秘密
僕の言葉に三人は困惑の表情を浮かべる。
少し間を置いてから続きを話す。
「僕に神聖魔法を授けてくださっているのはシエルというツヴァイス様達五柱とは別の神様なんです」
もう一度間を置く。さすがに突拍子もなくて言葉を理解するのに時間がかかるだろう。
少しの間の後口を開いたのはミサさんだった。
「えと……聞きたい事は色々ありますガ、とりあえず聞かせてくだサイ。本気ですカ?」
「本気ですし正気です。証拠を見せましょう」
僕は手始めにフォースを使い僕の顔の横に浮かせる。
「これは『フォース』と言って光属性の攻撃魔法です」
「光属性の攻撃魔法!?」
カナデさんとミサさんはいまいちピンと来ていないのか困惑したままだけれど、アイネだけは驚きの声を上げた。
「攻撃魔法と言っても本質は浄化。魔素や魔素に侵された肉体を浄化させるものです。普通の人間に当てても一応効果はありますが、対魔物用の魔法ですね」
「魔素に侵されたって、まじゅーにも良く効くって事?」
アイネは戦闘関連の事に本当理解が早いな。
「そうだよ。シエル様から授かる魔法はほとんどが浄化の魔法なんだ」
ステータスやライトシールドもあるがこの二つは廃止されたり効果が変わる予定なので今は話さない方がいいだろう。
「でも実際の効果を見せる訳にはいかないので証拠というには少し弱いでしょうか。
本当はアナライズかライアーをかけてもらえれば話は早いんですけど……」
「そうですネ。ですがアリスちゃんがわざわざそのような嘘をつく理由がわかりまセン。
悪ふざけでこんな事を言う子では分かっていマス。かと言って本当は神聖魔法を使えないのにワタシ達を騙していたという線はもっとありまセン。
何度も神聖魔法を行使しているのをこの目で見ていますからネ。
とりあえず真偽のほどは置いておいて何故五柱ではない神の事、そして何故力を授かったのカ、それを聞かせてくれませんカ?」
「分かりました。少し長くなりますが話しましょう。
まず人は死んだら魂は回収され穢れを落としきった後新たな生を与えられる事は知っていますね?」
前世の僕に関する事以外の事は全て話した。
ミサさんは知的好奇心が刺激されたのか興奮した様子で独り言を繰り返している。
カナデさんは分かった分かってないのか、そもそも真面目に聞いてくれたのかヒビキと戯れている所為で判断がつかない。
そしてアイネは……。
「レナスねーちゃんは今の話知ってたの?」
「知ってるよ。アールスも知ってる」
「いつから?」
「僕が転生者って言うのは八、九歳の時に話したよ」
「ふぅん……そんな昔から知ってたんだ」
「黙っててごめん……」
「それは別にいーよ。黙ってたりゆー何となくわかるし」
そうは言うがアイネは明らかに気にしている様子だ。
「この件で他に黙ってる事ってない?」
「……」
アイネの問いには答えられない。ないなんて言えるはずがない。だけど前世が男だったという事を言うのははばかられた。
「あるんだ。それってゆーのが怖いから言わないの? ゆーのが怖くて教えてくんないんだったらあたしねーちゃんの事もー信じないから」
「えっ」
「とーぜんでしょ。この期に及んでまだ怖いから話さないってねーちゃんがあたしの事信じられないって言ってるよーなもんじゃん。
まぁ特別なりゆーがあって話さないってのなら仕方ないけどさ」
「もちろん特別な訳があって……」
「あたしの目を見て言って」
そう言ってアイネが無理やり僕の顔を掴んで目を合わせてくる。
この状況でも嘘をつこうと思えばつける。きっと騙せるだろう。何せ何年もあの子と一緒にいて自分を偽る事には自信があるのだから。
だけどここで嘘をつくのは果たして正しい事なのか?
アイネの言う通り皆を信用していない事になるんじゃないか?
「……分かった。でもこれから話す秘密は今回の件とか関係するけど知ってても知らなくてもこの世界には関係ないし影響も与えない。
けど、僕達の関係を壊す可能性がある。それでも聞く勇気はある?」
そう聞くとアイネは僕の顔から手を離し少し離れてから力強く頷く。
「もちろん!」
「カナデさんとミサさんはどうですか」
「ん~、大丈夫ですよぉ。私アリスさんを信じていますから~」
「聞いて欲しくないのなら聞きませんガ、出来る事なら聞きたいですネ」
「なら、言おう……僕は、僕の前世は男だったんだ。そして今もその意識は変わってない。身体は女の子でも心は男なんだ」
「ふぇ?」
アイネから変な声が聞こえてくる。
「あー」
カナデさんはなんだか納得したような声を上げた。
「なるほど……道理で仕草が時々男性っぽいと思っていましタ」
ミサさんにはどうやら僕のにじみ出る男らしさに気づいていたようだ。
「皆さん。一緒にお風呂に入って申し訳ありません」
「な、ナギさん! それは私が無理やり入ろうって言ったからです! ナギさんが謝る事では……」
「いいんだ。止めなかったのは僕の責任なんだから」
「でも……」
こうしてこの子に悲しい顔をさせているのも僕の責任だ。
「ねーちゃんが……男?」
アイネが僕から一歩遠ざかった。
それを見て胸に痛みが走る。
「嘘だよね?」
「本当だよ」
「嘘だ! 誰よりも女の子っぽいねーちゃんがにーちゃんな訳ないじゃん!」
「それに関しては同意ですね~」
「アイネさんの気持ちすごく分かりマス」
「でしょ!?」
「ええ……」
「でもアリスさんの前世にいた世界は異世界。男性が女子力高くても不思議ではないのではないですかね~」
そうか、僕は女子力が高いのか。……女子力が高いと言われると地味に傷つくな。
というか僕の所為で前世の世界の男性に誤解が?
「歩き方も男性みたいですからネ。アリスちゃんの歩き方が異世界の女性の歩き方と同じというのなら別ですガ」
歩き方か。意識したことないけれどそんなに皆と違うのだろうか。
「あの、皆お風呂に一緒に入った事は……」
「わざわざ目をつむってた理由って見ないようにしていたんですかぁ?」
「は、はい」
「うふふ~。アリスさんらしいですねぇ。そういう律儀なアリスさんだからこそ私は気にしていませんよぉ」
「ワタシはがっつり見られたようナ? いやいや、それよりもワタシの胸に抱き着いた事も……」
「あれはミサさんが無理やり僕を抱きしめてきたんでしょう!?」
「ハハハッ、そうでしタ。あの時は恥ずかしがってるアリスちゃんがかわいくてついやってしまいましタ」
「ついって……」
思わず笑ってしまいそうになった所でアイネが視界に入った。
アイネは、アイネだけは暗い顔をしていた。
「アイネ……」
手を伸ばし近寄ろうとするとアイネはびくっと身体を振るわせた後ゲイルを抱きしめたまま小屋を出て行ってしまった。
アイネが怖がっていた。ああ、当然だ。僕はそれだけの秘密を話してしまったんだ。
「ワタシが追いマス」
「お願いします」
予想はしていたとはいえ、結構きついな……。
ナギが女の子っぽく見えるのは他の女性陣(特にレナス)の視線を気にして仕草を丁寧にしているのと髪へのこだわりから
特に髪への愛着はアイネには特に女の子らしいと捉えられています
歩き方については実は女性の骨格からすると結構無理な歩き方をしているのでナギの骨盤はおかしなことになっています
けれど幼い頃から続けていた事と成長期に痛みを覚えてもヒールで無理やり治したりした影響で歪だけど運動しても問題ない形になってしまっています(悪影響がないとは言っていない)