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大森林の朝

 日が暮れるとライチーが野営場を照らしてくれ何不自由なく野営の準備が進む。

 バオウルフ様は言っていた通りにナスに音の振動での言葉の作り方を教えている。

 しかし、聞いてみるとその内容は感覚的な物に頼っていてひどく曖昧な内容だった。

 けどそれも仕方ないだろう。障害物もなく空気を振動させ言葉を作るというのは声帯を魔力(マナ)で疑似的に作るような物だ。身体の仕組みに詳しくないと説明なんて出来ない。


 ナスなら固有能力で振動で出した音を操ればいいので割と簡単に出来そうなものだと思ったのだが、これがそうもいかないようだ。

 周囲の音を消すのは簡単だが、自分が発した声以外の音を操るのは難しいらしい。全く出来ないわけではないのだが変換する際のイメージが難しいようで、声を変換させた時よりもぎこちなくなっていた。

 バオウルフ様は立ちながらナスに教えているのだが、その背中にはライチーとアロエが楽しそうに乗っている。

 核を保護しているおかげで昔は触れる事が難しかった主様に触れられるのがライチーは嬉しいのだろうとサラサが教えてくれた。

 

 そんなナスとバオウルフ様を横目で見ながら僕は僕に興味を持ってやってきた魔獣達の相手をしている。

 主に森の外の世界の事を知りたがっていたので僕は出来る限り話す事にした。

 僕の故郷であるリュート村の事、僕が長年暮らしていたグランエルの事、旅で訪れた場所の事、いろんな事を話した。

 途中食事で中断したが話は遅くまで続き魔獣達が眠たくなるまで時間まで続いた。

 眠くなるまで、とはいうがそれほど遅い時間まで続けたわけじゃない。

 野生の魔獣達は眠るのも早いのか我慢が出来なくなった魔獣から順番に自分の巣へと戻っていき、残ったのはバオウルフ様だけとなった。

 皆が眠る頃になるとバオウルフ様はナスに教えるのを切り上げその場で立ったまま眠りについた。

 馬は立ったまま眠れるという話を聞いた事があったけど、バオウルフ様も出来るんだな。

 

 皆が眠る準備をする中、鎧を纏ったままのミサさんは近くの木に背中を預けて片膝を立てて座り、右手には剣を鞘に入れたまま持ち、左手側には盾を持ち手を上にして地面に置いて目を瞑っていた。

 前に野営の時は鎧を着たまま眠ると聞いていたので驚きはしないが興味深くはある。

 僕も革鎧を着たままミサさんと同じように木を背にして目を瞑る。


「ナギさんミサさんの真似ですか?」


 寝ようとしたところでフェアチャイルドさんに話しかけられた。

 瞼を開けてみると抱き枕を抱きしめて僕の傍に立っている。


「うん。試してみようと思ってさ」

「身体硬くなりそうですけど」

「毎日柔軟してるから大丈夫だよ」

「そうですか。私は横になって眠りますね。おやすみなさい」

「うん。おやすみなさい……ん?」


 おやすみなさいと言ったのにフェアチャイルドさんは何故か僕に近寄って来て僕の目の前で腰を下ろした。そして、あぐらをかいていた僕の脚に軟らかい枕を置き頭を乗せてくる。


「……フェアチャイルドさん?」

「くー……」

「……寝入ったふりしても駄目だよ?」


 フェアチャイルドさんは瞼を開けて僕を見上げてくる。


「……駄目ですか?」


 これでは何かあったら急いで立ち上がれないじゃないか。そう言いたかったが……。


「……いいよ。フェアチャイルドさんがそうしたいなら」


 ああ、駄目だな……僕は本当にこの子に弱い。請われたら何でも許してしまう。

 もっと厳しくならないと……そう僕は彼女の髪を手櫛で軽く梳きながら考え眠りに落ちるのであった。




 寝辛さに途中何度も覚醒をしたがその度にフェアチャイルドさんの髪を撫でて眠くなったらまた眠る。

 僕が完全に目を覚ましたのはいつも通りの時間。今の季節はまだ夜の時間が長く空は暗いが星の位置で大体の時間は分かる。そう時間も経たないうちに夜が明けるだろう。

 少し体が痛いがヒールを使うと痛みが少しずつ和らいでいった。

 シエル様に朝の挨拶をしつつフェチャイルドさんのおでこに手を当てて体温を測る。

 少し体温が高いが、あの日が近いから体調を崩しているのかどうかは判断はつかない。直に本人から体調を聞いた方がいいだろう。


『ナギーナギー』

「うん? なに?」


 アロエが僕の髪を一束掴んで引っ張ってくるのでシエル様に一言断ってからアロエの相手をする事にした。


『毎朝レナスのおでこ触ってるけど何で触ってるの?』

「ああ、これ? フェアチャイルドさんの体調を調べてるんだよ。

 この子昔は良く体調を崩していたからさ、今でも心配でついやっちゃうんだ」

『ふぅん。ナギって優しいんだね』

「心配性なだけだよ」

『優しいのと心配性なのって違うの?』

「優しいって言うのは相手の事を想いやれる人の事を言うんだよ。僕は……違うと思うから」

『違うの?』

「うん……僕はこの子に死んで欲しくない。この子が死ぬ事を恐れているんだ。

 これは相手の事を心配するのは自分が傷つきたくないから。あくまでも自分の為なんだよ。

 こういうのは優しさとは言わないよ」

『ふぅーん。でもそれってさ、結局ナギがレナスの事が好きだからでしょ?

 好きだから傷つくんだよね?』


 直球で来られると照れてしまうんだけど……。


「うん。そうだよ」

『やっぱり! ねーねー。ナギはレナスのどこが好きなの?』

「あはは……それを言うのはちょっと恥ずかしいな。そういうのはフェアチャイルドさんがいない所でね?」

『えー』

「それにほら、あんまりうるさくすると起きちゃうよ」

『もう朝なんだからいいじゃん』

「それはそうなんだけどね」


 周りはまだ暗いが空を見上げてみると空は白み始めている。木々が邪魔して見えないが太陽が昇ったんだろう。

 もうそろそろフェアチャイルドさんが起き出す時間だ。

 ライトを使い周囲を見てみると明かりを出した僕に気づいたナスが顔を上げる。四本足で起き上がると全身をぶるぶると震わせてから僕の方へ歩いてくる。

 そして、僕の横にお尻を降ろして小さくぴーと鳴いた。


「おはよう。どう? 教えて貰ってる奴上手くいってる?」

「ぴぃ……」


 どうやら上手くいっていないようでうなだれてしまった。

 気落ちしているナスの頭を撫でてからもう一度周りを見てみる。

 カナデさんはまだ寝ているようだが胸元に抱いているヒビキはもぞもぞと動き出している。


「ふあ~~~」


 どうやらミサさんも起きたようだ。ガチャガチャと金属の擦れ合う音がうるさく響く。

 その音に起こされたのかフェアチャイルドさんがうめき声のような物がそのかわいらし口から漏れ聞こえてきた。

 起きただろうか? 顔を覗き込むとフェアチャイルドさんは眉をひそめて口元が動いていた。

 腕が動き軽く握られた手が彼女の目をこする。起きたみたいだな。

 僕は覗き込むのをやめて彼女が起きるのを待つ。

 彼女はまず寝転がったまま身体を横にして片手で何かを確かめるように僕の脚甲に触れた。そしてから彼女は上半身を起こしまだ眠たそうな目を僕の目と合わせてからぺこりと頭を下げて朝の挨拶をしてきた。


「おはようございます」

「おはよう」

「オゥ! 二人とも起きていたのですネ! おようございマース!」


 起きている僕達に気づいたミサさんが元気な声で挨拶をしてくる。朝から本当に元気がいい。

 フェアチャイルドさんは一瞬ブスっとした顔になったがすぐにいつものおすまし顔になりミサさんに挨拶を返した。

 僕も挨拶を返そうと立ち上がろうとする……が、身体を動かそうとした事で自分の身体の異変にようやく気付いた。

 ……足が痺れた。

 何十年ぶりの感覚だろう。生まれ変わってから今まで感じる事の無かったというのになぜ今?

 息を大きく吸い込み起き上がるのをやめて一旦身体を楽にする。

 ヒールをかけてみるが治る気配はない。


「おはようございますミサさん」

「ナギさん? どうかしましたか?」


 どうやらフェアチャイルドさんは僕の異変に気付いてくれたようだ。


「あはは……足が痺れちゃった。慣れない格好で寝てた所為かな?」

「そうですか……よかった。具合が悪いのかと思いました」

「心配させてごめんね? フェアチャイルドさんは体調は大丈夫?」

「はい。おかげさまで今日も元気いっぱいです」


 そう言って彼女は愛らしく笑顔で小さなガッツポーズを取った。


「カナデはいつも朝が遅いですネー」

「カナデさんは眠りが浅いからその分時間が必要みたいですよ」


 ミサさんはガッションガッションと音を鳴らしながらカナデさんの傍まで行き、しゃがんだ後何かをしている。移動できない僕にはミサさんが何をしているのか見えない。

 起き出す様子はないので邪魔をしているという事はないだろう。

 二人から視線を離しバオウルフ様の方を見てみると、バオウルフ様は首を動かしていた。時計回り、反時計回りにゆっくりと動かすその仕草はおじさんがよくやる首回しにそっくりだ。


「ナス。バオウルフ様起きたみたいだよ」

「ぴー!」


 教えてあげるとナスは早速バオウルフ様の近くへと跳んで行った。

 そろそろ足の痺れが……まだ取れてなかった。

 そう言えば足の痺れは血行が悪くなっているからだと聞いた事がある様な気がする。前世で。

 素人判断なのは否めないが、僕は刺激をしないようにゆっくりとあぐらを解き足を伸ばし魔力(マナ)を操り脚の筋やふくらはぎの辺りをゆっくりとマッサージする。


『ナギ、ちょっといいかしら』

「うん? 何? サラサ」

『魔獣が一匹近くに来てるのよ。ほら、昨日のお昼の後にやってきたミストラの』

「ああ、たしか……ゲイルだっけ?」


 魔獣達の話では隣のデェフェールの縄張りからやって来た魔獣らしく、人間以外にも魔獣達に対しても悪戯を仕掛けて来ると愚痴を吐いていた。


『これから朝ごはんの準備でしょう? 何かあっても私達で守るけど、一応伝えておこうと思ってね』

「分かった。教えてくれてありがとうサラサ」

「どういたしまして」


 さて、なんの用があって近づいているのだろうか?

活動報告にてナギとフェアチャイルドの設定についてのネタバレを載せました。

一応今までの話からも推測できるかもしれない設定ですが、本編では最後の方に明かされる予定の設定+αなので興味のある方だけお読みください。

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