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未来の展望

 グランエルを出て首都へ向かう途中、それはついにやってきた。


「ねーちゃん。股の間から血ぃ出てきた」

「……ぉう」


 平原を歩いている途中突然草むらに隠れたアイネ。僕はその時トイレかと思ったが戻ってきて早々のアイネの突然の告白に僕は返す言葉がとっさに出てこなかった。

 何が起こったのかは分かる。分かるのだけどフェアチャイルドさんの時とは大違いな軽さに少しビックリしてしまった。


「ええと、月のものが来たのかな」

「たぶん」

「今までそういうそぶり見なかったけど、今初めて来たの?」

「うん」


 これは次の都市に着いたらお祝いだな。ケーキ等の甘いものを用意しよう。


「そっかー。具合はどう? 気持ち悪いとか違和感を感じるとかある?」

「ないよ」

「処理はどうした?」

「やり方わかんない。教えて」

「生理用品持ってる?」

「持ってない」

「……とりあえず僕が来た時用の下着あるからそれに変えようか」


 この世界の生理用品はいたって単純なもので分厚く吸収性のよい下着だ。

 前世の世界での生理用品がどういうものだったのかは、男だった僕には分からないが少なくとも挿入するタイプの生理用品は存在しない。

 下着も洗って使いまわすのが主流だ。


「まだ未使用だから汚くはないよ」

「そーいえばねーちゃんにせーり来てるとこ見たことないけど、まだ来てないの?」

「うん。来てないよ」

「ふぅ~ん」


 下着はアースが運んでいる荷物袋の中に入っている。

 アースにしゃがんでもらい足元の土を操り土台を作り下着が入っているはずの荷物袋を開けて中を探る。

 目的のものはちゃんとあった。取り出しブリザベーションがかかっていることを確認するとそれを解いておく。


「そーいやねーちゃんのって大きさ合うの?」

「大丈夫。ふんどし型だから」

「えっ、あたしそんなの使ったことない」

「生理用のはふんどしが一般的だよ。使ってるうちに慣れるよ、多分」

「ふーん。まーいーや。貸して」


 アイネは僕から下着を受け取るとその場でズボンを脱ぎさらに履いている下着を脱いで付け替えた。

 はしたないので人前でやって欲しくない。もちろん僕は目を逸らして見ないようにした。


「汚れたのはすぐに洗っちゃったほうがいいよ」

「分かったー」

「ちょっと早いけどここでお昼休みにしちゃうか。ゆっくりでいいからね」

「うん!」


 今日のお昼ご飯の当番はアイネだけれどめでたい日なのだから僕が代わっておこう。




 食事とその片付けが終わった後の食休みの時間にアイネが浮かない顔をして僕のそばにやってきた。


「どうしたの? 具合悪くなった?」

「下着の中ねちょねちょして気持ち悪い」

「ああ……」


 フェアチャイルドさんも昔同じようなことを言っていた。

 あの時は僕が詳しそうな先生に対処法を聞きに行こうとしたのだけど、恥ずかしがったフェアチャイルドさんに止められ聞く機会を失ってしまった。

 お陰で対処法はわからない。


「ごめん。僕もどうしたらいいのかわからない。アロエを通して聞いてみるしかないかなぁ」

「うー……あ~あ、あたし男に生まれればよかった。男だったらこんなめんどーそーなことないんだろーな」

「……」


 元男の身からしてみればまったくもってその通りだと思う。

 男は男で悩みはあるが、旅をするという点ではやはり月のものがこない男の身体の方が適していると思う。


「本当男に生まれたかった。あたし男だったらねーちゃんをあたしの女にしてるね」

「何突然」

「男に生まれた時の利点を考えたんだ。せーりがない、ねーちゃんと結婚できる。これくらいかなー」

「体格的には男性の方が優れてるけど?」

「体格はいいに越したことはないけどあたしにとっては利点って呼べるほどでもないかな。

 もしも世界で一番優れた体格を与えられたら周りはそれ未満って事でしょ? 戦う上でそんなんじゃつまんないんだよ。

 そー考えると相手より体格が劣ってる方が面白いかなって。そんで今のこの身体の方が自分以上に体格のいい人間と一杯戦えるなーってね」

「アイネらしい。でも男になる利点二つだけなの? というか僕をアイネの女にできるって利点なの?」

「当たり前じゃん。それ一点だけでも男になる価値はあるよ」

「ふぅん……」


 本当にそこまでの価値があるかどうかは疑わしいけれどそう言われて悪い気はしない。


「んー。もしもさ、僕が男だったらどうなるかな」

「もちろんあたしの男にする!」

「あははっ、本当に? 多分男だったとしてもアイネよりも弱いよ」

「別にあたし腕っぷしの強さを恋人に求めてないし。むしろ強かったら困るよ」

「んふふ。相手が強かったら勝負したくなるのがアイネだもんね。嫌われるくらいしつこく戦いを挑みそうだ」

「あたしの事分かってんじゃん」

「自覚してるんなら直しなよ」

「やだ。あたしはそんなあたしが好きなの」

「まったくもう……でも恋人かぁ。アイネはいつか良い人が見つけるのかな」

「どーだろ。あたしあんまそっち方面きょーみないし。ねーちゃんの仲間はそーゆーのないの?」


 アイネの言葉に今までの旅を思い返してみる。


「……ないなぁ」


 他の四人はそういう色気のある話に全く縁がない。

 フェアチャイルドさんは男性に全く興味を示さないし、アールスは色恋沙汰よりも勉学や特訓といった自分を高めることに夢中のようだった。

 カナデさんは旅先のあちこちで男性に言い寄られて若干男性が苦手になってしまっている。

 ミサさんは勉強でそれどころではないようだ。アーク王国に来る前も修行やら仕事やらで忙しく甘い話はなかったらしい。


「みんな目的に向かって頑張ってるからね。色恋沙汰に目を向ける余裕がないんじゃないかな」

「ねーちゃんもそうなの?」

「そうだよ。ちゃんと皆をこのアーク王国まで無事に帰せる様にお金稼いだり強くならないといけないからね」

「たしか観光したりレナスねーちゃんの両親の故郷に行くのが目的なんだっけ?」

「うん」

「目的果たした後はなにすんの?」

「他の皆がどうするかは分からないけど、僕はとりあえずヒビキの故郷と仲間を探すつもり」

「ヒビキの?」

「多分ヒビキの故郷は魔の平野のどこかにあると思うんだよね。そこを中心に探すことになるかな」

「どこかって魔物いるしものすごく広いじゃん。どうやって探すの?」

「んー。たぶん南側だと思うんだけどね。ヒビキは山に住んでたらしいんだ」


 魔の平野は交易路を境に北と南に分けて考えられている。

 北にはアーク王国の北に広がる大沼地が途中まで存在していて、毒の霧が魔の平野の北半分のさらに北西部分を覆っている。

 山などの起伏は少なく遺跡などの旧時代の痕跡はほとんど残っていない。

 対して南側は遺跡が点在し残っている。これは魔の平野がある位置に存在した旧時代の文明が南側に偏っていた、というのもあるけれど南には大森林があって魔王軍の侵攻を遅らせることができたから遺跡が残る程度には侵攻が抑えられたという話だ。

 しかし、北からの魔王軍の侵攻は山を越えられたら阻むものがほとんどなかったせいで苛烈になり北側は破壊されつくされたのではないかという考察がなされている、と学校で習った。

  

「何か根拠あるの? 北には山脈あるじゃん」

「根拠って程でもなくて可能性が高いんじゃないかって程度だよ。ヒビキって雪あんまり慣れてなかったみたいなんだよね。北側にある山って山脈以外だと数は少ないはずだし位置的にも冬に雪が降ってもおかしくないんだ。

 だから故郷に雪が降ってたら根強く印象に残ってるんじゃないかなって」

「ヒビキって故郷にどれ位住んでたか分かってるの?」

「ヒビキって時間間隔が曖昧みたいでさ、長く家族と暮らしてはいたらしいけど年単位かどうかまではわからないんだよね。

 そもそもの話ヒビキがいつ魔獣になったのかもわからないんだ。故郷を追われた後なのか前なのか。もしも前だったら百年単位で生きててもおかしくないからね」


 僕は故郷にいた時にはすでに魔獣になっていた可能性が高いのではないかと考えている。

 動物は魔獣になると魔獣になる前の記憶は曖昧になってしまう。

 これは自我が発達していない動物はとくに顕著で子供だったナスは辛うじて印象深かった事を覚えていたくらいで魔獣になる前の事はほとんど覚えていない。その所為でナビィの事を同族と思えなくなっている。

 その点ヒビキは故郷と仲間の事をよく覚えていて仲間意識も薄れていない。

 もっとも、魔獣に変わる前から自我が発達していて魔獣になる前の記憶をしっかりと覚えているという可能性も十分にあるのだけど。


「まっ、なんでもいーや。あたしはねーちゃんについていくだけだし」

「あー……あのね、王国に戻ってきたら一度僕達の集まりを解散しようと思ってるんだ」

「解散? どーして?」

「うん。僕達……まぁ正確には僕とフェアチャイルドさんとカナデさんの三人だけど、元々は魔の平野を超えるために手を組んだわけだからね。その目的を果たして戻ってきたら一度解散するのは当然だと思うよ。各々の事情もあるだろうし。

 それに魔の平野を自由に出入りするために上級を目指さなきゃいけないからね。いつまでも付き合わせるわけにはいかないよ」

「ふぅん」

「アイネだけに言ってるわけじゃないけど、自分のやりたいこと見つけたらいつでも僕に言ってね。応援するしなるべく希望に沿うようにするからさ。

 でもさすがに状況によってはすぐに離脱を認めるわけにはいかない時があるかもしれないから事前に相談はしてほしいんだ」

「……ねーちゃんはさ、魔の平野探索するのに一緒に来て欲しいとは思わないの?」

「来てくれたらうれしいけど魔の平野は危険らしいからね。僕に誘われたからという理由じゃなくてきちんと自分で考えて決めて選んでほしい。

 自分の未来を決められるのは結局自分なんだから」

「うー……そう言われてもそんな先の事分かんないよ」

「今は分からなくてもいいんだよ。周りの状況なんて時が経てば変わるし自分の気持ちだって変わってるかもしれない。

 大事なのはその時に選ぶ事なんだから」

「ん……分かった。いまんとこはねーちゃんと一緒に行く気だけどね!」

「んふふ。分かったよ。アイネが行きたいって言うなら歓迎する」


 とはいえ僕としてはあんまりついてきてほしくないというのが本音なのだけど。

 魔の平野を探索するというのは魔王軍に近づくということだ。

 南側の魔王軍の本拠地は魔の平野南部の真ん中あたりに存在する巨大な遺跡跡だと言われている。

 度々東の国々やアーク王国にちょっかいをかけてきているが魔物の規模は不明。

 魔人は姿を現さずに力を蓄えていると考えられている。

 そんな危険な場所にアイネを連れて行くというのは抵抗がある。

 だけどアイネは僕より強いのだ。これからもっと強くなっていくだろう。戦力として考えたらいてくれると助かる。

 危険を伴うというのに打算的な考え方をしてしまう自分にあきれてしまう。

 ヒビキの故郷と仲間を探す事と危険な地に踏み入れる事は果たして釣り合いが取れているのだろうか?

 そこまでする価値があるのか、魔獣よりも同じ人間を大切にする事の方が正しいのではないか……きっと他人からはそう思われるに違いない。

 でも、僕は初めてヒビキと会った時のヒビキの寂しいという声が今でも耳から離れない。

 僕はあの声に共感してしまったんだ。

 僕もこの世界に転生したばかりの頃は家族や友達に会えなくなった事に寂しさを覚えた。

 今の両親に助けられたから寂しさを乗り越えることはできたけれど、会えるものなら会いたいと今でも思っている。それが叶うはずのない願いだとしても……。

 だから、ヒビキには仲間に会わせたいと思っている。

 ああ、怖いな。今から考えるだけで怖い。どんな危険が待っているのか考えただけで胸が苦しくなる。でも、いくら怖くても僕の脚は止まらないだろう。それが僕なのだから。

 少しだけアールスの固有能力が羨ましい。

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― 新着の感想 ―
[一言] わたしは故郷にいた時にはまだ魔獣じゃない可能性が高いと思うなあ。だって魔獣は性別がない、だけどヒビキの記憶の中にお父さんとお母さんがいる
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