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面談 その三

 最初の面談の相手はアイネだ。

 アイネはアールスとは食事当番で組んでいて面談の順番をアールスを先にするかアイネを先にするかで選べたのだけど今回は最年少であるアイネを優先させてもらった。

 旅を始めて一年足らずで外国に行く事になったアイネ。今までもちょくちょく話をして気にかけてはいたがきちんと話すのは初めてかもしれない。


 何か要望があった時の為に忘れないようにメモ用の紙を用意しアイネとの面談が始まる。

 僕の最初の質問にはアイネは予想通りアールスになかなか勝てない事やもっと僕と戦いたい事、少し変わった所では皆と追いかけっこをしたいなど訴えてきた。

 僕との試合の数が減っているのはアイネがアールスとばかり戦いたがっているからなのだけど、それを指摘すると訓練の時間を伸ばしてほしいと言ってきた。

 今訓練の時間は朝の二時間だけだ。夜は各々に任せているけど僕は夜は型の確認のための素振りや予定の確認や相談、勉強などを行っている為夜は試合は出来ない。


 朝の時間を増やすしかないがそうすると日中の移動に余裕が無くなってしまう。

 今は一時間毎に休憩を入れているがこれが結構重要だったりするのだ。

 アースに荷物を括りつけている紐に異常はないかを確かめたりやぶれて穴が開きそうになっていないかを確かめたりするのだ。

 それに僕自身もまだ身に付けている武具の重さに慣れているわけじゃないから休憩の時間は欲しい。

 ミサさんはもう慣れ切っているから何時間歩いても気にはならない様だが……僕がその境地に達するのはまだ先だろう。

 移動速度を速めようにもそこまでする必要があるのかという疑問がある。移動速度を速めるとその分アースに荷物を括りつけている紐や袋に負担がかかり痛むのが早まる。

 それにアールスとよく手合わせをしている所為かアイネはめきめきと実力をつけて見た感じ僕ではもう勝負にならないだろう。

 一緒に旅をしてまだ半年くらいしか経っていないのにアイネの成長速度はおかしいね。

 果たして僕とやってもアイネに得る物があるかどうか。


 そんな訳で朝の訓練の時間の延長は僕は否定的だ。だが他の皆の意見を聞いてから決めてもいいだろう。忘れないようにメモしておかなくては。

 

「次の質問だけど、アイネ。他の皆とはどう? 年上ばかりだけど仲良く出来てる?」

「出来てるよ」


 アイネは考えるそぶりを見せる事なく即答した。

 僕はその迷いのない回答に少しほっとした。


「そっか。ミサさんとはよく一緒にいる所を見るよね。あの人はヴェレスからやって来てまだ一年半位で大分慣れてきたと思うけど、アイネから見てどうかな? 何かこっちの事で困ってる所を見かけた事ってない?」

「えー? ないと思うけどなー」

「無いなら無いでいいんだ。じゃあ逆にミサさんについて困った事ってある?」

「あっ、それならある! ミサねーちゃん一緒にお風呂に入るとすぐ抱き着いてくんだ。あれがけっこーくるしーんだよ」

「そうなの? 露天風呂じゃそんな事なかったよね?」

「毎回って訳じゃないけど時々やってくんの」

「そういえば僕も昔抱き着かれた事あるなぁ」


 あれは刺激が強くて心臓が止まるかと思ったっけ。


「ねーちゃんからもやめるよーに言ってよ」

「ん。分かった。僕からも言っておくよ」

「んもー。そこはびしっとやめさせるって断言してほしーな」

「確約できない約束はしないようにしてるんだ」


 アイネが本気で困ってるならやめさせるけどそういう感じもしない。とりあえず完全にやめさせる事は出来なくてもアイネが苦しくないよう優しくするようにと釘を刺しておこう。


「ねーちゃんのへっぴり腰」

「なんとでも言いなさい。次にカナデさんとはどう?」

「カナデねーちゃん? あんまり合わないかなぁ。なんていうか生きてる速さが違うっていうの? ナギねーちゃんをもっとゆっくりにした感じだよね」


 ペースやテンポが合わないって事だろうか。


「合わないっていうのは嫌いになるほど?」

「んーん。それほどじゃないかな。カナデねーちゃんあたしの事気にかけてくれるし。お菓子買ってくれたりするんだよ」

「んふふ。そうなんだ。じゃあカナデさんとは上手くやってるって思っていいのかな?」

「うん」

「じゃあ次にアールス……は前に聞いたか」

「前にも言ったけどよく話してるよ」

「うん」


 アールスへの悩みもさっき聞いたしアールスは飛ばしていいか。


「じゃあ……次はレナスさんだね。どう? お風呂場での一件以来レナスさんとは」

「あんまり話してないよ。もっとも昔っからあんまり話さないけど」

「そっか……アイネはレナスさんの事どう思ってる?」

「んー。何考えてるのかよくわかんなくて苦手」


 ある程度予想していた答えだった。レナスさんとアイネでは性格が違いすぎる。

 落ち着いた物腰で学者気質なレナスさん。恐らく両親の故郷を一目見たいという理由で冒険に出なければレナスさんは今頃部屋に引きこもって勉強をしていただろう。レナスさんは本来生粋のインドア派なのだ。

 対してアイネはじっとしているのが苦手で外で走り回るのが好きなアウトドア派。

 さらに言えばレナスさんは僕やアールス以外にはあまり感情を表に出さない。鉄面皮というほどではないけどすまし顔を崩すのは難しいとミサさんが言っていたっけ。

 アイネは誰に対しても感情が顔に出る。隠すのが苦手なのかもしれない。

 感情が表情に出やすいアイネにとって感情をあまり見せないレナスさんは理解しにくい存在なのかもしれない。


「アイネはこれからレナスさんと上手くやっていける自信はある?」

「……無いって言ったらどーすんの? あたしの事置いてくの?」


 僕の質問にアイネは不安そうに少し俯いて上目遣いで聞き返してくる。


「そんな事しないよ。アイネが中級のお仕事を受けられるようになるまではまだ時間があるからね。その間に僕やカナデさんも協力して関係が悪化しないようにするよ」

「悪化させないよーにするだけ?」

「問題が起こらなければそれでいいからね。上手くいかせるかどうかは本人達の意思次第かな。もちろん仲良くしたいっていうなら協力は惜しまないよ。

 上手くやっていくって言うのはあくまでも仲間内で害が出るような問題を起こさないように出来るかって事だからね」

「そーゆー問題が起きたら追い出されるって事ね」

「そうなるね。どこの冒険者の集団でも同じだと思うよ」

「……上手くやってく自信があるかって言えば無いかな。さっきも言ったけどレナスねーちゃんって何考えてるか分かんないから怒る個所が分かんないんだよね。

 ナギねーちゃん関連だとよく怒るのは分かってるけど」

「悪戯しなければ怒られないんじゃないかな」

「悪戯なんかしてないじゃん」

「最近のアイネはね。昔は悪戯したから怒られてたんだよ」

「えー」


 覚えてないのか自覚がないのか。


「いきなり後ろから抱き着いてきたり僕の苦手な怖い話を無理やり聞かせようとしたり僕の読みかけの本に悪戯書きしたり……色々したじゃないか」

「あいじょーひょーげんだし」

「はいはい。とりあえずレナスさんの事をどう思ってるか分かったよ。アイネは一度レナスさんと腹を割って話し合った方がいいのかなぁ」

「悪化するかもよ」

「アイネ自身はレナスさんとの関係をどうしたい?」

「……問題起こさないようになんとかしたい」

「じゃあ前向きに検討してね。正直足踏みしてるアイネはらしくないよ」

「ん……分かった」

「じゃあ次に移ろうか。次は魔獣達だけど……」


 アイネとレナスさん。これからどうなるだろう。出来る事なら仲良くなって欲しいけれど……。




 アイネの次はミサさんの番だ。

 最初の話題でミサさんは愚痴をいう事は無くむしろ文化の違いからくる迷惑をかけていないかと質問されてしまった。

 確かに時々文化の違い感じる事はあるけれどそれを迷惑と感じる事はなかった。

 むしろこちらこそ迷惑をかけていないかと問うといえいえこちらこそ、と返され無限ループにはまりそうになったのでそこで話を切り上げる事にした。


「ミサさん。実はアイネから苦情がありました」

「アイネちゃんからですカ?」


 ミサさんは心当たりがないと眉尻を下げた。


「お風呂の際に抱き着くのは苦しいのでやめてほしいとの事です」

「オゥ。アイネちゃん小さくて可愛らしいので手が勝手に伸びてしまうんデス」

「それでも苦しいと言うほどに抱きしめるのはやりすぎです」


 そう言うとミサさんはしゅんとした様子で身を小さくする。


「では次からは優しくしマース」

「……それでも嫌がられたら止めてくださいね。さて、アイネとは仲いいようですけどミサさんから見てアイネはどう見ています?」

「才能豊かで一生懸命でとてもかわいいデス。あの歳の子に模擬戦とはいえ負けるとは思ってもみなかったですヨ」

「たしかにアイネって強いですよね。僕なんかもう全然勝てなくなっちゃって」

「アリスちゃんは地力は高いですが応用力が低いデス」

「僕って応用力低いですか?」

「剣術に限っては低いですネ。基礎はしっかりとしていますガ、それだけデース。基礎を固める事だけに満足しているようにワタシは見えますネー」

「うっ」

「基礎技術を鍛えるのは悪い事ではないんですヨ? ただ、それじゃあアイネちゃんには勝てまセン。なにせアイネちゃんはそれを当然のように行なっていてさらに上を目指していますカラ。

 常に勝つ手順を考えているアイネちゃん相手に技術面で勝つのは難しいですヨ」

「そうですね……アイネに勝てたのは僕がアイネよりも先に生まれて肉体的に勝ってたからです。一回手合わせしただけで次には対策を取られてしまうんですよね」

「ワタシも同じような物ですネ。経験が勝っている分まだ勝負にはなっていますがそれもいつまで続くか分かりまセン。お互い剣士が本業でないのが救いでしょうカ」

「その通りですね」


 ミサさんは精霊魔法も使えるが本人の意識では精霊術士ではなく人を救いの道へ導くシスターが本業だ。

 僕は僕で剣よりも魔法の方が得意だ。さらにいえば盾さばきはミサさんのお墨付きを貰っているので自信がある。

 盾さばきが無かったらアイネと再会したばかりの時でも身体能力だけで押し切る事が出来ず負けを重ねていただろう。


「でも本業じゃないからってアイネのような小さな子に負けるのは悔しいですね」

「フフッ、その通りですネー。じゃあちょっとどうやったらアイネちゃんに勝てるか考えましょうカ」

「それはいいですけど、今日はさすがに無理ですね。まだまだミサさんに聞きたい事ありますから」

「オゥ。面談だという事を忘れてましタ」

「んふふっ。アイネについてはここまでにしましょうか。次はレナスさん。レナスさんとの仲はどうですか? 従姉妹同士ですけどあまり話をしている所は見ないですが」

「一緒の部屋になった時は話しますヨー。それ以外だと確かにあまり話しませんネ」

「あまりうまく行っていないんですか?」

「そうですネー。前はよそよそしかったですケド、最近はヴェレスの話をよく聞きに来るようになりまシタ」


 前にアロエにレナスさんは歴史が好きだと話した事があったけどその所為だろうか?

 ミサさんは故郷について話した事を、レナスさんが何を聞いて何に興味をもった事細かく語り出した。

 従姉としてやはり故郷に興味を持ってくれたことが嬉しいんだろう。いつにもまして喋りの調子が良く熱がこもっていた。

 おかげで気が付けば料理が出来ていて面談の時間が無くなっていた。

 仕方がなかったんだ。ミサさんはお喋りでよく舌が回るしレナスさんの話だったから僕もつい夢中になってしまったんだ。

 ミサさんの続きはまた今度だな……。

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