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故郷

 カナデさんも交えた相談の結果アイネを仲間に迎える事になった。

 カナデさんも去年の僕とアイネの試合を見ていて実力的には問題ないと見たみたいだ。

 同行人に関してもアイネの方から指名があれば確実になる事が出来るようだ。ただしその場合はアイネの方から指名料を出さないといけないらしい。

 値段は高くないらしいので僕の方から出してもいいだろう。

 問題はアールスの方をどうするか、だ。

 同行人は一人しか指定できない為全員がアイネに付き添うのは効率的とは言えないだろう。

 この問題に関してはフェアチャイルドさんがカナデさんと共に首都に行く事に決まった。

 最初にフェアチャイルドさんがアールスの同行人になる事が決まり、長旅になる以上護衛的な意味も含めてカナデさんも首都まで同行する事になった。

 そして、首都でカナデさんも同行人の仕事を探すという話に収まった。

 

 まとまった話をアイネに伝えると喜色満面で僕に抱き着いてきたのをフェアチャイルドさんがキャッチ。そしてすかさずリリースした。

 アイネは当然の権利のごとく抗議をしたがフェアチャイルドさんの能面のような表情を相手に勢いは続かず最後には泣きそうになっていた。

 無表情でいるだけでアイネを黙らせるとは。フェアチャイルドさん成長したな。

 それにしてもなぜカナデさんやアイネが僕に抱き着こうとすると邪魔をするのだろう?

 ……いや、これには覚えがあるな。そうだ、僕も前世のお母さんが兄を構っていたら嫉妬して邪魔しようとした事があったっけ。

 喧嘩にまで発展しそうになった所をお母さんに叱られたんだ。

 そうか、きっと嫉妬なんだな。だけど今の態度は良くない。

 僕はアイネを頭を撫で慰めた後フェアチャイルドさんに対して小声で注意をした。


「フェアチャイルドさん。あんまり態度が良くないよ」

「!? わ、私は……」

「話は後でね」


 フェアチャイルドさんから離れ改めてアイネと向かい合う。


「アイネ、そろそろ僕達は行くけど大丈夫?」

「だ、だいじょーぶに決まってんじゃん!」

「んふふ。リュート村とルルカ村を回ったらここに戻って来るけど、仕事探す為だから次に会えるのは年末になるかもしれないね」

「いつも通りじゃん」

「そうだね。それまで大きな怪我とかしないようにね?」

「してもねーちゃんが治してくれるんでしょ?」

「僕かどうかは分からないけど、治してもらえるからって無茶しちゃ駄目だからね」

「分かってるって。怪我して動けるようになるまでじっとしてなきゃいけないなんてあたしには無理だもん」

「あははっ、アイネらしいね。じゃあもう行くね」

「うん。ねーちゃんも気を付けてね」


 アイネに手を振って僕達はその場を離れる。

 そして十分離れた所でフェアチャイルドさんに先ほどの話の続きを再会させる。


「フェアチャイルドさん。前にカナデさんが抱き着こうとした時も邪魔したよね」

「……はい」

「僕が誰かに抱き着かれるの嫌?」

「それは……嫌です」

「でもアールスはいいんだね」

「あ、アールスさんは特別です……アールスさんなら私は……」


 親友だから許容できるって事かな。


「カナデさんの時はまぁ百歩譲って良しとするけど、さっきのはいただけないよ。

 アイネは別に悪い事をしたわけじゃないって分かってるよね?」

「はい……」

「相手が悪くないのに小さな子に泣きそうになるほど威圧するような子にはなって欲しくないな」

「そ、それは……わ、私の事が嫌いになった……という事ですか?」


 フェアチャイルドさんは今にも泣きそうな声だ。

 ライチーが僕の脛を的確に蹴ってくるが無視をして続ける。


「そうだね。また今回みたいな事が続くと……嫌いになるかもしれない」


 最後の言葉を口にすると吐き気と共に心をかき乱されるような感覚が僕を襲った。

 本当は言いたくない言葉だ。だけど彼女が立派な女性になるために自分が傷つくのを恐れてなあなあに済ませる訳には行かない。

 そして、ライチーの蹴りの速度が上がっているがサラサが石の中から出てきて止める。


「ご、ごめんなさい……」

「謝る相手は僕じゃないよね」

「あ……謝ってきます」

「うん」


 フェアチャイルドさんは来た道を戻って行った。

 ライチーとサラサは残り、サラサがライチーの頭を下げさせようとしてライチーが抵抗している。


「はぁ……いけないな」


 少し熱くなり過ぎた。脅迫するような事を言って、まるで彼女を思い通りに動かしたいみたいじゃないか。

 自己嫌悪の溜息を吐きながら喧嘩している二人を落ち着かせる。

 しばらく待つとフェアチャイルドさんが顔を下に俯かせたまま戻ってきた。


『レナスー!』

「お帰りフェアチャイルドさん」


 ライチーにしがみ付かれた事によって顔を上げる。


「あの……謝ってきました」

「そうか……偉いね」

「私……もう……」

「フェアチャイルドさん」


 彼女の両手を握る。


「対応はまずかったけど……嫉妬してくれたのは僕、すごく嬉しいよ」

「え?」

「さぁ早く小屋に戻ろう」


 手を離し僕は歩き出す。この後はリュート村に行く事になっているんだ。これ以上時間を食う訳には行かない。


「あ、あの! 嬉しいってどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」


 それ以上は答えずに僕は足を早めた。




 リュート村に着くと僕は真っ先に実家に顔を出した。

 いつも突然の帰宅だけれどお母さんはいつものように迎え入れてくれた。

 ナスのぬいぐるみを抱えたルイスは突然家に現れた僕の姿をみて考えるように首を傾げた後大事な事を思い出した時の顔をして叫んだ。


「おねーちゃんだ!」


 また忘れていたんだろう。仕方ない。年に一回しか顔を合わせる事がないんだから。


「おねーちゃんナスは!? ヒビキは!?」

「ちゃんといるよー。今はフェアチャイルドさんと一緒にお外で待ってるよ」

「わー!」


 ルイスはナスのぬいぐるみをベッドの上に置いてから外へ駆け出して行った。


「お母さん。ルイス外に出ちゃったけどいいの?」

「レナスちゃん達がいるなら大丈夫でしょ」

「あははっ、信用してくれてありがとうね。はいこれお土産と僕の夕飯の材料ね。フェアチャイルドさん達は村長さんの家でごちそうになるって」


 お土産の入った袋を置く。

 中身は王都で買った子供用のリボンとダイソンで買ったお酒と香木だ。


「いつもありがとうねアリス。所で、今回は新しい子は増えてないの?」

「それは人? 魔獣?」

「どっちもよ」

「アールスとアイネが仲間になる事が決まったよ。魔獣は中々出会いが無くてね」

「アールスちゃんとアイネちゃん? アールスちゃん旅に出られる事になったの?」

「うん。いろいろあってね。話す事沢山あるから夕飯の時でいいかな?」

「そうね。お父さんも一緒の方がいいわね」

「うん。さて、僕ルイスの様子見てくるね」


 家を出てアースの姿を探すと家の裏の方にアースの可愛らしい尻尾とお尻が見えた。

 どうやら座り込んでいるようだから声をかけないで近づいても不意に動いたりしないだろうから危なくはないだろう。

 家の裏に出ると、そこではルイスがナスとヒビキと戯れていた。

 そんなルイスをフェアチャイルドさんは危険が無いように上手く誘導して、カナデさんは温かい眼差しで見守っている。


「ルイス。久しぶりだね」

「あっ、おねーちゃん」

「元気にしてた?」

「うん!」

「そっかー。じゃあご褒美にこれをあげようか」


 僕はお土産のリボンの入った袋をルイスの目の前に差し出した。

 ルイスは目をぱちくりとさせた後袋を受け取り僕を見て来た。


「開けていいんだよ」


 そう言うとルイスは躊躇いがちに袋の口から手を入れて中の物を取り出す。


「なーに? これー」


 中に入っていた桃色のリボンを手に取ってしげしげつ見つめている。ただの桃色のリボンではない。小さいがダイソンのお土産らしくリボンと同色の糸でお花の刺繍が入っているのだ。

 前にお土産で買ったのは花の飾りの付いた木製の先の尖っていない二又のピンで、今も前髪留めとして使っている。


「髪飾りだよ。フェアチャイルドお姉ちゃんやカナデお姉ちゃんの髪にも色は違うけど似た物があるでしょ?」


 フェアチャイルドさんが自分の三つ編みの先を止めているリボンをルイスに見えやすいように手で見せてくれた。


「おー!」

「んふふ。ルイスはお母さんに結んでもらいな」

「わかった!」


 ルイスは大きく頷くと突然駆けだした。

 僕は見失わない様にルイスを追いかける。

 家の中に入ったルイスはリボンを手にお母さんに結んでとねだり始めた。

 お母さんは苦笑しながら二つのリボンを受け取り、前髪を留めていたピンの髪飾りを一旦外し、ルイスの軟らかい髪を耳と同じ高さに二束に纏めリボンを結んで留める。

 その後に改めて余った前髪を纏める為にピンの髪飾りを付け直した。


「おかーさん。にあう? にあう?」

「ええ、とっても似合っているわ。お姉ちゃんにありがとうって言わなくちゃね」


 お母さんに促されルイスは僕の前に出ると、頭をぺこりと下げた。


「おねーちゃん。ありがとう」

「どういたしまして。すごくかわいいよルイス。ナス達に見せに行こうか?」

「うん!」


 今度は一人で行かない様にルイスの手をしっかりと握る。

 ルイスは不思議そうに僕の顔を見上げるがすぐに興味はナス達の方に向いたらしく駆け出そうとした。


「ほら、慌てないで。転んじゃうよ」

「へーきだもん!」


 さすがに僕も家の中から裏庭までという短距離で転ぶとは思っていないが、それでも念の為に注意しておく。

 手を繋いだまま裏庭に戻るとルイスは怖じ気づいたのかナスから姿を見られない様に僕の後ろに隠れた。


「ぴー?」

「ルイス、ナスに見せるんでしょ?」

「うー……」

「お母さんだってよく似合ってるって言ってたでしょ? 大丈夫だよ」


 お母さんという言葉が効いたのかルイスは恥ずかしそうにしながらもナスの前に出て来た。


「ナス、にあう?」

「ぴー! 似合う! ルイス、かわいい!」

「ほんと?」

「嘘、つかない!」

「ヒビキは? ヒビキはどう思う?」

「きゅー? きゅーきゅー」


 よく分からないと言っている。翻訳しておかないでおこう。


「ヒビキ、似合う、言ってる!」


 ナイスフォローだナス。やはりナスは出来る仔なのだ。

 ナスの言葉を信じてルイスは頬に両手を当てて恥ずかしがっている。


「えへへ~」


 ルイスは恥ずかしがるのをやめると次はナスに抱き着いてそのまま背に乗った。鞍を用意しようかとも一瞬考えたが、去年同じ鞍を用意してもあぶみに脚が届かなかったのを思い出した。今年もまだ無理だろう。

 それでも念の為にあぶみはつけないまでも鞍と手綱はつけておいた方がいい。

 ナスが走り出す前に止めて鞍と手綱をアースに持って貰っている荷物の中から取り出しナスに身に着ける。

 あまり速度を出さないように言ってから離れると、ナスは言いつけ通り速度を抑えて走り出した。

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