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許された気がした

 朝目覚めると僕の隣に誰かがいた。

 暗くて顔は見れないけれど大きさからしてレナスさんだろう。

 僕の寝床に潜り込んできそうなのがレナスさんかアールス位だから、というのもあるが。

 髪に触れてみるとやっぱりレナスさんだ。

 どうして一緒に寝ているんだろうか?

 昨日は確か……そうだ、お酒を飲んで……どうなったっけ。なんか誰かにお説教しちゃったような気がするが、よく覚えていない。

 とりあえずレナスさんを起こさないようにベッドから降りて精霊達に声をかける。


「三人ともおはよう。ところでどうしてレナスさんが一緒に寝てるのかな? 昨日の夜の記憶がないんだけど僕なんかやっちゃった?」


 僕の問いに答えてくれたのはライチーだった。


『ナギがねーレナスにそばにいてほしいっていったんだよー』

「……本当に?」

『ほんとだよ?』

「……他に何か変な事言ってなかった?」

『うー? レナスにはいってなかったとおもう』

「そう、レナスには言ってなかった」

「言ってなかったわね」


 ライチーの回答にディアナとサラサが同意する。


「つまり他の人には言ってたわけね……」


 変な事言っておいて記憶がないとか怖すぎる。


「一体僕は何を言ったんだ……?」

「それはアイネに聞いた方が早いわね」

「アイネか……」


 考えるのは一旦やめ、窓を開けて外の様子を確認する。もちろん風の壁でレナスさんに冷気が届かないようにしてからだ。

 外はまだ暗い。辛うじて星明りで空が曇っていない事だけは分かる。

 時間が分からない事にため息をつくとディアナが時間を教えてくれた。


「今は大体五時。いつも通りの起床時間」

「ありがとう。……お酒飲んでもいつも通りか。体調も別に変ってないし……こんなもんなのかな」

「頭痛いとか気持ちが軽く感じるとかない? レナスはお酒飲んだ後そうなるみたいだけど」

「んー。ないね」

「そうなの。沢山泣いてたから少しはすっきりしてるかと思ったけど」

「えっ、そんなに泣いてたの?」

「ええ、レナスに泣きついていた」

「うわぁ……」


 レナスさんに泣きついたなんてかなり恥ずかしい!

 本当に僕はレナスさんに対して変な事を言っていないだろうか?

 これは駄目だ。絶対に駄目だ。そのうち酔った勢いでレナスさんに手を出してしまうかもしれない。

 もう絶対にお酒は飲まない事にしよう。

 窓を閉めて服を着替えようとして気が付く。服が昨日のままだ。髪もちょっとごわついているような気がする。


「お風呂入ってくるね。レナスさんが起きて僕を探したらそう伝えておいてくれるかな?」

「分かった」

「あっ、お風呂場にはマナ伸ばしてないから寒いはずよ。気を付けてね」

「うん。ありがとう」


 サラサはマナの節約の為に人の使ってない場所は温度の維持を行っていない。

 だから部屋を出ると途端に気温が下がる。

 着替えを持って廊下に出ると凍てつくような空気を浴びて身体がぶるりと震える。


「寒い寒い」


 しまった。暖房用の魔法石を部屋に忘れた。だけど元は僕が作った魔法陣を込めたもの。魔法石が無くても自分で魔法陣を使って温まる事が出来る。

 魔法陣を構築し暖かい空気を生みながらお風呂場へ行く途中背後で扉の開く音が聞こえた。

 振り返ってみると眠たそうに眼をこすりながらアイネが出てきていた。


「アイネ、おはよ」

「んー……あっ、ねーちゃんおはよ」

「僕これからお風呂入るんだけど、アイネはなにをするの?」

「おしっこ……」

「ああ、それじゃ早くおトイレに行かないとね」

「んー……あっ、そーだ」

「ん?」

「きのーしょーぶをもーしこむ時に相手が変なじょーけん出したら絶対に受けるなって言ってたけど、変なじょーけんって例えばどんなの?」

「……」


 僕は何を言ったんだ。もしかしてこれか? 僕がアイネに言った変な事って。


「へ、変な条件? 他に何か言ってた? 僕昨日のこと覚えてないんだ」

「あたしはかわいいから気をつけろって。でもねーちゃんがゆー変なじょーけんってのがどんなのか分かんないとあたしとしてもどーすればいーのかわかんないよ」


 むむぅ、昨日の僕がどんな事を考えてアイネに言ったのか分からないけど、ここはきちんと答えておいた方がいいか。

 しかしアイネの顔がにやけてるな。僕の動揺を誘ってからかうつもりか?


「……とりあえず金銭のやり取りは……本当は駄目だけどまぁそこは大目に見るとして、借金する様な真似は駄目」

「……」

「勝ったら付き合ってほしいとか結婚してほしいとかはアイネの気持ちを優先する事。間違っても絶対に嫌な相手とはそんな約束しない事」

「……うん」

「大切な物をかけるのも駄目。取り返しのつくものならともかく失いたくない物は絶対に駄目」

「ううん……?」

「あとは……まぁ色々言ってるけど結局はアイネ次第だね。返事をする前に一度落ち着いて考える事。相手が急かしてきた場合に慌てて乗ったら駄目。

 何より自分の身体を大事にする事。これぐらいかな」

「……あたしねーちゃんが言ってた変なじょーけんって子供を産んでほしーみたいなえっちなお願いの事だと思ってた」

「からかうつもりだったけど真面目に返されて驚いた?」

「むー」


 僕の問いにアイネはふくれっ面になって答える。


「アイネ。多分昨日の僕は本当に心配したと思うんだ」

「うっ……」

「なのに僕が不純な事を考えていたみたいに思われて僕は悲しいよ」


 よよと悲しんでみるとアイネは苦虫を潰したような顔になった。


「くっそー。きのーからねーちゃんはあたしの期待を裏切ってばっかだ! 酔ったら泣きじょーごだし、からかおーと思ってもすかされるし! ねーちゃんにはがっかりだ!」

「理不尽」


 子供っぽくべーっと舌を出した後アイネはぷりぷりと怒りながら僕から背を向けトイレのある方へ歩いて行った。


「アイネって今何歳だっけ」


 子供すぎる行いにアイネの今の歳を思い出してみる。十三。十三か……十三ならあんなものか? レナスさんもまだ子供っぽい所残ってるし……。




 お風呂から出て居間の前へ行くと扉から光が漏れ出ていた。誰か起き出したか。アイネ……も起きてはいるだろうけどアイネだったら光が扉から漏れ出るほどの無駄なマナは使わない。

 きっとライチーだろう。

 今の時間ならカナデさん以外の皆が起きていてもおかしくはない。

 扉を開けてみれば予想通りカナデさん以外の皆が起きていた。


「皆おはよ」

「おはようございます、ナギさん」

「おはよー」

「おはようございマス。体調はどうですカ?」

「問題ないですよ」

「そうですカー」


 そういいつつミサさんは僕に近寄ってきた。

 そして、僕の目の前に立ち手を伸ばしてくる。


「ミ、ミサさん?」


 ミサさんが何故か僕の頭を撫でてくる。


「アリスちゃんはがんばっていたんですネ」

「い、いきなり何ですか。恥ずかしいからやめてください」


 そう言うとミサさんは手を離してくれた。


「私もやるー」


 なんかアールスまでやって来た。


「あたしもー」


 さっきの怒っていたアイネはどこに行ったのやらアイネまで僕の頭を撫でようとしてくる。


「何で撫でようとしてくるの!?」

「こらっ、避けるな」

「観念しろー」

「レナスさん助けて!」


 二人の魔の手から逃げつつ撫でようとしてこないレナスさんに助けを求める。


「わ、私も撫でたい……です」


 救いは無かった。僕がレナスさんの頼みを断れるはずもないのだ。

 三人に心行くまで撫でられながら事の発端を聞くとどうやら昨日僕は僕の心の闇を話してしまったらしい。

 だからミサさんは励ますつもりで頭を撫でてきたようだ。他の三人? ただの便乗犯だと自白した。

 話している途中でカナデさんが起きてきたのだが、カナデさんは僕を見るなり抱きしめてきた。

 カナデさんも昨日僕が言った事を気にしているようだ。

 皆の反応を見て罪悪感が消えたわけじゃないのだけど、正直気持ちが楽になった。

 今の両親にした事は許されない事だけれど、この世界に生まれた事は少し許された気がしたんだ。

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[気になる点] >くっそー。きのーからねーちゃんはあたしの期待を裏切ってばっかだ! 酔ったら泣きじょーごだし アイネはナニを期待したんでしょうかねぇ? キス魔? それとも理性を飛ばしてレナスへ襲いか…
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