ナスは人気者?
「あれ? アールスは?」
休暇後初日の授業が終わり、依頼をやりに行こうとアールスとフェアチャイルドさんを誘いに教室に来たのだけれど、アールスは教室にいなかった。
フェアチャイルドさんに聞いてみるとどうやらアールスは先生と小母さんと一緒に三者面談をしているようだ。きっと寮の事だろう。
仕方ないのでアールスを抜いたいつもの四人で依頼をこなす事にした。
三年生になっても依頼の内容はそう大きく変わる物ではなかった。基本は荷物運びやお使いだ。偶に先生のお手伝いがあるくらいか。
とはいえ、三年生になると流石に一年の時よりも荷物は重いし、お使いも市場の様な遠い所まで行く事がある。最高額も一年の時よりも銅貨二枚増えている。
今日の三年生用の掲示板にはいつもと大して変わらない依頼が並んでいる。
みんなと相談し今日はアールスがいないため荷物運びはやめておこうという事になった。となると残るのはお使いだ。
行き先が重なる依頼を三つ見繕い受付へ持っていく。
今日のお使い先は近くのお店で指定された物を買う事が三つの依頼の内容だ。これは確実に授業に使う物ではなく先生達が個人的に使う物だ。
先生達はこうやって私用を依頼として掲示板に張り出す事が多い。
子供にお金を払ってまで頼みたい仕事なんて普通はそうそうない。だからきっとこれは生徒にお小遣いを与える為の口実なんだろうと僕は勝手に思っている。でもそのお金がどこから出るんだろうか? さすがに自腹って事はないと思うけれど。
学校の敷地から出ると僕達は買う物を纏めてから二つに分け二組に分かれる事になった。今回は力がある者が男女に一人ずついる為男女に分かれた。
でも正直、今フェアチャイルドさんと二人きりのはちょっと気まずい。それはナスの件があるからだ。
怒ってるかな?いや、怒られても困るけど。
魔獣が苦手となると将来一緒に旅するっていうのもできなくなってしまう。ん?でも、フェアチャイルドさんって僕が魔獣使い志望だって知ってるはずだよね?じゃあなんでそんな約束したんだろう?聞いてみようかな?
ちらりとフェアチャイルドさんの方を見てみるとお店の方を見ている。
いかんいかん。まずはお使いを終わらせないと。話すのは後だ。
真面目にお使いの品を探し、借りたお金で品物を買っていく。お釣りの勘定を間違えないようにしないと依頼の報酬が貰えない。店員さんにも購入証明書……と言えば聞こえはいいけど、紙に商品名と商品にかかった値段、それにサインを書いて貰うだけだ。
この世界にもレシートのような物があれば楽なんだけどな。
無事に買い物を終えてカイル君と合流し後は学校へ戻るだけだ。
帰り道の途中フェアチャイルドさんと話すタイミングを計っていたのだけど、カイル君が話しかけて来て中々フェアチャイルドさんと話す事が出来なかった。
カイル君には今日の休み時間のうちにナスを紹介している。カイル君は魔獣と友達になった事とナスのかっこいい角に興奮していた。
学校に戻り受付に行き報酬を貰うと今日は解散となった。
ラット君とカイル君は僕にナスと会いたいとせがんできた。フェアチャイルドさんと話をしたいけれど、今はそんな雰囲気ではなかいか。
「あ、あのさ、フェアチャイルドさんもどう?」
「……」
フェアチャイルドさんは考えるそぶりを見せた後小さく頷いた。
「行きます」
よかった。来てくれる!
「じゃあ行こう!」
意気揚々とカイル君とラット君は走り出した。けど、フェアチャイルドさんの足取りは遅い。
「あ……嫌なら、無理しなくてもいいんだよ?」
「いえ……私、魔獣に慣れたいです」
「え?」
「私……動物が駄目なんです。その、慣れてないっていうか……でもそれじゃ冒険者にはなれないと思って」
「そ、そうなんだ? えと、動物が傍にいるとくしゃみが出るとか、具合が悪くなるとかそういうのないかな?」
「えと……それはわかりません。どうしてですか?」
アレルギーの有無は分からないか。アレルギーあったら本格的に一緒に旅するのは無理だよね……。
「いや、無いんだったらいいんだ。ほら、毛とかさ、喉に悪いかもしれないし」
「マスクがあるから、大丈夫です」
そう言ってフェアチャイルドさんは着けているマスクを手で触った。
「そっか。そうだよね」
「おいお前ら何してるんだよ! 早く行こうぜ!」
「先に行ってていいのに」
「ったく、じゃあ先に行ってるからな」
カイル君が再び走って行ってしまう。
「すごく楽しそう……」
「本当だよね」
ナスの魅力恐るべし。
小屋に近づくと隣に立っていたフェアチャイルドさんが徐々に僕の後ろに移動し、僕の服の裾を軽く握り始めた。
小屋の前には男の子達が嬉しそうにナスに話しかけている。今日はもう遅いからナスを外には出す事が出来ないのが残念だ。外に出して下手に遊んで帰るのが遅くなると寮での夕飯が食べられなくなってしまう。
その為今日は鍵を借りて来ていない。遊ばない理由を作るためだ。
フェアチャイルドさんの掴んでいる裾から引っ張られる力が強くなるのを感じる。
伸びたら不味いかな?
僕は立ち止まりフェアチャイルドさんの手を裾から剥がし、代わりに手を繋いだ。フェアチャイルドさんは抵抗する事無く受け入れてくれた。
手を繋ぎ改めて歩き出す。
「ナス、小屋はどう? 狭くない?」
「ぴー」
どうやら快適らしい。
「ぴぃ」
でも暇でもあると。身体を動かしたいみたいだけど……どうした物か。
「ごめんねナス。外に出せるのは明るいうちだけなんだ」
「ぴぃ」
気にするなと言われても気にしてしまうよね。
そして、フェアチャイルドさんが徐々に後ろに下がっていく。手を離そうとはしないから逃げる気はないと思うんだけど。
「フェアチャイルドさん。大丈夫?」
「はい……」
怖がってはいるけどナスから目を逸らそうとはしていない。単純に大きいから怖いのか、それとも言葉が通じないから怖いのか?
「触ってみる?」
「……怒らないですか?」
「カイル君達だって触ってるじゃないか」
カイル君とラット君はナスに遠慮せずに鉄格子越しに触りまくっている。正直そろそろ怒ってもおかしくない気もするんだけど、ナスは気持ち良さそうにしている。
「多分触られるのが好きなんじゃないかな」
「ぴー」
つぶらな瞳でフェアチャイルドさんを見つめている。
……でもよく見るとナビィの目って確かに怖いよね。人間みたいに白目がなくて真っ赤だからどこ見てるか分かりにくくて、まるですべてを見透かされているような気分になる。
もしかしたらフェアチャイルドさんを見つめているっていうのも僕の勘違いかも知れない。
フェアチャイルドさんは何度か手を伸ばそうとするけれど、すぐに手を引っ込めてしまう。これは長引くな。ゆっくり行こう。
「ナス、器近くに持ってきてよ。マナポーション入れるからさ」
「ぴー」
ナスは奥にあった器を口に咥えて鉄格子の傍に置いた。
まずはクリエイトウォーターで水を貯めて、貯まった水に僕の魔力を練り込む。
「なんですか? それ」
「マナポーションだよ」
後から練り込めばマナポーションを青くする事が出来るようになった。味の方はナスによると甘味はあるけど大味らしい。これは腕の差なんだろうか?
「魔獣って魔力や魔素を身体に取り込んで生きてるんだって」
「じゃあ何も食べなくても生きられるのか?」
「魔素が濃いなら出来そうだってナスは言ってたよ。ここら辺だと魔素が薄いから食べ足りないみたい」
お蔭で僕の魔力の限界量を増やすのが余計に遅れそうだ。
ナスは僕の作ったマナポーションを早速飲み始めた。器を地面に置き両手で器を支えて飲んでいる。
「美味しい?」
「ぴー」
そこそこみたいだ。ちょっと傷つくな。




