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護衛依頼

「ナギさん。依頼ありますよ」


 フェアチャイルドさんが指さす先には中級用の掲示板に貼られた依頼書があった。

 場所はグランエルのすぐ北の都市ワイゼルにある冒険者組合。

 グランエルでは依頼が無かった為一泊してからすぐに北上しワイゼルへやって来た。

 そのワイゼルの組合で見つけた中級向けの依頼の一つは軍からの要請で魔の平野の探索依頼だった。

 期間は一週間。報酬は一人当たり銀貨七十枚。詳しい内容は受付にてと書かれている。

 探索を一週間で銀貨七十枚というのは破格なように見えるが、つい最近まで東の前線基地は魔物との小競り合いをしていた。

 今このタイミングで軍からの探索依頼となると魔物が残っていないかを確かめるためのものかもしれない。

 しかもよく見てみるとこれは期限付きの常在依頼だ。

 期限付きの常在依頼とは指定された日付まで張り出され続け常に依頼が受けられるようになっている依頼の事だ。

 グランエルでこの期限付きの常在依頼がなかったのは依頼を出した前線基地がグランエルからでは遠い場所だったからだろう。


「うーん。この基地だと着く頃には期限が終わっちゃうね」

「あっ、確かにそうですね。残念です……」


 今ここで依頼を受けたとしても期限までに依頼元まで着けなければ仕事を貰えないというのは前に働いていた飲み屋で冒険者達からよく聞いた話だ。

 アースに乗って急げば間に合うだろうが、そこまでして取りたい依頼でもない。

 報酬は大分目減りするが護衛の仕事が複数あるのでこれを受けてもいいだろう。


「カナデさん。護衛の依頼を二つ、二人ずつに分けて受けてみるのってどうでしょう?」

「いいと思いますよぉ。でもその場合は目的地が同じ方向の物がいいかもしれませんねぇ」

「そうですね。合流の手間がありますし……」

「ワタシとレナスちゃんは分けれた方がいいですかネー? お互いの精霊をついて行かせれば連絡取りやすいデース」

「となると僕とミサさんも別れた方がいいですよね。僕とミサさんはどっちも前衛ですし」

「じゃあワタシはカナデと一緒ですネ」


 ポンッとミサさんがカナデさんの肩を叩く。


「よろしくデース」

「あわわっ、よろしくおねがいしますぅ」

「ナギさんと一緒……くふっ」

「の、前に一人ずつ契約者と別れる事になるけど精霊達はそれでいいのかな?」


 そう問うとサラサとエクレア、それにアロエが姿を現した。


「私達の方は問題ないわ。もう慣れてるわよ」

『私も問題ないけど……』

『んー。私がナギ達と行くよ。ゲイルいるし』

『分かった』

「私達からはディアナが行くわ」

「ディアナが? 相談しなくていいの?」


 今ディアナとライチーはこの場にはいない。


「こういう長距離に別れる時はディアナかライチーかって決まってるの。

 今回は野営があるかもしれないからレナスの傍から離れるのは明かりを精霊の力で維持できないディアナって感じね。

 私が入ってないのはレナスの周囲の気温調整の為に私は絶対にレナスの傍にいろって言われてるのよ」

「もうそろそろ暖かくなるのに?」

「それでも、と言うわねあの子達なら。心配性なのよ」

「なるほどね」


 相変わらず精霊達に愛されてるなフェアチャイルドさん。


「それでどれにしようか?」


 護衛依頼は多くどれも同じ前線基地行きだ。出発の日付と日時が同じなので商隊を組んで向かうのかもしれない。

 この時期に出るのはきっと戦後の需要を狙っているんだろう。

 報酬は全部同じなのには何か理由でもあるんだろうか?


「どれも同じ報酬ですネ。何か理由でもあるんでしょうカ?」

「ん~。分かりませんね~。聞いてみましょうかぁ」


 カナデさんも分からないのか。


「そうですね。ついでにおすすめの依頼でも聞いてみましょう」


 そう言って僕は受付へ向かう。

 受付のお姉さんに依頼について詳しく話を聞くと、依頼者である商人達が戦後の用心として商隊を組んで動くという予想は当たっていた。

 商隊全体の護衛の募集はすでに締め切られており、今あるのは個別に商人を直に護衛し荷物の積み下ろしの作業をする人材の募集だけだそうだ。

 報酬がすべて同じなのは商隊の護衛用共同資金から出される値段が報酬の額だからだ。

 この護衛用共同資金は商人達が出し合っていて、商隊全体の護衛と、個別に護衛を依頼する時に報酬として用意された資金だそうだ。

 個別の護衛費は護衛を雇わない大きなお店の商人はそのまま懐に入れて、職員が少なく小さなお店を出している商人は護衛を雇ってより多くの商品を運び売りさばこうとしているようだ。

 荷物運びもさせられるのかと聞くと、させられる場合は依頼内容にきちんと書いてあるそうだ。

 そして、依頼書に書いていない事をさせられそうになったらすぐに組合に駆け込んで教えて欲しいとお願いされた。


 受付のお姉さんにお礼を言いもう一度掲示板へ戻る。

 そして、依頼書の内容をよくよく見てみると、複数ある依頼書の内の二つに確かに荷物運びをする事によって追加報酬が出る仕事があった。

 どちらも飲食関係のお店で、材料を運んだ場合売り上げの五パーセントを追加報酬として約束してくれるようだ。


「フェアチャイルドさん。僕達はこういうの受けようか? 僕達にはアースがいるから沢山運べるよ」

「そうですね。なるべくなら評判のいい方を選びたいですが……」

「流石にそこまでは分からないよね……」

「カナデ、ワタシ達は荷物運びは止めておきまショウ。どちらも荷物運びには向いていまセーン」

「そうですねぇ。お互い両手が塞がるのはちょっと問題ですね~」


 そう言いつつカナデさんは沢山ある依頼書の一つを取ってミサさんに見せてこれでいいかと聞いた。

 ミサさんが頷くと受付へ向かう。決めるのが早い。


「えと、どっちにしようか」


 早く決めないと。内容をよく見比べてどういうお店で何を持っていくのかを予測する。

 なるべくなら軽そうな方がいいだろうか?


「ああ、でもその前にアースに荷物持って貰えるか聞きに行かないと。フェアチャイルドさん。ちょっとアースの所に行ってくるね」

「はい」

「先に選んじゃっていいからね?」

「分かりました。任せてください」


 すまし顔をしていたフェアチャイルドさんはにっこりと笑い頷き答えた。

 そんなフェアチャイルドさんの笑みに癒されつつ建物から出る。

 アースは今組合の建物の近くにある馬車を置く為の空き地に他の魔獣達と一緒にいる。

 預かり施設にいないのはここで依頼が無かったら都市を出て次の都市を目指そうと思っていたからだ。

 僕達がいない間魔獣達を見ているのは大人の女性の姿をしたディアナとライチーだ。

 本当ならアロエも残ろうとしたのだが、エクレアとミサさんに遊びそうだからと強く止められていた。

 空き地に行くとまず最初にナスが出迎えてくれた。ナスの首元を撫でる事で応えつつ精霊達に待っている間の様子を聞く。


「ディアナ、ライチー。皆の様子はどう?」

「問題ない。じゃれ合ってるだけで人間の迷惑にはなってない」

「ぴー」


 ナスもディアナの言っている事を肯定する。

 ヒビキとゲイルの姿を探すと、何やらゲイルがヒビキの周りを機敏に動き回っている。

 ゲイルの動きを目で追っているヒビキは、ゲイルが少し動きを止めた所でゲイルに向かって跳びかかる。

 だがゲイルは飛び掛かってきたヒビキを身軽にかわしききっと笑う。

 かわされたヒビキはきゅーきゅーと楽しそうに鳴いてもう一度ゲイルに飛び掛かっている。


「そっか。僕はアースに聞く事があって一度戻って来たんだ。聞きたい事を聞いたらまた戻るから待っててね?」

「ぴー……」


 寂しそうに鳴くナスを一撫でしてから離れアースの元へ向かう。

 

「アース、依頼の事で相談があるんだけど」


 依頼の概要をはなすとアースはえー、と不満気に鼻を鳴らした。


「追加報酬分でアースの欲しい物買うけど、それでも駄目かな?」

「ぼふー……」


 アースが悩むそぶりを見せる。


「ぼふーん……ぼふぼふ」


 仕方ないわねぇ、という態度を隠す事なく了承してくれた。アースはこういうわざともったいぶった所がちょっと面倒くさい。


「ありがとう」

「ぼふぼふ」


 お礼を言ってから魔獣達にもう少し待っててと伝え僕はフェアチャイルドさんの待っている組合へ戻った。


 


 依頼を受けた僕達は昼食を取った後に依頼人の元へ向かった。

 魔獣達も一緒だ。荷物を運ぶ力仕事という事で実際に運ぶアースを見て貰えば女の子二人で受けても納得してもらいやすいだろう。

 僕達の受けた依頼人のお店は露天商などが並んでいる大通りで開かれている屋台だ。

 目的の屋台を見つけると僕は魔獣達の事をフェアチャイルドさんに任せ、僕一人だけで屋台に近寄る。

 屋台は中年ぐらいの男性と年若い女性の二人で切り盛りしていて、売られている食べ物はおクレープによく似たお菓子のようだ。

 水に溶いた粉を生地を丸いフライパンで焼いている。


「いらっしゃいませー」

「一つ下さい」


 依頼を受理してきた事を告げないといけないのに前世の世界の料理によく似ていたせいで好奇心が僕を動かした。

 店員の片割れであるお姉さんがすでに焼き上がった生地を紙の上に置きドロッとした黒いソースをかけ香草を振りまいている。この時点では見た目がちょっとお好み焼きっぽい。

 その後生地の上に切った果物を端に置き、そのまま果物を中心になるように棒状に巻いて、さらに手が汚れない様にする為か敷いていた紙を下半分に巻き手渡された。

 一口食べてみる。

 ……美味しい生地の厚さが違うがクレープに近い味かもしれない。


「……って違う違う」


 僕は食べ物を持っていない方の手で依頼書を取り出す。


「すみません。私依頼を受けた冒険者なんですけど」

「あら、お父さん冒険者の方が来たよ」

「あん? おおっ、ようやく来たか。ラン。お前ちょっとお店を頼むぞ」

「はーい」


 親子だったのか。

 中年の男性は焼いていた生地が焼き終わるとその生地を娘さんに託し着ていたエプロンを手早く丸め近くの椅子に置いた。

 そして屋台の袖から僕に対して手招きをする。

 僕はその手招きに応じて屋台裏へ向かう。


「それで、うちの依頼を見てやって来たんだな? 一人か?」

「いえ、あそこにいる魔獣達と、魔獣達の面倒を見て貰っている女の子も一緒です」

「ああ……さっきからずっと気になってたが、あれはお嬢ちゃんの仲間か」

「はい。私が魔獣使いでアリス=ナギと言います。仲間の女の子は精霊術士でレナス=フェアチャイルドと言います」

「そうか。俺は依頼書にも書いてある通りガンド=ゲルウスだ。あのでかい魔獣がいるからうちの依頼を受けたんだな?」

「その通りです」

「確かにあれだけでかけりゃ沢山持っていけるだろうが……あれに見合うだけの報酬が追加で稼げるとは限らねぇぞ? それでもいいのか?」

「大丈夫です。追加報酬が無いよりかはましですから」

「ふぅむ。まぁそっちがいいんならこっちとしちゃ文句はねぇ」

「では」

「ああ、契約と行こうか。依頼書を渡してくれ。サイン書くからよ。

 おいラン。書くもん取ってくれ」

「あいあーい」


 ゲルウスさんは娘さんから筆を、僕からは依頼書を受け取るとささっと依頼書にサインを書いてくれた。


「ありがとうございます」

「ああ、確認しておくが護衛の対象は俺と荷物だって分かってるな?」

「はい。お一人で前線基地まで行くんですよね?」

「ああそうだ。前線基地で行われる市で店を出すんだよ」


 ゲルウスさんから依頼書と筆を受け取りもう一度依頼内容を確認してから僕もサインを書いて依頼書をしまう。


「ここからわざわざ前線基地まで行くのは大変ですよね」

「まぁな。でも屋台をやってる身としては店を構えてる奴らよりは身軽に動けるからな。不謹慎だが今みたいな時は稼がせてもらってるんだよ」

「なるほど。こういう事は初めてではないんですか?」

「ああ。何度かな。ところでそれ、さっさと食べないと冷めちまうぞ」

「あっ」


 依頼書と筆を受け取った際に腰の布袋に挿しておいた食べ物の事を忘れる所だった。

 ゲルウスさんの前でもう一口食べる。甘くておいしい。


「美味いか?」

「はい。このソース甘いですけど果物使ってるんですか?」

「そうよ。そのソースと具材に使う野菜を持って貰うつもりだからな」

「いいんですか? 他人に任せて。大事なソースなんじゃ?」

「大量にあるから大丈夫だ。俺のかみさんがシスターでな、ブリザベーションを使えるんだよ」

「それはそれは。あっもう一個貰えますか? 待っている仲間にも食べさせてあげたいので」

「おう。護衛してくれる冒険者なんだサービスしておくぜ」

「ありがとうございます」

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