男子三日合わざればなんとかかんとか
仕事が終わりガルデの我が家に帰ると僕達は全員疲れ果てて動けなく……なりたかったがアースとヘレンから荷物を降ろさないといけない。
家に帰って歓喜の声を上げたカナデさんにその事を伝えるとすぐに悲鳴に変わった。
残る力を振り絞りアースとヘレンを倉庫まで送り荷物を降ろす。
そして家に戻り戸を開けるとそこにはナスとヒビキが出迎えてくれていた。
「ぴー!」
ナスの甲高い声が頭に響いて痛くなる。
「ききっ『ただいま』」
ゲイルが僕から降り空中に留まりながらナスと鼻を突き合わせ挨拶する。
「ただいまナス……ごめんね。皆疲れてるからちょっと相手に出来そうにないや……」
「そう言いつつナスさんに抱き着くんですね」
気持ちいいから仕方ない。
「レナスさんもやる?」
「いえ……先に休ませていただきます」
「ワタシも先に寝かせてもらいますネ……」
「ぴー……皆疲れてる」
「今回は大変だったからねぇ……途中の村で休みはしたけどやっぱ我が家に戻ると安心しちゃって今までの疲れが押し寄せてくるんだよ」
「ぴー……」
「アリスさん。私も部屋に行きますね~……」
カナデさんも消え去りそうな声でヒビキを抱えてまま奥へと行ってしまった。
「ぴー。ぴー?」
ナスが僕に休まなくていいのかと聞いてくる。
「休む前に……ナス、何か変わった事は無かった?」
「ぴぃ。ぴー」
「そっか。皆元気か。二人はまだ仕事?」
「ぴー」
「そっか。もう夕方なのに忙しいんだな」
もしかしたら夕飯の買い出しもしてるのかもしれない。
……このままナスに抱き着いたまま寝てしまいたい。でもそんな訳にもいかないか。
「ナス。さすがにもう限界だから部屋に戻って休むね」
「ぴー……」
「アールスとアイネによろしくね……ふぁ~」
ナス達から離れ……る前に。
「そうだ、アールス達には夕飯はいらないって伝えておいて」
「ぴー」
「きー」
もしかしたら僕達の分の食材も用意しているかもしれないが。
自分の部屋に行き服を寝間着に着替えると僕はベッドに倒れ込むように横になった。
髪洗いたい。頭痛いから髪を解きたい。でも結び直す元気がない。
ああ、でも……。
起きたのは果たして何時頃だろう。
目が覚めた僕は髪が解けたままになっているの気が付いた。どうやら眠りにつく前に髪を解く事が出来た様だ。
「あー……お風呂入ろ……」
帰って来るまでしっかりと頭を洗えなかったからかゆい。
それにしても今は何時だろうか。窓を開けて空を見てみるが時間の目印となる月や星座が建物に隠れているのか見えず時間が分からない。だが見えないという事は多分夜明けまでそう遠くない時間のはずだ。
とりあえず着替えを持って部屋を出る。
暗く静かな廊下を歩いて脱衣場へ行き寝間着を脱ぐ。
そしてお風呂場に入る前に裸のままで少し身体を伸ばしてから軽く柔軟をしてからお風呂場に入る。
室内を魔法の光で照らし、お湯を生み出し全身に浴びると腰まで伸びた髪が身体に張り付く。
「伸びたなー」
髪を手に取ってみる。そろそろ髪結いに毛先を整えてもらう時期か。
身体を洗い髪を洗い終わると次は湯船のお湯を張り、髪がお湯に浸からないようにまとめてから湯船に入る。
気持ちが良くて身体全身を伸ばす。
身体を十分に温まるとお風呂から出て水分をマナで取り身体を拭く。
自分の部屋で髪を乾かした後防寒具に着替えて外に出る事にした。
少しのぼせてしまったから風に当たりたい。
精霊達に散歩に出かける事を伝え、居間でナスとゲイルが仲良く眠っていたので起こさないように慎重に動き外へ出る。
外に出れば東の空が明るくなっているのが分かった。もう夜明けの時間か。
冷たい空気を楽しみながら歩道を当てもなく歩いて行く。
なんだかいつもよりも身体が軽い。よく眠れたからだろうか?
今日はなんだかいつもと違う事をしてみたい。何があるだろうか?
そうだ、新しい料理に挑戦しよう。前に買った料理本でまだ作った事のない料理がある。難しそうだから時間がある時にって後回しにしていたけど今なら出来る気がする。
三十分ほど歩いた後家に戻ると居間にはミサさんがゲイルと戯れていた。
「アリスちゃんおはようございマス」
「おはようございます。ゲイルもおはよう」
「きー」
ちなみにナスはまだ眠っている。
「朝のお散歩ですカ」
「はい。なんだか今日は調子が良くて」
防寒具を脱ぎ、脱いだ物をとりあえず近くの机に置いておく。
「それは大変よろしい事ですネ。疲れが抜け切ったのでしょうカ?」
「ミサさんはまだ疲れが残っているんですか?」
「さすがに鎧をずっと着ていましたからネ。全身がまだ重いですヨ」
「ミサさんは重装備ですもんね。今日は家で休んでいますか?」
「そうしマス」
ミサさんが頷くと少しの沈黙が訪れた。
「……あっ、何か飲みます? 僕喉乾いたのでついでにミサさんの分も用意しますよ?」
「お願いしマス。ワタシはチャリスで」
チャリスはグライオンで作られているお茶と山羊に似たテットルという動物の乳を混ぜた飲み物である。
乳の臭みをお茶が消し、お茶の苦みを乳がまろやかにし飲みやすくするグライオンでの乳の一般的な飲み方だ。
僕が台所に向かおうとすると今の扉が開きアイネが入って来た
「あっ、おはよー」
「おはようアイネ。それとただいま」
「うん。お帰り。ミサねーちゃんもおはよーとお帰りー」
「おはようとただいまデース」
「アイネ、チャリス淹れるけど何か飲みたいものある?」
そう聞くとアイネはまだ眠いのか目を手の甲でこすりながらあくびをした。
「ふぁ……水飲むからいーや」
「分かった。じゃあ台所に行ってくるね」
数分後、出来たお茶を持って戻ってくるとミサさんが隣に座っているアイネに今回の依頼の事を話していた。
ミサさんの右手側に出来上がったチャリスを置き僕は向かいに座り早速お茶をすする。
しばらくミサさんの時折適当な話が混じる語りを聞いているとナスが起きたので椅子から降りてナスの相手をする。
ナスの相手をしているとアールスも起きてきてアイネ同様依頼の話を聞きたがったのでミサさんが口がさらによく回るようになった。
ナスもきちんと聞く気になったのか僕から少し離れミサさんに耳を向けている。
そして、途中で僕は二人が僕の事をちらちらと見ている事に気が付いた。
「二人ともどうしたの? 僕の方をちらちらと見て」
「え? あー……なんだかナギ雰囲気変わったなーって」
「うんうん。なんかかっこよくなった」
「え? ホント?」
何だろう? 調子がいいのが関係してるのだろうか。
「ミサさんもナギ変わったと思いません?」
アールスがミサさんに確認をするとミサさんは話のを止めて僕の顔を見てきた。
「ふぅ~む。確かに帰りの道中では気が付きませんでたが精悍な顔つきになっていますネ……アリスちゃんハウル使ってマス?」
「ミサさんに解いてもらってから一度も使ってませんよ」
「ならばもうハウルは必要ないかもしれませんネ。恐らく今回の依頼で自信がついて成長したのでショウ」
「自信……」
たしかにそうかもしれない。今の僕でも皆と力を合わせれば魔物達に対処できる事が分かったんだ。これで自信がつかないはずがない。
「でもそれだけで変わるものでしょうか?」
「う~ん……中身が男の子だからですかネ?」
「!?」
そ、そうか。前世でも確か男子三日合わざればなんとかかんとかっていう格言があった気がする。
「そ、そっかぁ。ふぅん。変わったのは僕が男だからか。ふふ~ん」
「ねーちゃん。そのだらしない顔で台無しだよ」




