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体調不良

 気が付くと僕は布団の中にいた。

 どうやらベッドに寝かされていたらしい。


「ナギさん。気づきましたか?」

「レナスさん?」


 ベッドの横にレナスさんが椅子に座って僕を見ていた。三人の精霊もレナスさんの傍に浮いている。

 何があったのか思い出そうとするけど頭が重く頭痛がして上手く思い出せない。

 最後の記憶は……山道を歩いていて……そうだ、一回目の休憩取ろうとして……そこから先の記憶がない。


「えと……ここはどこかな?」

「予定通り西側の鉱山村で取った宿です。ここは東側の宿とは違ってごく普通の宿で、個別に部屋を取るという形式の物でした。

 この部屋は二人部屋で私と同室という事になっています」

「そっか……他の皆はどうしてる? 僕以外に具合が悪くなった人とか出なかった? それに魔獣達も……」

「皆大丈夫です。アールスさんは他の皆とアースさんからの荷下ろしと倉庫への移動をしている所です」

「荷下ろしって事はついたばっかりって事か……」

「はい……ただ、ナギさんが気を失っていたので魔獣達が泊まる為の倉庫や厩舎は借りられませんでした」

「そっか……迷惑かけたね。それじゃあ起きないと……」

「駄目です」


 起きようとするとレナスさんが両手で止めてきた。


「ナギさんは倒れたんですから今日はきちんと休んでいてください」


 そういうレナスさんのの表情はとても苦しげだった。こんな顔をさせてしまうほど心配させてしまったんだ。


「……分かったよ。今日はもう大人しくしておく。それで、魔獣達は今日はどこで?」

「アースさんは宿のすぐ近くにある馬車用の空き地に泊めさせてもらう事になりました。

 他の皆さんは今は寝ているナギさんの迷惑にならないようにとカナデさんが外で相手をしているはずです」

「そっか。じゃあ次に一応僕が気を失った時の状況聞かせて貰ってもいいかな?」

「……私はその瞬間を直に見たわけではないのですが、ナスさんによると急に前に向かって倒れたそうです。

 その際に顔面を強く打ってしまっていたようでおでこや頬には擦り傷、それに鼻血が一杯出ていました」

「おおぅ……大惨事じゃないか。骨折はなかったのかな?」


 骨折はヒールで治る部類の怪我だ。たとえ複雑骨折だったとしてもヒールをかければ骨が勝手に動き治ってしまうんだ。

 ただ、勝手に動くので折れ方によっては治る際かなりの苦痛を伴う事があるのでいくら治ると言っても骨折はしたくない物だ。


「いえ、その……鼻が折れてました」

「あっ、そうなんだ……」


 ヒールがあって本当によかった。鼻が潰れてままになるところだった。


「そういえばアナライズ使ったの?」


 僕の疑問にレナスさんは申し訳なさそうな顔をして答えた。


「はい。念の為に私が使いました」

「使われたことは気にしてないよ。むしろレナスさんが使ってくれてよかったよ」


 市販の魔石に込められたアナライズなら僕の秘密は発覚する事はない。

 だけどそれでもアナライズを使われるというのは気持ちのいいものじゃあない。

 その点僕の前世とシエル様の事を知っているレナスさんやアールス、サラサにディアナ、ライチーなら安心だ。


「……症状は怪我の他に疲労困憊と出て生命力が極端に減っていました」

「ああ……倒れたのは疲れからだったんだね。レナスさんは平気だったのに情けないなぁ。

 ちょっと寝不足気味だったからその所為かな」


「わ、私の所為です……」

「え?」

「私がナギさんから生命力を分けていただいた所為でナギさんは倒れてしまったんです」

「それは……」


 たしかに僕は今日朝と頂上へ登る道の途中レナスさんとアイネに生命力を分け与えていた。


「違うよ。僕が自分の限界を考えないで使ったのが悪いんだ。レナスさんは何も悪くない。だから、自分を責めちゃ駄目だよ」

「違います。ナギさんから与えられる温かみが心地良くて甘えてずっと享受していた私が悪いんです。

 ですからナギさん。もう私には朝の生命力を分け与えないでください」

「……分かったよ」


 そもそも僕が傍にいなくてもレナスさんはきちんと旅が出来るんだ。

 なのに毎朝僕が彼女に生命力を分け与えていたのは彼女の役に立ちたいっていう僕の貢献感を満たす為だけの物じゃないか?

 きっとここでレナスさんの申し出を嫌がってもそれはただの我儘だ。

 いい機会なのかもしれない。僕はレナスさんに対しての特別扱いを改めるべきなんだろう。

 

「……それと」

「ん?」

「ナスさんから聞きました。お昼私達と別れた後体調不良を訴えていたと」

「あ……」

「無理をしないでください……ナギさんに何かあったら私……」

「……ごめん」

「……ナギさんはしっかりと休んでいてください」


 レナスさんはそう言うともう言う事はなくなったのか口を閉ざし乱れていたお布団を正してくれた。

 頭がまだ痛いので深呼吸をしてから再び瞼を閉じるが眠気はない。


 会話の無くなった部屋、シエル様に今日の事を報告していると部屋の扉を叩く音がした。

 レナスさんが出るが僕に配慮してるのか声は小さく上手く聞き取れなくて誰が来たのか分からない。

 目を開けて扉の方を見てみるとちょうどアールスが入ってきた所だった。胸にはヒビキを抱いて頭にはゲイルが乗っかっている。そしてアールスの後にはナスが続いて入ってきた。

 アールスは蝶番のこすれる音以外何も音を立てずに僕の傍へ近寄ってきた。


「あっ、ナギ起こしちゃった?」

「いや、元々寝てなかったんだ。三匹を連れてきたんだね」

「うん。来たそうにしてたから宿の人に頼んだんだ。そしたら許可をくれた。動物連れの冒険者のお客さんって珍しくないんだって。

 後ね、残りの三人はアースの毛づくろいしてるよ」

「そっか。皆に心配かけちゃったね。ごめんね」

「きゅー……」

「ぴーぴー」

「んふふ。まだちょっと具合は悪いけど明日には治ってるよ」

「ききっ?」

「だ、断言はできないけど頑張るよ」


 上半身を起こし三匹を順番に撫でる。


「無理しちゃ駄目だよ? ナギ」

「これぐらいなら大丈夫だよ。皆来てくれてありがとうね」

「きゅー……きゅきゅ」

「え? 今晩は一緒にいたいの? アールス。それって大丈夫? 許可取れてる?」

「大丈夫みたいだよ」

「そうなんだ。じゃあ今日は皆を心配させたお詫びに一緒の部屋で寝ようか」

「きゅー!」

「ぴー」

「きー」

「でもうるさくしたら駄目だよ。隣接してる部屋に泊まってる人達に迷惑だからね」


 今大きな声を上げたヒビキに対して強く言っておく。


「きゅー……」


 ただでさえ三匹の声は高くて遠くまで聞こえやすいんだ。

 ヒビキはもぞもぞと動き出しアールスの腕から抜け出して僕の横にぽてんと落ちてきた。


「きゅーきゅー」

「僕と一緒にいたいの? んふふ。いいよ」

「きゅー」


 ヒビキは僕の頭の横に立ち身体を寄せてくる。羽毛がくすぐったい。


「ききっ」


 ゲイルもおいらもと言ってアールスの頭の上から移動してヒビキとは逆側に降り立った。そしてまるでマフラーのように僕の首元に乗っかる。


「いや、それはさすがに苦しいよ」

「きぃ……」


 文句を言うとゲイルは素直にどいてくれた。そして僕の頬に口を近づけてチロチロという感じで舌で舐めてきた。心配してくれているんだろうか。


「ぴぃー……」


 ナスは自分が混じれなくて不満そうだ。明日元気になったら思いっきり構おう。


「ナギ、私達この後晩御飯を食べに行くけどナギはどうする?」

「ここって食堂ある?」

「あるよ。私達もそこで食べるつもり。食べたい物があればここまで持ってくるよ」

「うーん……あんまり食欲無いから食べやすいスープがいいかな」

「分かった。スープね」


 今日は本当にみんなに迷惑をかけてしまった。

 アースは一匹だけで寂しくはないだろうか。

 夜の露天風呂で星を見るのも無理そうだ。約束を破ってしまうな。

 それもこれも体調管理をおろそかにした所為だ。もう二度とこんな事にならないと気を付けないと。




 気分爽快。昨晩の頭の重たさががまるで嘘のように朝の目覚めはくっきりばっちりすっきりとしたものだ。

 すぐにも起き出たい所なのだけどヒビキとゲイルが僕を挟んで寝ているから下手に動けない。

 二匹とも起こさないようにゆっくりと起き上がり足を床に降ろそうとした所ではたと気づいた。

 床にはナスが寝ている。ベッドの右側と左側どちらに寝ているだろうか? 辺りは暗くて何も見えない。

 下手に足を降ろしていたらナスを踏む所だった。危ない危ない。

 魔法で明かりを点けナスの位置を確認してからベッドから降りる。

 そして精霊達におはようの挨拶を交わす。


『ナギー。もうぐあいはいいの』

「うん。むしろ調子がいいくらいだよ」


 髪に手を当てる。昨日は気づかなかったけど髪型が昨日のお昼と変わっている。僕は変えた記憶がないので誰かが緩く纏めてくれたんだろう。ありがたい事だ。

 昨日はお風呂に入らなかった所為か頭が少しかゆい。汗のにおいもするだろうか?


「きー?」

「あっ、ゲイル起きた?」


 僕が寝ていたベッドで身体を伸ばして寝ていたはずのゲイルの方を見てみると、ゲイルは頭を僕の方に向けていた。

 ゲイルは一度僕から視線を外し前を向いて小さな声を出しながら身体を伸ばした後宙を駆け僕の所へやって来た。

 そして僕の左肩に乗ってくる。結構重い。


「ゲイル。僕汗臭くない?」

「きー」


 やはり臭いようだ。レナスさんが起きる前に身体を洗わないと。

 この宿にはお風呂はあるのだろうか? 昨晩は夕飯を食べた後すぐに眠ってしまってお風呂については聞いていない。

 どうしようかと悩んでいるとディアナが姿を見せた。


「ナギ、お風呂に入るつもりならレナスと一緒に入って欲しい。レナスは昨日ずっとナギを診ていたからお風呂に入ってない」

「えっ、そうなの?」

「きっとナギと一緒の方が喜ぶと思うから」

「そう言う事ならレナスさんに聞いてみるよ」


 臭いについては解決できないけど……仕方ないか。

 レナスさんが一緒に入りたがったら一緒に入ればいいし、嫌がったら別々でいいだろう。

 

「この宿にお風呂ってあるのかな?」

「身体を洗う場所はあるけど湯舟はない」

「そっか。一般的な宿なんだね」


 お風呂がある宿というのは意外と少ない。格の高い高級な宿ならともかく中級以下の宿にはお風呂場が併設されてる事はないと言ってもいい。

 代わりに身体を拭くための水場などがあるのだけど、そこは洗濯物を洗うための場所でもある。洗濯をしている人がいた場合水をはねさせて迷惑をかけないように気を使わないといけないのだ。

 安い宿になるとその水場すらもない場合もあるが、今泊まっている宿の部屋の内装を見る限りその心配はなさそうだ。

 レナスさんが僕とのお風呂を嫌がったら水場に行けばいいかな。

ナギが倒れたのは高山病、寝不足、HP(生命力)の低下、それに心配し過ぎによる精神負担が全て合わさった結果です。

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