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閑話 駐留地にて

 千年の時を雪と氷の中で姿を保っていた遺跡……発見されてから調査の為に雪は除かれ氷は溶かされた。

 けれど秋から冬にかけての全てを覆う雪がまた遺跡を白面に埋め尽くす。

 保存という形なら雪も氷も除かない方が良かったのかもしれません。

 氷という支えが無くなった事により崩れた建物は多く、原形を留めてない物も多い。

 それでも国がこの遺跡の調査を止めないのは探している物があるから。

 一般的には鉄などの武具に加工できる金属や金銀財宝を探しているという事になっている。

 大地に染みる毒への対処法なども分かれば大発見となり国全体に利益をもたらすでしょう。

 だけど、ここまでの大規模でお金をかけた調査をするというのは少し違和感を感じてしまう。

 かけている費用に対して利益が釣り合っていないように感じてしまう。


 そもそも中型以上の魔物が出没する危険性のある遠方の遺跡を何年もかけて調査するというのがおかしいように思える。

 何かこの遺跡どうしても調査しなければいけない理由があるのでしょうか?

 ここまでする価値のある物……というと私には一つしか思い浮かびません。

 それは失われた神の文字。


 千年前の魔物の大進攻の際に多くの人や知識層が亡くなった為いくつかの神の文字が現代まで伝えられず忘れられてしまったという学説があります。

 実際遺跡で発見された神の文字もあったらしいのです。

 魔物の大進攻以前は魔法陣は地面や壁、石板や布類に書くのが主流だったので運よく魔法陣が書かれた物が残っていて見つける事が出来たようです。

 さらに学説の補足として東方の国々の人達は魔法は精霊に頼っている所があり、さらに神の文字を理解できるのは一部の知識層だけなので時代とともに忘れられた神の文字があるかもしれないと考えられています。

 なのでこの広大な遺跡に私達の知らない神の文字が残っていると考えてもおかしくはないはずです。


 私も独自に遺跡を調べて新たな神の文字を見つける……というのは難しいです。

 調査が出来ないとかではなく、現存する神の文字は全てが一般公開されているわけではないので未発見かどうか区別がつきません。

 そうなると苦労して探し出した神の文字が発見済みかも知れないという事になります。

 三ヶ国同盟に現存する神の文字を全て確認するには第十階位の魔法を扱える資格を取るか考古学、神学、魔法研究等の研究職に就かないといけないのです。

 第十階位の魔法の資格を取っておけばよかったかもしれません。

 ああ、でもたしか第十階位の資格を取ると面倒な制限がかかるという噂もありましたか。

 取らない方が正解でしょうか?


 しかし、考えてみればナギさんが知らない神の文字なら何を見つけても有益かもしれません。

 何を現しどんな魔法に使うか分からなくてもシエル様にお伺いできればどのような意味を持つ文字かを教えてもらい使用できるようになるかもしれません。

 神の文字を見つけナギさんのお役に立てれたらどれほど喜ばしい事か。

 けれどさすがにそう簡単に見つかるものではありません。

 この遺跡は立ち入りが禁止されている場所も多く自分で自由に調べることは出来ず、精霊達に頼むしかありません。

 精霊にしたって墨のような凹凸のない物で書かれている物は明るい場所じゃないと判別できません。ライチーさんに頼むにしてもさすがに当てもなく探させるというのも……。

 私自身も調べられる範囲を血眼になって調べていますが特にめぼしいものはなし。

 一度調査されているから当然でしょう。

 そして、結局神の文字を見つけられずに今日もまた一日が終わる。


 遺跡から駐留地にあるナギさんの泊まっている天幕へ行く途中で魔獣達の相手をしてもらっていたもう一人の治療士であるウェイリィさんとその護衛達と出会った。


「あっ、ナギさんお帰りなさい。何事もありませんでしたか?」

「なかったですよ。ナス達の相手ありがとうございます」

「いえいえ、この子達の相手が出来て私も助かってます」


 同じ天幕の中でナギさんと二人きりでいる年上の女性。しかも行きも帰りも狭い箱馬車の中で二人……。

 まぁ一応ナギさんは身体が女性ですし? 変な事は起きないと思いますが……。


「レナス。睨みつけるのは良くないわよ」


 サラサさんに言われて自分がウェイリィさんを睨んでいた事に気が付いた。

 相手の護衛の冒険者達の顔色を探ってみても私が睨んでいた事に気づいた人はいなさそう。

 多分精霊達が私の周囲でふらふらしていて気を取られていたのでしょう。


「嫉妬するのはいいけれど場所と立場を考えなさい」

「……はい」


 嫉妬。そうだ。私は同じ天幕でナギさんと二人きりで暮らしているウェイリィさんに嫉妬しているんだ。

 私だってナギさんと仲良く同じ天幕の中で過ごしたいのに!

 ナギさんは少し話をした後ウェイリィさんと別れ休むために自分の天幕へ戻る。

 天幕へ戻るとナギさんはお茶を勧めてくれました。

 茶葉を節約するために一人に付き一日一回しか飲めないお茶でナギさんとの楽しいお茶会。くふふっ。

 これはあの人よりも私達を選んでくれたという事。

 ……二人きりならもっと嬉しいのですが。

 いえ、いけません。ナギさんにはアールスさんがいます。わた、私が密室で二人きりでお茶を飲む事を望むなんてそんな破廉恥な真似は出来ません。


「レナスさんずっと目をつぶってどうしましたぁ? 具合でも悪いんですかぁ?」

「いえ、少し考え事をしていただけです」

「そうですかぁ? 少しつらそうに見えたんですけどぉ……」

「大丈夫です。心配させてしまってすみません」

「んふふ。今ここでならピュアルミナは使い放題だから具合が悪くなったらすぐに言ってね」


 ナギさんがそう言って茶葉を入れた湯沸かしを火にかける。


「ココでは自由に使ってイイのですカ?」

「はい。今みたいな治療士として雇われている場合は自由に使っていいんですよ。

 もっとも普通はパーフェクトヒールもピュアルミナも消費が激しいのでそうそう気軽には使わないんですが……」

「今のナギさんなら気軽に使えるという事ですね?」

「うん。今のピュアルミナでも今の消費量は三百近くだけどアースのお陰で何十回と使えるよ」

「ワタシでは一回しか使えない量だと言うのに羨ましい限りデース」

「そう言えばアリスさん自身のマナの量って今どれぐらいなんですかぁ?」

「二千ちょいです」

「たしか昔ナスさんのマナの量を調べた時は二千七百位でしたね。まだ追いつけませんか」

「がっつりやればもっと増えてたかもしれないけどそういう訳にもいかなかったからね」


 旅をしていると生活に必要な水や火を生み出す為にマナを空にする訳にはいかない。

 それにナギさんは治療士なのでいつ依頼が来てもいいようにマナに余裕を持たせておく必要がある。

 一応マナポーションは蓄えてあるので空に出来ない状況というのは無いのですが、マナポーションでの一度の回復量には限界があるので複数の傷病人が出た場合は対応できないのでナギさんは日中はマナを蓄えているのです。

 それにマナポーションを入れる容れ物はかさ張る上に数が増えると重量が馬鹿になりません。旅をする上ではあまり作り置きは出来ないのです。

 一応家を借りてからは寝る前にはマナを空にしてマナの量を増やすようにはしていたようですがそれだけでは伸びが悪いのでしょう。


 話をしつつお茶を飲み干すとそこでお茶会はお開きとなり、後片付けを済ませた後ナギさんはお世話の為魔獣達の元へ行くと言いだしました。

 駐留地内なら護衛は必要無いのですがカナデさんとミサさんはナギさんについて行く事になりました。

 私も行こうと思ったのですけれどライチーさんがいい加減構ってほしいと言うので自分の天幕に戻り絵本を読み聞かせる事に。

 ディアナさんも口にはしませんが構ってほしそうに私にまとわりついてくる。

 頼られるというのも悪くありませんが、でもサラサさんだけは特に何もしてこないのは少し寂しい……。




 夜になると護衛の仕事は本格化する。

 むしろ私達護衛にとって皆が寝静まる夜が本番と言っていい。

 ナギさんが眠っている天幕のそばで待機しているとディアナさんが姿を現した。


「レナス、怪しい動きをしてるのが一つ。ナギのいる天幕の方に近づいている」

「分かりました。ミサさん行きましょう」

「いいですヨー」


  ナギさんは私達が守らなくては。

 ディアナさんの案内に従い怪しい動きをしている人物の所へ行く。


「そこのあなた。この先へ何の用ですか」

「へっ?」

「レナスちゃん。そんな怖い顔しちゃダメですヨ。ごめんなさいネー。一昨日治療士の方に酔っ払って夜這いかけてきた人が出て以来コノ子ちょっと神経質になってるんデース」

「い、いや俺は別に夜這いなんて考えてへんで!」

「ならここで何をしているんですか? 精霊が貴方が不審な動きをしていたと聞いていますよ」

「不審……? あ、ああ……ちゃうねん。ちょい酔い覚まししてただけや!」

「酔い覚ましですカ? チョット失礼」


 ミサさん男性に近づいていく。


「ふんふん。確かにお酒の匂いしますネー」


 酔った勢いでナギさんの所へ行こうとしたという可能性もありますが……今ここで騒いでも良い事は無いでしょう。


「なるほど。そういう事でしたら気を付けて帰ってください。ただ先日の事もあり私達は警備を厳重にしています。用がないのなら不用意に治療士様のいる天幕に近づかぬようお願いします」

「あ、ああ。分かった。分かったからその……精霊達ひっこめてくれへん?」


 酔ってはいても精霊達がいる意味は理解できているようですね。

 本当に酔い覚ましでここまで来たか怪しい物です。

 男性を見送り天幕のそばへ戻り警備を再開する。


「アリスちゃんとウェイリィさんドッチが目的でしょうネ?」

「どちらにしろ守るのが私の仕事です。ミサさんもさっきのは夜這いが目的だと?」

「真っ直ぐコッチに向かってきていたのでショウ? それと酔ってるにしてはチョット意識がはっきりしすぎてましたネ」

「まったく……夜に女性の部屋に入って口説き落とそうだなんて破廉恥です!」

「声大きいですヨ。中のお二人が起きてしまいマス」

「むぅ……すみません」

「気持ちはわかりますけどネ。アリスちゃんに怖い思いはさせたくありまセン」

「ええ、ですから私達が守らないと……」

「ですガ、注意するのはアリスちゃんだけではありまセン。私達も狙われる対象だという事は忘れてはいけまセン。特にカナデちゃんはモテるようですカラ」

「カナデさん昼間よく男性に声をかけられますからね……」


 カナデさんは人当たりがいいので狙われやすい。

 昔から男性から誘いを受けやすかったからかあしらい方が上手なので今の所問題になっていませんが。

 なんにせよ問題が起こったらナギさんが嘆き苦しんでしまうでしょう。ミサさんの言う通り私自身も気を付けないといけませんね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  不審者のあとを精霊の誰かに頼んでつけてもらって、不審者のぼやきを聞くとか本性を掴むとか、誰かの指示かとか。  原因を探ってやりたい。  んで探り当てて、その原因をいつでも潰せる様にしてお…
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