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家族

 少しの時間フェアチャイルドさんを抱きしめた後僕達は手を繋ぎ皆の後を追う。

 カナデさんが部屋の前に立ち場所を教えてくれていた。

 カナデさんは僕達に気づくと何か声を出そうとしたが、すぐに何かに気づいたようで口を閉ざし一度目をつむってから口元に笑みを浮かべた。

 なんとなくフェアチャイルドさんの顔を見て反応したように思える。

 カナデさんは目がいいからきっとフェアチャイルドさんの目がいつもより赤くなっている事に気づいたんだろう。

 これより先は家族以外は遠慮して欲しいと言っていたとカナデさんは伝えてくれた。

 精霊はもちろん家族なので入る事が出来る。しかし、僕は入れない。

 入れないというのにフェアチャイルドさんはすがる様に僕を見て来た。


「……」


 このまま僕も一緒に入ったら空気読めてない人に思われるだろう。きっとなんだこいつって目で見られるんだろうな。


「入ろっか」

「え」


 だからなんだ。そんな理由が、助けを求める彼女と一緒に入らない理由にはならない。

 彼女の手を握ったまま僕が扉を開ける。


「お邪魔します」


 中に入ると精霊達からは誰この人的な視線を向けられる。

 シスターグレイスは何やらきょとんとしている。

 レーベさんはさも当然のような顔をして僕を見ている。


「グレイスさん。彼女が話したナギさんです。レナスが大変お世話になっている人です」

「オゥ、そのようですネ。手を繋いでいるだけなのに二人の間に信頼感が見てとれマース」


 僕はシスターグレイスの前に立ち、フェアチャイルドさんから手を離し挨拶をする。


「初めましてシスターグレイス。それに風の精霊アロエ様、雷の精霊エクレア様。シスターレーベにご紹介いただけましたが改めて。私はアリス=ナギと申します。

 レナス=フェアチャイルドさんとは幼い頃から学校の寮で育ち一緒に旅をしています。

 長い事一緒に育ったので家族同然だと考えています」


 精霊達の探る様な視線が僕に突き刺さってくるので最後に一言添えておいたがどうだろう。

 シスターグレイスは僕の事は気にならないのか笑顔で言葉を返した。


「話は伺っていマース! なんでもレナスさんの大変な時期を支えてくれたそうですネー!

 従姉であるワタシに出来なかった事、とても感謝してるデース!」

「そう言われると照れますね」

「とりあえず話が長引きそうなので二人共席に座ったらどうかしら?」


 レーベさんに勧められ僕らはシスターグレイスとはテーブルの反対側に座る。

 まず最初に口を開いたのはやはりシスターグレイスだった。


『ではまずレナスさんのご両親の話をしましょう。私は幼かったので二人との記憶はほとんどございません。なので、精霊達から話させてもらいますが、よろしいですか』

『構いません』


 平坦な声で応えるフェアチャイルドさん。しかし、相手から見えないテーブルの陰では僕の脚に手を置いてきた。

 一体どのような気持ちなのだろう。無表情を演じている彼女の心の内は僕にも読み切れない。

 だけどこうして手を僕の方に向けているという事は助けを求めているのだろう。

 僕は彼女の手をしっかりと握った。

 

 精霊達はまずご両親がどんな人だったかを簡単に説明した後魔の平野を渡ってきた理由を語り始めた。

 どうやらフェアチャイルドさんのご両親は元々いろんな場所を旅をしていて、まだ見ぬ地として魔の平野を渡ったらしい。

 そして、渡って精霊の多いルルカ村についてしばらく滞在していて母親であるシルフィンさんの妊娠が発覚、そのまま出産までルルカ村で暮らす事を決めたようだ。フェアチャイルドさんが大きくなるまでルルカ村で暮らそうかという話も出ていたらしい。

 そこから二人がどれほどフェアチャイルドさんの誕生を待ち焦がれていたのかを語る。

 そんな中フェアチャイルドさんは僕から手を離し突然立ち上がった。


「ごめんなさい」


 口元を手で隠し謝るとフェアチャイルドさんは部屋を出ていく。

 レーベさんに視線を向けると僕に行きなさいと言っているような気がした。


「失礼します」


 僕は後を追いかけ部屋の外に出る。場所は感知で把握している。迷いなくフェアチャイルドさんのいる場所へ向かった。

 いくつもある部屋の中の一つの前に立ち扉を叩く。


「フェアチャイルドさん。大丈夫?」


 声をかけるとライチーが僕の目の前に現れた。

 鼻と鼻がくっつきそうになるくらい近い距離に出て来たライチーに驚いて後ろに下がる。

 僕が下がった事によって扉から頭だけ出ている事を確認できた。ちょっとしたホラーだ。相手がライチーじゃなかったら僕は即座に部屋の中に押入っていただろう。

 ライチーは仏頂面をしたまま中に入ってと言った。

 僕は言われた通り中に入るとフェアチャイルドさんがベッドの枕に顔を埋めて泣いていた。


「フェアチャイルドさん」


 近づき肩に手を置くと彼女は顔を見せないまま僕にしがみ付いてきた。


「よしよし。両親の話聞くの辛かった?」


 頭を横に振る。刺激で胸がちょっとくすぐったい。


「じゃあ……嬉しかったんだね」


 今度は縦に振った。


「嬉しすぎてちょっと疲れちゃったんだね。もっと聞きたい?」


 また縦に振る。


「じゃあ後でもっと聞こうね。今は休もう」


 そう言ってから左手で彼女の頭を撫で、右手でフェアチャイルドさんの背中を抱きながら優しく指で叩く。


「サラサ、他の皆にこっちは心配ないって伝えてくれる?」

「嫌よ。今はレナスのそばにいたいわ」

「声だけでも送るっていうのは出来ない?」

「シスター達の部屋は無理ね。あの精霊二人の魔力(マナ)が邪魔でこっちの魔力(マナ)を送れない。カナデだけなら大丈夫」

「じゃあレーベさん達にはカナデさんに伝えて貰おうか」


 なんとなくサラサの口調にシスターグレイスの精霊達に対して刺がある様な気がする。

 フェアチャイルドさんじゃなくてシスターグレイスを選んだ事についてフェアチャイルドさんの様に捨てたと考えているのかもしれない。

 ディアナとライチーもあまりいい表情をしていない。こればかりは僕が口を出してもこじれるだけかもしれないな。


「フェアチャイルドさん。ベッドに腰かけるから気を付けてね」


 頷くのを感じてから僕は彼女の姿勢に気をつけながらベッドの淵に腰かける。

 そうして彼女が落ち着くまで僕は抱きしめ続けた。




 空が暗くなり始めた頃フェアチャイルドさんは僕の胸元から顔を上げた。


「落ち着いた?」

「はい……とても。ナギさんはやはり素敵な方です」

「そ、そうかな?」


 面と向かって言われると照れるな。


「それに……家族だと堂々と言ってくれたのは嬉しかったです」

「そう言ってくれると僕も嬉しいよ。ところで息が少し荒くなっていたのは……」

「息苦しくなっただけです」

「そっか。それでシスターグレイスの所に行く?」

「はい。もっと聞きたいです」


 ふんすと鼻を鳴らしガッツポーズを取るフェアチャイルドさん。


「そろそろ夕食の支度の時間のはずだけどどうする?」

「えっ、もうそんな時間なのですか? それでは私はお母さん(シスター)のお手伝いをしてきますね」


 ああ、完全にシスターとお母さんが逆転して聞こえるようになっている。

 なんというか、こういう仕様は地味に心が温かくなるな。


「分かった。僕はちょっとシスターグレイスと話をしてみようかな」

「話、ですか?」

「うん。東の国々の事を聞こうと思うんだ。これからの旅の為にもね」

「……なるほど、分かりました」


 僕らは頷きあった後部屋を出る。

 廊下にはカナデさんの姿はない。拡散を使って確かめてみても場所は特定できない。恐らく精霊達か魔獣達のいる場所にいるんだろう。

 とりあえずレーベさん達がいた部屋へ戻ってみると、中からシスターグレイスの声が聞こえてくる。

 扉越しでよくは聞き取れないが何やら一人で妖精語を使い喋っているように聞こえる。

 扉を開けて中を確認してみるとシスターグレイスの話が良く聞こえるようになった。


『そこで私は言ってやったのですよ。『人はお米を食べる為に生きるのでは在らず』とね。そして続けていったのですよ『お肉もちゃんと食べないと大きくはなれない』とね』


 なんの話をしているのだろうか。というかお米あるのか?


『あら、ナギさんではないですか。レナスさんの方はもうよろしいのですか?』

「はい。大丈夫です。今はレーベさんの夕飯の手伝いに行っています。

 カナデさんとお話ししていたんですか?」


 カナデさんの方を見ているとなんだか眠っているように見えるが。


『その通りです』

「それで妖精語を使っているんですね」

『ええ、そうです……って、あら? ナギさんはどこのお言葉を使っているのでしょう?』

「アーク王国の公用語を使っていますよ」

『んん? 不思議ですね。まだ慣れていない筈なのに貴女の言葉が理解できる……』

「これは僕の固有能力なんですよ。だから楽に喋って大丈夫ですよ。どんな言語でも僕は理解できますから」

「すごい! 今喋っている事もあなたは理解できるのですネ!」

「……はい。理解できていますよ」


 今のはヴェレス語だよね。僕の翻訳機能本当どうしたの? なんで語尾が変なの? もしかしてヴェレスって語尾が片言みたいになるが普通なのか?


「言語が完全に違う人と話すのは初めてなので少し話をしてみませんか? 僕の言葉が理解できるという事はシスターグレイスもこちらの言葉を覚えやすくなるかもしれません」

「いえいえ。ワタシの事はミサ、ミサと愛を込めて呼んでくだサーイ」

「え? えと……ミサさん?」

「はい。しいて言うならもっと甘く呼んでほしいネー」

「は、はぁ」

「話をするのは大歓迎デース! ワタシこう見えてもお喋りは大好きデース!

 何から話しますカー? ああ、まだきちんとした自己紹介してなかったネー。名前は既にお互いに知っているのではぶいて、そうですネー。好きな事から話しまショー!

 まずは何と言ってもワタシの好きな物はレモネードデース! 知ってますカ? レモネード。黄金色のレモンという果実から搾り取った果汁を水で薄め甘味と混ぜ合わせた飲み物デース!

 程よい酸味にすっきりとした後味、香り立つ黄金の果実の爽やかな香りと気品溢れる黄金の液体。

 見て良し嗅いで良し飲んで良し、あれこそ神にささげるに相応しい至高の飲み物デース。

 ワターシがレモネードと出会ったのは旅をしている途中でしたヨ。

 初めて国を出て数週間後の事でシータ。旅金を稼ぐために私は酒場でお仕事を探し疲れたワタシはふとお品書きにあったその文字を見つけたのデース」


 あっ、これ長くなる奴だ。

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