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僕はルイスのお姉ちゃん

 魔獣達の訓練を終えて僕とアイネの組手が始まった。

 アイネは自分の事を強いと豪語するだけあって確かに強い。

 力に関しては僕よりも非力だったが関節技や相手の動きを利用し受け流したりカウンターを入れる前世で言う所の合気のようなものが巧かった。

 単純な力の差が無ければ僕は確実に負けていたので護身術に関しては文句なしの合格とした。

 組手が終わった後も訓練を続けたがっていたが今日の所はこれでお終いにし、アイネにリュート村へ行く事を告げた。

 道すがら生えている薬になる草をアイネに教え摘みながら進む。

 アイネには前もって薬草図鑑を読んでおくといいと伝えておいたので少し見ただけで何の薬に使うのか理解してくれた。


「ちゃんと勉強したんだね。偉い偉い」

「ふふん。強者たるもの健康にも気を使わないとね!」

「でも神聖魔法はあんまり覚えてないんだよね?」

「うっ……だって興味ないし」

「ゼレ様の話とかアイネ好きそうだけどな」

「あたし戦えない相手の情報とかどーでもいいし」

「信者の前でそういう事言わないでね。特にミサさんは熱心なゼレ様の信者だから」

「はーい」

「まったく……でもそれならツヴァイス様信仰すればいいんじゃないかな?」

「ツヴァイス様? たしかそーぞーしんって奴だよね? なんで?」

「ツヴァイス様はね、この世界を創ったんだ。ツヴァイス様が作った物を見て触って知るって間接的だけどツヴァイス様を知るって事に繋がると思わない?」

「うーん。そうかな?」

「僕としてはパーフェクトヒールを覚えてくれたら安心できるんだけど」

「それって大抵の人じゃ安心できないって事じゃん」

「いやいや、実際使える側からするとすごく安心できるんだよ?

 もしも手足に致命的な大怪我をしても治せるんだから」

「でもそれだったら使える人がきちんと神様の事を教えればもっと使える人が増えるんじゃないの?」

「そう話が簡単だったらいいんだけどね……教えて今の現状なんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ。大切なのは知識やマナの量だけじゃないからね。特に高階位の魔法は覚悟とかも試されるからね」

「覚悟?」

「そう」


 神聖魔法を授かるのに必要なのは覚悟という心の強さだ。シエル様は魂から漏れ出る力の強さだとも言っていたっけ。

 心の強さは口で伝えただけでは意味がない。自分で磨き上げられなければ意味がないんだ。

 僕の場合はシエル様が融通してくれたおかげで第九階位の神聖魔法まで使えるようになったが、覚悟が足りていなかった所為で心労が溜まってしまった。あの頃フェアチャイルドさんやナスがいなければずっと後ろ向きな考えに嵌っていたに違いない。

 あれから年月が経ったけれど、僕はあの頃に比べてましになったのだろうか?




 リュート村に着くと僕は真っ先にアイネに家に帰って冒険者になった事を報告しに行くように言った。

 アイネは早く依頼を受けたいと渋ったが僕も一緒に行く事を伝えると頷いた。

 僕の時のようにぐだぐだになってはいけない。まずは両親に報告してから依頼だ。

 それに研修が終わったら僕と一緒に行く事になるからその挨拶もしておかなくては。

 アイネの家にお邪魔しアイネのお母さんに挨拶をする。


「こんにちは。スレーネさん」

「いらっしゃい。アリスちゃん」


 おばさんとは一昨日会ったばかりなのでお互いに軽いあいさつで済ませる。


「かーちゃん。あたし冒険者になったから」

「いや、まだだからね? 正式に冒険者になるのはオーメストで登録してからだよ」

「あっそっか。冒険者見習いになったから」

「全くあんたって子は帰って来るなり……もうちょっと他に言う事ないの?」

「んー?」


 アイネは頭を捻ったり頭を回転させた後おばさんを向いて一言。


「ただいま」


 その一言が正解だったのかは分からないが、しかめっ面をしていたおばさんは笑顔になり答えた。


「お帰り」


 アイネが冒険者になり僕達と一緒に行く事に関してはおばさんと少し話して詳しい話は村長さんの所で依頼を受けた後、夜アイネのお父さんが家に帰って来てから、という事になった。

 アイネは前もってきちんとご両親に話をしていたようだが僕の方からもアイネを交えてきちんと話をしなければ。

 家を出ると魔獣達のいる家の裏側から子供の声が聞こえてきた。


「ルイスの声が聞こえた」

「え? そう?」

「間違いない」


 かわいい妹の声を僕が聞き逃すはずがないじゃないか。

 家の裏に行ってみるとやはりルイスがいた。

 ルイスは友達の女の子と一緒にナスに抱き着いている。


「本当にルゥいたんだ」

「あっ、おねえちゃんだー」


 ルイスが僕達に気づいて声を上げる。だけどそれよりも気になる事が僕にはあった。


「……アイネ、ルイスの事ルゥって呼んでるの?」

「え? うん。長期休暇の時にルゥと遊んでるんだ」

「ふぅん……」


 そうかアイネはルゥって呼んでるのか。お姉ちゃんである僕は呼んでいないのに。

 呼んでないのに。

 僕はルイスのお姉ちゃんでルイスは僕の妹なのにルゥって呼んでないのにアイネは呼んでると言う。

 ずるいと思う。


「ルイス」

「なぁに?」

「僕もルイスの事ルゥって呼んでいいかな?」

「んー? いいよぉ?」

「んふふ。ありがとう、ルゥ」


 ルゥ……ルゥか。いいな。うん、かわいい。


「ルゥ」

「なぁに?」

「んふふ。呼んでみただけ」

「ふーん」

「んふふ」


 ナスに夢中でそっけなく返すルゥもまた愛らしい。うちの妹は世界一可愛いのではないだろうか?


「ねーちゃんが気持ち悪い顔してる」


 アイネが失礼な事を言ってくるが今の僕は嬉しさに満ち溢れていて失礼な事を言われても全く気にならない。


「ねーちゃん。そんちょーのとこに行くんでしょ? 早くいこーよ」

「……はっ! そ、そうだった」


 危ない。ルゥという甘美な響きに囚われ本来の目的を忘れる所だった。


「ねぇ二人とも。今から村長さんの家に行くんだけだ。今日はここまでにしてくれる?」

「えー!」

「やだー!」


 ナスにくっついている二人は駄々をこね始めナスを困らせる。


「んー。でも僕達は村長さん達とお話があるから一緒には居られないんだ。誰か大人の人呼んで来れるかな」


 さすがに子供達だけで魔獣達と遊ばせる訳にはいかない。


「じゃあおかあさんよぶ!」

「それならいいけど、忙しい所を無理やり連れてきちゃ駄目だよ? お母さんが駄目なら別の人呼んで、誰も来てくれなかったら僕達の用意が終わるまで待ってる事」

「わかってるもん!」


 ルゥは赤く染まった頬を膨らませて僕から顔を背けた。


「ならいいけど……気を付けてね。僕達は村長さんの家にいるからね」

「だいじょうぶだもん。いこっ」


 ルゥは友達の手を取って駆けて行った。

 村の中は慣れてるだろうけど心配だから索敵はしておこう。あまり世話を焼くと学校に通う為に都市で暮らす時に支障が出るが、これぐらいはお姉ちゃんとして許して欲しい。

 そして、皆を連れて村長さんの家へ向かう。

 村長さんの家に着くと魔獣達とアロエには裏の空き地にいてもらい、僕とアイネは戸を叩き村長さんが出て来るのを待つ。

 女性の声と共に玄関が開く。開けたのは村長さんの奥さんだ。

 奥さんは僕達を温かく向かい入れてくれた。

 中に入り居間で椅子に座らせてもらい待っていると村長さんがやって来た。

 村長さんと世間話……特に卒業したばかりであるアイネが話題の中心となり盛り上がろうとした所で不機嫌そうな顔をしたアイネに止められた。


「ねーちゃん。無駄話はいいから依頼の話しようよ」

「ああ、そうだったそうだった。では村長さん。今何か私達で出来そうなお仕事はありますか?」

「一昨日ナギちゃんが今日スレーネちゃんが来るって聞いてたからね。ちゃんと用意しておいたよ」

「ありがとうございます」


 ちゃんと根回ししておいてよかった。話が早くて済む。

 アイネと一緒に村長さんに組合で貰った身分証を見せて確認してもらう。

 それから村長さんから提示された依頼は三つ。

 村の子供達がよく遊ぶ広場の整地、村にある教会の大掃除の手伝い、村を囲う柵の点検と補修。

 広場の整地は草が枯れる冬の間毎月行われていて、魔法なり道具を使うなりして地面を一度掘り返し地面を柔らかくする為の作業だ。

 教会の大掃除は年末に向けてだろう。

 柵の点検と補修は壊れてなければ楽なんだろうけど……仕事として出された以上はどこか壊れてるんだろうな。

 この三つのお仕事は村人と一緒にやるらしく、全ての依頼は同日に行われ僕達が選ぶ依頼からは僕達が入る分人が引かれ他の場所へ配置されるようだ。


「ねーちゃん。どれがいいの?」

「自分で選ぶ事も大事だよ。アイネの研修の旅だからね、相談には乗るから一先ずアイネが一人で考えな」

「う~ん。分かった。ねーちゃんも手伝ってくれんだよね?」

「もちろん」

「アース達も?」

「手伝ってくれると思うよ」

「ふぅん。これって複数受けても大丈夫なの?」


 僕の方を見ていたアイネは僕から視線を外し確認するように村長さんを見た。


「アイネ、もうちょっと丁寧な言葉使いでね」


 アーク語には敬語はあるが王様に対して使う特別な言葉使いなのであまり一般的ではない。一応礼儀作法として学校で習うのだけどそもそも王様に会う事なんてないから敬語を忘れて上手く扱えない人は大勢いる。

 そして丁寧語は命令的な文法を使わないようにする事と後は雰囲気というか喋る時のニュアンスを丁寧な感じにすればいい。


「うぇーい。えーと……この依頼は複数受けても大丈夫なのですか?」


 最後だけ自分の言葉を確認するかのように上ずったが問題はないだろう。

 だがうぇーいは駄目だろ。後で叱っておかなければ。


「ああ、問題ないよ。ただ流石に途中から参加するとなると報酬は満額という訳には行かないな」

「ふぅむ……それぞれの依頼の開始時間はどうなってん……なってるんですか?」

「広場の整地と柵の点検は朝から。教会の大掃除は午後からだよ」

「報酬はこれ一人ずつ? ……ですか?」

「いや、纏めての値段だね」

「じゃああたしとねーちゃん手分けして受けるって言うのもいいのかな?」


 そう言って今度は僕に確認を求めて来たので僕が村長さんに確認をする。


「問題はないですよね?」

「ああ、無いよ」

「じゃあ三つとも受けよ。ねーちゃんは広場の整地で、あたしが柵の点検。午後から教会の大掃除! 広場の整地が終わったらあたしの方手伝ってくれれば早く終わるよね」

「うん。いいよ。報酬の内訳はどうする?」

「ねーちゃん達はどうしてるの?」

「僕達の場合は自分が請け負った依頼の分だけ貰ってるね。ただ今回の場合は整地が終わったらアイネの方を手伝うって事になる。

 そうなると整地の方は僕だけが満額貰って柵と教会の依頼の報酬は二等分になっちゃうかな」

「絶対にそうするの?」

「いいや。絶対ではないよ。相談ありきだけど今回の場合は全部の依頼の報酬を合わせちゃって仲間内で分ける事にして、まず共有資金にする三割を引いた後残ったお金を等分するっていう方法を取る事もあるかな。

 ただ今回の場合は共有資金は考えなくていいかな? 研修の旅に必要なお金はすでに用意してあるからね」

「むー。お金が減るのはあれだけど手伝ってもいない依頼の報酬貰うって言うのもな」


 僕がアイネに説明した方法は大雑把な物だ。本当なら後から来て手伝った場合は二等分ではなく割合を変える。

 報酬を合わせるというのも全員の賛成が出たらで、余程の事情がない限り僕は基本反対に回る。

 その依頼をこなした人達の報酬が減るというのはやはりやる気を削がせるし、自分が頑張らなくてもお金がもらえるというさぼり癖が付く事が無いように気を使っているんだ。

 そういった事をアイネにわざと詳しく話さないで伝えたのはアイネ自身に自分で考えて自分の答えを出して欲しいからだ。


「うん。じゃあねーちゃんは柵の方は手伝って貰わなくていいや。柵と整地の報酬はそれぞれが貰うって事で、教会の報酬は二等分で!」

「分かった。僕もそれでいいよ」

「じゃあ村長! そーいうことで三つとも受けるよ!」

「分かった。じゃあこの依頼書にそれぞれ署名してくれ」

「うん!」


 依頼書に僕とアイネは署名を書き込む……前にきちんと依頼書を読み込むようにとアイネに伝える。

 今回の依頼書はたいした文量ではないが今のうちに慣れておかないといざ文量の多い依頼書しか残っていない時に困るのはアイネだ。

 さらにわざと分かりにくく書いて冒険者に勘違いさせようという意図のある依頼もある。そういう依頼は受ける際に受付で注意してくれるのだが自分で気づける事にこした事はない。

 依頼書を読み込んだ後署名をすると続いて村長さんの家に泊まる為に手続きを始めた。

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