いつかを今に
(そうですか……ついに話す気になったのですね)
(はい)
元々皆にいつか話すつもりはあった。けれどそれはあくまでもいつかだった。この時期に話そうと後押ししてくれたのはアールスだ。
アールスのトラファルガーの鱗を得る為に努力していた姿を見て勇気を貰ったんだ。
(私としてはもう少し時間が欲しかったのですが、仕方がありません。
那岐さん。実は私もそちらの世界に分体を残しツヴァイスさんに協力をする事が決まりました)
(えっ? そうなんですか?)
(ええ。先ほど話した時に那岐さんの話題が出まして、何かの縁だと思い協力を申し出たのです)
(そうだったんですか……)
先ほどってもしかしてシエル様が分体で僕にこっそり会いに来た時の事だろうか? シエル様たちは僕達とは時間の感覚が違うからな。
(今はまだ魔の者達と戦うための分体を構築中なので活動する事は出来ないのですが、そこで那岐さんにお知らせがあります)
(なんでしょうか?)
(私の授けてる神聖魔法はこの世界に適応させるため多少の変化が起こります。
それでこの際いっその事授ける魔法の内容も一部変えてしてしまおうかと考えています)
(どういう風に変えるんですか)
(ホーリーの長さを短くしようかと。やはり光の柱が長いと目立ってしまいますよね?)
(それはぜひお願いします)
成層圏も突き抜ける魔法なんて目立ちすぎる。もしも魔物の勢力圏でホーリーを使おうものなら取り囲んでくださいと言っているような物だ。
さらにそんな効果だからか燃費も悪い。今の僕でも一回しか使えない魔法だ。
(それとライトシールドも効果と名称を変えるかもしれません。具体的には魔法に対する防御性能を高くすることでゼレさんのライトシールドと差別化を図ろうと思います)
(なるほど。ライトシールドはどんな攻撃でも防げますけど、それは一度だけ。出来る事なら持続力が欲しいですね)
(ステータスの方は廃止してもいいと思っていますがどうでしょう?)
(個人の情報についてはラーラ様の神聖魔法がありますから廃止していいと思いますよ)
(分かりました。それならば廃止の方向で考えましょう。
それと効果の変更だけではなく、頼みがあるのです)
(頼み? 僕にできる事なら何でもしますが)
(フォースを受けた魔獣にどのような影響があったか話を聞いて欲しいのです)
(影響ですか?)
(ええ。フォースのような光属性の攻撃魔法は本来魔素に侵された部分を浄化するものだと前に説明しましたが)
されただろうか? いや、されたような気はする?
(当然魔獣にも効果はあるはずなのですが、今思うとあまり痛がっている様子がが見られなかったので確認してほしいのです)
(それはいいのですけど、フォースって全身に浴びたら魔獣じゃなくなるんですか?)
(一度変化してしまった肉体は元には戻りませんので元の動物に戻るという事はありませんが、普通の肉体となるのでマナの生成量は少なくなります)
もしかして他の魔獣に比べてナスのマナの量が少ないのはフォースを当ててしまった所為か?
(ただそれは全身にくまなく浴びせた場合です。一部だけでしたら放っておいたら周りの魔素に侵された場所からまた浸食されてしまい元の身体に戻ってしまいます)
(ちなみにくまなく使った場合魔獣が不老で無くなったりとかは)
(恐らくは無いはずです。不老なのは身体の仕組みが変わりマナで身体を最善の状態に維持しているだけなので、魔素が無くなってもマナが無くならない限りは不老のままです。
しかし、全身にやるとなるとさすがにその時の痛みで死んでしまう……はずです)
(シエル様でも分からない事ってあるんですね)
(私の世界とツヴァイスさんの世界とでは仕組みが違うのですから当然です。だから確認をして欲しいのですよ。
それと那岐さん。皆に話すという事は欺瞞工作の為に那岐さんに授けたルゥネイトさんと同じ特殊神聖魔法は消す事になりますが)
(はい。僕の我儘を聞いてくださりありがとうございました)
感謝を述べると同時に僕の中からシエル様から特別に授かった魔法がまるで記憶が薄れていくかのように消えていくのが分かった。
さあ次は皆にどう話すかのかを考えないと。
レナスさんと話し合った後宿に戻るとアールスが戻っていた。
レナスさんとの相談に随分と時間をかけてしまったようだ。
アールスにもシエル様について皆に話す事を告げると驚かれたけどレナスさんのように反対してくる事はなかった。
ただレナスさんとすでに相談を終えてしまった事に抗議された。
「もうっ! 二人で勝手に決めちゃってさ」
「ごめんなさい……」
「ごめん。それともう一つ、明日の祝勝会が台無しになるかもしれない。これはいままで皆に話せなかった僕の責任だ。本当にごめん」
「あ、謝る事じゃないよ! 別にこの間もやったばっかりなんだから今回はやらなくたって」
「祝勝会は僕達の為に戦ってくれたことに対する感謝でもあるんだ。だからなるべく祝勝会はやりたいと思ってる」
「うー……気にしなくていいのに」
「気にするなっていう方が無理だよ。何せトラファルガーの尻尾を切るっていう何百年ぶりかの偉業を成し遂げたんだから」
一緒に来ていた役人さんが詳しい年数は覚えていなかったけれどそんな事を言っていた。
「別の私の力だけじゃないし。……それにしても尻尾つなげ直しただけだったけど良かったのかな」
「ああ……鱗はぎ取られた痕痛々しかったよね」
今回一応僕が治療士としてトラファルガーの治療を行った。
マナは余裕があったのだけど、鱗の再生だけは必要ないと言って断られてしまった。
「生え変わるって言ってたから大丈夫じゃないかな。古い鱗は硬い分動きにくくなるから取ってくれる分にはむしろありがたいって言ってたよ」
もしかしたらそれがトラファルガーが認めた相手に鱗を渡す理由なのか。
身体を動かす事によって硬くなった鱗同士を擦らせ削ったり、取りやすくしているのかもしれない。
そして固まってきたかさぶたを取る時のように鱗を雑に取ったら余分に肉も取れてしまって痛いから治療が必要だけど、今回アールスは剣を使いきれいにはぎ取りヒールだけでも十分治るくらいの傷に収まったのだろう。
いうなれば皮膚の角質化してしまった部分を丁寧に取り除いたような物だろうか。
そうなると疑問なのが脱皮しないのか? という事なのだけどトラファルガーの鱗や皮を拾ったという話を聞かないからきっと脱皮はしないか非常に長い周期がかかるんだろう。
「そっか。そんな話してたんだ?」
自分にも話してほしかったなと目で訴えてきている。
「さすがにアールス疲れてたみたいだったからね。実際僕がトラファルガーと話しても気が付かなかったみたいだし」
「うっ」
「今晩の話もアールスは部屋で休んでるようにね」
「えっ!? そ、それ位大丈夫だよ」
「駄目です。まとめ役としての命令で今日はしっかりと休むように」
「でもぉ……」
心配そうに見てくるが僕はアールスに対し首を横に振った。
「心配ないよ。僕にはレナスさんがついてるからね」
「あっそっか」
女の子に頼るのも情けなくは感じるがアールスを安心させるにはこう言っておいた方がいい。
その証拠に僕の言葉にアールスは僕の隣に立っているレナスさんを見てすぐに納得してくれた。
やっぱり僕はそこまで信用されてないんだな。しかたない。弱い所を何度も見せているのだから。
それにしてもあっさりと納得出来るレナスさんに対する信頼の高さよ。実際いつも助けて貰っているから当然だ。
「ま、任せてください。アールスさんの代わりに私がしっかりとナギさんをお助けします。ですからゆっくりと休んでいてください」
「うん! レナスちゃんなら安心だよね……傍にいれないのはやっぱ残念だけど」
寂しげに呟くアールス。
だけど今は休んでいてほしい。これからは僕が戦う番なのだから。
いつもよりも早い夕食の後、アールスを除いた皆を話がある事を伝え魔獣達のいる小屋へ連れてきた。
僕の秘密をちゃんと知っているのは実を言うとナスとアースだけだ。
ヒビキとゲイルには簡単には伝えてあるが詳しくは伝えていない。いや、伝えられなかったと言うべきか。二匹は長話になるとすぐに寝るかどっかへ行ってしまい話を聞いてくれなかったのだ。
まぁ本当に重要な話という訳でもないから聞いてくれなくてもいいんだけれど。
ヒビキはカナデさんに、ゲイルはアイネに、それぞれ突然やってきた相手にすり寄って触れ合っている。二匹の事は二人に任せよう。
「それでアリスちゃん。話とはなんデスカ?」
じゃれ合っている二人と二匹をしり目にミサさんが真面目な顔で聞いてくる。
「はい。話が長くなるので最初に要点だけ伝えます」
僕の言葉にアイネとカナデさんがこちらを向く。
「僕が授かっている神聖魔法は本当はルゥネイト様の物ではありません」
ちなみに現状シエル様から授かる事が出来る神聖魔法は以下のようになっています
第一階位 ヒール、キュア
第二階位 ステータス、フォース
第三階位 エリアヒール
第四階位 サンライト、ライトシールド
第五階位 セイクリッドバリア
第六階位 インパートヴァイタリティ
第七階位 パーフェクトヒール
第八階位 サンクチュアリ、ホーリー
第九階位 ピュアルミナ
第十階位 ???
奇数階位及び第十階位の魔法が全ての神様から授かる事の出来る汎用魔法で、十階位以外の偶数階位がその神様しか授けない(事になってる)特殊神聖魔法です