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まとめ役

「君達が警らの仕事を引き受けてくれた冒険者か。いやいや。中々見目麗しい女性ばかりだ」


 兵士さんに案内された部屋は入り口の反対側には木の壁をくり抜いただけの大きな窓があり、窓の前には大量の紙の束が置かれた机。

 左右の壁には本棚が置かれておりいかにも執務室といった雰囲気の部屋だ。

 そこで僕達は逞しい髭を携えた中年ほどの皮鎧を着た男性に迎えられた。

 この基地の責任者でありこの基地にいる軍の指揮官だと紹介された僕達は失礼が無いようにカナデさんが代表して挨拶をする。


「は、はい。ありがとうございます。えと、私が代表して挨拶させてもらいますカナデ=ウィトスですぅ」


 カナデさんは少しぎこちなくしながらもなんとか自己紹介をする。

 相変わらずこういう場は苦手なようだ。

 本来ならこういう時は年長者であるミサさんが前に出るべきなのかもしれないが、ミサさんは僕達の仲間になって時間が経っていないしそもそもこの国に来て間もない外国人だ。

 そういう人を前に出すわけにもいくまい。そんな訳でミサさんの次に年長者であるカナデさんが頑張っているのだ。


「はははっ、こういう所はまだ慣れていないのかな? 見た所若い子が多いようだが。

 まぁそう気を張らずに楽にしてくれ。今から手短に今回の仕事についての説明をしよう」


 そう言って聞かされた内容本当に手短な物だった。

 どうやら今回依頼が出されたのは人手不足だかららしい。

 ただでさえ元々人手不足な所に東の方で魔物との小競り合いが起こり東にある前線基地に援軍を送った影響がこちらでも出たようだ。

 これはよくある事で、兵士養成所からも訓練生が出張ってはいるようだがそれでも広大な南部を補完するには手が足りないようだ。

 仕事の内容は簡単で援軍に向かった兵士達が帰ってくるまでの一ヶ月の間大森林に作られた二日ほどかかる長さの道を何度も巡回するだけだ。

 道は馬車も通れるほど広く作られた道で、地図で巡回する道を教えてくれた。

 ミサさんがこういうのは軍事秘密なのではないかと聞いたが笑って否定された。

 本来は森に用事のある木こり等が使う道であって、異変が無いように自分達も利用しているに過ぎないらしい。そして伐採所などの森の中にある施設の見回りもしてほしいと補足された。


「そうそう、最近は悪戯好きの魔獣が出るから気を付けて欲しい」

「悪戯好きの……魔獣ですか?」

「ああ。これくらいの茶毛の細長いミストラの魔獣でな」


 両腕を大きく広げて説明を続ける。

 ミストラというのはイタチによく似た動物だ。短い手足に長い胴と長い尻尾を持ち、白を基調とした体毛に茶色い縦模様が特徴だ。


「悪戯と言ってもかわいいもので物音を立てて怖がらせたり木の実をぶつけてくるんだ。

 その木の実が美味しくて兵士達もいつも会うのを……っとと、まぁそんな訳で気を付けて欲しい」

「分かりましたぁ。ご忠告感謝しますぅ」

「うむ。では旅をしていて疲れただろう。今日の所はこの基地で休んで明日は警らの詳しい打ち合わせ、警ら自体は明後日から頼めるかな」

「はい~。あっ、この子は魔獣使いなんですけどぉ、魔獣はどこにいて貰えばいいでしょうかぁ?」

「それなら報告は受けている。この建物を左手に出て真っ直ぐ端っこの方まで行けば大きな建物があるはずだ。

 そこが魔獣用の宿舎だから利用してもらいたい。今は魔獣がおらず騎獣士がいないから世話はなるべくなら自分達でしてもらいたいが大丈夫だろうか?」

「大丈夫です。元々彼らのお世話は私がするべき事ですから」

「うん。なら……話はこれくらいかな」


 この部屋まで案内してくれた兵士さんが上司の視線を受けて動き出す。


「引き続き案内は彼に任せる。最初に君達の泊る所に案内してくれるはずだ。

 兵舎とは別の客人用の部屋なので安心して欲しい」


 安心とは何の事だろうか?

 それについて考える暇もなく案内役の兵士さんが話しかけて来て自分と一緒に退室するようにと促してきた。

 僕達はそれに従い退室する。

 そして、僕の疑問はすぐに解かれた。

 道中すれ違う兵士達から何やら視線を感じる。なんとなく熱い視線のような気がする。

 そして、その視線の殆どがカナデさんとミサさんに向けられている。

 フェアチャイルドさんに視線が向かっていない事に少しだけ安心している自分がいる。

 まるでカナデさんとミサさんがフェアチャイルドさんの為の防波堤みたいに考えているようで罪悪感を覚えてしまった。


 案内される部屋は兵舎とは別の建物にあるようだ。

 兵舎と思わしき兵士達が出入りしている平屋の横に小さな平屋が建っていた。

 小さいと言っても兵士達の住む兵舎と比べて、だ。僕の実家数件分の広さがある。

 あまり使われていないのか隣の兵舎に比べて少し廃れているように見る。

 人の住まない家は傷むのが早いとどこかで聞いた事がある様な気がするがそれだろうか?

 兵舎と僕達の泊まる兵舎の間にも一軒家が建っている。これはどうやら食堂のようだ。


 客人用の建物の中に入り僕達の泊まる部屋に案内してもらう。

 部屋は二人部屋と四人部屋を選べたので四人部屋にしてもらう事にした。

 部屋に着くと僕達は早速間取りを確かめ荷物を置く。その際カナデさんの顔が疲れているように見えた。

 荷物を置くと僕は案内してくれた兵士さんに次に魔獣達の止まる場所へ案内してくれるよう頼む。

 元々その予定だったからか兵士さんはすぐに頷いてくれた。

 他の皆にはこの部屋で休んでいてくれと言ったがフェアチャイルドさんだけはそれを拒否して僕について来てくれた。

 魔獣達の元へ向かう途中、台所を借りれるかどうかを聞いてみる。

 すると、僕達はこの基地にいる間食堂で食事を取る事になっていて、台所を使いたい場合は食堂で許可を取ってもらいたいとの事だった。


 魔獣達の元へ行き、魔獣達と合流すると一緒に厩舎へ向かう。

 厩舎は兵舎からは離れた場所にある。

 都市にある預かり施設の様に結界はないから勝手に出歩かない様に注意していて欲しいと言われたので魔獣達に伝えておく事を忘れない。

 厩舎で案内してくれた兵士さんに説明を聞き、説明が終わると立ち去る兵士さんにお礼を言ってからアースが運んでいた荷の紐を解いて降ろし始める。

 荷物の整理が終わると僕は荷袋の中からお菓子の材料を取り出す。

 カナデさんが疲れていたから甘い物を作って疲れを癒そうと思ったんだ。

 フェアチャイルドさんにも材料を持って貰って食堂へ向かう。


 台所の使用許可をもらう為に食堂の責任者と話をするとすんなりと許可を貰えた。

 どうやら兵士達の中にも大森林の見回りの時に採ってきた物で自炊する人がいて、そういう人の為に場所を取ってあるようだ。

 場所を借りた僕はフェアチャイルドさんと一緒にキャディを作る。

 生地のお砂糖は控えめにして代わりにベリーのような木の実を軟らかいまま乾燥させた物を練って円形に分けた生地に埋めるように強く押して置いていく。

 後は温めたフライパンの中に並べてじっくりと両面を焼けば出来上がりだ。

 少し多めに作ったキャディを、台所の使用許可をくれた責任者に少し分けて僕達は急いで部屋へ戻った。


 部屋に戻るとミサさんは鎧を脱いで修道服だけになっていた。

 鎧は部屋の隅に置かれている。

 そして、カナデさんとテーブルをはさんで椅子に座っていた。

 話をしていたのだろうか? それにしてはミサさんが大人しい。


「オゥ。お帰りなサーイ」

「なんだか甘い匂いがしますね~」

「台所を借りてお菓子を作って来たんです。カナデさん疲れているみたいでしたから」

「はわわ~。わざわざありがとうございますぅ」

「すぐにお茶入れますね」


 材料と一緒に取り出しておいたポットに茶葉と魔法で出したお湯を一緒に入れてお菓子を乗せたお皿と一緒にテーブルの上に置いておく。

 そして僕とフェアチャイルドさんも椅子にテーブルを挟み向かい合って座る。


「ところで今しがたカナデから聞きまシタが、まとめ役を決めていないというのは本当ですカ?」

「え? カナデさんがまとめ役じゃないんですか?」


 僕の言葉にフェアチャイルドさんが目を丸くして反応した。


「え? ナギさんでは?」

「え?」

「え?」


 どうやら僕達三人には認識の齟齬があったようだ。


「えと、ちょっと待ってね。僕はカナデさんをまとめ役だと思ってた。フェアチャイルドさんは僕が、カナデさんは決まっていないと思ってたんですか?」

「はい~」

「僕はてっきり年上のカナデさんがまとめ役だと思ってたよ」

「目的地の決定や後の方針はナギさんが意見を出してそのまま通る事が多かったのでてっきり……」

「意見を出したからってまとめ役って訳じゃないでしょ? そもそも相談して決めてたんだから、その時仕切ってた事が多いのはカナデさんじゃないか」

「それはそうですけど……」

「カナデさんはどう思ってたんですか?」

「わ、私はそのぉ……あのですねぇ……」

「ん~。とりあえずどうしてまとめ役の話が出たかワタシから話しましょう」


 ミサさんは普段の能天気そうな顔を引き締め真面目な表情へ変わった。

 初めて会った時の顔だ。


「お、お願いします」


 ミサさんの顔立ちは丸顔で細い顔のフェアチャイルドさんとはあまり似ていない。

 血縁だと教えて貰ってようやく気付く程度の類似具合だ。

 しかし、今の真面目な眼差しは確かにフェアチャイルドさんと似ている。


「み、ミサさぁん」

『カナデ。こういう事ははっきりとした方が今後の為です』

「うぅ……」


 カナデさんは身を小さくし視線を下に落とした。

 ミサさんが来る前までは魔獣と精霊を除き最年長だったからかあまり見られない光景だ。


『カナデはどうやら自分は先ほどのように前に立つのは合わないのではないかと悩んでいるのです』


 先ほどというのは僕らの代表になって前に出た事だろう。


「ああ……」


 前に出る事を嫌がっている事はなんとなく気づいてはいたが、カナデさんは年上だ。年上に対して人前に出るのはよした方がいいなんて失礼になるんじゃないかと思って今まで切り出せなかった。


『それで今後は私が代表をするのはどうかと相談をしてきたのです』

「それでまとめ役を確認したという訳ですか?」

『その通りです。すでにまとめ役をカナデに皆で決めていたのなら確認を取らないといけませんから』

「ううん……今までは暗黙の了解みたいな物でなんとなくやっていたから、きちんとした形では確かに決めていないんですよね」

『なら私はこの機にきちんと決めるべきだと思います』

「そうですね……一度皆で誰がまとめ役いいかを理由を添えてそれぞれで出し合ってその後相談して決めましょうか」

「僕もフェアチャイルドさんのやり方でいいと思います」

「はうぅ~……」

『私は皆さんと出会って日が浅いですから誰かいいかという意見を出すのは控えさせていただきます。その後の相談では自分の意見は言いますけどね。エクレアとアロエも意見を出してくれますか?』

『私達も相談に加わっていいの?』

『当然です。仲間なのですから』

「ではサラサさん達もお願いしますね」


 フェアチャイルドさんが両手首を持ち上げるとサラサとディアナが出て来た。

 ライチーは最初から外に出てフェアチャイルドさんにくっついていたため慌ててサラサとディアナの横に並んだ。


「分かったわ」

「任せて」

『わたしはレナスがいいとおもう! だってレナスだもん!』

「レナスは共有資産の管理をしてるんだからやめておいた方がいいんじゃないかしら?

 私だったらカナデがいいと思うけど。やっぱりナギ達とは経験が違うし、ミサはこの国の出身じゃないから常識とかの問題が出るかもしれないわ」

「まとめ役は皆を引っ張っていくような人がいいと私は思う。そういう点ではカナデは強引さがまったく無い。人の意見に流されそうな危うさがある。

 レナスに関してはサラサと同意見。まとめ役の仕事が増えて私達との時間が今以上に減るのは許容できない」


 ディアナの意見にライチーが驚いたように口を開いて反応を示した。

 そしてすぐにわたしもはんたいする、と大声で叫んでフェアチャイルドさんに怒られてしまった。

 そんなライチーを無視してディアナは続けた。

 

「まとめ役はナギかミサがいいと思う。

 ナギは強引さには欠けるけど理詰めで相手を説得したり、いい意見が出たら取り入れる柔軟さがある。流されるような事は……真面目な相談の時はないから大丈夫だと思う。

 それと経験の少なさという問題はあるけれど、それは他が補えばいい。

 ミサも同じ。この国での経験が少ないなら他が補えばいい。ただやっぱり出会ったばかりのミサはナギよりも信用という点では劣ってる。

 そういう訳で私はナギを押しておく」


 サラサは経験、ディアナは人柄を基準にしたという所だろうか。どちらにも共通するのはミサさんに対する信用の低さ。

 そこはまぁ仕方ないだろう。ほんの数日前に会ったばかりの人間なのだから。

 カナデさんの顔を見てみると疲れたような浮かない顔をしている。


「お茶そろそろ飲み頃ですから淹れますね」


 人数分用意されたカップにお茶を注ぎそれぞれに渡す。

 ミサさんは僕にお礼を言ってからカップの取っ手を摘まみ一口含んだ。


「美味しいデース」

「お口に合ったようで良かったです」


 フェアチャイルドさんは少し冷めるのを待っている。

 カナデさんは……お茶の入ったカップをじっと見つめている。

 やはりまとめ役になるのは苦痛なのだろうか?

 カナデさんはおっとりとしていて傍から見るとのほほんとしているように見えるが責任感は強い。

 もしかしたら下手に断れなくなって重圧を感じているのかもしれない。

 僕は……そんなカナデさんに任せてしまっていいのだろうか?

 このまままとめ役を押し付けてしまっていいのだろうか。

 お茶を一口含むとほどよい渋みが口一杯に広がる。そして口内のお茶を飲み干すと口の中がさっぱりとして喉が渇くような感覚だけが残った。


「私は、まとめ役はやっぱりナギさんがいいと思います。サラサさんは経験豊富とは言っていましたがカナデさんは私達と団体行動の経験という点ではあまり変わらないと思うんです。

 社会経験なら確かにカナデさんの方が豊富でしょうが、団体を纏めるというのは求められる物が違うのではないでしょうか?

 むしろ、魔獣達をまとめる事のできるナギさんの方が慣れているかもしれません」

「皆賢い子だから僕のいう事を聞いてくれてるんだよ」

「それでもです」


 力強く肯定してくるが僕は返す事はせずに自分の意見を口にする事にした。


「……僕はカナデさんに甘えていたんだと思います」


 ガタッと椅子が動く音が部屋に響く。真正面に座っているフェアチャイルドさんが何故か腰を上げたせいだ。


「レナス、意味が違うから。座っていなさい」


 サラサが注意するとフェアチャイルドさんは無言で座り直した。何だったのだろう?


「えと、カナデさんは僕達に様々な知識を教えてくれました。その事にすごく感謝しているんですが、精神的に依存していた所があったなって、今気づきました。

 僕にとってカナデさんは頼りになる人なんです。だからカナデさんになら任せられるって甘えてしまっていたんです。

 だから……少しでもこの甘えを無くす為にも僕は僕がまとめ役をする事を立候補します」

「アリスさん?」


 カナデさんは驚いた顔で僕を見てくる。


「カナデさん。僕がまとめ役になったら補助を頼めますか?」

「ふぇっ? そ、それはその、もちろんですけどぉ……い、いいんですかぁ?」

「もちろんです」


 僕はカナデさんがまとめ役でもいいと思っている。だけどカナデさんにとってそれが負担になるというのなら僕が代わりに背負おう。

 上手くやれる自信はない。だけどこれしきの責任背負えなくて何が男か。

 それに自分の嫌な事を投げ出して女性に押し付けたらフェアチャイルドさんに向かって胸を張って自分は男だなんて言えるはずがない。大人だと見栄を張れるはずがない。


『ん~立候補が出たのは意外ですが、出た以上はアリスちゃんをまとめ役に決定してもいいのではないでしょうか?』

「……ま、待ってください!」


 決を採ろうとしたミサさんを大声で留めたのはカナデさんだった。


「わ、私も立候補しますぅ」

「カナデさん? 無理をしなくても」

「と、年下のアリスさんに押し付ける訳にはいきませんよぉ」

『なら多数決で決めましょう。アリスちゃんがまとめ役にふさわしいと思う人は手を上げてください』


 すると、カナデさんとサラサとアロエ以外の全員が手を上げた。


『圧倒的ですね。ちなみにアロエの反対する理由は?』

『だって秘密教えてくれないんだもん。隠し事する人は信用できなーい!』


 などと喚いてはいるが口調はふざけて言っているようにしか聞こえない。

 アロエはずっと僕の秘密を知りたがっているが、僕は秘密のほとんどをアロエには教えてはいない。

 教えられる秘密も教えていないのは……アロエの事を信用できないからなんとなく言いたくないだけだ。

 信用できないというなら僕の方も同じだと言い返したい。

 人の秘密を詮索するなんて良くない事だと教えて貰わなかったのだろうか?


 なんにせよこれで僕がまとめ役として決まったわけだ。とはいえ今までと大きく変わるという事はないだろう。

 相談の結果今回の依頼人との交渉はカナデさんが引き続き行い僕が補佐をする事になった。さすがにさっきはカナデさんが前に出ていたのにまとめ役が変わったからと急に変えるのは良くないだろうという判断だ。

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