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アイネという女の子

今日は二話投稿します。

この話は一回目の投稿です。

 教会の大掃除を終えた後僕は子供達と遊んでいる魔獣達の元へ向かった。

 場所は朝に整地した広場だ。

 保護者役をしてもらっているお母さんは眠っているヒビキを抱いていた。

 どうやら遊び疲れて寝てしまったらしい。

 ヒビキ以外にも遊び疲れて寝ている子がいる。その子達は皆ナスに寄り添って眠っていてナスがちょっと困っている様子だった。

 ルゥや起きている子はゲイルと一緒に追いかけっこをしている。

 お母さんからヒビキを受け取り、お母さんに寝ている子供達を起こして貰う。

 僕は走り回っている子供達とアロエとゲイルに声をかけて集まってもらう。

 そして寝ている子が起き皆がそろった所で僕達が出発する事を告げると何故かアロエとゲイルから不服そうな声が上がった。今朝説明したというのに……きっとそれだけ子供達と仲良くなってしまったという事なんだろう。

 子供達はさすがにもう慣れてしまったのか悲しそうな顔はしているけれど魔獣達にきちんと別れの挨拶をしてくれた。

 僕も最後にルゥにきちんと話をしておこう。


「ルゥ」


 ナスに抱き着いて別れの挨拶し、挨拶を終えてナスから離れたルゥに僕は話しかける。


「なぁに?」

「一ヶ月後くらいにはまた来るからお父さんとお母さんの言う事きちんと聞いていい子にしてるんだよ?」

「ルゥいいこだもん」

「あはは、そうだね。今は寒いから風邪を引かないように気を付けてね。ルゥが元気でいてくれた方が皆嬉しいからさ」

「みんなってナスとか?」

「うん。ゲイルもそうだしヒビキもそう。アースだって嬉しいだろうしアイネお姉ちゃんだって嬉しいよ。それに何より僕が嬉しい」


 一旦ヒビキをナスに預け僕はルゥの頭を軽く撫でてから地面に座りルゥを抱きしめる。


「んっ。おねーちゃん?」

「少しだけルゥの事確かめさせて」


 温かい。遊んでいたからだろうか? 暖かさと一緒に汗臭さと土の匂いがする。元気に遊んだ証だ。

 身体は厚手の服に包まれているけれど柔らかさがよく分かる。

 柔らかい髪が風で煽られ僕の顔をくすぐってくる。

 これが僕の妹なんだ。

 僕はルゥの体温と柔らかさを忘れないようにしっかりと、けど痛くしないように気をつけながらルゥの事を少しの間抱きしめ続けた。


「ルゥ、元気でね」


 最後に耳元でそう呟いて抱擁を解く。

 ルゥは立ち上がる僕をぼけっとした様子で見ている。僕がどうしたのかと首を傾げるとルゥははっとしたようで慌てて動き出しお母さんの陰に隠れてしまった。逃げられたようで地味に傷つくな。


 改めて僕は皆に別れを告げ、最後にお母さんと少し話をしてから歩き出した。

 アイネに両親と話さなくていいのかと聞くと別にいいとだけ返ってきた。反抗期だろうか。

 だが僕は反抗期だろうと構わず家族ときちんと話させる人間だ。

 アイネの返答は予想がついていた。

 あらかじめアイネのお母さんには道中で待っているように伝えてあったので無事アイネも村を発つ前にご両親と話をする事が出来た。

 アイネが恨みがましい目で僕を見ていたが軽く受け流しておいた。


 これからの予定は村を東側から出てそのまま前線基地まで行くつもりだ。

 これはアイネが行きたいと積極的に願った事で、元々研修の旅ではアイネに目的地を決めさせる予定だったのですんなりと行先が決まった。

 村を出る頃にはすっかりと暗くなってしまったが村の東側の街道は森を突っ切る形に出来ているので休める場所はない。

 野営をするのは森を抜けてからだ。

 僕達の歩く速度だと大体一時間くらいで森を抜ける事が出来る。

 森を抜けている途中、アイネは何やら挙動不審で僕に近寄ったり離れたりを繰り返している。

 まだ機嫌が悪いのかなと明かりに照らされている顔を見てみるがよく分からない。


「アイネ、さっきから怪しい動きしてどうしたの?」


 そう問いかけるとアイネはうーとかんーとか唸り声をしばらく出してから重たそうな口を開いた。


「戦いたい」

「……森出てからね」

「いいの!? 暗いからてっきり駄目かと思った!」

「夜に戦う事もあるかもしれないからね。毎日ではないけど夜の訓練もやるよ」

「そっかー! 夜やるのかー!」


 アイネはえへへとにやけた。


「にしてもねーちゃんって変わってるよね」

「えっ、なに突然」

「あたしと戦いたい子ってさ、あんまりいないんだよね。それこそカイルにーちゃんみたいに強くなりたいっていうの以外」

「まぁそうだろうね」


 アイネは戦っている間笑ってて怖いからわざわざ戦いたいなんて思う子は少ないだろう。

 そもそも戦いが好きだなんて言う子はそういない。暴れたいだとか身体を動かしたいとかで戦いの授業は受ける子はいても、そういう子は大体殴り殴られても笑い続けるアイネに心折られてしまうだろう。

 強い使命感や目的意識を持っていない限りアイネに挑もうとは思わないはずだ。


「でもさ、ねーちゃん位なんだよ? あたしと戦った後も普通に接してくれるのって」

「ああ、そういう意味で変わってるって事か」


 確かに僕は人から疎まれそうな性格をしているアイネを戦う事を含めて普通に受け入れている。

 その理由を自己分析すると何の事はない。僕はアイネが好きなのだと気が付く。

 というか学校の後輩は皆好きだ。その中でもアイネは同じ村出身で幼い頃から知っているので特別に思っている所はあるかもしれない。

 アイネはあくまでも正々堂々と戦い勝つ事を好んでいるのであって人をいたぶるのが趣味という訳ではない。

 卑怯な手を使って勝とうとする人間よりは好感が持てるし、もし人を傷つける事だけを楽しみに戦うのなら好きにはなっていなかっただろう。

 度が過ぎている所はあれど人に勝ちたいという欲求は大抵の人は持ち合わせている。

 昨日のようなヤンデレめいた発言も引く事はあれど嫌いになる理由にはならない。アイネの戦闘狂はもうそういう性癖だと思って受け入れるしかない。

 誰しも引きたくなるような性癖はある物だ、そう考えればアイネの長所に目が向ける余裕が生まれる。

 戦闘狂という欠点を除いてみればアイネはごく普通の女の子なんだ。

 良く笑い良く遊び良く頑張る。他人の話を聞かない所はあるが真っ直ぐで努力家の普通の女の子なんだ。

 だから、僕は一緒に旅をする事を許可した。もちろんアイネの強さを踏まえての事だ。

 むしろ僕が足手まといになる可能性もあるが、僕達の目的は別に強者に立ち向かう事ではない。危険はなるべく避けて通るつもりだ。……もっとも避けられたらの話だが。


「あたしね、ねーちゃんのその変わってるとこ好きだよ」

「あははっ、そう言ってくれると嬉しいな。でも痛いのはほどほどにしてくれると嬉しいな」

「それはねーちゃん次第だなー。圧倒的な差があれば痛く無くなるだろーけどね」

「精進します」

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