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閑話 一方その頃の その1

 ようやくアールスが冒険者になり一緒に旅をする日がやって来た。

 レナスとの会話の中でナギの次に名前が出てくるのがアールスだ。

 私も話した事はあるけれど正直小さい頃の三人の関係を直接見た訳じゃないからナギと比べどうしても影を薄く感じてしまう。

 だけどアールスと話すレナスは本当に楽しそうだから私も彼女を無下にする事は出来ない。

 レナスの私を見つめる時のまるで本物の血のように赤く暖かい瞳を見るのも好きだけれどナギやアールスと話す時の宝石のように煌めかせる瞳も愛していると言っていい。

 あの瞳が見れるなら私はいくらでもこの身を削る事が出来る。


 そんな事を考えながら私はレナスが起きるのをライチーと一緒に待つ。

 レナスは一人だと寝起きが悪い。そして、同室で寝ているミサは起きるのが遅い。朝に弱いのは血なのだろうか?

 私としては寝続けられているとレナスの瞳が見れないので早く起きて欲しいのだけど、起こそうとすると寝顔が好きなライチーとエクレアから文句が出るので起きなくちゃいけないギリギリの時間までは自発的に起きるのを待つしかない。

 ナギがいればレナスはすぐに起きてくれるのだけど……。


 それにしても意外なのがエクレアだ。私と同じ真面目な子だと思っていたのだけど朝に関してはミサに甘く寝坊を許す。

 理由は聞いた事がある。ミサの故郷はとても寒く眠る時に隙間風が入り込んだら凍死してしまう事がありエクレアは毎晩無事に過ごせるように気を張っていたらしい。

 旅に出てからも安心して眠れる場所ばかりではなかったから今こうして安らいだ表情で眠っているミサを見るのがとても嬉しいのだそうだ。

 気持ちはすごく分かる。だけど気持ちで言ったら私は正直レナスの寝ている所は安心してみていられない。

 本来は死ぬはずだったレナス。ナギのお陰で運命を変えられたけれど、もしかしたら少しだけ寿命が延びただけかもしれない。いつかつじつま合わせで命を落としてしまうかもしれない。

 下手をしたらもう目を覚まさないんじゃないか、そんな不安が私の中に焚き火の後の焼け残った炭の火のように燻っている。

 寝息が聞こえるから死んでいるという事はないのだけど、それでもなのだ。分かっているはずなのに心はどうしても安心させてくれない。

 私が本当に安心するのはレナスの瞼が開かれ命の色をした瞳を見れた時だけだ。


 早く起きて欲しいと思いながらしばらく待っているとレナスの瞼が動いた。

 瞼が半開きの状態でゆっくりと上半身を起こすレナス。


「おはようレナス」

「……おはよーございまふ」


 まだ寝ぼけているみたいで上半身がゆらゆらと揺れて舌がうまく回っていない。小さい頃のレナスのようでとても可愛らしい。ナギがいたら絶対に見せない姿だ。


『レナスおはよー』

「おはよーございまふ……ふぁ」


 欠伸を手で隠すレナス。

 欠伸をした事で目が覚めたのか瞼がぱっちりと開かれ背筋も伸びた。


「今は何時ですか?」

「六時よ」


 あらかじめ外に見える時計塔で確認しているからすぐに答えられる。

 時間を告げるとレナスは私にお礼を言ってベッドから降りて着替えを始めた。

 寝間着を脱いでレナスは美しく均整の取れた身体を露にした。

 人間は不思議な物だ。従姉妹同士なのに体つきが全然違う。

 ミサは肉付きのいい豊満な身体をしているのにレナスは全体的に細く見え胸なんて似ても似つかないほどミサと差がある。

 人間の男は胸の脂肪は沢山ある方が好みらしい。ナギもそうなのだろうか?

 昔興味ないような事を言っていたが、カナデの前だったから嘘を言ったんじゃないかと疑っている。実際カナデやミサに抱きしめられ顔が胸に埋もれてた時は嬉しそうな表情が見え隠れしていた。


 着替えを終えたレナスは顔を洗ってくると言ってライチーを連れて部屋を出て行った。


『ついて行かなくてよかったの?』

『ライチーはしばらくレナスに会えないから二人っきりにしてあげようと思ったのよ』


 お互いに連絡を取り合う為にライチーはエクレアと一緒に首都に残る事になっている。


『そう。契約している精霊が多いと精霊同士で喧嘩しやすくなるのに上手くまとめられているのはサラサのそういう優しさのお陰ね』

『他の精霊事情は知らないけど……レナスが大切なだけよ。

 私達が喧嘩をしてレナスに負担を掛けさせたくないのよ』

『アロエにも少しはサラサを見習ってほしい……私よりも長く生きてるのだからもっと落ち着いてくれたらいいのに』

『あら? アロエの方が長く生きているの?』

『具体的な年数は分からないけど、あれはヴェレスの建国を手伝ったらしいから五百年以上は生きている事は確実ね。

 私が生まれたのは建国の後だからあっちの方が年上なの』

『それだけ生きてあの落ち着きの無さなのね。でも五百年ね……だったら私達の中じゃ多分あの子が一番年上ね。私とディアナは細かい年数は数えてないけど五百年も生きてないと思うわ』


 人と接するまで森には暦という概念が無かったから自分がどのくらい生きているかなんておおよそにしか分からない。

 主様なら私がどれくらい生きているか知っているかもしれないけど、私はそんな事に興味なかったから聞いた事がない。

 そもそも年齢を気にするような精霊は少ない。何せ不老不死と言っていいくらい長生きだから年齢なんて生きているうちにどうでもよくなるのだ。

 私達の寿命は自分の意志で自然へ還る時まで続く。大体千年も生きれば精霊は大抵生きる事に飽き自然に還る。そこまでかからなくても愛する契約者が死んで生きる意味を亡くした時が自然へ還る時だ。

 私はどうなるだろう。レナスに子孫が出来れば生き続けると思うけれど、今の様子だと子供が出来るかは少し怪しい気がする。

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