表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/530

北の遺跡で その7

 捕らえてある魔物を倒した数が二十を超えた辺りで魔物が飛んでこなくなった。

 レナスさんが精霊に状況を確認してもらうとまだトロールはいるらしい。

 おそらく投げ込む魔物が居なくなったのか数がこれ以上減るのを恐れたのかのどちらかだろう。

 そして投げ込むのをやめたトロールはゆっくりと壁に向かって歩き出したらしい。


「レナスさん。僕達も皆と合流しよう」

「そうですね。アースさんの土人形の力を発揮させる時です」

「ぼふっ」


 アースとヘレンが立てるほど氷の壁に厚みはないが感知できれば見えなくても土人形は動かせる。

 ただやはり目で見えないと攻撃に巻き込まれる可能性があり危ないので感知だけに頼る時は土人形の近くにはいない方がいい。

 だけど今回は皆氷の壁の上で戦うので土人形の攻撃に巻き込まれる心配はないだろう。


 氷の壁に着くとすでに水の壁はないが氷の壁の上で戦いの音がしている。

 どうやら氷の壁に降りた魔物がいるらしい。さっきまではいなかったから登ったのだろうか?

 しかし、氷の壁には柵があり並んで戦えるほど幅はない。一対一を強いられている魔物は守りに入っている冒険達に対して攻めあぐねているようだ。


「僕が援護するからアースは土人形を壁の向こう側に。ヘレンはさっきのやるよ」

「ぼふっ!」

「くー!」


 仲間と魔物が近いこの状況精霊魔法では巻き込む可能性がある。

 蜘蛛の糸を外まで伸ばし水の台座を作りさらにそこから水の縄を伸ばす。

 水の縄に捕らえられた魔物はすぐにミサさん達や冒険者達に倒された。


「加勢しに来ました! 状況は?」

「魔物が壁登ろうとしとる! 今うちんとこの魔法使いが何とか下の抑えとるとこや!」

「カナデちゃんも弓で応戦していマス!」

「なるほど……」


 壁周辺は魔素が濃くてどうなっているのか分かりにくかったがそうなっているか。

 しかし、氷の壁を殴るような音も聞こえてくるが大丈夫か?


「ミサさん、エクレアさんの力でどうにかできませんか?」

「氷の壁を破壊してもいいのならできますヨ」

「もうちょっと威力を弱められないんですか?」

「そうしたら効きまセン」


 つまり氷の壁を壊すほどの威力じゃないと倒せない魔物がいるって事か。


「まさか上級の魔物でもいるんですか!?」


 氷の階段を上りミサさんの隣に立つ。下を覗くのは危険か?


「おしいですネ。オーガデス」

「オーガ……」


 オークに似ていてオークの上位種と言われるトロールと同じ中級上位の魔物。

 トロールのように大きくはないが大量の魔素と頑丈な体で普通の魔法攻撃をほとんど受け付けない身体は上級の魔物に匹敵すると言われている。

 力もトロールには及ばないがそれでも人を鎧の上からたやすく屠れる力を持っていたはずだ。

 その魔法への耐性と頑丈さから魔法剣での退治を強いられ、上級じゃなくてよかったなどとは言えない恐ろしい魔物だ。


「もしかしてさっきまで相手してたのは」

「いえいえ、オークデス。でもアールスちゃんが勝ち取った装備とアリスちゃんが来て助かりましたヨ」

「そうでしたか……」


 とりあえず僕も他の魔法使いがやっているようにアイシクルランスを下にいる魔物に向けて撃ち出しながら水の縄を操りこちらの攻撃の邪魔にならないように配慮しつつ魔物達の行動を制限させる。

 完全に捕縛しようとすると固定化する前に水の縄が破壊されてしまって捕縛できないんだ。ヘレンがじかに見れていれば違うのだろうけど……。

 アースの操る土人形は五体とも暴れまわって魔物を蹴散らしている。ただオーガ相手には相手にならないようで相手をしようとした一体がオーガの一撃で半壊してしまった。

 けどオークを倒せるくらいの力があるのなら十分だろう。


「オーガを優先で狙ってくだサイ! このまま破壊させてもいけませんし絶対に登らせてもいけまセン!」

「トロールはどうするんですか?」

「近づいてきたらエクレアの一撃を与えマス」

「それで倒せますか?」

「倒せマス。任せてくだサイ」

「なら私はそれまで壁に張り付いている魔物達を流します」 


 そう言って水を操り壁の下魔物めがけてぶつけようとしたが水にいち早く気づいたオーガが盾となって思った通りの成果は得られなかった。


「まじか……オーガって今のも防げるの」

「オーガを侮ってはいけまセン」

「この距離だとサラサさんの力を使ったら……」

「オーガを倒そうと思ったら壁が溶けますネ」

「地道に氷を生み出して攻撃するか。レナスさんは続けてディアナの力で妨害してくれる? オーガを一匹でも足止め出来たら十分だ」

「そうですね」


 一応壁が破壊されていないかも確かめておこう。

 こういう時ヒビキやナスがいてくれたらな。置いてきたのは悪手だったか。でもヒビキがいないと二人が寒い思いをする。うん。何も間違ってないな!

 僕が今やる事はただ一つ。下の魔物達への妨害だ。


「そろそろやりますヨ! 皆さん強い光が発生するの後ろを向いて目を閉じてくだサイ! 音はこちらで対処しマス!」


 念のためミサさんが言った事を僕が復唱し、さらに壁の内側にいる二匹に向かって叫ぶ。


「アース、ヘレン! 目を閉じて!」

「アロエ、エクレア、久しぶりに行きますヨ! 『天の雷槌』!!」


 目を閉じてても光が視界を真っ白にする。

 だが不思議となんの音もしない。


「ミサさん! 先に言ってくれればライチーさんが対応できましたよ!?」

「あっ、そうでしタ。でももういいですヨ。魔法は終わりましタ」


 こういう所連携がまだまだだな。

 振り返ってトロールのいた所を見てみるとそこにはクレーターが出来ていた。


「すごいな……」

「感心するのは後です! もうエクレアはほとんどマナが残っていまセン!」

「は、はい」


 そうだった! ボケっとしてる場合じゃない! 

 壁の破損も確認しないと……ヒビが広がっている。ヒビに水を流して固定化して貰えれば持つか?


「アリスちゃん、いいですカ。補助に回るのもいいですが今この状況でオーガを倒すのは最後デス! それよりも先にオーガの盾となる他の魔物を駆逐してくだサイ」

「分かりました!」


 そう言っている間にカナデさんが次々とオーガ以外の魔物を倒している。さすがだ。

 というかカナデさんオーガも倒してないか?


 壁に出来たヒビに水をいれ固定化された水に繋ぎ水を固定化してもらう。


「レナスさん! 予備の矢を持ってきてもらえますかー?」

「分かりました!」

「カナデちゃんはこれからはオーガを倒す為に矢を節約してくだサイ! オーガには魔法が効きにくいので矢の方が効果的なんデス!」


 たしかにミサさんの言う通り魔素の濃いオーガにはマナの通りが悪くサンダーインパルスや魔法が使いにくい。かと言ってアイシクルランスも頑丈な身体にはほとんど効いている様子はない。


「わ、分かりました~」

「ゲイル、念の為レナスさんの護衛についてくれる?」

「ききっ」


 僕の首に巻き付いて待機しているゲイルにレナスさんについてもらう。

 弱い魔物はなるべく魔法で倒し孤立したオーガをカナデさんが狙う。

 役割を意識してからは順調に魔物を減らして行く事に成功する。

 




 そして、一体どれくらいの時間かかったのか、すべての魔物を倒した頃には空の星々の位置は大分傾いていた。

 大分時間がかかったはずだがハウルのお陰か疲れはあっても眠気は無い。


「終わったかな」

「アロエに探させていますガ、魔物はいないようデス」

「ですが整備隊の方はまだ終わってないみたいです」

「向こうにも魔物が?」

「はい。統率する魔物がいないのかこちらのようにまとまって襲ってきている訳ではないようですが散発的に襲われているようです。

 中にはオーガらしき魔物もいたようですが、今のところ武器の消耗以外に被害もなく撃退できているようです」

「そっか……向こうには壁がないのにさすがだな。助けはいらないって言われてるし僕達の方は休んでから向かおうか」

「今すぐでなくていいんですか?」

「みんな疲れて消耗してるでしょ? アースやヘレンだって神経使って疲れてるだろうし……僕としてはこの状態で向かったら足を引っ張る事になりそうだと思うんだ」


 マナの共有のお陰でマナに余裕はあるが、戦いに集中していた反動か頭が痛い。お陰で蜘蛛の糸も満足に張れない状況だ。

 ヒールでも治せない痛みなので恐らく栄養が足りていないのかもしれない。


「そうですネ……元気なのはゲイルちゃんぐらいでしょうガ、ゲイルちゃんは……ああ、妖精語は出来ましたネ」

「あっ、そっか……でもゲイルだけを向かわせるって言うのはな」

「そうですネ。さすがにアリスちゃんもついていかないと不都合がありそうデス」

「私はまだ元気ですしサラサさんはまだマナに余裕があります。私達だけでも行きましょうか?」

「それは駄目。まだ魔物が隠れ潜んでるかもしれないんだから今レナスさんがわざわざ行く必要はないよ。

 それに、向こうが必要ないって言ってるんだ。僕達はその言葉に甘えて休んでおこう。もちろん精霊達に頼んでいつでも援護に行ける様に見張ってもらう必要はあるだろうけどね」

「……たしかにそうですね」


 レナスさんがちらりと横目でカナデさんを見る。

 カナデさんは両腕をだらりと下げている。ハウルのお陰で疲れは感じないはずだが痛みは感じているはず。実際僕も身体の節々が痛い。


「カナデさん。腕大丈夫ですか?」

「もう腕動きません~」


 カナデさんも限界の様だ。カナデさんの全身にエリアヒールをかけ筋肉が傷ついている場所を探し集中させる。


「ありがとうございますぅ……」


 これで疲れは取れないが痛みは取れる。

 カナデさんはずっと集中し弓を引いていたから魔法をただ撃っていた僕とは疲労の度合いは段違いだろう。

 まぁそれを言うのならマナが無くなって攻撃するための石を求めて壁を上り下りして調達していたミサさんも大概なのだが、あまり疲れた様子を見せないな。

 意識を切り替え生命力を見てみるとミサさんもかなり疲れているはずだなのだけど。

 きっと僕達を不安にさせないために平気な様に見せているんだろう。本当、ミサさんは頼りになる人だ。

トロールがオーガを飛ばさなかったのはほぼ同格であるオーガが拒否したからです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >トロールがオーガを飛ばさなかったのはほぼ同格であるオーガが拒否したからです 飛ばしてたら、かなりヤバイことになってたんじゃなかろうか。 一体一体逐次投入なら苦戦する位だけど、全部一斉にポ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ