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自信がないなんて言ってられない

 アイネの卒業式当日、帰ってくる時間が不明だったのであらかじめアイネには学校の前で待っていると伝えてある。

 魔獣達には預かり施設で待っていてもらい、必要な物を購入したり、鍛冶屋で修理が必要な物を預けついでに新しく必要になった物を注文した後、アイネが帰って来るまで僕一人で学校の前の道の端で本を読みながら待つ事にした。

 お昼過ぎ、昼食を食べに行こうとした時馬車が学校の前にやって来た。

 御者をやっているのは生徒で見覚えがある子だ。馬車を戻しに来た子なんだろう。

 僕達の時は周囲が暗くなっていたので分かれなかったが、明るいうちに戻ってきたら馬車を戻す役と都市の中を先生と一緒に案内する役に分かれる事になる。だから馬車の中には班員が全員いるという事はない。

 声をかけて話を聞いてみるとどうやらアイネのいる班ではなかったようだ。

 幌の中にいたもう一人の子が僕に対して魔獣達に会いたいと言ってきた。それに対し僕はアイネを待つから遅くなるかもしれないが、その後なら一緒に預かり施設へ向かってもいいと答える。

 すると聞いてきた子だけではなく御者をしていた子も喜びの声を上げた。

 他の子にも伝えて欲しい事を告げて僕は昼食を取りにその場を離れた。


 アイネ達が帰ってきたのは空が赤くなり始めた頃だった。アイネは新入生達の案内をしていたようで馬車には乗っていなかった。

 馬車を見送りアイネが来る前に魔獣達に会いたいと希望している子供達にアイネ達が帰ってきた事を伝える為に一度その場を離れた。

 子供達は学校近くの公園で待っているはず。

 都市出身の子には親御さんに遅くなる事を伝える事を条件としてだし、その後どこかで暇をつぶしていて欲しいと頼むと公園で待つと返ってきた。

 公園で子供達と少し話をした後皆を引き連れて学校の前へ戻るとちょうどアイネが友達と一緒に道の反対からやって来ていた。


 アイネは僕を見つけると脇目も振らずに一直線僕に向かって走ってきた。

 僕は身を構えてアイネを待つ。


「ねーちゃん!」


 僕の胸に飛び込んできた際の衝撃は恐らく一年前までの僕だったら受け止めきれず一歩下がっていただろうと思うほど強い。


「アイネ、勢いつけ過ぎだよ」


 僕の首元に顔を埋めるアイネを叱るが、アイネは悪ぶれもせず言った。


「ねーちゃん強くなったね。今のあたしなら押し倒せると思ったんだけどなー」

「何考えてるのこの子」


 アイネを引き剥がすとアイネは満面の笑みを浮かべていた。


「ねーちゃん。後でまた手合わせしてね」

「あっ、うん」


 そうか、アイネは戦闘狂だもんな。飛び込む事によって僕の実力を測ったんだろう。


「それでナス達はいないの?」

「預かり施設にいるよ。後ろにいる子達も会いたいっていうからアイネの卒業が終わったら一緒に行く予定なんだ」

「あっ、そーなんだ。じゃあ早く終わらせないと」

「うん。ここで待ってるからね」


 アイネは一緒に来た子達と一緒に学校の中へ入って行き、四半刻もしないうちにアイネは帰ってきた。

 アイネの他の班員も魔獣達に会いたいという子がいたので一緒に預かり施設へ向かう。

 その道中、最初の話題はやはり何の職業を選んだかという事だった。

 アイネの親友であるミリアちゃんは歌い手という職業を選んだらしい。

 しばらくは都市の中央付近で歌ってお金を稼ぎ、旅費を貯める事が出来たら冒険者になり馬車を乗り継いで道中稼ぎながらオーメストまで行く気のようだ。

 人気が出ずにお金が貯める事が出来なかったらそのまま歌い手になる事を諦め普通に働き、上手くいって本格的に冒険者になれたら旅をしながら歌い続けるつもりだと言って笑った。

 一方普通に冒険者になる気満々のアイネはゲイルと同じ飛脚を選んだようだ。


「てっきり戦闘系の職業に就くと思ったけど、意外だな」

「だってあたし走るの好きだもん」


 そうだった。戦闘狂な所に目が行きがちだったが、アイネは元々は走るのが大好きな女の子だった。ナスと会ったあの日だって僕達と追いかけっこをしたくて村の外まで出てしまったんだ。

 それに毎日朝の訓練の運動で僕と学校まで走っていたりもしていたっけ。


「じゃあ新しく仲間になった子と気が合うかもね」

「ん? 新しい魔獣が仲間になったの?」

「そうだよ。ゲイルって言うんだけどね、走るのが好きなんだ」

「へー! 速い!?」

「もちろん。ナスよりかは遅いけど、それでも普通の人よりも速いよ」


 アイネの脚の速さは良く知っている。固有能力は進化したらしいが元々は足の速さに関係する俊足という固有能力だ。

 ステータスの敏捷の値は単純な足の速さを示している訳じゃないから数値が高ければ速いという事にはならない。

 しかし、俊足という固有能力は敏捷を上げるのではなく足の速さを向上させる能力だ。単純な足の速さで言ったら俊足持ちがゲイルに負けるとは限らない。

 しかもその俊足が進化した固有能力を持っているとなると僕が卒業する前よりも速くなっていてもおかしくないし、飛脚という職業に就いたため弱点だった体力面もこれから改善されていくだろう。


「ナスよりも遅いのか……じゃああたしのほーが速いね!」

「自信満々だね?」

「だってあたしナスの速さ知ってるもん!」

「あははっ、なるほどね」


 アイネはナスとよく追いかけっこをしていたからナスの脚の速さを知っていると思っても仕方ない。

 ナスは追いかけっこにおいて相当手加減をしている。本気の六割も出したら速さに関する固有能力を持っていない人間では絶対に追いつけない事を知っていたからだ。

 俊足という固有能力を持っていたアイネでも幼い子供だから追いつけない事とは分かっていた。

 さらにナスの頭には角という危険な部位がある為安全に気を使い遊ぶ時は本気の五割も出していない。

 だがゲイルとの遊びではその六割を出している。

 ふふっ、遊びとは言えナスの六割の速さについていけるゲイルの速さを知ったらどう思うかな?

 なんにせよアイネがどれくらい成長しているか確かめるのが楽しみだ。




 預かり施設に着く頃には太陽はすっかり落ちて街灯が灯る時間になっていた。

 まずは僕だけが小屋の中に入り魔獣達を外に連れ出す。

 アロエも子供達に興味があるようで期待に胸を膨らませているような表情を作っていた。

 今施設にある広さのある空き地は使用中だったので紹介を済ませた後小屋の前で触れ合って貰う事になった。


「ナスー、久しぶりだねー」

「元気にしてたか?」

「ぴー。元気にしてたよ! 皆に合えて嬉しい!」

「うわぁ! ナス喋るの上手になったね!」

「あれ? 声前と違うような?」

「ゲイルかわいー!」

「ききっ」


 子供達にもみくちゃにされる魔獣達。皆楽しそうにしているがゲイルだけは子供の相手が慣れていないからか戸惑っている様子だ。


「皆、ゲイルはまだこういう事に慣れてないみたいだからほどほどにしてくれるかな?」

「はーい」


 僕の言葉でゲイルを撫でる手は減る。

 ゲイルは落ち着いた事に安堵したのか溜息をついた後宙を駆け上がり僕の頭の上に乗ってきた。


「何今の!?」


 ゲイルの行動を見て驚いた声を上げたのはアイネだった。他の子達も驚いた表情を見せている。中には突然のアイネの声に驚いた子もいるようだが。


「今のは空駆けっていうゲイルの特殊スキルだよ。魔力(マナ)で空気を固めて足場にしてるんだ」

「ききっ」


 皆が驚いた事に気を良くしたのかゲイルは僕の頭から離れ空中を走り始めた。


「すげー。ねーちゃんあたしもあれ出来る!?」

「いやぁ無理じゃないかなぁ。ゲイルは軽いから少ない魔力(マナ)で自分の体重に耐えられる空気の塊を作れるけど、人の体重を支えられるほどの塊を空を駆けまわれるほど作るのは難しいよ」


 スキルを共有した僕でも自分の体重を支える空気の塊を大量に作る事は無理だ。出来て精々数個。空駆けと呼ぶには少なすぎる数だ。

 問題なのはやはり体重だ。ゲイルと僕とではきちんと測ったわけではないけど十倍くらいの体重差がある。単純に考えただけでもゲイルの消費している魔力(マナ)の十倍の魔力(マナ)が必要という事だ。

 専用の魔法陣を作れればもっと数は増やせるだろうけど、今の所上手くいっていない。

 どうしても維持する際の魔力(マナ)消費が割に合わないし、数を増やすなら最初から動く足場として作った方が効率がいいからわざわざ空駆けを再現する理由が薄くなってしまう。

 かといって動く足場を作ったとしてもたいして維持時間を長く保てるわけではない。出来て五分程度だろう。しかもその足場は丁度僕の足の大きさの半分程度の大きさで

 ゲイルの空駆けは長い時間自由自在に動き回れる事が長所なので僕の魔法開発は失敗に終わったと言っていい。



「いいなー。ゲイルいいなー」


 だけれどアイネは空中を駆けまわるゲイルを見上げしきりにうらやましがっている。

 そんなアイネの顔を見ていると僕はもう少し魔法開発を頑張ってみるかと思えて来たのだった。




 夜遅く、人通りのない道を僕は一人で歩く。

 アイネは今晩は親友のミリアちゃんと一緒に宿に泊まっている。

 それ以外の、元々帰る予定で宿の予約を取っていなかった子は都市で暮らしている子の家に泊まる事になった。

 子供達だけで預かり施設から家まで帰らせるのも心配だったので僕が送る事になり、今はその帰りだ。

 明日からはアイネと一緒に旅をする事になる。

 不安はある。アイネを守り切る事が出来るだろうか……いや、出来るかではなく出来なくちゃいけないんだ。

 弱気になりそうな心を頬を叩いて引き締める。

 命を守らなきゃいけないのは何もアイネだけじゃない。自信がないなんていまさら言ってられない。

 必ずアイネを、皆を家族の元へ帰す事が出来るように僕も頑張らなくちゃ。

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