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北の遺跡で その6

 二日目の夜、夜の見回りの番を終え交代し休みに入ろうとしたその時何かがぶつかる轟音がした。


「ナギさん! 魔物です! 魔物が空から降ってきました!」

「ええっ!?」


 レナスさんの言葉に僕はとっさにどう動くか迷った。


「また来マス!」


 ミサさんが叫ぶとすぐにもう一度轟音が聞こえてくる。


「ミサさんとカナデさんは後から落ちて来た所へ、私とナギさんは最初に落ちてきた所へ行きましょう!」

「了解デス! カナデ、ついて来て!」

「は、はい~」

「エクレアで敵襲を知らせマス!」


 ミサさんがそう言うと早速エクレアが上空で電気を起こし音を鳴らした後敵襲、と大声で叫ぶ。


「ナギさん!」

「分かった!」


 いまいち状況が分からないけどとにかく今はレナスさんの指示に従いついて行く。

 走りながら蜘蛛の巣を広げて野営地の把握をしつつレナスさんに確認する。


「一体どういうこと?」

「氷の壁を越えて魔物が勢いよく降って来たそうです。なんの魔物かは分かりませんが注意してください」

「壁の方に対策はした?」

「とりあえずディアナさんに水の壁を作ってもらいました」

「そっか……こっちも魔物見つ……また増えた!?」

「水の壁では駄目そうですね」

「とりあえず魔法で足止めして置くね」


 魔素の濃さとマナから伝わる相手の体形からして恐らくオークだろう。

 サンダーインパルスを使い足の辺りに攻撃する。

 僕のサンダーインパルスはオークには足止め程度にしか効かない。

 オーガを倒した事があるナスと威力が違うのはやはり固有能力の差か。

 サンダーインパルスだけではオークは倒せないがだからと言って視認できない状態で強力な魔法を使う訳にもいかない。



「ゲイル、アースを起こしに行ってくれる?」

「ききっ」


 僕に襟巻のようにまとわりついているゲイルはお願いをするとするりと僕から離れアースに元へ向かう。


「魔物がまた飛んでくるかもしれないから気を付けてね」

「きー」


 そして目的の魔物の所へ着くとレナスさんがすぐさまサラサの力を使い魔物を燃やし尽くした。

 そこへ護衛役のハモラギの冒険者がやって来た。


「精霊が敵襲って言ってるけど何があったの!?」

「魔物が氷の壁を越えて飛んできたそうです」

「飛んでってまさか投げ込まれたんじゃ……」

「投げ込まれた? ああっ!!」


 魔物を投げて後方をかく乱させその隙に攻め込むのはトロールの常套手段じゃないか!

 どうして忘れていたんだ!


「壁を前にしたトロールがよく使う手で他の魔物を投げてくるのよ。遠くからでも届くから夜だとどこにいるか分からないかも……」

「私の精霊に光の精霊がいるので彼女の力で周囲を照らしてみましょう」

「お願い。私は依頼人達を直接護衛するけど氷の壁が破られていざとなったら遺跡の中に避難する事もあるからそのつもりで」

「遺跡って、大丈夫なんですか?」

「広い場所でトロールを相手にするよりはましよ。まぁさすがに貴女達が作った氷の壁が破られるとは思わないけど、踏み台を作って乗り越えてくる事もあるかもしれないからね」

「ツヴァイス様の結界は大丈夫ですか?」


 依頼人達用の雪蔵がある場所辺りには結界が張られている。

 氷の壁まで結界で覆わないのは維持の為の集中力に限界があるからだ。魔創石を敷き詰めて作った魔法陣でもない限りは結界は術者が維持し続けなければならない。

 こんな所に魔創石があるはずもなく、また運ぶには量が必要で重くかさ張るのでさすがに誰も持ってきていない。

 なので結界を維持するには術者が集中力を長時間維持し続けられる範囲に留める必要があるのだ。


「心配はないわ。騒ぎが起きてすぐに結界を張ったから」


 しかし結界が張られているからと言って安心はできない。結界は岩などの質量攻撃は防げないのだ。

 今もどんどん魔物が氷の壁の中に現れているがいつ岩や雪の塊が飛んでくるか分かった物ではない。


 ふいに笛の音が鳴り響いた。

 笛は音はトロールのような中級上位の魔物が見つかった時の合図のはずだ。


「ナギさん。そろそろ一度アースさんやミサさん達と合流しましょう。壁の方へ増援に行くかこのまま降ってきた魔物を退治するか相談するべきです」

「そうだね。そういう訳ですから僕達は行きます」

「分かった。こっちには増援はいらないけど、そっちに増援を送る事もないと考えておいて。一応遺跡の方も警戒しないといけないからね」

「……誰も来ないんですか?」

「少なくとも壁の方は連絡目的以外ではいかないと思う。悪いけど私達の仕事はあくまでも整備隊の護衛だからね。それにあんた達とは連携取りにくそうだし」

「……確かにそうですね」


 僕達は魔獣と精霊という大火力の元がいるから慣れてないと連携がとりにくいか。

 僕達としてもシエル様の神聖魔法を見られずに済むかもしれないのは助かる。


「それじゃあ行こう」

「はい」


 僕が移動を始めるとアースのマナが僕の意思とは関係なく動き出した。

 どうやら起きたらしく土人形を五体同時に作り出している。


「そう言えばアースの土人形の強さをまだ確認してなかったね」

「そうですね。道中は道の整備に使っていましたから魔物の相手をさせていませんでした。

 オークにも通用するなら人手が一気に増える事になりますね」


 僕の魔力操作と合わせれば遠くの敵を感知し戦う事も出来るはずだ。少なくとも練習では出来ていた。

 アース達の所に着くと何やらアースが不機嫌そうに鼻を鳴らし、そのアースに対し怯えながら様子をうかがっているヘレンがいた。

 そしてゲイルはライチーが明るくしてくれているおかげで見つかった。

 ヘレンの頭の上でのんきにあくびをしながら伸びている。眠いのだろうか? 時間も時間だし仕方ないか。


「アース、起こしてごめんね」

「ぼふぼふっ! ぼふぼふぼふんっ!」


 気持ちよく寝ていたのに魔物絶対許さないと怒っている。


「僕は大丈夫だけどレナスさんは眠気とか大丈夫?」

「……実は危ないです」

「ううん……寝ようとしてた所に、だからね……ゲイルも眠そうだし」


 とりあえず絶対にレナスさん一人には出来ないな。

 そして、話している内にミサさんとカナデさんが合流した。

 二人に眠気の事を聞くと二人は平気だと答えた。

 とりあえずこれからの事を先ほどの冒険者の言葉を伝えた上で相談する。


「ワタシは壁に向かおうと思いマス。今いる彼らだけではトロールの相手は厳しいでしょうカラ」

「わ、私も行きますぅ!」

「レナスちゃんはここに残って精霊達に指示を出してくだサイ」

「水の壁はどうしますか?」

「ワタシ達がついて準備を終えたら解くようにディアナちゃんに頼みマス。その事をあらかじめ伝えて置いてくだサイ」

「分かりました」

「僕と魔獣達は残って降ってくる魔物の相手をします」


 本当ならヘレンは水の壁を固定させるのにミサさんと一緒に向かわせたい所だけれど、今張っている水の壁はディアナの生み出し操っている物だ。液体固定はどうやら他人のマナが溶けている液体は固定化できないみたいだ。

 これが分かったのは本当に先日。ディアナがヘレンと遊んでいた時に自分の水を固定化できないと僕に教えてくれたのが発端だった。

 共有化されたマナで生み出した水なら問題なく固定化は出来るが……。


「お願いしマス。後ろを取られたらさすがに無理ですカラ」

「後ミサさん。眠気覚ましにハウルをお願いしてもいいですか」

「……分かりましタ」


 ハウルはたしか眠気にも効果があったはず。

 いちおうハウルのこもった魔法石も持ってはいるが本当にゼレ様を信仰している人からかけて貰った方が良く効くような気がする。要は気分の問題だ。


「それと向こうに着いたらパーフェクトヒールを使える事をよく伝えておいてください」


 前もって僕が使える事は伝えてあるが念押しのつもりで頼んでおく。


「わかりましタ。皆に『戦士の咆哮(ハウル)』をかけますネ」


 ミサさんが僕達に向かって手をかざし『ハウル』と唱えると臆病な気持ちが消え闘争心が湧き上がってくるのを感じる。

 しかし冷静な思考の邪魔にはならない。不思議な感覚だ。


「これがハウル……」

「ハウルをかけられた人は慣れていないと張り切ってしまうので疲れやすくなってしまいマス。使用中は疲れも忘れますガ、切れた後は疲れが押し寄せてくるので地獄デス。あまり頼らない方がいいですヨ」

「ああ、そういう弊害もあるのか……」

「同じ理由で何度もかけ直すのもよくはありまセン」

「長期戦には向かない魔法なんですね」

「その通りデス。それに張り切るようになるため疲れやすくなるという事以外は身体に影響はないのですガ、臆病な人は恐れを忘れられるという事で依存しやすくなってしまいマス」


 ミサさんが僕とカナデさんを見てくる。


「気を付けます……」


 でもいつもこの状態でいたいという気持ちは分かる。この気持ちが依存に繋がるんだろうな。

 今までの戦いでミサさんが使わなかったのは僕が依存する事を恐れたからなのだろう。


 ミサさんと別れ僕は蜘蛛の糸に集中する。投げ込まれた後壁の方に向かっている魔物は十体以上いる。今は僕のサンダーインパルスで足止めできているが。


「ヘレン。今回は君の力が必要だ。手を貸してくれるね?」

「くー!」

「よし。じゃあ早速『ウォーターペデスタル』!」


 作ったばかりの魔法陣を展開しヘレンのお腹の真下に水の台座を生み出す、。

 ヘレンはその水の台座に対し膝を折って地面に座り身体を浸す。

 そして僕は続けて水の台座と張り巡らされている蜘蛛の糸が繋がるようにマナの糸を伸ばし、そして、魔物の身体にまとわりついている蜘蛛の巣まで沿うように水を生み出す。


 ヘレンの固定化は動かせる強度だと簡単に切れるという事はなくなるのだけど親指程度の太さが無いと何故か伸びてしまう。

 けど逆に言えば魔物に親指程度の太さを持った水は十分な強度を発揮し撒きつけて締め付ければそれで捕縛できてしまうのだ。

 ついでにまだ飛んでくる魔物に対しては飛んでいく先に捕縛用の網の形をした水を配置すればいい。

 水を動かすのは僕の役目だ。

 捕縛するだけでは魔物は倒せないが倒すのはレナスさんに任せればいい。

 強度を上げ落下先に水の槍を置いておくと言うのも考えた。

 しかし、それだとヘレンの能力は水全体に均一に効果を発揮する為もし何かのきっかけで落下地点が変わったら水を動かすのに強度を下げる必要がある。

 そうなると突き刺さっていた魔物が柔らかくなった水の槍から逃げてしまう可能性が出てしまうのだ。

 なので柔軟性を考えて水の網で捕縛した方がいいだろう。


「長い夜にならなきゃいいけど……」


 そうはならないだろうな。

補足としてハウルには本当に依存性はありません

依存するのは人側の心の問題です

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― 新着の感想 ―
[一言] >ハウルをかけられた人は慣れていないと張り切ってしまうので疲れやすくなってしまいマス。使用中は疲れも忘れますガ、切れた後は疲れが押し寄せてくるので地獄デス ハウルは栄養ドリンクまたはエナド…
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