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閑話 独りぼっちはもう嫌

今話は今日の投稿二回目です

前話があるのでまだ読んでいない方はそちらから

 わっちの最初の記憶は真っ白な世界やった。

 何もない、誰もいないわっち一人の世界。

 寂しゅうて声を上げても風の音にかき消されて何も変わらなんだ。

 何かに会いとうてどれくらい歩いたか分からん。


 険しゅう寒い道を下へ下へと降りて行ってようやくわっちは自分以外の生き物に会えたんや。

 それはわっちに似た姿をしとったけれど身体はどえらい小そうて角を生やしとった。

 仲間かと思って近づくとその生き物は角を前に出してわっちに向かってきた。

 わっちは初めて会った生き物との接し方が分からんでその角を受けたのだけど、当たった瞬間角が根元から折れてしまった。


 そしたらその生き物は折れた角をそのままに逃げ出した。

 わっちは待ってと声をかけたけれどその生き物は止まらなんだ。

 追いかけようとしたけれど森の中に入ってまって見失ってまったんや。


 それから何度もわっち以外の生き物に出会ったけれど結果はみんな同じような物やった。

 ひどいときは殺めてしまった時もあった。

 わっちはただ寂しかっただけなのに。

 わっちは一人で生きた方がええんやと思った。殺めてまうよりもその方がええ。

 その証拠に白い物が消えたら何か禍々しい雰囲気を纏った物に襲われるようになった。

 生き物達を傷つけてきた罰だと思った。

 けど……わっちは死にたくない。独りぼっちのまま終わりたくない。

 

 そう思ってわっちは逃げ続けた。

 あれからどれくらいの時が過ぎたのかは分からん。

 わっちは逃げ続けた。時に逃げ切れんで身を守るために戦う時もあった。

 そんで安住の地を求めて流れに流れ最近わっちはあの森に辿り着いた。

 森には生き物はおらずわっちはしばらく暮らしとったけれど少し前から禍々しい物がわっちを襲い掛かってくるようになった。

 ここにもわっちの居場所はないと思い森を去る算段を立てとった所に不思議な感覚が流れてきた。

 不思議な感覚につられ彷徨っていると突然わっちは強う呼ばれた気がしたんや。


 おっかなびっくり呼ばれた方に行ってみると禍々しい物によう似た姿形の生き物がおった。

 けんどもまず目に入ったのはわっちと同じくらいの大きさの生き物やった。

 あの生き物やったらわっちと仲良うしてくれるかもしれん。そう思ったんよ。

 それから次に気になったのが不思議な感覚を発しとる生き物やった。

 近づいて分かった。この生き物がわっちを呼んだんやと。そんで、わっちが求めとった物やと。

 やで、近くに寄って欲しなかった。小さい生き物に触れたら傷つけてまうかもしれん。

 嫌われるのはもう嫌や。


 でもまたそこで大きな生き物の事が気になった。

 なんで小さな生き物と一緒にいられるんやろう。傷つけたりせんのやろうか?

 この生き物の言う事を聞いたらわっちももう独りじゃのうなるの?

 知りたい。独りじゃなくなる方法を教えて欲しい。

 わっちの願いはそれだけ。


「それなら僕達と一緒に来る?」


 あんたは小そうて傷つけてまうかもしれん。


「アースを見てごらん。君と同じくらいの大きさだけど多分君とぶつかり合ったら君の方が怪我をすると思う。

 僕なんかがぶつかったらひとたまりもないだろうね。だけどさっき話したように僕達は一緒に旅をしているんだ。

 不自由な事も多いだろうにそれでもアースは僕達と一緒に旅して色んな風景を見るのが楽しいって言ってくれるんだ。

 僕が怪我をする? 互いに気を付ければいいんだよ。必要以上に君に近寄らない。人が近寄る時は動かない。

 身体の作りが違うからアースのやり方をまるごとまねるって言うのは出来ないと思う。けど君なりの接し方を一緒に考えよう。

 独りじゃなくなる方法を独りで考えるよりも皆で一緒に考えた方が絶対にいいよ」


 本当にええの?


「もちろん。ただ、僕達と一緒となると不自由を強いる事が多いよ。

 旅の途中いつも使ってた預かり施設は君にとっては狭いかもしれないし勝手に出歩くも出来ない。

 アースは出不精であまり動きたがらない性格だからさほど問題にはなってないけど。

 それだけじゃなくて危険ももちろんある。実は僕は将来大きな禍々しい物と戦う事になるかもしれないんだ。

 その戦いがどんなものになるかは分からないけれど下手をしたら君は死んでしまうかもしれない」


 独りぼっちはもう嫌。嫌なの。


「……分かった。それじゃあ僕と一緒に来てくれるかな?」

「くー」

「うん。じゃあ僕の名前を教えよう。僕はアリス=ナギって言うんだ。君をもう独りぼっちにはさせないよ」


 アリス……ナギ。アリスナギ?


「アリスとナギは分けるんだよ。ナギって呼んで欲しいな」

「くー」

「じゃあ次は君の名前を決めようか。どんな名前がいいかな」


 名前って必要?


「うん。もちろん必要だよ。呼ぶ時に不便だからね。そうだな……ヘラ……ヘリ……ヘル……ヘレ……ヘレンなんてどうだろう」


 ヘレン。わっちの名前。なんやろう、嬉しい。名前を付けられた事が何でか分からんけど嬉しい。

 呼んで。わっちの名前もっと呼んで。


「いいよ、ヘレン。気に入ってもらえたかな?」


 嬉しい! 嬉しい!

 他の生き物にわっちの事を呼んでもらえるのがこんなに嬉しいなんて!

 わっちはもう独りぼっちやないんや。

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