打ち上げ
前回の投稿で一つ飛ばして投稿してしまいました。
この話はその投稿してしまった話です。ですのでまだご覧になっていない方はお手数ですが前話からお読みください。
そして此度の失敗心よりお詫び申し上げます。
「無事に帰って来れた事と目標に達した事を祝って乾杯」
ガルデに帰って来た二日後、僕達は全員でちょっとお高いお店に打ち上げとしてやってきた。
だが今はまだお昼。乾杯の盃の中身はお酒ではない。
というか高級食事処ですらない。高級甘味処だ。
どこで打ち上げをしようかという話になった時にミサさんが強く甘い物を食べたいと主張しカナデさんもそれに乗っかった事で甘味処に来る事になったのだ。
高級と言っても首都にあるような超高級なお店じゃない。新進気鋭の地方都市らしいちょっとお高いお洒落で若い女の子に大人気なお店だ。
「甘ーい甘ーいお菓子美味しいデース」
「この二ヶ月間全く食べられませんでしたからなおさら美味しいですね~」
二人とも満足そうで何よりだ。
追加報酬のお陰で共有資金が予定金額まで溜まって僕も満足です。
「ねぇねぇ、向こうでの事話してよ」
「あっ、あたしも聞きたい」
「あははっ、いいよ」
話す事はそれなりにある。
まず最初に行きで僕がウェイリィさんと一緒に馬車に乗っていた事を話した。
話している途中で思い出した事があり、アールスの馬車の苦手はどうなったのかを確認するとまだ苦手意識があるそうだ。
やっぱり今度馬車に乗ってもらう必要があるな。
次に駐留地での話だが最初に暮らしの方を話すとレナスさんから補足が入った。
僕の暮らしていた天幕に何度か夜這い目的の不審人物が近寄っていたようだ。
夜中に酔っ払いがウェイリィさんに絡んできた事があったがあれ以降もあったのか。
「レナスさん達は……その、絡まれたりとか大丈夫だったの?」
「幸い私やミサさんは男性からは魅力がないようなので大丈夫でしたがカナデさんを含めて他の方たちはよく声をかけられていたようです」
「えー? レナスちゃんもミサさんもきれいなのに変なのー。ナギもそう思うよね?」
「まぁ見る目が無いのは同意するけどね。何事も無くてよかったよ」
「二人ともせーれーじゅつしだからじゃない? せーれーじゅつしってモテないってよくゆーじゃん」
「……あー……」
「そうなの? 私それ初めて聞いたけど」
「まぁ結婚率は低いと言うのは聞いた事がありますね」
アールスは知らない様だが当のレナスさんは気にした様子もなく涼し気に言った。
「なんでなんで?」
「アールス。考えても見てごらんよ。精霊術士の傍にはいつも精霊がいるんだよ?」
「むー?」
アールスは頭をひねって考えているようだが中々答えが出ない。
中々答えを出さないアールスに業を煮やしたのか口の中で咀嚼していた物を飲み込んでからアイネが代わりに応えた。
「だからさー、せーれーが居たら二人きりになれないじゃん。ちゅーするときとか見られてるかもしんないんだよ? いやじゃない?」
「あっ、あー……そっか。あー……そういう事もあるんだね。確かに……ずっと一緒だと恥ずかしいよね」
アールスは頬を赤く染め視線を気まずそうに逸らした。
「ヴェレスだとそう言う問題ってなさそうですよね」
「ないですネー。たしかに夜の営みとか見られたくない事もありますガ、そういうのは精霊の方がきちんと気を使ってくれるそうですからネ。
あっ、レナスちゃん達の方はそこら辺の事ちゃんと言い含めていますカ?」
「必要ないと思って特にはしていませんね」
「安心しなさい。私がきちんと分かってるし二人に言い含めてあるから」
サラサは本当に頼りになるな。
しかし、精霊術士は結婚率が低いか……考えてみれば確かにそうなっていてもおかしくないのか。
はたから見てると術士と精霊の距離感って近いから入り込む隙が見つからないんだよな。
あと泣かせたり傷つけたりしたら精霊に何されるか分からないという恐怖もあるかもしれない。
レナスさんはそこの所どう考えているんだろうか?
「レナスねーちゃんとミサねーちゃんがモテないでカナデねーちゃんがモテてたってのは分かったけどさ、ナギねーちゃんはどーだったの?」
「夜はともかく日中なら話しかけられる事は多かったよ。もちろん休憩中の人達だけだったみたいだけど」
「全員治療士の資格を持つ神官との対話を求めるから止めるに止めにくいんですよね……」
「ふーん。それでどれくらい話が神官としての話になったの?」
「平均一割」
「すくなっ」
「むー。せめて八割ぐらいは真面目に話してほしいなー」
信者としてはミサさんと同じくらい真面目なアールスは結果にご立腹の様だ。
「僕もそうだけど皆別に神官って訳でもなかったし……」
「そういえばコチラでは神官になる条件とかあるのですカ?」
「教会に所属してるかどうかで特には条件は無いですよ。その教会に所属するのも就職する時と同じようにすればいいですし。
ヴェレスでは何か特別な事をするんですか?」
「ヴェレスではしませんガ、条件がある国が多いですネ。主に教養だとか神聖魔法をどれぐらい使えるか調べる為に試験を行うようですガ」
「やっぱむこーでもこーいのまほー使えるほーが偉いの?」
「そのはずですネ。私は下っ端なので上層部の状況には詳しくないのですガ。
もっとも第七階位まで行っている人はいないと思いますガ」
「向こうの人はマナが少ないらしいもんねー」
「それでねーちゃんは寄って来た男達をどーしたの? 話しただけ?」
「そうだよ。護衛がいたおかげか変に突っかかってくる人もいなかったしね」
「ふーん。喧嘩とかは無かったんだ」
「冒険者同士のいさかいはあったみたいだけどね。護衛皆のお陰で平和な日々だったよ」
「ねぇねぇ遺跡はどうだったの?」
「それはレナスさんに話してもらおうか」
「分かりました。とりあえず最初に概要から入りましょうか」
そう言ってレナスさんはあの遺跡について簡単にまとめたものを話してくれた。
僕達は北の遺跡と呼んでいるが実際あの遺跡にはまだ正式な名前は無い。
それと言うのも名前を今まで見つけられず仮の名前として北の遺跡と呼ばれ続けているからだ。
一応仮名を付けられるらしいがそれはあくまでも仮名。北の遺跡と言った方が通じやすいので北の遺跡で定着しているのだ。
だけどこれに関しては古いヴェレス語だという事が分かったので研究は進みいずれ国の名前が分かるだろう。
「遺跡の状態は氷雪の中に閉じ込められていた所為か千年前の遺跡にしては保存状態がとてもよかったですね」
「でももー溶かしちゃってるんでしょ? 見つかってからもう何年も経ってるし魔物とかもいて壊れそーだよね」
「それは壁の向こう側にある遺跡全てに言える課題ですね。魔物はわざわざ遺跡は壊しませんが壊れる事を気にする事もないので……」
「北の遺跡はどういう風に対処してるの?」
「調査の終わっていない場所の氷は溶かさないようにしているだけですね」
「いっその事全部もー一度凍らせちゃえばいいのに」
「それだと次に調査する時に面倒なんじゃない?」
「来年にはまたどこか壊れているかもしれませんね。
街並みは雑多というか精錬されていないというか、道が入り組んでいて完全な状態で残っていたらすぐに迷子になってしまいそうでした。
恐らくは無計画に建物を建てていたのでしょうね。けど見た事のない建築様式で興味深かったですね」
「新しー地下室がアロエのお陰で見つかったんでしょ? そこはどーだったの?」
「まだ見ただけで詳しい調査はしていない上凍っていたので何とも言えませんが魔法陣が壁に描かれていた事以外はごくごく普通の地下室でしたよ」
「地下で見つかけた魔法陣ってどんな効果があるの?」
「結界に土の壁を固めて強化する効果を付与したものと僕の知らない神の文字を使った魔法陣だね。効果は……分からないよ」
「そっかぁ」
さすがに誰が聞いてるか分からないこの場で正直に言う訳にもいかない。
「地下室に空いた穴の調査も予想外に横道が多くて来年に持ち越されてしまいました」
「結局どこまで繋がってるかは分からなかったんだっけ」
「はい。中級の魔物もいたので深入りは危険だと判断したようです」
暗く穴だらけの道に横穴。ライチーがいたから僕達がついて行った時は楽だったけど、何の準備もない場合は確かに危険だろう。
「どんな魔物がいたの?」
「私達が見たのはゴーマだけですね」
「ゴーマかぁ。剣だと魔法を纏わせないとやりにくい相手だよね」
「狭い上に魔素も濃いだろーからまほーも使いにくそーだよね」
「戦った人はこん棒で簡単に倒してたんだけどああいうの見ると僕もこん棒用意しといた方がいいのかなって思ったよ」
「いいんじゃない? ナギは別に剣にこだわる必要ないと思うし」
「でもちょっとげんてー的すぎない? こんぼーがゆーこーな相手ってそんないないじゃん。
少ないのに合わせなくてもナギねーちゃんならまほー剣でたいおー出来ると思うけどな」
「それはそうなんだけどね」
アイネの言う通り必要ないか? いや、でも備えあればなんたらかんたらというし……。
「ティタンも出たんだよね? グランエルにいるとティタンと戦う事もあるかもしれないし武器よりも八階位と九階位の魔法使えるようにした方がいいと思うな」
「八と九か……それ覚えると組合の階位も上級にしないと面倒なんだよね」
八と九の魔法はボムとボムを広範囲化させたエクスプロージョンという爆破魔法だ。
魔法陣の構築が簡単かつ少ないマナで大きな被害を持たらす非常に強力かつとても危険な魔法だ。
第十階位の魔法については戦略魔法なので軍に所属していないと名前すら教えてくれない代物だ。
習得及び神の文字を知るのに資格が必要でまず信用がないと資格を得るための試験……を受ける前段階の講習すら受けられない。
講習を受ける為の信用というのが冒険者の場合は最低限第七階位なっている事が条件なのだ。
「ピュアルミナ使えるナギなら信用の方は問題ないと思うんだけど」
「ないかな?」
「ナギはさ、教会関係者とあんまり関わりないから実感ないかもしれないけど高位の神聖魔法使えるだけでそれだけ神様の御心を理解するために勉強して励んだって思われるから十分信用されるんだよ?」
「僕の場合はお慈悲で授かったからあんまり実感わかないなぁ。でもアールスの言う意味じゃアールスの方がよっぽど信用ありそうだけど」
「どういう経緯で授かったかなんて他人からじゃ分からないし関係ないよ」
「まぁそりゃそうか……」
「んー。ワタシからすれば神様から高位の神聖魔法を授かっただけでも十分信用に値すると思うのですガ。悪い人が高位の神聖魔法を使えるというのは聞いた事がありまセン」
「そういう意見もあるよね。高位の神聖魔法は神様に認められた証だって言ってる人は沢山いるよ」
「あー、まぁたしかにそうだ。使う事を許してもらえたっていう感じだけどそれもまた認められたともいえるし」
「でもその資格に合格すると面倒な制限がかかるとききますが」
「たしか神の文字の秘匿義務があってきちんと履行されてるか調べられるんじゃなかったっけ?」
「えっ、調べ方によっては僕ちょっとまずいんだけど」
「あー……そっか。多分虚偽を照らす光で調べるんだと思うけど解析使われる可能性もあるかも」
「ボムとエクスプロージョンがどういう魔法なのかは知りませんガ、危険な魔法なら国外への渡航にも制限がかかったりするのではないですカ?」
「それは聞いた事ないけど精霊が大丈夫なんだから大丈夫じゃないかなぁ」
「考えてみれば精霊は自由に移動できるってすごいですよね。言い方は悪いですけど暴走したら災害そのものなのに」
「縛る方法が無いですからネ。契約者の方をどうにかしようとしたらそれはそれで暴走する子もいますシ。
うかつに制限を付けられないんですヨ」
精霊ヤバすぎるでしょ。
「うーん。一度役所に行って制限について聞いてみるよ。問題なさそうだったら受けてみようかな」