの貢献度を考えて比較すると引け目を感じていてもおかしくなさそうだ。
「アイネちゃん今のままじゃナギ達の重荷になってるんじゃないかって悩んでたよ。
一人暮らしして一人で考えたいってうのも自分が何を出来るかを考えて見つけたいからなんじゃないか」
「そうか……そんな事を悩んでいたのか」
「だから帰ってきたら優しい言葉をかけてあげてね?」
「そうだね。そうするよ」




