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自己紹介 前編

 フェアチャイルドさんが精霊達との話し合いを終えてライチーと一緒に戻ってきた。

 一応精霊達は和解できたらしい。そして、他の精霊たちは何やら残って話をしているんだとか。

 後はミサさんと話をするだけだ。

 だけどミサさんは今走り込みに出ている。

 ミサさんが帰ってくるまでの間にカナデさんも交えて三人でどのように話を出すかを軽く相談をする。

 僕達はまだミサさんがどんな人なのか、信用できる人なのかどうか秘密の多い僕にとっては博打と言ってもいいかもしれない。

 だけど折角のフェアチャイルドさんの提案だ。僕だって前向きに考えたい。


 ミサさんが戻ってくる前にサラサ達が戻ってきた。

 ミサさんの精霊達も一緒でエクレアさんがミサさんがそろそろ戻ってくると伝えてくれた。


『ねぇねぇナギ?』

「ん? なんですか? アロエさん」

『アロエでいいよ。ナギの秘密教えて?』

「直球!? 教えてって言われて秘密を教える人なんていないよ!?」

『じゃあナギがその第一人者になればいいじゃない』

「そんな第一人者嫌だよ。えっ、てか秘密って何?」

「ごめんなさいナギ。ディアナが口を滑らせたのよ。秘密の内容は言ってないんだけど……」

「秘密があるって事は言っちゃったのか……」


 ディアナに視線を合わせると親指を立ててきた。頑張れという意味なのだろうか? こうなったのディアナの所為だからね?


「えと、それで僕の秘密が知りたいんですか?」

『うん!』

「んー……どんな秘密が知りたいんですか?」


 アロエさんは首を捻る真似をすると身体ごと空中で一回転させた。


『秘密全部じゃダメ?』

「むしろ全部駄目って言いたい」

『けちー』

『アロエ、それくらいにしておきなさい』


 エクレアさんがアロエさんを掴み僕から離していく。


「なんだかますます賑やかになりそうですね~」

「そうですね……」


 ため息交じりにカナデさんの言葉に同意をする。

 ミサさんが帰ってくるまでの間僕はカナデさんと共に魔獣達と遊ぶ事にした。

 アロエさんとエクレアさんは最初はあまり近づこうとはしなかったが、途中で僕達が遊んでいる姿を見て警戒心が薄れたのかアロエさんが混じってきた。

 どうやら人懐こい魔獣が珍しく観察していたようだ。

 エクレアさんの説明によると東の国々ではどうやら魔獣はあまり存在しておらず、本物を見るのも初めてらしい。

 東の国々では魔の平野に面している国以外はダンジョンと呼ばれる魔物達の住処以外魔素が完全に排除されていて魔獣が生まれる環境がない。せいぜいがダンジョンに入り込んだ動物が魔獣になり人と魔物の脅威となる事がほとんどだという。

 魔の領域の存在を話すと物凄く驚かれた。


 そんな魔素の少ない環境から東の国々ではあまり魔法は発達しておらず、魔法と言えばもっぱら精霊魔法の事を指すらしい。

 なので三ヶ国同盟に比べて魔法よりも暮らしを便利にする機械技術が発達しているようだ。

 発達、とはいっても流石に鉄道が走っているとかはないようだ。

 だけど自転車はあるらしい。ただしペダルはなく足で地面を蹴って進む方式のようだ。

 エクレアさんの話す東の国々の話は大変興味深いものばかりだった。

 話を聞いている間フェアチャイルドさんの表情を確認すると目を輝かせていた。遺跡を見る時よりは抑え目だが彼女の知的好奇心が刺激されているのは間違いないようだ。

 絶対に彼女と一緒に魔の平野を渡らなければ。そう僕は彼女の瞳に向かって改めて心に誓った。


 エクレアさんの話を聞き始めてから少ししてミサさんが戻ってきた。


「なんだか一杯いますネー。もしかしてワタシを待ててくれましたカ?」


 お道化た風に言うが事実なのでいたって真面目に僕が返事をした。


「その通りですよ」


 僕が返事をしたのはミサさんがまたヴェレス語交じりで喋ったようでフェアチャイルドさんとカナデさんが戸惑いを見せてからだ。


『おっと失礼。ついヴェレス語が出てしまいますね』

『慣れていないと仕方ないと思います』


 今度はフェアチャイルドさんが苦笑しながら答えた。

 幸いなのはこの場にいる全員が妖精語が分かるという事だろう。

 カナデさんは妖精語は話せないが聞き取る事は出来ている。ミサさんと話をする事がない限りは問題ないだろう。二人が話さなければいけない時は僕かフェアチャイルドさんか、サラサ達がいれば通訳する事が出来る。


『それで私を待っていてくれたのですか?』

『はい。ミサさんにお話ししておきたい事があったので。ここではなんですから中で話できますか?』

『いいですよ』


 ミサさんが頷くとフェアチャイルドさんも頷き返してから家の方に身体の向きを変えそのまま歩きだした。そして、僕とカナデさんもその後をついて行く。




 居間でフェアチャイルドさんが中心になって僕達のこれからの事を簡単に話した後ミサさんに僕達と一緒に来ないかと誘う。

 ミサさんは少し考えるそぶりを見せた後ゆっくりと首を縦に振った。


『折角出会えた従妹。ここで別れるというのも寂しいですから皆さんと共に行く事に異存はありません。

 それに、レナスさんが両親の故郷に行きたいというのなら私も両親にレナスさんを紹介しなくてはなりません。その為にも一緒にいさせていただけるのなら私の方からお願いしたいです』

『これからよろしくお願いします。ミサさん』

『こちらこそ』


 二人は椅子から立ち上がり互いに和やかに握手を交わした。

 握手を交わすと二人はもう一度椅子に座り直して居住まいを正した。


『それでは早速お互いに出来る事を確認し合いたいのですが』


 フェアチャイルドさんが僕とカナデさんを見て来たので頷いて答える。


『まずは私達の方から、という事でよろしいですか? ミサさん』

『はい。お願いします』

『と言っても私からは野営に必要な技能と精霊魔法、それに仲間内で管理している共有資金の管理をしているという事位でしょうか』

『共有資金? とはなんですか』

『共有資金とは仲間内で必要となる資金の事です。旅での食料費だったり宿代だったりしますね。後は装備品の整備費用だったりとか。

 基本的に報酬の三割を共有資金に充てています』

『それは個別でも同じ?』

『そうです。報酬が銅貨二枚だった場合は半分を、銅貨一枚や端数が出た場合は依頼を達成した人の物になります。

 ただし報酬を仲間内で分ける時に端数が出た場合は共有資金に回されます。

 あっ、ところでミサさんは銀行を利用していますか?』

『してますよー。こちらに来た時に換金と預金の為に利用しています』


 元々銀行というのはフソウから伝わって来た仕組みだ。旅をしてきたミサさんが利用していないという事はないだろう。

 ただ、フソウの方の銀行とこの国の銀行は提携はしているが仕組みが少し違う。フソウの方で展開している銀行は民間だが、この国の銀行は国営だ。

 詳しい事は僕も知らないが、銀行に預けられたお金は預けた都市の開発整備などの公共事業のお金に回される。

 開発整備の為に働く人達は自分の預けたお金で仕事を貰っているようなものだ。もちろんその分給料はいいらしいが。

 僕の預けているお金も当然開発整備に使われている。その所為なのかは分からないが、大きな額を引き落とそうとすると金庫の中身が足りない都市では貨幣を他の都市の銀行から集める為に時間がかかってしまう事もよくあるそうだ。

 だから基本的に大きな額を動かす時の為に近年小切手という手段が三ヶ国同盟の間で広がりつつある。

 というか小切手というのも東の方から来たのかもしれない。


『私の方は今はこれくらいでいいでしょう』


 フェアチャイルドさんは共有資金についてのこまごまとした説明は後ですると言って次を促した。


「じゃあお次は僕という事でいいかな」

『お願いします』

「ミサさんには魔獣の事は軽く説明しましたよね? まずはその魔獣達についてから。ミサさんが先ほど会ったアースは主に野営に使う重い荷物や着替えに食料などを持って貰っています。なのでそれ以外の、自分で持てて邪魔にならない物は基本的には自分で持ってください。

 それとナビィって知っていますか?

 あっ、知りませんか。後で紹介しますね。ナスっていうナビィの魔獣は知覚が鋭いので主にカナデさんと一緒に周囲の危険が無いかを調べて貰っています。いわば斥候のようなものですね。

 三匹目がヒビキっていうロックホッパーペルグナーの魔獣です。これも知らないですか? そうですか。

 ヒビキはサラサと役割が被っていますね。ヒビキの固有能力はサラサの能力に良く似た温度を操る物なんです。

 ただサラサとは違って夜は起きていられないので野営の時に夜通し温度調整してもらう、という事は出来ません」


 魔獣達の簡単な説明を終えると僕は一息ついて間を開けてから自分の事を語り始める。


「次は僕の事ですね。僕は野営の時はフェアチャイルドさんと交代でお料理を作っています。ミサさんは作れますか? あっ、じゃあこれからは当番に加えてもいいですか? ありがとうございます。

 それと最後に一応周りには秘密にしているのですが僕はルゥネイト様の神聖魔法を第九階位であるピュアルミナまで扱う事が出来ます」


 そう言うとミサさんは突然大きな声を上げた。


「ナギさん第九階位まで神様から授かっているのですカ!?」

「は、はい」


 僕のような子供がピュアルミナが使えると知ったらそれは驚くだろう。

 それに東の国々では高階位の神聖魔法を扱える人はいないらしい。

 パーフェクトヒールだって数えられるほどしかいないとどこかの本で読んだ事がある気がする。


「ど、どどどどうやって神様に授かったのですカ!? こちらではそれが普通なのですカ!?」


 ミサさんは荒々しく立ち上がり息を荒くして僕を見てくる。


「お、落ち着いてください。教えますから後で、ね?

 ただ一つ、普通ではありませんよ。僕位の年齢でもきちんと神様の勉強をしている子で第三階位、優秀な子でも第四階位が普通なんです」

「だ、第四階位で普通……?」


 ミサさんはショックを受けたようにふらつき後ろに下がろうとして椅子に当たりそのまま椅子に腰が落ちた。


「嘘でしょう……こちらの人が優秀なのは知っていましたケド……」

「あの、原因は僕の方で分かっていますから」


 僕がそう言うとミサさんは重たげに顔を上げて僕をもう一度見て来た。


「本当に……?」

「はい。もちろんです」


 魔眼を使いミサさんの魔力(マナ)の量を確認するがやはり少ない。僕の半分……どころか五分の一もない。恐らくあまり魔力(マナ)を消費していないのか、魔素が相当薄い所で暮らしていたんだろう。

 神聖魔法を授かるには神様を知る事と同時に魔力(マナ)の量と魔力操作(マナコントロール)を鍛えなければいけない。

 精霊術士でもあるミサさんは魔力(マナ)の量を増やす事をしなかったんだろう。

 はっきり言って魔力(マナ)を増やさないといけない神聖魔法と魔力(マナ)を増やして欲しくないと思っている精霊の気質は相性が悪い。

 神聖魔法を授かろうと考えたら精霊をまず説得しないといけないだろう。

 それにしても、僕の紹介はカナデさんの後に回した方が良かったな。うな垂れているミサさんを診て僕はそう思うのであった。

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