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十戦目

 アールスが七連勝を達成した日から街での話題はその事に持ちきりとなっていたらしい。

 八連勝を達成したその日にはアールスの正体を知りたがる声があちこちから聞こえてくるようになったのでライチーに頼んで姿を別人に見えるようにしてもらった。

 九連勝を果たすと数ある挑戦権獲得の最短試合数記録の中でも最年少美少女闘士の誕生の予感に街中が湧いた。

 その九連勝を果たした夜、アールスはアイネに部屋を交換して欲しいと申し出た。

 どうやら十戦目を前に夜僕と過ごしたいらしい。

 アイネはしぶい顔をしたがアールスの申し出を受けて一夜だけ部屋を交換する事になった。


「アイネちゃんには悪い事しちゃったかな」

「大丈夫だよ。アイネが渋ってたのは魔力感知の修行が出来ないと思ってたからなんだ。交換する時に修行は僕と離れてもできるって教えたら安心してたよ」

「そうなんだ。よかった」

「それで、どうしたの急に僕と一緒に過ごしたいだなんて」

「うん……あのね、私ここの所試合に負けないようにって寝る前にレナスちゃんから元気貰ってたの」

「元気を?」

「うん。レナスちゃんを抱きしめさせて貰ってたの。で、レナスちゃんが今日はナギから元気貰った方がいいんじゃないかってレナスちゃんが言ってきたんだ」

「ふぅん? レナスさんの提案なんだ」


 気分転換に、という事なんだろうか?

 なんにせよレナスさんの事だ。アールスにとっての最善を考えての事に違いない。


「そういう訳でナギ。抱き着いていい?」

「いいよ。おいで」


 両手を広げるとすぐにアールスが僕に抱き着いて来た。

 それにしても、レナスさん相手に毎晩やっているという事はやはりアールスでも試合を不安に感じていた証拠なのだろうか。

 アールスの抱き着きはおおよそ三十分ほど続いた。

 三十分ほどの間僕達に会話は無く、抱き着かれている間僕はアールスの背中を優しくさすっていただけだった。


「んー……ナギ、ありがとう」

「もういいの?」

「うん。さすがにもう寝ないとね。一緒に寝よ?」


 アールスは僕の手を取ってベッドへ誘導してくる。


「はいはい」


 僕は抵抗する事無くアールスと一緒にベッドに寝転がり、そして眠りにつくまでずっと手を繋いでいた。




 闘技場へ行く道の途中街は早朝だというのに騒めいていた。

 耳をすませば聞こえてくるのは今日勝てば十連勝を達成するアールスの噂ばかりだ。

 今日は観客席が満員になる事を恐れ訓練を早くに切り上げ朝早くから闘技場に行こうと考えていたのだけど道を行く人達も同じ考えのようだ。


「今日も座れないかもしれませんネ」

「座れないのは辛いですねぇ」

「下手したら見る事も出来ないかもよ」

「せやな。昨日もぎょうさん人おったしそうなってもおかしゅうないわ」

「急ぎましょう。座れないのはともかく応援できないのは大問題です」

「そうだね。急ごう」


 今日の試合はアールスの最後の試合という事で応援のために全員がいる。

 全員分の席とまでは行かなくても人が一杯で入れなくなるというのは避けたい。

 事実昨日は立ち見すら窮屈なほど人が観客席にいた。

 九戦目の昨日でそれなのだから十連勝が決まるか否かの今日は入れなくなってもおかしくないのだ。


 そんな訳で急いで闘技場へ行くと時すでに遅し。入り口には長蛇の列が並んでいた。

 幸い闘士が試合登録をする場合は並ばなくても大丈夫なようだ。

 

「じゃあ行ってくるね」

「うん。気を付けて」


 アールスは登録の為に、僕達は長蛇の列に並ぶために分かれた。

 登録の方は時間的にまだ始まっていないのだろうからアールスは時間を潰す事になるだろう。 




 長い時間をかけて観客席には何とか出る事は出来たが座る事は出来なかった。

 いや、出来たとしても座りながら見る事はなかっただろう。何せ最前列の椅子の前にも立ち見している人がおり座っていると試合が全く見れない状況になっているからだ。

 一体何時から闘技場に並んでいたのか。徹夜でもしていたのだろうか?

 僕達は段差のある所は危ないと感じ最後列の後ろの会場の壁の前に陣取る事になった。

 試合場まで遠いし前にいる人も立っているので見づらいから人気が無い様だが僕達にはライチーがいる。

 ライチーに頼み拡大映像を宙に映してもらう。それによって周囲から注目されるが気にしない。

 アールスの順番はアロエが確認してくれた。アールスの番は意外と遅く五番目。

 一試合は大体速くて五分前後。遅くても二十分から三十分位かかる。

 さらに試合後の試合場の整備や観客の休憩時間に五分の休息時間があるのでアールスの出番は早くて九時頃。遅くて十一時半頃になる。

 ただ僕が役所に滞在を頼まれた理由のように現在大半の闘士は試合に対し慎重になっている。基本的に試合は実力差が相当ないと長引くと考えた方がいい。


「試合相手はフクシアですか……」

「たしか今一番人気の女性闘士だよね。通りのお店にも良く姿絵が売り出されてたっけ」

「はい。お陰で試合の際区別がつきやすくて助かりました」

「確か高い実力を持っていたよね」


 試合を何度か見た事がある。連勝記録こそ七連勝止まりだけれど柔らかい身のこなしから来る死角からの攻撃。さらにそこから繰り出される連撃が持ち味の美人闘士だと姿絵を売っていたお店の人が自慢げに話していた。

 そしてそれは事実だと試合を見て確認できた。

 アイネのように縦横無尽に動き回ったりはしないが非常に上手く魔法を使い相手の目をくらませひるんだ所を叩くと言った戦い方だ。

 魔法の使い方はさすが七連勝している闘士だけあって非常に勉強になる物だった。

 ただ見た限りでは明らかな弱点がある。それは力が弱いという事だ。

 剣での打ち合いを避ける傾向があり、防御のために剣で防いでもすぐに弾かれるという場面が何回かあった。

 もしかしたら技量に特化しているのかもしれない。

 アールスも技量は高いはずだけど、どちらが上かまでは僕には分からない。

 今はただアールスが無事に試合を終える事を願いながら待つしかない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 福島……じゃない、フクシアか。 十戦目。 それにふさわしい戦いとなるのか。 フクシアが非力ってのは嘘で、十連勝を防ぐために常駐する用心棒的選手だった。 とかもあり得る。 [一言] …
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