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手紙

 エンリエッタちゃんと別れた僕達は真っ直ぐ預かり施設へと向かう。

 預かり施設についた後僕はナスに提案を持ち掛けた。


「ねぇナス」

「ぴー?」

「言葉も上達して来たしそろそろ文字を覚えてみない?」


 どうして? と言った感じに首を傾げるナス。


「研修の旅が終わったら一度リュート村に戻るけどさ、その後は用事が終わるまで帰ってこれないでしょ?

 その間僕はルイスに手紙を書こうと思ってるんだ。それでさ、一緒にルイス宛の手紙書かない?」

「ぴー!」


 書きたい! と元気よく返事をしてくれる。しかし、けど……と続いた。


「ぴーぴー? ぴぃー」


 ナスは筆やペンを持てないと言う。


「それなら大丈夫。字を書くには何も道具を使わなきゃいけないなんて事はないからね」

「ぴー?」

「分からない?」


 僕は魔力(マナ)を動かし文字を作る。

 魔眼を持つナスならこれだけで分かるはずだ。


「ぴー!」

「んふふ。分かったみたいだね。そう、魔力(マナ)を使えばいいんだ。

 具体的にはインクを魔力(マナ)で操って紙に書けばいいんだよ」

「ぴー」

「じゃあ早速試してみようか」


 荷物袋の中から紙とインクの詰まった瓶を取り出す。

 そして、瓶の蓋を開けて中のインクをナスに動かしてもらう。


「ナスはどれぐらい文字分かる?」

「ぴぃー」


 あんまりよく分からないようだ。試しに知っている文字を全て描いて貰う。

 最初は加減を間違えてべちゃっと紙にインクが付いてしまったが、ナスはすぐに操っているインクの形を円錐に変えた。

 そして、円錐の尖っている先っぽを紙に押し当ててさらさらっと自分の知っている文字を書きだした。


「ふぅむ。やっぱり全部を知っている訳じゃないんだね。じゃあ旅の途中休みの時間に僕が教えてあげるね」

「ぴーぴー」

「とりあえず自分の名前を書けるようにしようか」

「ぴー」


 ナスの名前は知っている文字だけで書けるので教えるのは簡単だ。

 瓶の中にのこっているインクを魔力(マナ)で操り細く伸ばしナスの名前の文字の形にしてから紙に押し付ける。

 細いインクは紙に滲み程よい線の太さの文字を写した。


「ぴー」


 ナスがおーっという声を上げ、インクを細く伸ばし文字を作った。


「あんまり太いと紙に写す時に滲み過ぎて文字が潰れちゃうから気を付けてね」


 そう注意するとさらにインクを細くする。僕が作った文字よりも細い。

 そしていざ紙に写してみると文字は線が細く少し見えにくい物になってしまった。


「ぴー?」


 どう? と聞いてくるので苦笑しながら応える。


「これじゃあ線が少し見えにくいからもう少し太くしてみようか」

「ぴー」


 もう一度紙に文字を写すと今度は丁度いい太さになった。


「うん。これなら大丈夫だね。後は文字と単語を覚えるだけだ」

「ぴー!」


 余程やる気があるらしい。ナスは早く覚えたいと耳を激しく動かし急かして来る。


「とりあえず今日は文字を覚えてね」


 紙に全ての文字を写しナスの目の前に置く。


「夢中になってあんまり遅くまで起きてちゃ駄目だからね」

「ぴー」

「じゃあ僕はもう行くね。ヒビキ、ゲイル。ナスが長く起きているようだったら注意してね。アロエも、お願いできるかな?」


 じゃれ合って遊んでているアロエ達にお願いすると、ヒビキとゲイルはじゃれ合いながらも返事をしてくれた。


「ききっ」

「きゅー」

『まっかせてー』


 アロエは楽しそうに笑いながら胸を張って答える。

 なんとなく心配になるのは何故だろう。


「それとあんまりうるさくしちゃ駄目だからね?」

『大丈夫だって~』


 アロエは調子に乗りやすいからどうも心配だ。ゲイルもヒビキもアロエに釣られやすいからなおさらだ。

 念の為にアースにも頼んでおこう。

 眠たそうにしているアースに近寄り口元の辺りを触り呼びかける。

 アースの半開きの瞼が開き瞳が僕の方を向いたのを確認する。


「アース。皆がうるさかったら怒っていいからね」

「ぼふっ」


 鼻を強く鳴らしてアースは応える。もとよりそのつもりのようだ。

 皆に改めておやすみの挨拶をして僕は小屋から出て宿へ向かう。

 明日買い出しを終えたらまたグランエルへ向かう旅だ。体調を崩さないようにしないと。




 ペライオを出て僕達は真っ直ぐグランエルへ向かった。

 途中必要なければ都市の中には入らず、宿も野宿で済ませアースの背に乗ってひたすらに真っ直ぐ。

 急いだお陰でグランエルに着いた時には少し日程に余裕が出来ていた。

 寮に寄ってみるとアイネはまだ寮にいた。すでに授業は終わっており今は新入生を迎える最後の都市外授業を三日後に控え準備をしているようだ。

 それなら一度顔を見せにリュート村に帰れる。

 日程を聞いてみると一泊二日で学校に帰ってくるのは夕方頃になりそうだと教えて貰った。

 寮にいる先生方にも挨拶をした後、後日また魔獣達と子供達が触れ合う時間を作る事を約束し僕達は寮を離れた。

 ナスは少し名残惜しそうにしていたけれど今日中にリュート村に帰る事を告げると喜んでもらえた。

 寮を離れると一度組合へ寄り依頼と手紙の確認をする。

 すると、依頼はなかったが僕宛の手紙が三通届いていた。差出人はアールス、ガーベラ、ユウナ様の三人だ。

 よくよく考えてみると三英雄の固有能力を持った重要人物と目される子達と知り合いなのか。僕凄いな。

 手紙を読むのは後にして東の大型の魔獣用の検問所からグランエルを出る。

 今は十時を過ぎた頃。急いでもお昼ご飯の支度の時間には間に合わないだろう。

 だからと言ってグランエルで食べるには少し時間が早い。食料はまだあるので途中で食べればいいか。

 そんな訳で今回はアースには乗らず街道から外れのんびりと歩いていく事にした。

 休憩時間に手紙を読んでみると、アールスのには一緒に研修の旅が出来ない事について文句を書かれていた。

 文句とは言っても軽い感じの言葉で書かれておりあまり怒っているようには見えない。が、こういうのは本当に怒っていないと読み取るのは早合点という物だ。きちんとお詫びの品を用意しておかなくては。

 ガーベラの手紙は主に卒業後の身の振り方について書かれていた。ガーベラはグライオンに帰ったら軍に正式に入隊する気らしい。

 僕達がグライオンに行っても会う事は出来ないだろうと書かれていた。

 ユウナ様の手紙には学校を卒業したらすぐにグランエルに向かう事が書かれていた。卒業次第という事は早くてもグランエルに来られるのは年明け位になるか。

 半年はグランエルに滞在する様なので研修の旅が終わったら会えるだろう。


 大体三時間半でリュート村へ着くと村の入り口にいた知り合いのおじさんに挨拶しつつ村の中に入って行く。

 お昼休憩が終わったばかりの時間だからか村の中はいつもよりも人が多い。と言っても片手で数えられる程度だが。

 中には魔獣を子供と遊ばせたいとお願いしてくる人がいた。

 僕としては問題ないので魔獣達に確認を取り家に戻った後ルイスと一緒に広場に行く事を約束した。

 そして、家の前に着くとちょうどお父さんが外に出て来た。


「お? おお、アリスか。なんだ帰って来てたのか」


 外に出て来たお父さんは驚いた顔をした後後ろ手で扉を完全に閉めた。


「うん。ただいま。これからお仕事?」

「ああ、村周辺の見回りにな」

「お仕事頑張ってね。お母さんとルイスは中?」

「ああ。あー……だけどあれだ、ナスを会わせるんだったら気をつけろ」

「ん? 何かあったの?」

「いやな、ナビィを食料にしてる事をついこの間伝えたからな。あれ以来びくついちまってな……早まったかもしれん」

「……そっか、伝えたんだ」

「うちじゃあ食わせてないが、学校に行くとあれだろ? だからお前達がグライオンに行く前に、と思ったんだが……」

「お肉食べさせてないの?」

「ああ、食べさせてないのはナビィやアライサスの肉だな。ルイスが生まれた頃には他の動物の肉を行商人から買うようになったんだ」


 そう言えばルイスが生まれてから長期休暇に帰ってもナビィのお肉は出てなかった気がする。


「ご、ごめん。気を遣わせちゃったみたいで……」

「気にすんな。俺達もどうも気になっちまってしょうがなかっただけなんだからよ」


 そう言ってお父さんは話を聞いていたおかげで耳を萎れさせているナスの頭を慰めるように軽く撫でた。


「でな、ルイスの奴肉を食うのも嫌がるようになっちまったんだ」

「そこまで……」

「ぴぃ……」

「会う時は泣きだすかもしれないから気を付けてくれや」

「分かった」

「んで、初めて見る奴がいるな。魔獣と精霊か?」

「あっ、うん。紹介するよ。風の精霊のアロエ。契約者は僕じゃないんだけど、連絡を取り合う為について来てもらってるんだ。

 こっちの魔獣はゲイル。南の大森林で仲間になったんだ」

『私アロエ! ナギのお父さんっておっきいのね!』

「きー!」

「はははっ、鍛えてるからな」

「今日はここにいるのが全員。他の皆は王都にいるんだ」

「ああ、たしかアールスちゃんの研修の旅に付きそうだっけか。手紙に書いてあったな」

「うん」

「さて、そろそろ俺は行くな」

「はい。お仕事頑張ってね」

「おう」


 お父さんはニカッと歯を見せて笑い手を上げて応える。

 それに対して僕は手を振って応える。

 お父さんを見送った後ルイスを刺激しない為に魔獣達には家の裏に回ってもらう。アロエにはアースの周囲に小さな子が無防備に近寄らないように頼んでから家の中に入る。


「お帰りなさい」


 中を見渡すと奥に三つ並んでいるベッドの内の真ん中のベッドのお布団が何やら膨らんでいる。

 そしてその横にお母さんがいて、膨らみを撫でていた。


「ただいま……ルイスお昼寝中?」


 そう聞くと呆れ声で返ってきた


「お昼寝中だったんだけどね。貴女達の声が聞こえてきて一度起きたのよ。それでナスの声が聞こえた途端お布団の中に隠れたの」

「ああ、ナスの事怖がってる……のかな?」


 ナスの仲間であるナビィを殺していると知れば恐ろしくもなるだろう。


「多分そうよ」

「じゃあちょっと話してみるよ」

「お願いできる?」


 お母さんと場所を代わりルイスを覆っている掛け布団の上に手を乗せる。


「ルイス」


 名前を呼ぶとビクッと身体が揺れた。

 掛け布団の上からルイスを撫で、一呼吸置いてから優しい声を意識して次の言葉をルイスに伝えた。


「ナスは怒ってないよ」


 またルイスが動く。だけど顔を出す気配はない。


「ルイスが怒られるんだったら僕はナスに嫌われているよ。

 だって、僕はルイスとは違ってナビィのお肉食べてるもん」

「えっ!?」


 がばっとルイスが掛け布団を跳ね上げて出て来る。

 二つのリボンで纏められた二本のお下げが揺れるのでつい目で追ってしまう。


「おねえちゃんなすたべちゃったの……?」


 怯えた目で僕を見てくる。


「いや違うからね。ナスはちゃんといるよ。食べてないからね?

 食べたのはナビィだよ。しかも昔の話だし」

「ほんと?」

「本当だよ」


 ルイスの頭に手を乗せて痛く無い力加減でぽんぽんと撫でる、がルイスの右腕にどかされてしまった。僕の心にクリティカルヒットした。効果は抜群のようだ。


「ルイス、ナスはね、ナビィを食べていた僕を許してくれたんだよ」


 崩れ落ちそうになる身体を必死に保ちながら説得を続ける。


「どうして? ナスのおともだちたべちゃってるんだよ?」

「それは……ナスはさ、もともと野生で生きていたんだ。野生で生きていたら食べ物を食べるのに生き物を食べなきゃいけないでしょ?」


 ルイスが僕の言葉の意味を飲み込めるようにゆっくりと、焦らせずにルイスの言葉を待つ。


「うー……うん」

「ナスにとってはね、生き物を殺して食べるって言うのは生きていくのに当たり前の事だったんだ。

 ナスだって一杯生き物を殺して生きているんだ。だからナビィを殺す事に、ひょっとしたら何か思う事があるのかもしれない。だけど、ナスは僕を許してくれたんだ」

「わかんない……」

「あはは……ごめんね。僕の口からじゃこんな言い方でしか言えないんだ。

 ナスがどうして怒ってないか、ナスの口から直接聞いてみる?」

「……おこってない?」


 ルイスは掛け布団を抱きしめ隠れるように身を小さくする。


「怒ってないよ。絶対に」

「……あいたい。ナスにあいたい」

「うん。分かった。連れて来るよ」


 ルイスの頭をもう一度撫でる。今度は頭を振って僕の手から逃れた。僕はもう駄目かも知れない。


「アリス、今ルイスはちょっと神経質になってるのよ。だから気にしないで」


 僕の悲しい表情を見てかお母さんが助け舟を出してくれた。


「そ、そうだね。僕が無神経だったね」


 フェアチャイルドさんは機嫌が悪くても頭を撫でれば機嫌を直してくれたのでついルイスにも同じ手段を取ってしまった。

 反省しないと。

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