きっと同じ気持ち
本日二回目の更新です
よければ前話からお読みください
アイネの事をミサさんに託した後少しの間ぼーっとしていたようで気が付けばレナスさんが僕の手を握っていた。
カナデさんも心配そうに僕を見ている。
「ナギさん。私は離れませんから」
「……ありがとう」
この子ならそう言ってくれると知っていた。だから皆に話せたんだ。
だけど甘えてばかりもいられない。確かにアイネに逃げられたのはショックだったけれど他の皆をいつまでも心配させる訳にはいかない。
「ぴーぴー」
僕も僕も、とナスまで身を寄せてくる。
「ありがとう」
「わ、私も離れませんよぉ」
「ふふっ、ありがとうございます」
慌てた様子のカナデさんがなんだかおかしくて失礼だけれど少し笑ってしまった。
「でも、本当にいいんですか? 僕心は男なんですけど」
「アリスさんの事信じていますからぁ」
「すけべな目でカナデさんの事見てしまうかもしれませんよ?」
「うふふ~。アリスさんはそんな事しませんよぉ」
「……」
やばい。カナデさんの純真な笑顔を真っ直ぐ見られない!
すみませんちょっとそういう目で見てる時があります! 本当にごめんなさい!
心の中で土下座していると小屋の扉が開く音がした。
扉の方を見るとミサさんがいた。肩にはゲイルを乗せている。
けれど傍にはアイネはいないみたいだ。
「ミサさんアイネは?」
「アイネちゃんはとても混乱している様子で今アリスちゃんと会うのは恥ずかしいそうデース。ただ逃げるような真似をしてしまった事は後悔していテ、謝りたいと言っていましタ」
「そうですか……えと、恥ずかしがってるようですけどミサさんから見てアイネの様子はどうでしたか? 泣いてたりとかは」
「してなかったですヨー。むしろ……ちょいこっち来てくだサーイ」
ミサさんが僕に向かって手招きをするのでレナスさんに手を離してもらいミサさんの傍に寄った。
するとミサさんは屈み僕の耳元に顔を近づけてきた。
「どうやらアリスちゃんが男性だったら自分の男にするという発言をした事を悔やんでいるようデス。もしかしたらアリスちゃんの事を傷つけてしまったのではないかと悩んでいましタ」
「ええ……そんな事気にしてるんですか?」
「アイネちゃんの発言にアリスちゃんに思う所があったりとかハ?」
「無いですよ。ただの雑談だったから真剣に受け止めたわけではないですし」
「ならば逃げ出したのは罪悪感もあるようでしタ。アリスちゃんの方からしっかりと気にしていない事を伝えれば大丈夫でショウ」
「えと、アイネからはそれだけですか?」
「オット、それだけじゃないですヨー」
ミサさんが僕から顔を離し姿勢を正した。
「今日の所はワタシの所で寝たいと言ってきましタ。ゲイルも一緒にネ」
「きーききー」
「今晩はアイネと一緒にいたいの? それは別にいいけど……宿の方に許可取らないといけないな。許可取れるか分からないよ」
「きー」
ちらっと今日は僕もナス達と一緒にここで寝てしまおうかと思ったけれどいつもと違う事をしたらアイネが気にしてしまうかもしれない。
今日の所はいつも通り宿に泊まっておいた方が無難か。
「アイネは寝相悪いから絶対に同じベッドで寝たら駄目だからね。ゲイルは小さいんだから潰されちゃうよ」
「きー」
「アイネがミサさんの所で寝るって言う事はカナデさんと交換ですか?」
「そうなりますネ。カナデちゃんはそれでいいですカ?」
「いいですよ~」
「ま、待ってください。それでしたら私がカナデさんと変わりナギさんの部屋で!」
レナスさんが慌てた様子でそんな事を言い出した。
僕の事を心配しているんだろう。優しい子だ。けれどそんな優しい子に心配させてしまう事に胸が痛む。
「ん~、レナスさん。今日は私に譲ってくれないでしょうかぁ?」
「え?」
レナスさんが驚きの声を上げる。
僕もカナデさんがそう言いだしたのは予想外だった。いつもだったらカナデさんはレナスさんに譲っているはずだ。
「私アリスさんと二人でお話したい事があるんですよぉ」
「話したい事ですか? そういう事でしたら僕はかまいません。レナスさんもそれでいいよね?」
「は、はい。ナギさんがそうおっしゃるのでしたら……」
話したい事とはいったい何だろう。転生に関係する話だとは思うのだけど。
話がとりあえず終わった後他の皆は銭湯に行き僕だけは小屋に残って身体を洗う。これからは一緒にお風呂に入らない理由を堂々と言えるようになったので気が楽だ。
ゲイルは宿にきちんと許可を貰っておき、アイネ達が帰ってくるまで僕と一緒にいて貰った。
部屋で待っているとカナデさんと一緒にミサさんがやって来たのでゲイルと一緒にアイネの荷物を預ける。
そして少し雑談をした後ミサさんは自分の泊まっている部屋へ帰って行った。
残されたのは僕とカナデさん。
もう夜も遅い。シエル様との話もあるからそろそろ切り出した方がいいだろう。
「それでカナデさん。僕と話って何ですか?」
「ああ、はい。実はですねぇ、私ずっとアリスさんと私は似た者同士だと思っていましたぁ」
それについては僕も思っていた事だ。僕はカナデさんほどのんびりはしていないが不思議とよく波長がよく合うのだ。
「アリスさんって結構臆病じゃないですかぁ。そういう所親近感がわくんですよね~」
「ふふっ。分かります」
「でも……アリスさんは自分からまとめ役を買って出たりして責任感が強いですよねぇ。私には足りていない物ですぅ。
やっぱり男の子と女の子の差なんですかねぇ」
「それは違います。カナデさんだって僕とレナスさんがした事ない事、慣れない事をきちんと教え実践し導いてくれていたじゃないですか。
責任感が強くなければそういう事はおざなりになってしまう物です。
もしもカナデさんが適当な人だったら一緒に旅をしようとは思いませんでしたよ。
僕達はカナデさんの事を見てカナデさんを尊敬しカナデさんと一緒に旅をしたいと思ったんです」
「う~、そう言われると照れてしまいますよ~。と、とにかく、私は頑張ってるアリスさんの事が好きなんです!
はっ!? す、好きと言っても変な意味じゃないですよ~」
「分かってますって」
「そ、そうですかぁ? ひ、人として好きって事ですよぉ?」
「ふふっ、そんなに慌てなくても分かってますよ。カナデさんも言ったじゃないですか。僕達は似た者同士だって。僕もきっとカナデさんと同じ気持ちです」
「ああっ! なるほど~。うふふ~。それなら納得です~」
「でもどうして急にこんな話を?」
「え? えと~……そのぉ、意思表明みたいなものですかねぇ。
私はアリスさんの事が好きです。だから心が男性であろうと私は一緒に旅をする事をやめません」
「うっ、そう真面目な顔で言われるとさすがに照れますね」
「うふふ~。じゃあ先ほどのアリスさんへのお返しになっちゃいましたね~」
「あははっ、そうですね」
ああ、本当にカナデさんと出会えてよかった。
これだけ僕の事を信じてくれるんだ。期待に答えられるようにならなくては。
「それはそれとして僕からも聞きたい事があるんです」
「なんですかぁ?」
「僕って男である事を全力で否定されるほど女の子っぽいですか?」
僕の問いにカナデさんは曖昧に笑うだけで答えてくれる事はなかった。