自立
前回の投稿で一つ飛ばして投稿してしまいました。
この話はその分の話です。
心よりお詫び申し上げます。
遺跡での調査が終わり半月をかけてようやくガルデに帰って来た。
家に帰り倉庫へ向かう途中アールスが家から出てきて早速抱き着いてきた。
「お帰り!」
「ただ今アールス。連絡あんまりなかったけど二人とも元気にしてた?」
「うん! レナスちゃんもお帰り!」
僕から離れすぐにレナスさんに抱き着き、続いてミサさんに抱き着く。
カナデさんはヒビキを抱いていたのでヒビキに挨拶をしてからヒビキを潰さないように優しくカナデさんに抱き着く。
他の魔獣達にも抱き着いて挨拶を終えた所でやっと落ち着いて話せる。
「アイネはお仕事からまだ帰ってきてないのかな」
「ううん。今日はいるよ。お風呂掃除してる所。皆は夕飯食べられるよね?」
「もちろん」
他の皆も頷き肯定する。
「じゃあすぐに用意してくる。皆はゆっくりしてていいからね」
「うん。楽しみにしてるよ」
アールスと一旦別かれ倉庫に入りまず自分の荷物を置いてからアースとヘレンの荷下ろしを始める。
ヘレンがいてくれるのでアースの負担は以前よりも減っただろうけど手間は増えた。
二匹分の荷紐を解かないといけないからだ。でもそれも僕が魔獣達のマナを使いソリッド・ウォールを自由に使えるようになったからかなり楽になっている。
ヘレンの液体操作は水の処分が面倒なので使う事は無い。
ただソリッド・ウォールは透明なので僕以外は乗る時は気を付けないといけないが……まぁ紐を解いて荷物を降ろすのは僕がやればいいだけだ。
皆には降ろした荷物を運んでもらうだけでいい。
荷物を降ろし整頓した後は皆疲れて床に座り込んでしまった。
かくいう僕もナスの背中に頭と腕を乗せて休憩する。
旅の途中でも毎日きちんと洗ってたし体調もいいからかふわもこですんごく気持ちいい。
そんな風にまったりしているとアイネが夕飯が出来たと呼びに来た。
「ご飯の仕度終わったよー」
「遅くなったけどただいま」
「うん。お帰り」
ただいまの挨拶をするとアイネは応えてくれるが何だが様子がおかしい。
アールスほどではないにしろアイネも喜びを表に出して迎えてくれる子で抱き着いて来てもおかしくない。
なのに今日のアイネは表情は落ち着いていて大人しい。具合が悪いようには見えないが……。
「アイネ、いつもと様子が違うけど何かあった?」
「んー? 別に何にもないよ。それより早く来ないとご飯冷めちゃうよ」
やっぱりおかしい。何か隠しているような感じがするけど……多分悪い事を隠している感じではない。何か覚悟を決めたような、そんな雰囲気を感じる。
とりあえず今は様子を見よう。
そして、夕食が終わり食休みの時間にアイネが真剣な顔つきで話しかけてきた。
「ねーちゃん。話があるの」
「何かな?」
意外と早い行動に心の準備が出来ていなかったから少し緊張してきた。
「あたしは寝込んでいた時に思い知りました。あたしはねーちゃんに甘えていると」
「ほうほう」
月のもので体調を崩した時の事か。アールスはほとんど何も教えてくれなかったけど去年と同じような事があった事だけは教えてくれた。
「なのであたし一人で宿暮らしをして自立したいと思います」
「……」
ついに来たか……アイネの反抗期。
「もちろん皆との旅を諦める訳じゃなくてね、ちょっとねーちゃんと離れて色々考えたいってゆーか……」
「ふむ……どこに泊まるとかは決めてあるの?」
「あたしの稼ぎとか考えて組合近くの安宿がいいかなって思ってるんだけど……知り合いも多いし」
「お金に余裕はあるの?」
「一ヵ月くらいなら……だいじょーぶだと思う」
「ふぅん……」
アイネ位の年頃の子が組合から仕事を貰いながら一人で暮らすのは別に珍しくない。
だからここで一人暮らしする事を認めても一応問題は無い。
でも保護者としてどうなんだろう。ここで素直に一人暮らしさせて問題が起こったどうする? 僕はアイネのお母さんにどう詫びればいいんだ。
けど間違いを恐れて手元に置いておく、というのもどうなんだろう。それはアイネの成長を妨げる事にならないか?
考え方を変えてみよう。アイネに一人暮らしさせる程信用はあるか?
答えはもちろん"ある"だ。
アイネは進んで問題を起こすような子じゃない。ちょっと甘えたがりな所はあるが年齢的に許容範囲内だろう。
舌足らずなのか喋りも幼く聞こえるが戦ってる時以外は実はアイネは常識的な女の子だ。
だからこそアイネ以外の要素で不安が残るか。ガルデは別に治安が悪い訳じゃないし安宿で問題が起こったという話も聞かない。
でもアイネは同じ年齢の子と比べると背が低いから組みやすしと見られるかもしれないか。
「……あっ、も、もちろんあたしの料理当番の日には戻ってくるつもりだよ」
互いの沈黙に耐えられなくなったのかアイネがそんな事を言い出した。
当番の問題もあるか。
「そうだね……当番の事も考えたら僕だけで答えを出していい問題でもないか」
「うっ……」
アイネが気まずそうに縮こまってしまった。
僕だけを説得してから皆を説得する必要ができたからか?
静かに聞いていた皆に声をかけ意見を求める。
「とりあえず僕はアイネには一旦当番を外れてもらおうと思ってる。理由は後で説明するけど皆の意見を聞きたい」
まず最初に口を開いたのはレナスさんだった。
「中途半端に関わられるよりは外すか宿暮らしを諦めて貰った方がいいと思います。なので出ていくというのならナギさんに賛成です」
「私はアイネちゃんの安全確認の為にも料理当番の時だけでもいいから戻ってくる理由を作っておいた方がいいと思うな」
「そうですねぇ。何事もないのが一番ですけどぉ、病気とかで寝込んじゃった時とか異変が察知しやすくするべきだと思いますね~」
アールスとカナデさんが継続を望む。
「ワタシはレナスちゃんと同じく賛成ですネ。アイネちゃんは自身の成長を望んでいるみたいですからなるべくワタシ達に頼りにくい状況にした方がいいと思いマース」
「……うん。先に言われちゃったけど僕もミサさんと同じ理由です」
「おや? 気が合いますネー」
「アイネ、当番はやらなくていいっていう意見が多い。その上でアイネに決めて欲しい。どっちにする?」
どっちにしろ僕達に迷惑をかける事には変わりない。
「あたしは……やる方がいいかなって」
「それでアイネは本当にいいの?」
「え?」
「皆に迷惑をかけたくないとか負担を増やしたくないという気持ちが入ってない?
そんな事考えなくていい。今は自分が何をしたいのか、何をするべきなのかを余計な思考は捨ててはっきりと考えるべきなんだと思う。
だからもし少しでも僕達に遠慮しているというのならもう一度考えてみて欲しい。」
「……あ、あたしは……」
「うん」
「……」
アイネは目を閉じ沈黙する。そして、しばらくすると目を開き真っ直ぐ僕を見て来た。
「決めた。あたしやっぱり当番はきちんとやる。遠慮とかじゃなくてあたしがやりたい事だもん」
「うん。分かった。とりあえず当番は変えなくていいね。で、一人暮らしか……反対する理由があんまりないんだよね」
「えっ、今ので認めて貰えたんじゃないの?」
「今のは当番をどうするかを決めただけ。アイネに一人暮らしさせるか決めるのは保護者でありまとめ役である僕に決定権があるんだよ」
だからこそこの決定に関しては他の皆の意見を必要としない。
「ちなみに反対するりゆーってなに?」
「犯罪に巻き込まれないか心配だから」
「それいったら一人暮らしなんて一生できないじゃん!」
「そうなんだよねー……でもアイネ身体が小さいから特に心配なんだよ」
「むー」
誰かから背中を押されたらすんなりと送り出せるんだけど、僕に決定権があるって言った手前そんな事期待できるはずもない。
「うん……でもまぁ……いいよ。一人で暮らしてみな」
今羽ばたこうとしている鳥を邪魔するわけにも行くまい。
アイネのお母さんだって僕がいるからという理由だけで旅立ちを許したわけでもなし、きっと成長した姿を望んでいるはずだ。
「ただ雪が降ってくる前に戻ってきなよ。どうせ宿は閉められるだろうけどさ」
「分かってるよ」
雪が止んだ後は……まぁその時考えればいいか。