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グライオン

 軍事国家グライオンが出来たのは約五百年前。

 当時はまだアーク王国所属だった将軍グライオンが軍を率いて北西にある鉱山地帯を手に入れる為に出兵し、見事一つ目の鉱山を手に入れた事でグライオンは独立し国を興す事を許されたのが始まりだ。

 国を興す許可が出た理由は簡単で首都アークからだと鉱山までは距離が遠く守備の為の軍隊の移動が不便だったからだ。

 将軍グライオンが率いていた軍団の一つが中心となり拠点を作ったのだが、やはり首都からだと距離がネックとなって統治や指揮系統に支障が出たらしい。

 当時すでにあったイグニティ魔法国も海からの塩の確保と魔物の対処に手一杯で鉱山を政治的に手助けする余裕はなかったようだ。

 そこでアーク王国は大胆にも鉱山近くに作られた拠点を中心に国と定めグライオンに軍が政治を主導するように要請したのだ。

 簡単に言えばアーク王国という頭一つでは距離の問題で管理しきれないからもう一つ頭を増やして鉱山を任せようという事だ。

 これはイグニティ魔法国という前例があった為すんなりと決まったようだ。

 

 軍事国家グライオンはアーク王国の北西、イグニティ魔法国の北に位置し国土の約半分が山地で、人口の三分の二が平地に住んでいる。

 残りの三分の一は精霊の力によって掘り出された金属を管理保管そして加工するために鉱山に村を作り暮らしているらしい。

 北方にあるだけあって国土の大部分が一年の内半分は雪に覆われてしまう。

 国土の約半分平地がとはいえ農業に使える土地は少なく、一年の半分しか作物を育てる事が出来ない。

 しかし、三ヶ国同盟の食糧庫であるアーク王国から毎年多くの食糧が提供されている為国民が飢えるという事はないようだ。


 農業に使える土地が少ない理由を説明するにはまずグライオンの地形の説明をしなければならない。

 まずグライオンの北半分。北部には平地はないと言っていい。山脈が入り組んでいて山間には毒の沼地の元である毒の川が流れている所もある。

 鉱山は主にこの北部にあるのだが、山に隠れた魔物をすべて滅ぼす事は叶わず、今でも北部は危険地帯とされていてグライオンの軍が重要な箇所に拠点を作って鉱山村に住む人や物資の運搬をしている人達を守っている。


 国民の大半は南半分に住んでいる。

 そして、金属を掘りつくしたとされる北の山脈から南に伸びている元鉱山が二つと山脈と連なっていない独立した元鉱山が一つある。

 グライオンが最初に確保した鉱山が独立した鉱山だ。

 軍事国家グライオンが出来たばかりの頃はアーク王国の北のように山から流れ出てくる水の所為で毒の沼が存在していたが、今は埋め立てられて一応人が問題なく住めるようになっている。

 ただし、住めるようになっただけだ。そしてこれが農業の出来る土地が少ない理由でもある。

 毒で汚染されていた土地で作物を育てるとその作物も毒に汚染されてしまうのだ。

 どうやら埋め立て土地は地下水まで毒で汚染されているらしく土を除去しても時間が経つとまた毒で汚染されてしまうようだ。


 また、伝え聞いた話でしかないが国民は皆明るく生命力にあふれた人達らしい。

 と、言えば聞こえはいいだろうが、寒さをごまかす為にアルコール度数の高いお酒をたくさん飲んでいて酔っ払いが多く騒がしいだけのようだ。

 料理の味は濃く酒飲み。すごく体に悪そうだ。


 軍事国家というだけ軍の練度が高く、中でも国の名を冠したグライオン騎士団は三ヶ国同盟の中で最強の軍団と称されている。

 だけど水準が高いのは軍隊だけではない。

 鉱山があり金属が身近なだけあって鍛冶の技術力も高い。

 金銀などの細工技術はアーク王国の方が水準は高いのだけど、鉄の加工に合成金属への加工、それに武具の製作技術はグライオンが圧倒的だ。僕達もグライオンで武具の新調しようかと検討している。

 

 そんなグライオンの地に僕達はついに足をつける事が出来た。

 オーメストの検問所を出ると相も変わらず荒野が続いている。

 人間が六人、精霊が五人、魔獣が四匹と大所帯な僕達は街道から少し離れた程度でも街道を行く商人達からは注目されている。

 それにしても街道には商人の物らしき馬車が多く行きかっている。

 オーメストの周囲の荒野には森はないからお手洗いをしたいときは岩の陰に隠れて行うのだけど、僕達が今いる距離だとそのお手洗いの最中の人と出くわしてしまう可能性がある。特に今は人が多い。

 僕は皆に声をかけて街道からもっと離れる事を提案し、すんなりと受け入れられた。

 街道から離れても方向は問題ない。北には雄大なるアトラ山脈が見えるのだから。


「そういえば知っていますカ? アトラ山脈がどうやってできたかヲ」


 街道から離れる途中ミサさんがそんな事を言い出した。


「知らなーい」


 オーメストを出る前、鎧を着たミサさんの姿を見て目を輝かせてかっけーと何度も言って一気に懐いたアイネが最初に返す。


「私知ってるよ。聖書に載ってるもん。ね? ナギ」

「うん。レナスさんは知ってるっけ?」

「昔アールスさんに何度も聞かされました」

「あれ? そうだっけ?」

「ああ、あったあった。アールスはルゥネイト様の事大好きだからね。自慢するように話してたっけ」

「私もアイネちゃんと同じく知らないですねぇ。でも聖書に載っているという事は神様と何か関係あるんですか~?」

「もちろんデース。聖書によると、神様達と魔王軍との戦いの余波でアトラ山脈が出来たようデス」


 そこからミサさんが詳しい経緯の説明を始めた。ミサさんは聖書の話をする時は適当な事は言わないので安心して聞いていられる。

 時は人が言葉を喋り始めたばかりの頃。当時は地上のほとんどを魔物に支配されていた。

 人は魔獣達と力を合わせ魔物達から逃げ隠れ暮らしていた。

 そんな時代に突如として五柱の神様が人達の元にやってきて神の文字と知恵を授けた。

 そして、力をつけた人と魔獣を率いて神様は魔王軍と戦った。

 神様達だけで戦わなかったのは人に戦い方を教える為だったらしい。


 神様が人と魔獣を率いた戦いも色々あったらしいのだがミサさんは細かい話は話さず最終決戦まで一気に飛んだ。

 最終決戦の場所は魔王の爪痕がある付近だと言われている。言われているだけで真実かどうかは分からないが。

 神様は魔王軍との最終決戦の際人を含めた生き物を安全な所へ逃がし挑んだという。

 神様達について行った人はいないわけではないが戦いのあと戻ってきた人はいない。

 だから残っている話は全て神様からの伝聞でしかない。

 そして、その伝聞も最終決戦の後すぐに神様が天の世界へ去ってしまったからろくに伝えられていない。

 伝わっている事は神様にも匹敵しそうなほど強大な力を持った魔物は倒された事、一緒に戦った人達は全員死んだという事、それに戦いは一か月続いたという事だけだ。

 あと分かっているのはアーク王国や魔の平野辺りが不自然なほど起伏が無くなっていた事と大きな渓谷が三つ残っていたことくらいだ。

 それだって本当は元々そういう土地だったのかもしれない。

 だけど神様が去った後の人々はその何もない地平線がどこまでも続く土地を神様達と魔物が戦いが激しく全てを壊してしまったのだと、北のアトラ山脈を破壊の際に出た瓦礫が溜まり出来た物だと思ったようだ。

 さすがにアトラ山脈が瓦礫で出来たというのは僕は懐疑的なのだけど……。


「えー、うっそだー。瓦礫であんな高い山なんて出来る訳ないじゃん」

「えー、神様の力なら絶対できるよー」

「そうデース。アトラ山脈は神のお力の象徴なのデス。それを疑うなんてとんでもない事ですヨ」

「カナデねーちゃんはどー思う?」

「すごいですねー。戦いの影響であんなに大きな山が出来るなんてぇ、まさに神話の戦いって感じですね~」

「信じてるし! ねー、ナギねーちゃんは信じてないよねー?」

「う~ん、どうなんだろうね~」


 僕はルゥネイト様の高位神聖魔法を使えることになっている。

 真実を知っているアールスとレナスさん相手ならともかく他の三人には僕の言葉は重く感じるかもしれない。

 だけど僕に力を授けているのはこの世界とはあまり関係のないシエル様だ。

 神様の情報が授かる事の出来る神聖魔法に影響を与える以上僕の事情を知らないミサさんがいる前ではうかつな事は言えない。

 もしも僕が間違った見解を述べてそれをミサさんが鵜呑みにしてしまったら神聖魔法を授かるうえで何か不都合が出てしまうかもしれない。

 もっともこういうのは僕だけの話ではなく高位の神聖魔法を授かった人は自分の信仰する神様と違う神様を信仰している人と話す際は注意しないといけない。

 僕はその注意を他の人達よりより強く意識しないといけないのだ。


「はっきりしないなー」

「高階位の神聖魔法を授かった僕の発言って結構影響を与えるみたいだからね。真偽がはっきりしない事はなるべく発言を控えるようにしてるんだよ」

「そーなの?」


 アイネが視線をアールスに向ける。アールスも高階位のパーフェクトヒールを使えるのだが、思いっきり自分の意見を述べていた。

 アールスはアイネの視線から逃げる様に顔をそらした。


「わ、私ナギほど高位じゃないし」

「あはは、僕が控えてるのは本でそういう風にした方がいいっていう意見があったからなんだ。

 その意見に納得出来たからそうしてるだけだよ」

「そういえばアリスちゃんからはあまり神様に対する見解を聞きませんネ。高位の人はそういう事も気にしないといけないんですネー」

「そうなんですよ」


 もちろん僕自身の事情が多大に含まれているのだが。

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