閑話 精霊
今話は今日の投稿二回目です
前話があるのでまだ読んでいない方はそちらから
話をしているうちに握っているナギさんの手からこわばりが消えていく。
本人は意識していないのかそれとも意識していても表に出さないようにしているのかは分からないけれど、ナギさんは魔物を倒した後はいつも身体をこわばらせてしまいます。
表情は防寒具に隠れてしまって分かりませんがきっと魔物に対して罪悪感を抱いているのでしょう。ナギさんはそういうお方です。
そして、この事はカナデさんやミサさんも気が付いています。
本当なら魔物を倒すのは私が変わりたいのですが、ミサさんが少しでも慣れさせるため特別な理由がない限りはナギさんにやらせた方がいいと言われてしまいました。
今の内に慣れさせないと後々後悔する事になるかもしれないと諭されたので仕方なく私は遠くの魔物を倒すのはナギさんに任せる事にしました。
ナギさんの気持ちを和らげるために話しかけもしますが、魔物を倒した後は決まって早口になっています。
しかし、ミサさんの言う事は正しかったようで魔物を倒した後の手のこわばりの時間は徐々に短くなり、早口が落ち着くのも早くなりました。
けれどやはりアールスさんがいないのが悔やまれます。アールスさんがいればすぐに元気にできるはずなのに。
アールスさんがいない以上私が、私が! ナギさんをお助けしなければならないのです。
「もうすぐ交代の時間だね」
ナギさんの言葉を聞き太陽と影の位置を確認すると確かに交代の時間になっていました。
私達が見張っている位置から反対側にいるカナデさんとミサさんにも精霊を介して伝える。
「ナギさん。この後はどうしますか?」
「んー。ヘレンの所に行こうと思ってるよ」
「ならばお付き合いします」
ナギさんを補助するためには片時も離れる訳にはいきません。ええ、これはあくまでもナギさんの為なのです。
……まぁナギさんに頼られたいという気持ちも無いという事もないですが。
でもあくまでも優先すべきはナギさんであって……。
「サラサさん?」
サラサさんが私の傍にいない事に気が付いた。
辺りを見回してみると氷の壁から少し離れた場所にサラサさんはいました。
ぼぅっとした様子で私達を見ている。
「サラサさん。行きますよ」
そう声をかけると驚いたように姿を揺らし、そして私に視線を向けてきました。
「あっ、ごめんなさいレナス。ちょっと考え事をしてたの」
返って来たのはいつもの言い訳でした。
最近のサラサさんはよく上の空になっている事が多い。
理由は分かっています。サラサさんは今シンレイになろうとしているんです。
けれど実際にシンレイに至る方法が分からないから考え込んでしまっているのです。
前にナギさんを通してシンレイに至る方法を教えてもらいましたがその方法は自己を確立させるという抽象的で分かりにくい物でした。
けど、まだシンレイに至れていない事に少しだけ安堵の気持ちがあります。
サラサさんがシンレイに至った時、その時は私との契約が無くなってしまい繋がりが切れてしまう。
物心ついた時に契約し、それ以来ずっと繋がっていたから繋がりが消える事を恐れている自分がいる。
「慌てなくていいですからね」
今のままでもいいと伝えたい。けれど私の言葉は精霊達には絶対過ぎる。そのまま伝えてしまえば自分の意思を曲げて私の言葉に従ってしまうでしょう。
「分かっているわ」
私は、精霊達に私の言葉だけに従うような生き方をして欲しくない。