生きる道
護衛の依頼を終えてカナデさんと一緒に組合で報酬を貰った後カナデさんにテラス席のある茶店でお茶を飲もうと誘われた。
テラス席のある茶店を選んだのはナス達への配慮だろう。
店員さんにも魔獣達がテラス席にいてもいいかを確認を取ってから僕はゲイルを、カナデさんはヒビキを抱えて席に付き注文表を見る。
「ここのお菓子美味しいんですよ~」
「ここなら僕もレナスさんとアールスとの三人で来た時ありますよ。確かにここの出すお菓子って美味しいですよね」
「パパイに似たお菓子もあるんですよね~」
「ああ、たしかグニルっていう焼き菓子ですね。レナスさんが食べてましたよ。パパイとは食感が違うって言ってたな」
「食感もですが中身も違っていてこちらでは主にひき肉を使っていて香辛料で味を変えているみたいですねぇ」
「みたいですね。ん~、僕もグニル食べようかな」
お肉が食べたい気分だ。
「後腸詰も頼もうかな」
「うふふ~、おやつにお肉を食べるって男の子っぽいですね~」
「え? そ、そうですか?」
「私はやっぱり甘い物がいいですね~。何にしましょうか~」
男の子っぽいか……。
注文を終え、一息ついた所で質問してみた。
「カナデさん。男らしいって何でしょう」
「え? う~ん……やはり身体が大きいと男らしいですかねぇ?」
「身体か……行動とかはどうでしょう。嘘をつかないとか大切な人を守り抜くとか……」
「それって人として当然の事じゃないですかぁ? 男性とか女性とか関係ないと思いますけど~」
「そ、そうですね」
「あっ、男性はお肉が好きな人多いですよね~。それに女性は甘い物好きな人多いですけど男性は甘い物を食べる人って少ないですよね~。後可愛い物にはあまり興味を示さないですかねぇ」
「可愛いもの……」
も、もしかして魔獣達を可愛がってるから男らしくないのか僕は!?
「カナデさん……僕はどうしたら男らしくなれますか……?」
「ふぇ!? え、え~とぉ……」
「あっ! ナギとカナデさんだ!」
カナデさんの答えを聞く前にアールスの声が聞こえて来た。
声のした方を向くとそこには確かにアールスがいた。
「ナス達もいるんだ。みんなおかえりー」
「ただいま。アールスは今日の仕事終わったの?」
「うん。今から家に帰るとこだったの。ご一緒してもいーい?」
「もちろん」
「当然じゃないですか~」
「わーい。私も何かたのもーっと」
アールスは注文表を手に取り椅子に座る。
楽しそうに注文表を見るアールスに質問をしてみた。
「アールスは男らしさってどういう事だと思う?」
「んー? かっこつけようとするところじゃない?」
「ばっさりといったね」
「私の同級生だった男の子は皆女の子の前でかっこつけてたよ?」
「あ~、ありますねぇ。六年生になったらなんだかみんな急に私達女の子に自分の事を誇示してきましたね~」
たしかに覚えがあるな。でもたしか女の子の方も男の子の事を意識し始めていたはずだ。よく両方から気になる子の情報を教えて欲しいと相談されてたっけ。
「女の子の方もきれいになってたよね」
「やはり結婚相手は早く見つけたいものですからね~」
「そうみたいですね。特に職人や商家の子供達は修行で異性を見つける時間が減ってしまいますからね」
「その点私達は気楽だよね。目的を達成するまで結婚相手探すわけにはいかないし」
「お待ちいたしました。ご注文の品です」
店員さんが注文した物を持ってきてくれた。品物を並べ終えるのを待ってアールスが追加の注文をする。
まず最初に木の実を盛り付けたお皿から一つ取り味を確かめる。味が濃すぎない事を確認できたのでもう一つ取ってゲイルに与えた。カナデさんも同じ事をヒビキにしている。
「ききっ」
「きゅー」
「気に入った? よかった」
「木の実は魔獣達の分なの?」
「そうだよ」
「じゃあナス、ナスへは私からあげよー」
「ぴー」
アールスも木の実を取りナスにあげた。
そして二つ三つとナスに木の実をあげた後首をかしげながら聞いてきた。
「それでどうしていきなり男らしさなんて聞いてきたの?」
「アリスさんは男らしくなりたいと悩んでるみたいなんですよぉ」
「あー……なんか気にしてるっぽかったもんね」
「いや、男らしくなりたいって言うのはその通りなんだけど……皆さ、僕に対してちょっと危機感薄すぎない? 僕心は男だって言ったよね? 性対象は女性だって言ったよね?」
「それで襲っちゃうかもしれないから危機感を持たせるために男らしくなりたいって事?」
「襲わないけどね。けど警戒されなかったらされなかったで悔しいんだよ。男として」
「めんどくさっ」
「アールスは男性に全く女性扱いされなかったら悔しくない?」
「分からないでもないけどさ……でも実際変な事をしてこないナギを警戒しようにもできないよね? カナデさん」
「ううん……そうですねぇ。それだけ信頼しているという事なんですけどぉ……どうしましょうね~」
「カナデさん達が何もしなくても僕が男らしくなってカナデさん達に僕と一緒に寝るのはちょっと恥ずかしいぐらいの気持ちを抱かせたいんだ」
「めんどくさっ。そもそもそうやっていつまでも同じ問題に囚われてるのって男らしくないんじゃない?」
「うっ」
「もうすっぱり諦めなよナギ。男らしくしようと頑張ってるナギもかわいくて好きだけどいつまでも悩んでたって全然改善できてないじゃん」
「かわいく? え? 全然? でも前にかっこよくなったって」
「それと男らしさは別。確かに遺跡から帰って来てから表情とか凛々しくはなったけどさ、男らしさで悩む今のナギはちょっと情けないよ?
まぁでもナギの男らしさを追い求めてるとこすごくかわいいと思うけどね。
けど私達に男らしさを聞かれても正直困るよ。だってナギかわいいもん」
「えぇ……」
「昔の自分を捨てられないのは分かる。けどね、今の自分の事ももっと好きになろうよ。それでもっとかわいくなろう?」
「最後がおかしい」
いい事を言ってるような気はするが結論がどうしてそうなるのかが理解できない。
「私ね、ナギはもっとかわいくなれると思うんだ」
「別にかわいくなりたい訳じゃ……」
「ご注文の品を持ってまいりましたー」
先ほどとは違う店員さんがアールスの注文した料理を持ってきた。
話に夢中になっていて自分の分を食べるのを忘れていたな。無意識の内にゲイルに木の実をあげていたみたいだけれど。
とりあえず自分の分の料理に手を付ける。
うん。ちょっと冷めちゃってるけどおいしい。
「実際さ、かわいくなるとかは横に置いといてもう諦めちゃったら? ナギらしく生きた方が楽だと思うよ?」
「えぇ……うー……」
たしかにもう潮時なのかもしれない。こうしてアールスにはっきりと否定された以上は諦めて自分らしく生きた方が前向きなのかもしれない。
男らしさなんて考えなくていい。確かにそうした方が楽だし皆に迷惑をかけなくて済むのだろう。でも、そう思えればいいのになぜ思えないのだろう?
やはり男としての自尊心が邪魔しているのか?
思い返してみれば転生前は男らしさなんて考えてなかったはずだ。
女性になったから男らしさを出さないといけなくなったからか?
それに、男らしくなるのを諦めようとしても何かが手放すのを邪魔しているような感覚がする。それは一体何なんだろうか……。