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相談

 役所から帰ったその日の夕食後、まだ皆が食卓で食休みしている時間に僕は依頼の件についての相談を持ち掛けた。

 問題なのはどういう編成で依頼を受けるかだ。

 依頼を受けた時にアイネが一人にならないようにどういう風に分けるかを考えようと切り出した所で待ったがかかった。


「あたし一人でもだいじょーぶなんですけど」


 待ったをかけたのはアイネだった。

 アイネは機嫌悪そうに眉を寄せている。


「いや、でも一人だと大変じゃない?」

「へーきだし。りょーりくらいあたし一人でも出来るし洗濯やそーじだって出来るし」

「う、うーん……でもなぁ」

「子ども扱いしないで!」

「そういう訳じゃないんだけど……」

「ですがアイネちゃんはまだ十三歳でショウ? 一ヵ月半一人にするのはワタシはさすがに心配ですネ」

「そうでしょうか? アイネさんは今まで私達に甘えていた訳でもアイネさんを甘やかしていた訳でもないのですから一人でも十分やれると思いますが」

「そうですねぇ~。十三歳なら一人で暮らしていてもおかしくはないですね~」

「エッ、そうなのですカ? 三ヶ国同盟ではそれが普通なのですカ?」

「ミサさんの住んでた所じゃ違うんですか?」

「東の国々では十三歳はさすがにまだ子供と見られて親元からまだ離れないのが一般的ですヨ。離れたとしても奉公として出され保護者がきちんと面倒を見るのが普通ですネ」

「へぇ~。じゃあ今までアイネちゃんが一緒に旅してたのに疑問に思わなかったのはナギが保護者だったからですか?」

「そうデス。加えてカナデちゃんがいたのも大きいですネ」

「まぁ一人で暮らすって言ってもそれは冒険者になってあちこちを回ってるような子達の事で親元で暮らし子の方が多いのは確かですよ」

「それで問題は起きないのですカ? 誘拐されたりとか」

「起こってますよ。もめ事とか傷害事件とか。でもそれに関しては大人と同列に使われていて子供だからという理由で問題にはなっていないんですよ」


 きっと転秤神ザースバイル様の神聖魔法の影響だろうな。

 ザースバイル様の特殊神聖魔法は事実をあばく為の魔法が主ですぐに事実関係すら明らかにしてしまうのだ。

 ザースバイル様の神聖魔法のおかげで犯罪を犯してもすぐにばれる為滅多に犯罪を行う人はいない。

 ……まぁそこまで考えずに犯罪を実行しようとする人がいるのは確かなのだけど。

 すぐに事件が解決する為か軽犯罪に関しては本当に刑罰が緩い。軽犯罪ならどれだけ重かろうと対価となる金額を払うか刑務所という名の農場や工房での強制労働までだ。

 逆に重要犯罪となると……民には公にされていない刑罰がほとんどでその内容は噂で流れてくる程度だ。


「それに誘拐や行方不明になるのって本当に少ないんです。

 行方不明の理由もほとんどの理由は獣に襲われて殺された、とか故郷から遠い所で村に定住を決めて関係者には知らせていない、というものばかりですし。

 誘拐にしたって達成するのは難しいんですよ。子供だって魔法が使えるのですんなりと誘拐するのは難しいですし、した後も隠し通すのはまず無理ですね。

 後、治安がいいからか事件の数を大人と比べても少ないので問題視されにくいんですよ」

「ナギの前世の世界でも十三歳って親元に暮らしてるのが普通なんだっけ?」

「そうだよ。だから僕も三ヶ国同盟のこの常識を知った時は驚いたよ」

「ナギさんはその常識の違いからアイネさんを一人にするのを嫌がっているのですか?」

「違うよ。僕が心配なのはこの家に(・・・・)アイネを一人にする事だよ。この家の中で何かあって動けなくなった時一人だと誰も助けられないからね」


 この家の敷地は大きい倉庫が二つあり、幌馬車が二つ止められるほど庭が大きい。

 さらに家は通気性が悪いので家の中でどんなに叫んでも近所に声は届かないだろう。


「アー、つまりアリスちゃんは何かあって身動きが取れない時助けを呼べる環境なら一人にしてもいいという事ですネ?」

「そうです。一応アイネはまだ未成年なのでそれ位は考えておかないといけないかなって。

 精霊達はさすがに今回は全員連れて行った方がいいと思うんですよね。また前回みたいなことがあるかもしれないし」

「となると宿に泊まって貰う?」

「その時は共有資金からじゃなくて僕からお金を出すよ。この家に一人にさせたくないって言うのは僕の我儘みたいなものだし」

「ちょっと! 宿のお金位あたし一人でも払えるよ!」

「私はナギさんの意見には反対しておきます。わざわざ余分なお金を払ってまでアイネさんを一人にする必要はないと思います。それが誰のお金だろうと」

「そうですねぇ。お金は大事にした方がいいと思いますよ~」

「私はナギの意見に賛成かな? 何かあるか分からないんだしお金をかけてもいいと思うな」

「ワタシはそれでも反対ですネ。精霊も付けずに子供を一人にするというのは抵抗がありマス」

「だからあたしは子供じゃないって!」

「とりあえず纏めようか。レナスさんとカナデさんはアイネを一人にしてもいいけど宿に泊まらせることには反対ですね?」

「はい」

「はい~」

「僕とミサさんはアイネを一人にはしたくない。けど僕は宿に泊まらせるなら一人にしてもいい。ミサさんは絶対に一人にはさせたくない」

「そうデス」

「アールスは……宿に泊まらせるのは賛成……だけどそもそもアールスはアイネを一人にする事に関してはどう思ってるの?」

「賛成っていうよりもどっちでもいいかな? どっちでも大丈夫だと思うし。一人にするならナギの言う通り宿屋に泊まってもらった方がいいかなって思うだけ」

「なるほど。中立だね。それでアイネはどうなの?」

「あたし一人でもだいじょーぶだよ。別にねーちゃん達が残りたいなら別に拘んないけど皆の負担にはなりたくないよ」

「んー。中立って所かな? 宿に泊まる事については? お金の問題は別にしてこの家に残るか宿に泊まるかアイネ自身の意見を聞きたいんだ」

「……宿の方が楽だと思う」

「んふふっ、そうだね。

 さて、アイネが一人で残る事に関しては賛成二つに反対二つ。中立も二つで見事に分かれたね。もっとも反対の一つは条件付きでの賛成なんだけど。

 でもまぁとりあえず編成をどうするかを決めるためにまずはアールスがどうしたいか聞こうか。治療士の依頼を受ける?」

「んー……色々考えたけど私は残ろうかなって思ってる。

 残りたい理由は早く階位上げたいから。ただ共有資金が余裕なさそうだったら依頼を受けてもいいかなって思ってるよ」

「レナスさん。共有資金は今どんな状況かな」

「全く問題ありません。あらかじめ計算していた予想の金額よりも多いくらいです。この前の遺跡の依頼の報酬のお陰ですね」

「なら依頼の事は気にしなくて大丈夫だよ」

「じゃあ私は残ろうかな。ちょっと遺跡にも興味はあるんだけど……さすがに今はね……。

 やっぱアイネちゃんを一人にするのも気が引けるっていうか……皆に心置きなく依頼に集中してもらうには残った方がいいかなって」

「……となるとさっきの問題は解決だね。先に聞いとけばよかったな……」

「さ、さっきの話がなかったら迷ってたから無駄じゃなかったよ?」

「それならいいけど……後は僕か。治療士の依頼を受けるか受けないか。僕はどっちでもいいんだけど皆は何か意見ある?」

「私はナギさんと連携取れないというのは心細く感じます。やはりナギさんの能力は得難い物ですから」

「そうですねぇ。ヒビキさん達と一杯練習してきましたしそろそろ皆で練習の成果を試してみたいですねぇ。あっ、ヒビキちゃん達は連れて行くんですかぁ?」

「連れていこうと思います。何度も募集があるので四月がまだ寒かったら暖かくなってから依頼を受ければいいだけですし」

「ワタシは受けてもいいと思いますヨ。やはり治療士の貰える報酬は魅力的デス。お金は多いに越した事はないのですカラ」

「共有資金の管理を預かっている身としてはミサさんの意見にも同意したいんですけど、安全第一を考えると……」

「お金の事を考えると何回も治療士の依頼を受けるのがいいんだろうけど」

「それは依頼を役所で受け直さないといけないのですか?」

「一回の依頼が交代までってなってるからそうだとおもうよ」

「さすがに何回も遺跡まで行くのは負担が多くないですか?」

「だねぇ。後例え交渉で依頼の期間を伸ばす事が出来たとしてもさすがにずっとあっちって言うのは勘弁したいな」

「そもそも遺跡の依頼を受けたいのは私の意思ですから皆さんの負担になるような事はしたくないです」

「……話を戻そうか。僕が治療士の依頼を受けるか受けないか。まぁここはお金を取ろうか。ナスとゲイルは意思の疎通できるから僕がいなくても皆と連携は取れるだろうし。二匹がいるだけでも大分違うんじゃないかな?」

「それならその訓練もしておきたいですネ」

「そうですね~」

「あっ、そう言えば同じ時期に依頼を受ける事で進めてたけど別に大丈夫だよね?」

「当然です。ナギさんとわざわざ分かれる理由がありません」

「寂しい事言わないでください~」

「あはは……すみません。じゃあこれで決定でいいかな?」


 確認をすると皆頷いてくれた。

事件は大体ザースバイル信者が解決してくれます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >事件は大体ザースバイル信者が解決してくれます Σ( ゜Д゜) 作者からの、唐突なネタバレ
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