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閑話 たった一言

 宿を探す為アリスさん達と一旦分かれた後、散々歩き回って丁度良く部屋が三つ空いていた宿は一つもなかった。

 三人部屋が一つ空いている宿が一つ、小部屋と二人部屋が空いている安宿を一つ見つける事が出来た。

 相談の結果二人部屋にはレナスさんとアールスさんが。

 三人部屋にはアイネさんとアリスさんとミサさんが泊まり残った私が一人部屋に泊まる事になった。

 これはアリスさん達には相談していないのだけど、部屋割りは私達にまかされていたので問題はない。

 そもそもこの場にいない人の為に宿は部屋を開けておく事はしないし、部屋を借りる本人でもないのに鍵を貸すような事はしない。


 宿を取り終わりこれからどうしようかという話になった。

 アリスさん達は今迷子の子供を見つけて親を探している最中らしい。なんともアリスさん達らしい。

 そういえばあの三人は三人とも神聖魔法を使える。

 アリスさんとアールスさんは神官でも尼さんでもないけれど、きっと神聖魔法をいっぱい授かるには優しさが必要なんだなとあの三人を見ているとそう思える。

 レナスさんがそれを手伝いに行こうと言い出し、アイネさんはどうせ合流できる頃には見つかってるだろうからと難色を示した。

 意見が分かれた二人の間に嫌な空気が流れる。

 ああ、嫌だ。こういう空気は胸が苦しくなる。いくつになっても慣れない。


「カナデねーちゃんはどっちがいーと思う?」

「そうですね。ここはカナデさんに決めてもらいましょう」


 二人は一見にこやかな表情を私に向けてくるけど目がどちらも笑っていない。

 ああ、胃の辺りに違和感が。


「遠くないんですし一度合流するのも悪くないと思いますよぉ?」


 自分の口角が微妙に震えてるのが分かる。二人の視線が怖いんです。

 ダメダメ、ここでひるんでいたらアリスさん達に笑われてしまう。しっかりしないと。


「アイネさんは何かしたい事あるんですかぁ?」

「んー。身体動かしたいだけだけど……」

「ん~……アイネさんには悪いですけど今回は合流する事にしましょう~。

 身体を動かすのなら他の三人と合流してからでも大丈夫ですしぃ、アイネさんも三人と一緒の方がいいんじゃないですかぁ?」

「それはまぁそーだけどさ」

「それではアリスさん達の元へ行きましょう~」

「そうしましょう」


 レナスさんは嬉しそうに微笑む。

 レナスさんは何かしらの理由でアリスさんと分かれた後合流するとき本当に魅力的な笑顔を見せる。

 普段は真面目で細かい事によく気が付き、他の人を陰で支えるしっかりとした子。

 私よりも計算が早くお買い物をする時は本当に助かっている。

 だけどしっかり者な反面甘えん坊で寂しがり屋。アリスさんの事を本当のお母さんのように慕っているかわいらしい女の子。

 私はレナスさんのそういう所が好きなのだけど、アイネさんはそういうレナスさんの甘えているところが好きではないみたいだとアリスさんが言っていた。

 レナスさんがアリスさんに甘えるのをやめたら少しは関係が良くなるのかもしれない。

 でもきっと今は無理。

 今のレナスさんにはアリスさんがいた方がいい。

 人の心を傷つけるのは簡単。だけど治すのには時間がかかるのだから少しでも早く治す為には信頼できる人との楽しい時間が必要なのだから。


 一方アイネさんはまだ話をするようになって数日しか経っていない。

 初めて顔を合わせたのはずっと前だけれど、きちんと話をした事は合流してからだ。

 以前は戦うのが大好きな怖い子という印象だった。

 アリスさんと試合をしている時の表情はあまりにも怖くて泣きそうになってしまったほど。

 でも、合流するとアイネさんは意外にも普通の子だった。

 初めて見るミサさん相手にはどこかよそよそしくアリスさんやレナスさんの陰に隠れはにかんでいた。

 でも鎧姿のミサさんを見た時は格好良さに興奮していてそれまでのよそよそしさがすぐに無くなりミサさんに懐いてしまった。

 女の子というより男の子に近い思考なのかもしれない。そう考えると途端に試合の時の好戦的な笑みがやんちゃな男の子に見えるようになってかわいらしく思えるようになった。

 話し方は少し幼く感じるけれど、考え方自体は意外と堅実というか注意された事はきちんと守る素直な子だった。

 何かにつけて勝負したがるのとかけっこと称してゲイルさんと一緒に勝手に遠くへ行ってしまうが玉に瑕だけど、総評としては良い子だという結論に至った。

 でもアイネさんにはわかって欲しい。

 何気ない一言が人の心を傷つけてしまうのだと理解してほしい。

 たった一言でどんな親しい仲でも一瞬で壊れてしまう事があると今回の件で思い知って欲しい。

 出来なければ一緒には居られないのだから。


 そして、二人共良い子なので仲良くなって欲しい。

 二人が仲良くなることはきっと難しい。でもだからと言ってあきらめるのは違う。まだ最悪まで行っていないと私は信じている。

 二人が仲良くなれるよう私も頑張らなくては。今私が二人と仲良くしていれば二人もつられて仲が良くなりやすいかもしれない。


「今ミサから連絡が来たけど、お母さん見つかったって」


 もうすぐで南の大通りに出るという所で連絡役として同行しているエクレアさんがミサさんからの連絡をくれる。


「あらぁ、早かったですねぇ」

「アリスが巡回中の兵士に話を聞いたら迷子になっていた子供を探していたみたいね。

 おかげでお母さんが大通りを探しているのか分かってライチーがすぐに見つけられたそうよ」

「それはよかったですねぇ。皆さん達は今どちらに?」

「三人ともばらばらの場所のいるらしいわ。

 ミサの所なら私が案内できるわよ」

「それではお願いしますねぇ。

 ……お母さんが見つかってよかったですねぇ」

「さすがはナギさんです。あっという間に問題を解決しましたね」


 エクレアさんの案内に従って私達はミサさんの待っている場所へ歩みを進め……。


「んっ、またミサから連絡が来た。今度は組合に行って張り出されている依頼の内容を確認してほしいですって」

「依頼の確認ですか?」

「ナギからの伝言みたい。よさそうな依頼があったら受けといて欲しいそうよ。

 それとアイネも今日で終わらせられそうな依頼があったら積極的に受ける様にする事。

 ああ、後アイネはまだ慣れてないだろうからレナスかカナデどっちかが助けてあげてだって」

「んもー! ねーっちゃんってばあたしを子ども扱いして!」

「まぁまぁ落ち着いてください~。とにかく組合へ行きましょう~」


 不機嫌なアイネさんを宥めつつ私達は向きを変えて組合のある方向へ歩き出した。

 組合の場所は宿を取った時についでに店員さんに聞いて確認してある。

 



 組合に着くととりあえず考えていた事を実行に移す。


「レナスさん。私が中級の依頼を確認するのでアイネさんをお願いできますかぁ?」

「私……がですか?」


 レナスさんの頬がピクリと動く。


「はい~。アイネさんはまだこの国の字を読むのに慣れていないようですからぁ、レナスさんが助けた方がいいと思うんですよ~」


 レナスさんがアイネさんの手助けをすればアイネさんの持つレナスさんへの悪感情が少し収まるはず。


「それでしたらこの国に来た事のあるカナデさんの方がふさわしいように思えますが」

「うふふ~。もちろん私はこの国で何度も依頼を受けていますよぉ。でもですね~、レナスさんも後輩に物を教える経験を積んでもよいと思うんですよぉ」

「むっ。それならアールスさんに色々教えています」

「アールスさんだけじゃ駄目ですよぉ。

 私だってレナスさんとアリスさんのお二人に教えたんですからぁ、レナスさん達にも二人を教えるべきなんです~」


 少し強引だけれど押し通す!


「ま、まぁそういう事でしたらいいですけれど……」

「なんかカナデねーちゃん力入ってんね」

「それでは私は中級用の依頼見ますねぇ」


 依頼が張り出されている場所を見ると数人の先客が依頼を見ている。

 近寄ってみると全員初級の依頼を見ている。

 どうやら中級の依頼を見ている人はいないみたい。

 早速残っている依頼を調べてみる。

 残っている依頼の数は三つ。どれも護衛のお仕事で地図で調べてみると残念な事にどれも行き先が私達の目指す方向とは別の方向だった。

 私達の旅は急ぎの旅だからアリスさんが見ても依頼を受ける事はないと思う。

 私達が急いでいる理由は単純。秋になる前に開拓村のある最西端にたどり着きたいから。

 グライオンはアークよりも国土は狭く東から西へ突っ切るだけなら二ヵ月もかからない。

 今は四月の終わりだけれど、仕事や観光をしながらだと倍以上の時間がかかる事も考えられる。

 だからなるべく行く予定のない方角にはたとえ依頼があっても向かわないようにしている。もちろん緊急性があったり報酬が美味しい依頼ならば別なのだけど。


 依頼の紙から視線を逸らしアイネさん達の方を見てみる。

 二人は真剣な表情をして依頼を見比べている。

 根っこの部分は真面目な二人だからこういう時は喧嘩せずにいられると思いたい。

 そして、こういう共同作業から少しずつでもいいから互いの良い所を見つけて尊重し合える仲になってくれるといいのだけれど。

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