変化
新年あけましておめでとうございます
今年も『僕はこの世界で生きる』をよろしくお願いします
死角から放たれたアイネの槍の突きを楯で防ぎ右手の剣で反撃する。
アイネは僕の攻撃を避けるのだがその動きがきちんと見えている。……見えているのだけど身体が思うように動かせない。
アイネがそうなるように仕掛けている所為だ。
見えているのに。そう来ると分かっているのに。僕はアイネの思い通りにしか動けていない。
アイネの予想を覆さない限り僕はアイネに勝てない。けれどどうすればいいのか分からない。
北の遺跡での防衛戦で自信を持てたというのにアイネはたやすく僕の自信を折ろうとしてくる。
けれど前の僕と今の僕は何かが違う。
前の僕も今の状況に陥ったら諦める事はしなかっただろう。だけど自分の勝利を信じていなかった。
けど今の僕は何とかできる気がする。根拠のない自信が胸の中に生きている。
「はああぁ!!」
アイネの槍を剣で叩き落とす。
そして、盾で追撃をし、アイネのお腹に当たる前に寸止めする。
「こーさん」
勝てた……久しぶりに。
「勝った……」
「むー」
戦闘態勢を解いた僕にアイネが抱き着いてくる。
「やっぱねーちゃん前よりも攻撃に迷いがなくなってる。今のいつもならギリギリ逃げられるはずだったのに」
「う、うん。自分でも驚いてる」
「ねーちゃんむこーで何があったの?」
「何ってさっきミサさんが話した通りだよ?」
「でも武器で戦ったわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「ヘレン見つけた時は別に変化なかったのに……なんかずるい!」
「そう言われても」
「あたしも実戦やって強くなりたい!」
「だからって壁の外に出たら駄目だからね」
「壁の中でならいいって事でしょ」
「わざわざ探しに行くのも駄目。アイネも今まで歩いて来て国の広さが分かってるでしょ? 無謀だよ」
「むー……」
「それに万が一魔物を見つけても僕が心配するから戦っちゃ駄目だからね」
「おーぼーだ!」
「横暴で結構!」
「むー!」
アイネが腕に力を入れて締め上げてくるが効かん!
でも胸に顔を押し付けてくるのは止めて欲しい。
「ちょっとアイネさん! いつまでナギさんとくっついてるんですか!」
レナスさんが僕を心配してくれているのか怒鳴りながらアイネを引きはがそうとする。
「離れてください!」
「やーだー!」
レナスさんがアイネに力に勝てるはずもなく……。
「いや、駄目。それはきついって! さすがに苦しいって!」
レナスさんの力が加わりアイネの腕がさらに締め付けてくる!
「はっ! す、すみません!」
レナスさんが手を離してくれた事によって何とか苦しみから解放された。背骨折られるかと思った。
「ほら、アイネもそろそろ放して」
「むー……仕方ないなぁ」
背中をトントンと叩くとアイネはようやく離れてくれた。
「アイネさんはナギさんに気安く抱きつきすぎです!」
「いーじゃん別に。ねーちゃん。きょーは前までのねーちゃんと違ったから負けたけど次からは負けないかんね!」
「うん。分かってるよ」
今日のはほとんど奇襲みたいなものだ。アイネなら明日には感覚を修正して向かってくるだろう。それに今の調子が明日以降も続くとは限らない。
けど今日のこの感じを忘れないようにしよう。
朝の訓練でかいた汗をお風呂で流した後皆と一緒に組合へ向かう。
アールスとアイネは依頼を受ける為だが僕とレナスさんは報酬を受け取る為に組合へ行く。カナデさんとミサさんは依頼の確認の為に着いてる様だ。
組合に着くと僕とレナスさんは受付に行き報酬を受け取る手続きを進める。
「こちらが今回の報酬分です。確認してください」
「ありがとうございます」
出された金貨の枚数を数える。数を確認した後レナスさんに渡そうとした所でレナスさんが僕の顔を見ていたのに気づいた。
「どうかした? 僕の顔に何かついてる?」
「え? い、いえ。何でもないです」
「そう?」
レナスさんはお財布を出し僕から金貨を受け取りしまう。お財布を出しておかないなんてレナスさんにしては珍しく手際の悪い事だ。
「次は銀行行って預金と両替かな」
「ですね」
皆に声をかけてから僕達は外へ出た。
そして、銀行で用事を済ませるとレナスさんを誘って甘味のある喫茶店に立ち寄った。
注文を終えるとまたレナスさんが僕を見ている。
「組合や銀行でもそうだったけど僕の事見てるよね?」
「あ……いえ、その……あの」
「?」
「なんと言うか本当にナギさん変わったなって……思っていたんです」
「朝から言われてるけど……どんな風に変わったかな?」
「最初は気のせいかと思いましたが銀行や先ほどの注文をする時で確信できました。
声の出し方が変わっているんです。低く落ち着いた大人の余裕を感じさせる声です」
「そ、そう? 自分では全然気づかなかったけど」
「それでですね……かっこいいなって思ってしまいました」
「えっ、そ、そうなんだ……」
「はい」
何でもない風に言うレナスさんに対し僕は自分でも顔が赤くなっているだろうなと思うくらい顔が熱くなるのを感じた。
「そっか……かっこいいか……照れるな」
「ふふっ、でも普段お喋りするのならいつもの方が私はいいですね」
「そうなの? どうして?」
「慣れの問題でしょうか? いつもの方が身近に感じられますから」
「ん……そっか」
でも少し意識してみるか?
「どんな感じだったかちょっと声出してみるから教えてくれる?」
「はい」
「あー……あー……ん。これでどうかな? どうかなレナスさん」
「ふふっ、低さは丁度いいですけど作ってる声だって丸わかりです」
「そう? もっと自然な感じか……難しいな」
何度も試してみるが結局しっくりくることは無く終始レナスさんに笑われっぱなしだった。