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面談 その五

 最後の面談相手であるアールスは瞳をきらめかせにこにこと笑顔で僕と対面している。


「ナギ、何でも聞いて!」

「気合入ってるね」

「だってナギと沢山お喋り出来るから楽しみなんだもん」

「あははっ、それじゃあご希望通り早速始めようか。旅に出てから半年くらい経つけどどう? 人間関係含めて困ってる事とか悩んでる事とかない? もしくは要望のような物があったら聞くよ」

「要望って何でもいいの?」

「僕とカナデさんで相談するけど叶えられる範囲でね」

「じゃあさ、私トラファルガーと戦いたい」


 笑顔から真面目な顔へと変えたアールスの言葉は僕にとって予想外の物だった。


「……え」

「ずっと考えてたんだ。私はまだ第一階位だからナギ達のお仕事を手伝う事が出来ない。何か役に立てる事が無いかって。

 それでトラファルガーの鱗を私が勝ち取ってナギとミサさんにあげるの」


 トラファルガーの鱗は持っていれば一流の証とされるが防具の素材としても最高の物だ。たしかにあれば心強いのだけど。


「自分で勝ち取ったわけでもないトラファルガーの防具を身に付けるのってどうなんだろう。あれって戦士としての一流の証だから僕が身に付けても荷が重い気がするよ」

「加工して貰えばわかんないよ」

「そうかもしれないけど……それ以前にトラファルガーに挑戦するのには資格が必要なんだよ?」

「年二回行われるトラファルガーへの挑戦権を賭けた大会に出て優勝するか闘技場で十連勝する事だよね?」

「後挑戦後のトラファルガーへの治療代……だけどこれはアールスは関係ないね」

「うん。自分で使えるからね」

「うん……ねぇアールス。噂で聞いた大会の開催日は八月の終わり頃。十連勝を目指すにしても一日にどれだけ戦えるか分からない。

 さすがに一ヵ月も滞在は出来ないよ? どうするつもりなの?」

「私だけ残ろうかなっておも……」

「駄目だよそれは。アールスだけ残すなんて出来ない。それが危険な闘技場に参加したりトラファルガーに挑戦する為だったらなおさらだ」

「どうして? 私ならパーフェクトヒール使えるし大丈夫だよ?」

「そういう問題じゃないんだよ。パーフェクトヒールが必要な怪我を僕の目の届かない場所で負う事自体が問題なんだよ。

 いい? トラファルガーの鱗はたしかにあれば安全の度合いは上がるだろうけど危険を冒してまで手に入れる物じゃないんだ。

 大げさだとアールスは言いたいだろうけど、実際闘技場では年に数回死亡者が出ているんだ。その数回にアールスが入らないとも限らない。

 僕の目の届かない場所でそんな事をさせたくない。それは僕の本心であるしまとめ役としての責任でもあるんだ」

「でも……」


 アールスは僕のいう事に納得できないようで悲しそうに僕を見てくる。


「それに一緒に思い出を作りたいって言ってたじゃないか。僕も同じ気持ちだ。だから一人で残るなんて事しないでほしい」

「……」


 俯いていてしまったアールスの手を取り僕は続ける。


「ただ一つだけ機会は作れるよ」


 そう言うとアールスは勢いよく顔を上げた。


「ドサイドに滞在しようかっていう話が出てるんだ。これはそろそろアールスとアイネにお金を稼ぐ機会を作ろうと思っているんだ」

「お金を? 私はまだ大丈夫だけど」

「今は大丈夫でもやれる時にやっておいた方がいいんだよ。それにピュアルミナを使う依頼もあるかもしれないからね。

 ただ滞在期間はまだ決まってない。ピュアルミナの依頼が少なかったら短くなるし逆に多かったら長くなる」

「滞在してる間に挑戦権を取れなかったらそれまでって事?」

「それに加えて試合で無茶な事したらそこでおしまい」

「滞在期間は今のところ不明で無茶しないで十連勝すればいいんだね」


 厳しすぎる条件だがこれくらい出来なければトラファルガーに挑むなんて認められない。


「分かった。ナギがそうしろって言うならそうする」

「厳しい条件を出しておいてなんだけどアールスはそれで納得できるの?」

「うん。だってほら私って危機感が持てないからさ、ナギみたいに止めてくれないと自分でもどこから無茶なのかよく分からなくてどこまでも行っちゃいそうなんだよね。

 ナギの事信頼してるからそこら辺の判断はナギに任せようかなって」


 アールスはそんな事を考えていたのか。でも……。


「いや、それは……僕は臆病だから過剰に怖がってるだけかもしれないよ?」

「だったら怖がらない私と合わせたらきっと丁度良いよ」


 そう言ってアールスは笑った。


「んふふっ。そうだね」


 僕とアールスで協力し合うのもいいが後は第三者視点で調整できる人がいればなおいいだろう。僕とアールスならレナスさんか?

 いやいや、レナスさんに限定する必要はない。カナデさんやミサさんだっている。

 いろんな人の意見を聞くのも大事だろう。


「うん……とりあえずこの話はここまで。後は実際にドサイドに着いてからにしよう。

 他に何かあるかな」

「えとね、えーと……特にないかな?」

「そっか。じゃあ他の皆との仲はどうかな? 特にミサさんとか……」


 仲間達の聞くが今までに他の皆から聞いていた聞いていた話以上の事は聞けなかった。

 特別な事は何も起こらず皆と仲良く出来ている様だ。

 思えばアールスは昔から友達を作るのが上手かったな。

 相手との距離を図るのが上手いと言えばいいのだろうか。それとも空気を読むのが上手かったのか。

 とにかくアールスは友達が多かった。首都アークでも交友関係は広かったようで街中を歩いている時によく声を掛けられていた。


「アールスはいつも元気で誰とでも仲良くなれるよね。それはとてもいい事だと思うけど、旅に出て長く暮らしていた街から離れて寂しく思う事とかない?」

「時々思うけど大丈夫だよ。ナギ達がいるもん」

「本当に? いつも僕やレナスさんにべったりなのは寂しさの表れだったりしない?」

「え? 私ってそんなに二人にべったりくっついてる?」

「昼間歩いてる時は大抵僕かレナスさんが相手してるよね」

「そ、それはカナデさんやミサさんって年上だから話しかけ辛いっていうか話題がないし……」


 アールスは人に対して物怖じする事が出来ない。そして、話題が無くても空が青いだとかトカゲが横切っただとか無理やり話題を作るのがアールスだ。

 僕にはアールスの言葉が言い訳にしか聞こえない。


「アールス。やっぱり寂しいんだね」

「あ、ち、違うの。寂しいのはね、その……お母さん達と離れたからじゃないの」

「じゃあ何に対して寂しいと思ってるの?」


 僕が聞くとアールスは珍しく僕の顔色を窺うように見てきた。


「えと……言わないと駄目?」

「僕は教えて欲しいと思うけど、アールスが言いたくないなら言わなくていい」

「そういう言い方ずるいよ……ナギっていつもそうだよね。自分の要望は言うけど相手には強要させない。相手の判断に任せるふりをして相手の良心を揺さぶってくる。ずるい手だよ」

「なんだか僕がとても酷くずるい人間みたいじゃないか」

「自覚してるくせに」

「……話を逸らすのは良くないよアールス」

「そういう所もずるい。……でもそんなナギでも好きだよ」

「素直に喜べないんだけど……」


 正面に座っていたアールスは座った格好のままずりずりと動き僕の隣に並び、そして寄りかかってきた。


「アールス?」

「ナギの言う通り寂しかったのはほんと。でもその理由は二人の所為なんだよ?」

「二人って僕とレナスさん?」

「うん……二人だけずるいよ。一杯思い出作ってさ。私も一緒に思い出を作っていきたかった……って思っちゃうんだ。自分でアークに行ったのにね。

 おかしいよね。自分で決めたのに。

 レナスちゃんと思い出を作ったナギに、ナギと思い出を作ったレナスちゃんに……二人に嫉妬してる」

「アールス……」

「ずっと一緒にいられなかった事がすごく寂しいの。だからね、今までの分を取り戻したいなって思ってる。迷惑……かな?」

「ううん。迷惑じゃないよ」


 僕には寄りかかってくる重さがそのままアールスの言葉の重さに思えた。

 アールスはまだ完全に僕に身体を預けているわけじゃない。アールスが自分の気持ちを全て曝け出した時僕は受け止めきれるだろうか?


「……ナギはそう言っちゃうよね」


 不意にアールスは寄りかかるのをやめた。


「そう言われると甘えたくなっちゃうよ。でも今は駄目。まだ私は自分で立てるもん。

 自分で立てるのにナギに縋っちゃったら癖になって自分で立てなくなっちゃう。だからナギ。これ以上はもういいよ。大丈夫。とりあえず自分で何とかして見せるから」

「……分かった。これ以上はやめておくよ」

「うん。ありがとねナギ」


 本当はアールスの力になりたい。だけどアールスはまだそれを望んでいない。今アールスは自分で立つ事を望んでいるんだ。

 今アールスは反抗期で自立心を養っている最中なのかもしれない。ならそれに対して僕が出来る事なんてあるだろうか?

 僕は何をすべきなのだろう。

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